ビビッド&ウィッチーズ!   作:ばんぶー

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第20話 宮藤「クラスの皆にはないしょです」

宮藤「失礼します。・・・あれ、誰もいない」

 

 

 

放課後。宮藤芳佳は1人保健室を訪れていた。しかし待ち合わせの時刻の筈なのに室内には誰もいなかった。薄いアルコールと石鹸の香りがする。とても懐かしい気分が沸き上がり芳佳は整えられたベッドに腰掛けて小さく息を吐いた

 

 

彼女の家は昔から小さな診療所を営んでいる。母と祖母が常に忙しく動き回っているのを見て彼女は育った。紆余曲折ありウィッチとしての戦いの道を歩むことになった今も、最後はそこに帰り働くであろうと考えていた。芳佳は人を傷つけるより癒すことが本当に好きな女の子なのである

 

 

 

若干のホームシックに駆られていた芳佳を現実に引き戻したのは唐突に開かれたドアの音だ。不意を突かれ驚きつつ顔を向けた芳佳と目が合ったのは白とも銀ともとれる長い髪を後ろに縛った長身の女性。白衣を肩に引っ掛けているところから、その女性が保健室の主であることは一目でわかるだろう。

 

 

「ああ、あなたが例の魔法使いちゃんね」

 

 

宮藤「ま、魔法使いっていう分類にされるとちょっと違うと思いますけど。私が宮藤芳佳です」

 

 

「楽しみにしていたのよ。私は養護教諭でありブルーアイランド管理局から派遣されているヤゴロ・エイ・リーン。エーリン先生と呼ばれるのが一番気に入っているの。よろしくね宮藤さん」

 

 

エーリンはとてもまだ若く見えるのだが声やしぐさはそれに似つかず威厳すら感じさせるのでどうにも妙な雰囲気を醸し出す女性だった。芳佳に椅子をすすめ、冷蔵庫から缶ジュースを取り出し芳佳に手渡すと椅子を引き寄せて深く腰掛け目を細めて観察するような視線を芳佳に向けた

 

 

 

宮藤「あのー私なんの話をしたらいいんでしょうか?」

 

 

エーリン「話っていうか見せてもらえればそれが一番なのよね」

 

 

 

彼女はおもむろに白衣を脱ぐと左足をまくり上げる。エーリンの脛は痛々しい紫と赤の混ざった色に変色しておりぽっこりと晴れている。グロテスクですらあるそれを見て驚いた芳佳は飲みかけのジュースを放り出し腕まくりをするとエーリンの足元に転がるように座り込んで魔法力を発現させる。その頭から獣耳のようなものが生えたのを見たエーリンは驚いたように「すごいわね」とつぶやき興味深げに手を伸ばして耳をちょんとつついた

 

 

宮藤「一体どうしたっていうんですか!?」

 

 

エーリン「昨日ちょっと飲みすぎてね」

 

 

宮藤「なに飲んだらこんなことになるんです!」

 

 

エーリン「酔っぱらったら人はボウリング球を蹴ってストライクを狙うことに恐れを感じなくなるのよ」

 

 

本来なら全治数週間といったレベルの強烈な打撲が瞬く間に完治していく。1分程で芳佳は耳をしまって立ち上がり、再び椅子に座ろうとして自分が放り投げたジュースが地面に転がっているのを目にしてあわてて傍にあったトイレットペーパーをぐるぐると手に巻いて片付けに入った。エーリンも裾を下ろして掃除を手伝いながら話を続ける

 

 

エーリン「人体の損傷ならなんだって治せるって訳?すごいわね。どういった理屈なの?その魔法はあなたの世界ならみんな使えるの?」

 

 

宮藤「外傷は治せます。程度にはよりますけど。それにみんなが使えるわけではありません。人によって使える魔法が違うので。理屈は・・・魔法だから、と言うしかありませんね」

 

 

エーリン「科学も医学も理屈を重ねないと結果にたどり着けない。そこんところ魔法っていうのはシンプルで素晴らしいものね」

 

 

宮藤「魔法はなんでもできるわけじゃありません。私の治癒魔法はケガを治すだけです。病気は治せないし、できないことはできません。だから私は医学を勉強してるんです先生。」

