あかね「けっとぅ!?」
あかねわかばの頼みを断った。力になりたくても、解決できない悩みを気軽に引き受けるなどと無責任なことは出来ない。5,6時間目の授業の間先生に怒られないよう気をつけながらも導き出した最善の答えを彼女に言ったつもりだった。納得してもらえないだろうけれど、その時は力になれないことをしっかり謝り断った理由を説明して・・・
そう考えていたわけだが、わかばは切り札を用意していた。弟子入りを断ったあかねにその理由の説明をさせず、決闘をするよう迫ってきたのだ。あかねは弟子入りを受けるか決闘を受けるかのどちらを選ばなくてはならないだろう。両方を断ることはおそらく不可能だ。前もって考えておいた弟子入りを断る理由を通そうとすると、それならば決闘を受けてくれればいい、という話になる。もしも両方を断ろうとしたらわかばはこの場で襲いかかってくる。こちらを睨み付けるわかばの眼の奥に燃え上がる激情の炎は獣ですらすくみあがろうものだ
あかね(どうするのどうするの!?)
わかば(自分の言っていることに筋など通っていない。私は自分の願いを叶えるために他人を傷つける、そんな人間であったということだ。だがそれでも私は彼女と闘いたい。)
わかばはうろたえるあかねを見かねて一度眼を閉じて深呼吸をして決意を固めようと心を静めた。そのわずかな隙があかねを行動に走らせた。
あかね「いっしきあかねは にげだした!!」ズダダダダ
わかば「なんですってェー!!」
冷静な判断力を欠いていたあかねは脳内で行動の選択肢を選んでいる途中だった。しかしそんな中わかばに生まれた完全なる隙。あかねの生存本能がビビっと光り反射的に逃走へ足を動かした。わかばの視界を切るためすぐそばの植え込みを飛び越え、なぜかそこにしゃがみこんでいた芳佳の頭の上におしりを着地させた
宮藤「どぶぶっ」
あかね「おっとごめんよだれかわからないけどあとで謝るからー!!」バビューン
宮藤「く、くびが・・・訓練で鍛えてなかったら頚椎痛めて即死だった・・・」
ペリーヌ「い、いまのはあかねさん?いったいなにが」
そのペリーヌの後頭部に植え込みをジャンプしてきたわかばの蹴りが炸裂!
わかば「申し訳ないが急いでいるのであとにして!」ズダダダダ
宮藤「ペリーヌさんwww今の避けられないとか軍人としてどうなんですかwww」
ペリーヌ「ぐふっ・・・先にくらったのはあなたでしょう・・・」
宮藤「そうでした・・・すいません・・・。ペリーヌさん、治療は後でしますので今はあかねちゃんとわかばちゃんを追いましょう!痴情のもつれから悲しい事故が起こったりしたら」
こまり「ヤンデレズ、実在したんだね」
あおい「なんてこと・・・なんてこと・・・」
リーネ「多分私達の勘違いだと思うんですけど・・・」
れい「はやく追いかけましょう。事情はどうあれあの2人が決闘をおっぱじめることは確実みたいなんだし」
こまり「転校初日でケンカして停学とかまずいまずい。とめなきゃ」
ペリーヌ「ケンカして停学?この学校そんなに厳しいんですの?」
リーネ「ペリーヌさん、ここ普通の学校ですよ。」
あおい(ペリーヌちゃん達、いったいどんな学校生活を?)
宮藤「急ごう!また聞き込みしながら追跡することになりそうだし、間に合わなくなるよ!」
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わかば「くっ!」
待て、といって待つ訳はない。余計なことに体力を使うとそれこそ彼女を見失うであろう。あかねの逃げ足は獣のようであった。逃げ足の速さを決める大事なステータスの1つに逃走経路の把握がある。どこをどう逃げれば追手の視界を切りやすいのか、安全なところに逃げ込めるのか、その要素は自分より足の速い追撃手を煙に巻くことを可能とする。しかしあかねは今日転校したばかりで学園島のことなどほとんど知らない。今のあかねがわかばから逃げおおせているのはその脅威の足腰と心肺能力だ。逃走を始めて数分、いまだにあかねはわかばを5m以内に近づけない逃げを見せている。
わかば(おかしい。なぜ彼女の逃走に一切の迷いがない?この学園のことを知らない転校生が、一体どこを目指しているというのか・・・)
モノレール駅でもなく、食堂でもない。あかねが選んだ逃走先 それは!
