『望み通りに今この場で再挑戦を受けるのは構わない。だが、あなたが勝ちたいのは今ここにいる私ではないだろう?あの全国大会決勝での勝負に勝ちたいのだろう?だが、無理だ。もしあなたが今の記憶を引き継いで私とのあの勝負をやり直したとしても、再度私が勝利するだろう。絶対にだ。何故だと思う?』
『強さとは心技体の統一だ。三つ揃わずしてなるものではない。湧き上がる思いが体を突き動かし、鍛え上げられた肉体から繰り出される技は強さへと私を導いてくれる。』
『私が言うのは、あの決戦の場であなたに無くて私にあったものがなんなのかという話だ。短い青春を剣道に捧げた者達が目指す栄光の頂点。そこを目の前にして、あなたは何を感じていた?』
『あなたに足りないものは、心だ。どうしても勝ちたいって必死さがまるでなかった。勝利に対する渇望などまるで無い。勝つことに慣れきっている<次>があると思ってるやつの剣だ。』
『あなたは何を求めてここに来た?勝負に二度は無い。今の私に勝ったとして、あの敗北が消えるわけでは無いのに、今の私に勝ってどうする?・・・やっぱり帰りなさい。敗北に囚われたままの人と闘っても、誰のためもにならないから』
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わかば「・・・」
失われた意識の中で見た夢は、昨年夏の出来事。三枝わかばを一年近く悩ませ続ける結果となった会話。今まで何度も見た夢を、また見ていた。その回想からわかばを引き戻したものは、鈍い頭痛と海の匂い。太陽の光を受けて一層鮮やかな赤い髪が潮風で煽られてパタパタ揺れているのをしばし呆けながら見つめていたわかばは、痛む頭ながらも自分の置かれている状況というのを考え始めた。
あかね「起きた?」
わかば「あかね・・・」
覗き込んでくるあかねの顔はさかさまだ。今わかばは砂浜に正座しているあかねの両ふとももの間に頭を乗せる形で砂浜に身体を横たえていた。なんとも恥ずかしい体勢だが、頭を浮かそうとすると頭全体に痺れるような痛みと眩暈が起きてしまい慌ててあかね枕に頭をのっけた
あかね「ゆっくりしてていいよ。腕は痛いけど足は元気だし。」
わかば「ごめんなさい。」
あかね「えっ。なにをいきなり」
わかば「・・・やっぱり、いきなり行動に走ったのは浅慮だったわ。」
あかね「そんなこと、受けて立ったわたしだって同じじゃん。まあでも、なんで決闘って話になったの?」
わかば「勢いに任せて口から出してしまったのよ。」
あかね「へえー。わかばちゃんって冷静な人って第一印象だったけど、かなりぶっとんでるね!」
わかば「少なくともあなたと始めて会うまでの私は冷静だった。」
あかね「はじめて会った時っていうのは、海岸でのことだよね?」
わかば「そう。」
三枝わかばが歩んできた剣の道は長く、険しいものだ。彼女のこれまでの生き様を振り返ったなら、そこに一切の甘えがないことは誰しもが認めるところだ。しかし、それは別にわかばが望んで踏み入った道ではない。ただわかばの前に道は一本しか無かったのだ。
わかば「剣術道場の娘として産まれたから剣道を始めた。というか気付いたら剣道をやってたわ。他にやることもないんでとにかくずっと竹刀を振って過ごしてた。お腹が空くからご飯を食べる。眠いから寝る。それと同じくらい当たり前に無意識で剣道に打ち込んでいた。そのおかげか、私は圧倒的に強かったから負けたことなんて一度もない。だから勝つことにも特別なものを感じたことは一度だってなかったわ。」
わかば「だが、負けた。これまで私は、他の人間が他のことをしている時に竹刀を振り続けることで差をつけてきた。可能な限り積み重ねた努力、それが私の強さの土台。それでも届かない場所があるとしても、私には見上げることしか出来ない。」