 

 

 

エーリン「とても気高い志をもっているのね。・・・その力がなくても、あなたは私のケガを治すために奔走してくれる人なんでしょう。そんなあなたにならなんでもお話させてもらえると思うわ。私の個人的な話でいいのなら」

 

 

宮藤「ぜひ聞かせてください!」

 

 

エーリンは新しいジュースを芳佳に渡し、椅子に浅く腰掛けた。先ほどまでとは違い少し身を乗り出すように、まるで友人と話すように顔を突き合わせて人懐っこい笑顔を浮かべて質問を受ける側にまわった。教師と生徒という垣根を越え、違う世界で生きる二人が交わした会話はそれほどとくべつなものではなかった。ただ同じ道を志す者達には尽きぬ話があった。強い日差しが西に沈んでほのかな温かさが芳佳の頬を温めたことで初めて長い時間が経ったことに気付けるほどに夢中だった

 

 

 

名残惜しそうに席を立った芳佳が廊下の向こうへ消えていくのを手を振って見送るエーリンはとても満足気だ。管理局中を走り回ってこぎつけた時間だったが、その労力も忘れてしまえるほど有意義な時間だったからだ。ただこの恩恵は当然エーリン1人が独占したものではない。芳佳もそうだ。ただ、もう一人いた

 

 

 

 

エーリンは軽やかな足取りで保健室の隅にあるベッドによると、仕切りの役割を果たしていた厚手の白いカーテンを舞台の幕でも開くかのようにかしこまってそれを引っ張った

 

 

 

エーリン「興味深い話はきけたでしょう?」

 

 

「・・・まあまあ」

 

 

エーリン「まあまあ?頭抱えて目を白黒させてるような子が言っていいセリフじゃないわね。はいはい深呼吸して?保健室で過呼吸でぶっ倒れられたりしたら私の名誉に傷がつくんだから」

 

 

壁にもたれかかるようにベッドの上で座っている少女はゆっくりと2、3度呼吸を繰り返して半開きの目でエーリンの青い瞳を見つめ返した

 

 

「傷、見せて」

 

 

エーリンは笑いながら治った足をベッドの上に投げ出した。少女はそれを未知の物質の分析を始めんとする科学者のような好奇の視線でなめるように見た。そしてそれが完璧に健康な状態になっていることを確信すると、体をぶるっと震わせて再び頭を抱えた

 

 

エーリン「あったわね、魔法。」

 

 

「まぁ・・・医学が知らない間にあそこまで発展したのかもしれないし」

 

 

エーリン「歴史をみれば解明できない科学は魔法として扱われたのよ。諦めてさっさと出席の心構えをしておくのね。」

 

 

「死ぬほど嫌なんだけど・・・確かにいろいろ自分の目で確かめたいことはあるんだけれど」

 

 

エーリン「その意気よ。あなたがブルーアイランド中の監視カメラやらデータベースを探ることをやめてくれないと色んな人の首が飛ぶし」

 

 

「だからそんなに必死なんだ」

 

 

エーリン「捻くれてるわね、あなたも。・・・結局、大人は子供におせっかいを焼きたい生物なのよ。学校に行かなくてもあなたは立派な人間になれることぐらい解ったとしても、ちゃんと毎朝起きて学校に行って、授業を聞き流しながら友達と下らないおしゃべりをして欲しいの。それがどれだけ意味がないとしてもね。」

 

 

 

エーリンは黙ってうつむく少女の頭をぽんぽんと叩いて、保健室の電気を消して廊下を歩いていく。教育というものはいつだってイレギュラーでしかない。世界に全く同じ人間などいないように、常に同じ方法で解決できる思春期などないことをよく理解している。だから今回もずるい方法で天才的な頭脳を持つ幼い彼女を騙すようにして事態を前に進めるしかなかった。

 

 

 

 

 

保健室のベッドの上で頭を抱えてぶつぶつと不満と期待を口にしている少女は、四宮ひまわり。今世界になにが起きているかを知り、そしてこれからそれに両足を突っ込まんとしている不幸で幸運な少女だ

 

 

 

 

 




今年中に完結させます(消え入るような声
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