わかば「・・・この海岸は」ザッ
私が始めて、あなたに出会った場所か。
やわらかい砂を足のかかとでぐっと踏みしめてあかねはわかばと向き合う。2人ともが少し息を整えた後、あかねから喋りだした
あかね「なんとなくで走ったんだけど、ちゃんとこれてよかった。誰もいないところ、ここくらいしか知らないからね」
わかば「あなたはここに私を連れてきたかったの?」
あかね「わかばちゃん、あそこで襲いかかってきそうだったし・・・」アハハ
逃げたのは反射的行動だが、これも嘘ではない。わかばが襲いかかってきそうな雰囲気を察したからこそあかねは逃げ出したのだから
わかば「流石にあんなところで斬りかかったりなどしないわ」
あかね「ほんとに?」
わかば「・・・」
あかね「・・・」
わかば「ついてきて。この近くに竹刀を置いてあるの。」
あかね「え?ああうん。この近くって・・・」
わかば「この海岸の近くに特訓道具を置いてあるのよ。あなたが空から降りてきた時、あの時は避難指示が出ていたのだけれど私はここで特訓中だったものだから知らずにここで呆けていたわけ。」
確かに。アローンの襲撃だというのに一般人のわかばがここにいたのはおかしかった。おかしいことだと気付いたのはたった今な訳だが
海岸そばにあった部室棟・・・いくつかの部室が横にいくつか繋がっているうちの1つの部屋に入っていったわかばが竹刀を二本持って出てきた。その部室はどこも使っていなかったのを剣道部が物置として使わせてもらうことになったのをさらにわかば専用の特訓施設となっている らしい。
わかば「どうぞ。どちらも同じつくりよ。」
左手に掴んだ竹刀をあかねへと差し出す。それを受け取ったあかねは初めて触る竹刀の材質を手の直肌で感じ取りながら再び海岸へと歩く。決闘をするならちゃんとした足場の、それこそ剣道場なり体育館なりでやるべきなのだろうが、2人は互いに何も口に出さずしてここで向き合う。2人の体重を完全には支えきれないやわらかい砂。足がわずかにめりこみ、すり足移動を基本とする剣道にとって圧倒的不利な足場
これから行われるのは決闘だ。防具もつけていない。必要ない。もっているものこそ竹でつくられた竹刀ではあるが、だが2人ともそれを真剣と同じようなものとして認識しこの戦いに臨んでいる。
わかば「剣道のルールなど考えなくていい。反則なし禁じ手は・・・まあ目をえぐるのは流石に私は控える。あなたは好きにしてくれていい。斬るか、斬られるかの決闘を、お願いするわ。」
ずっと興奮を殺しきれない目をしていたわかばが今いざ念願の戦いを前にして素っ気ないほどの淡白な口調だ。その眼の奥に燃え盛っている炎を身体へ巡る力へと変えて、自分の精神をコントロールできるのは大舞台を何度も踏んできた経験のたまものであろう。一方のあかねは初めてのことに対する緊張と興奮で鼓動が早くなっていくのを感じていた。剣を模してつくられた竹刀。相手のわかばはこれの扱いに慣れたものだろう。軽く、手首とひじを使い片手で振ってみる。この程度では風切音は鳴らない。ちょっと力を入れて意識して降ると今度はビュンっと鈍い音が鳴る。あとは実践でやってみるだけだ。この竹刀が邪魔な棒となるかわかばの迷いを断つ刀となるのか・・・あかねは身体の内側がこそばゆくなるような高揚感を抑えようとせず、その時をただ待つ。
すぐにでも始まるかと思われた戦いは不思議な空気を漂わせつつもまだ開戦の機を発せずにあった。剣道の心得のあるわかばは竹刀の切っ先を真っ直ぐ相手に向ける中断の構えのまま動かない。あかねは片手で持った竹刀をだらりと身体のよこにたらしその場で足を軽く開き立っている。構えらしい構えはとっていない。 夢の中でも求め続けた自らの迷いを断つための戦いを前にしてわかばはこの一戦が始まってしまうのを惜しむ。空腹で午前の授業を終えた後待ちに待った昼食を前にその最初の一口を口に入れるまでの時間を楽しむように、向かいあう少女の燃えるような紅い瞳を真っ直ぐに見すえた。 2人の視線が直線で重なりあってほんのわずかな間を置いたあと、校舎と砂浜とを繋ぐ道の横の林の中で草木を掻き分ける音が鳴った。その喧騒が海岸の2人の間をつないでいた一本の糸を揺らがせた。
