神々の尖兵 作:揚物
この世界には治癒魔法なるものが高価であるものの存在する。
しかしさすがの魔法も欠損したものは直せず、重病や重症ともなると何日も治癒魔法をかけるなど効率も悪かった。ウィルス性によっては治癒魔法ではウィルスも活性化してしまい、中々治らないという悪循環にも陥るなど、貴族とはいえ大変な事もある。
この文明程度の世界にとって日本の医療は驚異的であり、それが知れるきっかけとなったのは、トロン王国に遊楽に訪れるために旅をしてた貴族の大けがであった。
「何卒! 何卒お願いいたします!!」
貴族男は馬から落馬し足を骨折してしまったが、それだけではなく落ちた拍子に木片が足を貫いていた。
この世界では複雑骨折は切り落とすか高名な治癒魔法使いに早急に頼むしかないが、さらに木片が足を貫いてしまったため切断以外は手がない。
非常時としてトロン王国内にある小規模な自衛隊駐屯にて治療を行うこととなった。とはいえ世界も文明程度も異なる医療処置、何かあっては問題だと痛み止めと睡眠導入剤を飲んでもらい、完全に意識を失った状態で手術が行われた。
切断しなければ助からない重症、しかし現代の日本の医学からすれば、切り落とす必要もない程度でしかない。
すぐに治癒とはいかないものの、経過は順調であり三か月間ほどトロン王国に留まったのち無事に帰国していった。切断しなければならない重傷、それを治した事に情報は広まり、それを頼りにある人物が訪れた。
噂を頼りにノーリスモルト国の侯爵家 フローリ・エルフィート夫人がトロン王国を訪れ、余りの事態に日本の自衛隊駐屯地にそのまま案内された。
治療室には夫人と共に夫も訪れており、真剣なまなざしで布で隠された右腕を見せる。綺麗な長い金髪姿をした美女、事故によって右ひじから先が少しの所から失われ、傷跡も痛々しさが残っていた。
「この腕をなんとか元に戻してほしいのです」
欠損した腕の再生、無理難題ではあったのだが、義手と言う形なら不可能ではない。何よりも噂を頼りにしてまで訪ねてきた侯爵家、恩を売っておけばノーリスモルト国に強いコネクションを持つことができる。
基礎診断を行った後、翌日に再び訪れてもらい用意していたものを見せながら説明を行う。
「我々としても、完全に失った腕を元に戻す事は出来ません。 ですので非常によくできたこのような義手を提案いたします」
「義手……ですか」
侯爵夫婦は少し落胆していた表情だったが、運び込まれた最新の義手、見た目も本物の腕とそん色なく、そして自由に動くように驚いていた。
多くの制約がある為、
・半年に一度来院する事
・異常を感じたらすぐに来院する事
・入浴時は取り外す事
など色々条件のもとではあるが、エルフィート侯爵夫婦が了承したこと、まず初めに手術によってこの世界のレベルでは丁寧でも、現代レベルでは雑である切断面の処理をやり直す事から始められた。
本来ならこの世界には超技術に当たるが、最新の義手、筋電センサーと無音モーターによって動くところは変わらないが、学習AIと脳波によって精密に動作し、行動パターンを学習することで自由自在かつスムーズに稼働する。
見た目のファッション性も大事にされ、蝶や花などを色鮮やかに表面に加工され、気分によって外装を取り換えられるよう何種類も作られた。
備品なども含めて総額3000万円近くにも達するのだが、侯爵家というコネクションを持つ為に最新技術を惜しみなく導入した。
手術と体調管理を含めて3か月ほどトロン王国に留まり、用意されたものは見た目も本物の腕に近く、そして何より装飾品のように美しい。
「では、動作確認としてそのコインを掴んでください」
説明を受けてはいたものの、半信半疑で腕を動かそうとしてみる。看護士というものに装着さた義手、少しゆっくりとだけど、思った通りに腕が動き始めた。そしてテーブルに置かれているコインを指で掴み持ち上げられる。
「あなた、手が、手が動きます!!」
「おぉ! おぉ!!」
余りの驚きに思わず声を上げてしまうけれど、夫も大きな声を上げ義手を見ている。
「少しの間訓練すればその腕はもっと自由に動きます。 ダンスもしたいのなら何度か腕に覚えさせて方が良いでしょう」
それから一ヵ月、ダンスにお茶、刺繍とあらゆることを腕に覚えさせ、最初は少し動きが鈍かった義手も、繰り返すたびにどんどんスムーズに動かせるようになった。
それからノーリスモルト国に戻り、社交界に再び戻る。
腕を失ってから長らく出る事は出来なかったけれど、この義手なら何も恥ずかしくはない。
「おやおや、傷物のご婦人がこのような場所に何か御用でも?」
「ふふ、恥ずかしくないのかしら」
笑う声が聞こえる中、ドレスに隠れていた義手で扇を開いて扇いで見せる。驚く表情を浮かべる者達をそのままにダンスさえもこなし、その腕は宝飾品のように美しく、そして何よりも自由に動いた。
「一体どこでそのような腕を……」
驚いている中、片腕を義手の貴族の男性が声をかけてきた。その片腕は鎧のような義手となっており、何を求めているかは一目でわかる。
「少々遠出して手に入れましてね。 自由に動くだけではなく、このような事も出来るのですよ」
義手に触れながらその腕を掲げると宝石で作られた蝶の彫り物が光を放つ。
地球の技術者がちょっとした茶目っ気をだして追加した機能、イミテーションとはいえ義手に蝶柄に付けられたダイヤモンド、その下に組み込まれていたLEDが発光し美しい輝きを見せた。
それから噂は噂を呼び、戦争や事故によって失った腕や足を補う義手義足を求め、トロン王国を訪ねるようになったのはいいのだが、日本としては医療提供する事は問題ないものの、トロン王国内に作られた小規模な駐屯地の治療施設ではいささか規模が小さい為拡張が必要であった。
求められるのはファッション性の高い義手や義足、一部ではあるがシリコン製の義眼やインプラントの歯を求められた。
正当な治療の依頼と支払いを確約し、
結局過度な奴隷制度や人種差別に問題があったにしろ、ノーリスモルト国はそこそこの大国である以上、支配体制や法などは10か国連合よりしっかりしていると言う事になる。
もちろん貴族ともなると他国の法を守る事も理解しているため、軍事的圧力こそかけてはいるが、苦情や文句程度で正規に品物を購入していくだけの理性があった。