神々の尖兵 作:揚物
夕食の時間になり、食堂に赴くと広い空間に賓客に合わせられた場所が作られている。
「作法は国家ごとに異なりますので、ご希望の物をこちらの小皿でご自由にお取りください」
用意された夕食は考えられないほど豪華な物であり、食堂に並べられた多種多様な料理、王都の倉庫で少々食べた物もあるが、その時にもなかった料理が多く先に侍女たちによる毒見が行われ、そのあと料理がテーブルに並べられる。
毒見だと言うのに堪能している侍女もおり、少しため息を付きたくなるがそれも仕方ない。どの料理も非常に美味であり、料理人を王宮に招きたいほどだ。
「姫様、余りお食べになられると、ドレスの新調が必要になりますよ」
気を付けていたつもりが、少しずつとはいえ多様な料理を食べていた。
侍女の言葉で手を止め、気持ちを整えると十分食べていたらしく少々腹部が苦しい。
「湯浴みをする。 残りは皆で食べるように」
席を立ち、残りを騎士や侍女達に下げる。
護衛の騎士や侍女たちを連れ湯浴みに向かうと、残った料理は騎士や侍女達の食事の時間となる。
「交代で食事を取り、警備に回るように」
大量に残った食事、隊長であるアメリの言葉に騎士達や侍女達は小皿やコップを手に取り、各々の場所で食事を始める。
「凄い美味しい!」
「何これ!? 肉汁が中からどんどん出てくる!?」
「ちょっと辛いけど、手が止まらない!」
「これミルク? 美味しいしほんのり甘い」
「これなんの果実の搾り汁? 美味しいけどさっぱりわからない」
「肉! この肉分厚いのに簡単に噛み切れる!!」
「このお芋!? しょっぱいけど手が止まらない!!」
部下の女騎士や侍女が驚いているのを見ながら、手早く食事を済ませ今警戒に当たっている副長と交代しなければならない。
確かに非常に美味く気持ちが揺れるのだが、立場上それもできず、自由に食事を楽しんでいる侍女や一般騎士がうらやましく思う。
深夜、交代で迎賓館の周囲を警邏している最中、夜間警戒をしていた騎士達には穀物を丸めた食べ物とお茶が振舞われた。
「この穀物を固めたもの、塩が利いていて美味しい」
「中身は良く変わらないけど、食感も悪くないね」
「これ、お茶!? 凄く高価なものなのに!?」
とことんこの国の国力に推測が立たないのだが、騎士達が食によって篭絡されている気がしてならない。
翌朝、さっぱりとしてはいるが再び多様な料理が並べられ、再び十分な食事を堪能することが出来た。
「本日はご希望されておりました品々をご用意しております」
大きな倉庫に案内され、所狭しと置かれた珍しい品々の数々、ふかふかベッドに使われていたマットレスや羽のように軽い掛布、以前にも購入した美しい生地もさらに種類が多く、国の金細工職人では不可能なほど繊細かつ丁寧に加工された装飾品。
用意していた金貨が間に合うか少々心配になる。
「ご不明な商品がありましたら、ご説明いたしますのでお気軽にお声をおかけください」
姫様が品々の説明を受けながら、あれこれと購入していく中、隊長であるアメリは倉庫内を巡回しながら警戒に当たっていた。少しだが品物に目を向ける余裕もある。
「どれも見たことがないが、輸出用の武器もあるのか」
傾斜曲剣が刀身だけの状態で置かれている、拵えはこちらで用意しろと言う事だろう。
一本手に取り刃を確かめるとかなり鋭く、腰に下げている金貨8枚支払って作った剣よりも作りが良い。
「私どもの国では片刃の傾斜曲剣が主流となっており、こちらは量産品で非常に安く提供できます」
いつのまにかいた案内役が説明を始め、提示された価格は金貨1枚で2本買える程度のようだ。
「量産品でこれか。 では一品物は?」
「こちらに御座います」
案内された場所には、高級なガラスの中に置かれ、柄が取り外され刃の状態で保管されている。
「こちらは、陸奥虎作、本三枚鍛・本鍛錬、二尺九寸、実戦型本造、差し込み最上研磨、本樋彫り、最上等級。
名刀匠が昇華させ、戦闘能力、切断性能、強度、美しさを極限まで追求した一品で御座います」
美しい刀身は光を反射、高級な宝飾品の様に輝きを放ち、一目見てもわかるほどその刃の鋭さを理解できる。
腰に下げている金貨8枚支払って作った剣が、急に恥ずかしく色あせていくのを感じてしまう。
「切れ味や強靭さなど、数打ちで作られている他の物とは比べものになりません。 技術に自信がある方ならば鎧さえ断ち切る事も可能でしょう」
隣に飾られているもう一本、こちらは傾斜曲剣ではなく両刃の直剣。
「こちらは、長良作、全鋼無垢鍛、二尺、実戦型本造・両刃造、最上研磨、2本樋彫り、最上等級。
他国輸出を念頭に主流となっております両刃直剣作りになっており、戦闘能力、切断性能、強度、美しさを追求した一品で御座います」
「貴国には名工が居るようだな」
「陸奥虎作が金貨30枚、長良作が金貨20枚となります」
日本で購入する場合とほぼ同額、そもそも売るつもりもなく日本の技術を理解してもらうための見せ札のようなもの、もちろん正当な支払いを行うなら売却することもやぶさかではない。
「う……む、だいぶ値が張るのだな」
買えなくもないが、今回は姫様の遊楽のためそこまで持ってきてはいない。
昼食をはさみ、姫様の買い物は続き、余りにも品目が多く説明を受けながら一日かかってしまった。
その日も
「明日あなた達は最低限の護衛を残し休息とします。 私はこの部屋で休み、明後日は中継地を見て回りますので、その準備をなさい」
「かしこまりました」