わかば「―――――」
わかばが仕掛けた。砂の上とは思えない軽やかな足運びで滑るように前に出る。素早い動きに反して上半身は全く動かず奇妙なまで真っ直ぐの構えを崩さない。対してあかねはその場で左足を半歩引き身体を開いて竹刀を両手でもって胸の前で横に構えた。一足一刀の間合い 即ち一歩踏み込んで相手に竹刀の先端が届く距離まで詰めたわかばはそこで初めて上半身を動かした。両肩を稼動させ竹刀を真っ直ぐ頭上へ。あかねは頭上から来るであろう攻撃を受け止めるため竹刀を構える腕を慌てて頭より高い位置へ持っていく
わかば「――面ッ!」
あかね「~~~っ!?」
重圧。圧倒的一撃。肺に溜め込んだ空気を一気に放出する気合を乗せた一撃。あかねは自分の竹刀が折れたと勘違いしてしまうほどの速く重いわかばの攻撃だった。わかばの腕が上に上がったところまでは見えたが、それが振り下ろされる過程の動きはまるで目で追えない。痺れる腕をかばうように素早く後ろへジャンプして距離をとるあかねの鼻先を横一閃、わかばの竹刀が空気を切り裂いた。
あかね「っくぁ!」ズサッ
わかば「―――」
それ以上の追撃はなかった。わかばは二段攻撃を終えると、横に振り切った腕をゆっくりと縮めてまた中段の構えに戻し息を整えてあかねを真っ直ぐに見据え最初と同じ形に落ち着いた。あかねは痺れる右の肘と手首の間の筋肉を左手で軽く揉みながら加速する鼓動の音で塞がりそうになる頭の中を落ち着けるため一度深呼吸する
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あおい「はわわわわ・・・」
宮藤「落ち着いてあおいちゃん。はい吸ってーはいてー」
れい「・・・とめた方がいいんじゃない?さっきの三枝さんの攻撃、どっちも当たったら骨折ものでしょ。」
またも草むらに隠れて伺う大島勢。彼女達が砂浜に割り込むタイミングは既になかった。あかねとわかばを発見した時既にわかばが動き出した後だったからだ。
こまり「止めるって、じゃあれいちゃんどうぞ。下手打ったら三枝さんにぶった斬られるかもしんないけどさ。」
「「「・・・」」」
リーネ「ペリーヌさん、どうぞ。」
ペリーヌ「なんでわたくしなんですの!?ちょ、押さない押さない!」
リーネ「坂本さんから教わってる剣術をいまこそ・・・」
ペリーヌ「それでしたらあなたと宮藤さんも同じ訓練を受けているでしょう!?それに、そもそも止める必要なんてありませんわ。あれは決闘。カッとなって勢いで始まった子供の殴り合いとは話が違いますわ。」
宮藤「わかばちゃんは話し合いが出来ない人じゃないよ。さっきも話してたけど、思ったことを割と素直に話す子だし。お昼休みに2人でなにか話しててその後あかねちゃんは午後ずっと悩んでたみたいだから・・・うん、もう話し合いじゃ駄目なんだろうね。」
あおい「そ・・・そんなこと」
ぐっと言葉を飲み込んで、あおいはまた砂浜に目を向けた。そんな言葉でくくられたって納得できない。あかねがケガをするようなことがあったらと思うとあおいは今すぐこの人たちの制止を振り切って自分が飛び出して割ってはいるべきと思考をめぐらせる。だがあおいは結局のところ行動を起こさず宮藤達と同じ傍観者となるしかなかった。納得できずとも充分理解できたから。わかばがあかねに本気でぶつかっていっていることが、見ていて解る。それは怒りでも、憎しみでもない。わかばがあかねになにを相談したかこの時点であおいは知る由もないが、わかばが自分をここまで追い込んでまであかねに頼っていることは知れた。あかねもそれにこういう形で応えている。これが解ってしまった以上、あかねが救おうとしているのを邪魔立てすることも出来るはずがない。
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わかば「はっ!」ビュッ!