わかば「それからの私は、剣を振りながらも<道>を失い、ただ彷徨うだけとなった。私が竹刀を置かずにいれたのは夏の敗北があったからだ。皮肉にも、夏の敗北だけが私の前へ進む心の原動力となった。秋と、冬を越え、2年になったけれど、私は何も変わらずただ竹刀を振り続けていた。いい加減、どうにかならないものかと虚しい悩み事をしながら海を見つめるのが日課になりつつあったのだけれど・・・」
わかば「―――その時、空を見た。」
青空に赤い光の帯が2つ。そこで起きていることが闘いであることをわかばは肌で感じ取るも戦場は自分が立っている場所の遥か上だ。空を舞い、宙を裂く刃の輝きはおおよそわかばの精神の常識を司る壁で耐えられるものではない
わかば「自分の手の届かない領域。その闘いは、私がこれまで何百何千とこなしてきたものとは違うものだ。」
竹刀を持つ手が震えた。むしろ震えているのは全身。それは今まで感じたことのない胸の高鳴りが起こすものだ。赤い光が衝撃波と共に砕け散り、風を制しながら砂浜に降り立った少女に向けて発した言葉は賞賛だ。わかばの心の底からの言葉によるものである
わかば「あの力は人の域を飛び越えたものだった。それでも、私はその力の中にあの全国の場で感じたのと同じような力があるのを感じたわ。意志の力、心の力。」
わかば「胸の鼓動は収まっても、熱は冷めることなく、身体がむしょうに暴れたがっていた。夢にまで出てきて、あの一瞬の出来事は既に頭に焼きつき私を休ませない。これがなにかっていうと・・・私は、あなたに憧れてしまったのよ。」
胸の底で眠っていた純粋な好奇心を刺激し、目標を知らないままがむしゃらに走り続けていた少女に夢を見せた。非常識な発想であっても、ただ自らの欲の果てにある漠然としたもの。あんな風になってみたいという憧憬。それはわかばの中に今まで無かった目標になりうるものだ。
わかば「もう二度とあなたと会えないだろうと覚悟もしていた。あの時出会った彼女がなにを背負っていて、どんな事情や思惑を抱えていたかなんて解るはずもなかった。それでも!ああなりたいと、ああなってみたいと思った!どうすればいいかなんて解らなかったけど、それでもよ。」
もう一度あの力に触れてみたいという願いは三枝わかばの平常心を乱すほどの情熱となっていた。運命的とも言える再開を果たした瞬間にそれを爆発させることこそ抑えたが、今こそ自分を変える時だと悟っていたわかばがすぐさま行動に出たのだ。
あかね「あなたが憧れた力っていうのはーーー」
わかば「空を飛んでいた時程大きなものではなくても、全く同じものが今の闘いにはあったわ。あなた自身が持つ力よ。」
返すわかばの言葉にあかねはすぐ口を閉じた。
あかね(示現力じゃない・・・わたしの、力。)
それがどういうものか、あかねには解らない。おそらくわかばにも解らない。だが、わかばの言うことをあかねは心で理解した。わかばが心の底から自分の望みを語ることが、どれだけあかねを信頼しているかの証明だと悟ったあかねはそれに対してこちらも応えたいと思ったのだ。
だがあかねの胸の高鳴りを遮る不協和音のような薄暗い不安が影をさした。釣られたように顔を上げるが既に目で捉えるまでもない。身体を押しつぶさんとする威圧感を胸中で膨らませた闘志を爆発させ吹き飛ばすようにあかねは力強く立ち上がった。
当然のように支えを失ったわかばの後頭部が砂を巻き上げたわかばの頭痛をさらに加速させてしまったが、あかねは既に空だけを見ている
わかば「な・・・なんなの、あれは!」
あかね「アローン!わたし達の、敵だ!」
前回の更新から・・・半年!?半年間何度も書き直しては気に入らないで消してしばらく間あけて書き直してを繰り返していたということか!遅くなったなんてもんじゃねえぞ!申し訳ないです!続きはこんどこそすぐ書くので許してくださいお願いします!!何でもしま