あかねは左上から迫るわかばの竹刀を横にステップしてかわす。先ほどまでは回避に全力を使うあまり必要以上に距離を取ってしまいわかばに近づけないでいたあかねだが、だんだんと竹刀をかわす身体の動きが小さくなってきていた。そしてわかばの7太刀目をかわすと同時に、あかねはついに反撃の機を見出した
あかね「・・・!せぇやっ!!」
わかば「!!」
右足で踏み込み放った力強い縦一線の攻撃を右半身を後ろに下げるようにしてかわすとそのまま左手を前に突き出した。
あかね(まともな打ち込みはわかばちゃんほどなら全部見切る!早く竹刀を振る方法を知らないわたしがまともに当てるとしたら、体勢が整っていないところをまっすぐ突く!)
竹刀を素早く振るのに必要なのは腕力ではなく、技術。肩、肘、手首を正しく連動させることができなければ竹刀はただの棒となり相手を斬ることはかなわない。一人前の剣士であるわかばにハンパはつうじない。ならば点を利用する。ただ腕を真っ直ぐのばすだけの突きならば素人のものといえどその速さは充分なはずだ。さながらフェンシングめいた突き攻撃。打突直後で硬直しているわかばのがら空きの腹部めがけあかねの竹刀の先が高速でせまった
わかば「ーーーはっ!」
これに対してのわかばの対処は素早かった。竹刀の柄を地面に垂直になるよう下げてあかねの剣先を叩き落とすと、あかねは竹刀の重さに重心を奪われて前のめりになる。わかばは竹刀を振り上げずそのまま自分の顔前にある竹刀を押し付けるようあかねの額を狙い鋭く打ち込んだ。竹刀の防御が間に合わないことを悟ったあかねは後ろや横に逃げることを捨てて崩れた重心を竹刀に預けたままわかばの懐に飛び込むように即座に前転。わかばの攻撃が防御から派生した勢いの無いものであったことも幸いし辛くもかわすことに成功する。
この打ち合いの中で工夫の末始めて放たれたあかねの攻撃はあっさりと弾かれ、返された。ダメージはわかばに入っていない。技術と経験の差は圧倒的である。わかばは戦いの中で身に着けた己の存在価値を全力で示す。
幾たびも自分の肌をわかばの闘志の牙が掠めていくことで感じる恐怖。一切の遠慮をする余裕がない強者と闘っているという現実がいつもの能天気さや人の良さやらを心の隅に押しやり、心の中に恐れと緊張感が満ちていった。わかばの本気の眼から伝わる殺気、それはわかばが手にしているものが刃引きのされていない真剣であるかのような錯覚をあかねに見せる。
だがこれが逆に、世界を護るためどんな困難とも闘うと誓ったあかねの心を反応させてしまった。わかばの全力にあてられることでこれを真剣勝負と認識したあかねの心は主を生かすため力を生む。それはとても人間に向けられていい闘志の量ではない。心の中に宿った恐怖は勝利するための意志へと裏返り、砂の上に力強く立ち上がったあかねの手に握られているものが先ほどとは違う必殺の覚悟で固められた真剣であることをわかばは見抜いた。
あかね「勘違いしてた・・・。どうやって攻撃をかわすか。どうやって隙を突くか。そんな余計な考えが自分を弱くするんだ。」
舞い上がる砂が混じった唾液を吐き出し、身体全体が焼け付くような力を内側でもてあましたあかねがギラついた眼をわかばへ向けるとゆっくりとそうつぶやく。わかばへの言葉ではなく、自分への語り
あかね「闘いに勝つには?考えるのはそれだっ!そして答え!力いっぱい殴りつける!」
わかばは自分へ叩きつけられるすさまじい気迫を剣先で感じ取る。今のあかねの眼からは、ただ目の前にいる敵を打ち倒す以外の意志は見られない。それほど本気になったということだ。わかばの悩みをなんとかするための気高い決闘なんかじゃなく、ただ力をぶつけあいどっちが強いか決めるだけ――これは喧嘩なのだ
わかば「そうだ、全力で来てくれ!途中に思考を挟む余地を残さない戦いを、私は望んでいるんだ!」
あかね「らあああ!!」
攻勢へと転じる。敵を倒すという目的のみを心に残し、もてる全ての思考力を真っ赤に染め上げる。先ほどまでの技術差を計算に入れ考え抜かれた立ち回りとは間逆、腕力と勢いに任せ手に持った棒でわかばの左の横っ面を吹き飛ばさんと振るわれる単純な攻撃。
わかば「ーーーーー」
だからこそ速い。そして、重い。返されないための技ではなく、倒すための攻撃。まっすぐ受け止めきれない勢いに身体が倒されないようにわかばは剣を斜めに倒しあかねの力を頭上へそらし受け流した。
あかね「ぁぁぁあああ!!」
そらされた力を下半身にため勢いよく反時計に一回転する。そして同じ方向から、先ほどより強い横薙ぎの剣の狙いは胴体。そらすことのかなわない一撃を受け止めるためわかばは剣を担ぐように腕を頭の横、剣先をまっすぐ下へむけ地面へ突き刺し地面と腕の力の二点であかねの攻撃を受け止める構えをとった。それを見たあかねは攻撃先を変えるそぶりなどまるっきり見せずわかばの防御へ真っ直ぐ突撃した。
<ガシィッ!!!!>
わかば「くうっ・・・~~!!」
竹刀に乗せた体重ごともっていかれる一撃。ぶつかりあう音で左耳が痺れるほどだ。実際わかばの身体は右側に倒れ込む。しかし全力で竹刀をたたきつけたあかねの左手側が完全に空いている隙を突かないわかばではない。わかばはそのまま剣を砂から引き抜くと剣先を勢いよく持ち上げ自らの身体が右側に倒れ込むのもかまわず頭上を通る弧を描く軌跡で剣を振り上げると流れるように斜めに振り下ろしながら右足を強く踏み込み全身の力を乗せ袈裟斬りを放った
あかね「!」
あかねは竹刀を持った左手を即座に放すと残った右手首を返し竹刀を自分の顔の前に水平にもってくる。余した左手で剣先を握り締め、その両手の間でわかばの一撃を食い止めた。 竹刀は刀である、を前提に置くわかば達剣道家はその試合において柄以外の部分を手で触ることはしない。そんなことをすれば自分の手を自分の刀で傷つけることになるからだ。そのため今あかねがやっている棒術のように両手で竹刀の柄と刃の先端を持つことで可能になる安定した防御を行うことはできない。だがあかねにそんなことは知ったこっちゃない。あかねの持っているのは敵だけを斬り自らは護る便利な武器。使い方に制限はない。
あかねはわかばの攻撃を受け止めた部分を起点に剣先を持った左手を引き、柄を持った右手を前に突き出す。わかばの剣を押しのけあかねの竹刀の柄がわかばの横っ面へ三度迫り、そして今度こそそれを捉えた。これがこの勝負で初の命中した攻撃である。例え腕の力だけしかのっていない柄で殴るだけの、剣道でもなんでもな貧弱な一撃であろうと、これをもらったわかばの心中は穏やかではなかった。
わかば「せいっ!」
激情に任せ剣を下から引き上げてあかねが竹刀の剣先にそえた左手ごと上へと切り上げる。手の甲が割れたかと思うほどの痛みが走ったあかねは思わず手を離してしまう。防御が崩れたことにより空いたあかねの左側のスペース。迷いこなくわかばは狙いを定め掲げた剣を振り下ろす
わかば「首だッ!」
あかね「!」
どこまでも荒々しいあかねと違う研ぎ澄まされたわかばの剣がうなりをあげて首へと迫る。とても竹刀の防御も回避も間に合わない。苦肉の策として、あかねは跳ね飛ばされて痺れる左腕を急いで曲げて肘と手首の間で竹刀を受け止める覚悟を決める。首にもらうよりマシだ。
あかね「うっがっ・・・!!」
痺れていて拳を握れなかったこともあり筋肉を硬直させることも叶わずまともに骨で受け止めることとなった痛みは覚悟など容易に越えていく。自らの持つものをあくまで竹ではなく鉄であると信じて鍛え上げてきたわかばの一閃があかねの肉を絶ち、骨を砕いた。相手の身体を袈裟斬りに振りぬいたような残心をとるわかばの中では、既にあかねの腕を切り落として身体は真っ二つになっている。そう、これが真剣を用いた決闘であったならこれで決着とまでいえる一撃だった
<ゴッ>
わかば「ーーーー」
ガクン、と崩れ落ちた自分の膝が砂の上に落ちた感覚が遠くから伝わる。事態の把握の前にわかばの頭を絶大な痛みが走りぬけた。
わかば「あっ・・・!!!」
暖炉から取り出した火ごてを押し付けられたかのように熱い左のこめかみを手で押さえるが、流血しているわけではないようだ
あかね「ぐっ・・・」
揺れる視界の中で、あかねが足をふらつかせ数歩後退しているのが見えた。痛むはずの左手を押さえるわけでもなくその右手にはしっかりと竹刀が握られていた。 あかねはわかばからの攻撃をくらうとほぼ同時に、右手に握りしめた竹刀の柄の先でわかばのこめかみを強くなぐりつけたのだ。そのダメージはあかねがくらったものからすれば安いものだが、頭に血が上っていて周りの把握を怠っていたわかばの意識の外をついた攻撃は思った以上の効果を生む。骨を断たせたのに肉も斬れないような攻撃であったが、次へ繋がる攻撃をしたのはあかねだ。
隙だらけのわかばめがけあかねは歯を食いしばりながら猛攻をかける。片腕を犠牲にして作ったチャンスを活かすためなら痛みなど噛み殺す。ほとんど開いていない距離を詰めるのにかかった時間はほんの刹那ではあるがわかばはそこで意識を最低限だけ取り戻していた。とっさに立ち上がろうとしていた右膝の片足立ちのまま攻撃に備えるたこめかみを抑えていた左手で反射的に頭をカバーする。
あかね「ーーやああっ!!!」
ガラ空きのわき腹を横からぶったたく。竹刀の重さに任せた力任せの攻撃は片手といえどわかばのガードを一時下げさせる程度のダメージは与える事ができた。ならば続けて狙うは隙のできた頭。竹刀を引き、今度はまっすぐ脳天に打ち込む。わかばの後ろで縛った髪が跳ね上がり、その身体が沈む。あかねはもう一度振りかぶろうと竹刀を引くがそれはわかばによって阻まれる。わかばが右手であかねの竹刀を掴んだからだ。
あかね(竹刀を戻そうと引っ張ってて余計な時間をつくればわかばちゃんは立ち上がる!攻撃だ!竹刀が使えなくても手はある!)
あかね「手はあるってか、足だけどねっ!」
竹刀を即座に放棄してあかねはわかばの顔面にとび蹴りをかました。慣れない武器を持った人間は無意識にそれに頼りきった戦法をとりがちになるため武器を押さえられると瞬間どう動けばいいかを見失う。しかし竹刀同士の打ち合いに勝機はないことを最初から解っていたあかねにとっては剣を捨てることで最大のチャンスが生まれる時をずっと狙っていたのだ。それが今。立ち上がろうとする姿勢から振るわれる剣の威力などたかが知れたもの。受けながらでもこの蹴りを命中させればわかばは完全にダウンする、というあかねの算段だ
わかば「ーーーふっ!」
あかね「え?」フワリ
武器を捨てることで勝ちを狙うという考えを持っていたあかねだが、しかし相手もそれを考えていたらという可能性に気付けなかったのは先入観が邪魔をした。剣士であるわかばは例えケンカに持ち込んでも剣にこだわるだろう、という予測。挑戦者であるあかねほど手段を選ばずというわけではないだろうという思い込み。しかし、この戦いにおいて挑戦者の姿勢をもっていたのはむしろわかばであったことをあかねは理解できていなかった。
わかばは竹刀を持っていた右手をいつの間にか自由にし、その手のひらであかねの蹴りを受け流した。そのまま膝立ちであかねの足を軸に身体を反転させると蹴り足であるあかねの右足を自分の右肩で担ぎ、背負い投げの要領で投げ飛ばした。あかねは受け身をとろうにも左腕は使えないので右手一本で衝撃を和らげようとするも1mほどの高さから叩きつけられる衝撃を片手でどうにかできるものではない。地面が砂浜であるにも関わらず強く胸を打ったことで肺から全ての空気が押し出され痛みのあまりの叫び声すらあげられない。
わかば「はー・・・はー・・・」
わかばの生まれは武術流派の家元だ。天元理心流、それが彼女の家系が持つ流派の名。剣術は当然のこと、素手での戦闘においても剣を持たずして戦闘を行う技術は兵には必須として長い歴史を持つ。その両方の技術ーー戦うための技術をこの若さで極限まで手にしつつあるわかばは他の教えを受けた生徒の中でズバ抜けており一部の門下生からは既に師範として教えを乞われることもある。だがわかばは自分が剣士であることが誇りであったし、剣道以外の競技で公式の試合には出場していない。
わかば「まさか私に剣を捨てさせるとは・・・!」
落ちた竹刀を拾おうと左手を伸ばすが、わき腹に走る痛みに顔をしかめてしまう。さっきの一撃で筋を痛めてしまったのだろう。おそらく左手を肩より上に上げようとするともっと痛むのだろう。かまうものか。わかばは竹刀を拾い上げ、両手で構えた。しかしすでに剣道の基本の中段の構えではない。右手を脇に引き込み剣先を斜め後ろに、刃を斜め上に向ける脇構えだ。一度深呼吸をして意識を統一すると片手をついて起き上がろうとするあかねの背中むけて走り出した。
わかば「はっ!」
頭の上まで振り上げることは出来ないので肩と同じところまでで止め、そこから両手の肘を伸ばす力を主とした攻撃で仕掛ける。背中を向けているあかねにこちらの動きは見えていないはずだが、あかねは前に跳ねることでわかばの攻撃を空振りさせる。 それも計算にいれていたわかばは追撃で腕を返し今度は左から右に竹刀を払った。あかねはそのままもう一度ジャンプで距離をとるーーーふりをするとその場で驚くほど警戒なフットワークでわかばの方へターンし、なんとそのまま攻撃へと突っ込む。驚くわかばだが攻撃の手は緩めず。あかねは時計周りに身体を回転させ右の拳を硬く固める。そのまま回りながらわかばの方へ足を一歩踏み出して距離を詰めた。あかねの狙いが解ったわかばだが既に動きは止められない。 わかばの攻撃はあかねの背中を強く打つ。そして歯を食いしばってその痛みをなんとかやりすごしたあかねの右拳による裏券が回転の勢いを乗せてわかばのアゴをえぐった
<ドガッ!!>
わかば「ぐっ!」ドサッ
あかね「かはっ・・・!」
竹刀で打ち込んだわかばが後ろ向きに倒れ、あかねは前に膝をついた姿勢で息を荒げながらも顔を上げたまま。 距離を詰めることで力の比較的のっていない竹刀の根元、それを背中という硬い場所で受け止めた。さらに身体を回転させた勢いを乗せた裏拳をぶん回して弱点であるアゴを狙ったあかねに対して、全力攻撃を空振りし距離を詰めながら放った追撃であり一撃目より勢いを乗せられなかったわかば。どちらがダメージを多く受けたかは明白だった。
あかね「げほっ!げほっげほっ・・・!!」
それでも。叩きつけられたダメージが消える間もなく背中に攻撃を続けられたあかねの方が全体の消耗は激しい。それにわかばは武道の修行の中で少なからず打たれ強さは身につけている。これは根性どうこうより、慣れの差だ。
ゆらりと立ち上がったわかばはまだ立ち上がれないあかねに一歩ずつ迫る。わき腹の痛みで悲鳴を上げる身体に渇を入れ両腕で竹刀を頭上へ振り上げた。その切っ先は、天を向く。
わかば「最後に・・・勝つのはっ!私だっ!」
あかね「~~っ!!」
咳き込んで動けなかった間にすでにわかばは目の前。あかねは再び左右どちらかへ転がり避けようと考えるが、それは許されない。目をそらせば、それこそかわすことなど出来はしない。太陽の光をギラリと反射した鋼鉄の意志を纏う竹の刀が稲妻のようにあかねの眉間目掛け打ち下ろされた。
<バシィッッッ!!!>
わかば「・・・」
あかね「勝負に・・・勝つのは・・・!」
わかば「!!!」
あかね「相手を打ち倒すまで、最後なんて言葉を使わないほうだッ!!」
わかば「ばかなっ!!真剣白刃取り・・・うっ!?」ガクン
あかねは両の手のひらでわかばの竹刀を完全に挟み込んでいた。無理やり動かした左腕は限界をこえてダラリと垂れ下がるが、あかねの心が宿す炎はその痛みを得て膨れ上がっていた。必殺の気合をこめた一撃を受け止められたわかばは先ほどまでできていたことが判断できなくなっていた。つまるところ、竹刀を右手で掴んだあかねがそれを力いっぱい引っ張ったのに反射的に抵抗してしまい手を離すことが出来なかった。それによりあかねに立ち上がる力を与えてしまい自らの姿勢を前のめりに崩すというミスを犯す。
あかね「やああああぁっ!!」
立ち上がるのではなく、あかねが取った行動は跳躍。竹刀を支えにし立ち上がった膝のバネで身体に勢いをつける。全身を硬直させ跳躍が生んだ力をてっぺんへ。目は真っ直ぐわかばをみつめたまま、アゴをくいっと引いて歯を食いしばると前髪の生え際当たりの頭蓋をわかばの額に叩き込んだ
<<<ゴガッ!!!!!!>>>
わかば「うぁっ」
前に倒れ込みそうだった上半身は跳ね上がった頭に引っ張られ反り返ろうとするが、膝がくずれおちた勢いで結局あかねのほうへと倒れ込む。一瞬攻撃を警戒したあかねだったが、わかばの手から力なく竹刀が転がったのを見て安心してわかばを受け止めると自分もその場に座りこんだ。
《ビビッドレッド(変身せず)・一色あかね》 対 《天元理心流・三枝わかば》
あかね「やっぱケンカはど根性!っだね。」
勝者 一色あかね
本気のド突き合いを書いてみました。書いてる私は楽しい。読んでる皆さんにも伝われこの思い。 まあわかばちゃんが望んだのが試合ではなく決闘である以上、勝敗が決しない流れにはしたくなかったです。アローン戦ぐらい気合入って書いてしまった・・・。決闘描写わかりにくかったですか?勢いだけでも伝わればいいのですが・・・。
せっかくのクロスオーバーなので、わかば対宮藤とかも考えましたが話をつなげられなかったので今回は断念しました。今回は。
次回も書きだめ初めているので今月中にはお見せできるかと。