わかば「待たせたわね」
ひまわり「・・・」
名前に合わせたような明るい黄色のフリルスカートを着せられたひまわりはそわそわと髪をいじっている。顔を隠すように垂れていた前髪は黄色のヘアピンで両サイドが止められているので諦めたような嬉しいような複雑な表情を浮かべているのが容易に見て取れた
わかば「ちゃんとした服もあるじゃない。」
あかね「わー!ひまわりちゃん可愛い!!」
宮藤「かわいい!かわいい!」
ひまわり「そ、そういうのいいから・・・はやくいこ」
外はちょうど陽が傾きつつあり、歩いているうちに理想的な夕焼けに街が染められるだろう。最初は周囲に忙しなく目をやっていたひまわりだが、人通りがあまり多くはないせいか次第と落ち着いてあかね達の会話にも少しずつ混ざり始めた
あかね「もうすぐだね!」
ひまわり「ねえ、こっちから行きたいんだけどいい?」
あかね「え?整流プラントってここで曲がるんだっけ?」
ひまわりが指差した方は坂道だ。どちらかというとモノレール駅がある方向である
ひまわり「ううん。裏の海の方からならフェンスに邪魔されずに見えるから。ちょっと遠いけど・・・」
わかば「成程ね!そのほうが絶対いいわ。行きましょう」
先頭に立つのは遠慮しているが、ひまわりの案内によってあかね達は海沿いの整備された歩道にやってきた。こちらから入ることはできないが、フェンスに阻まれることなく工場施設全景を遠目に収めることが可能だ
世界の全てがオレンジに変わりつつある中で吹く温かな風があかねの頬を撫でる。鉄塔や走り回るトラックが時たま反射する光の眩しさも気にせず7人はしばらく無言でその風景を楽しんでいた
あかね「いい場所知ってるねぇ」
1人、少し離れたところで柵にもたれかかりながら熱い視線を注いでいたひまわりは不意にかけられた声に少し驚いた。隣に立ったあかねはそれっきり何も言わないので、会話がしたいのか判断のつかないひまわりは独り言のようにぼそりと言葉を返した
ひまわり「たまに、1人で見にくるから。」
あかね「教えてくれてありがとね。」
ひまわり「ううん。私も・・・1人だと、陽が沈んでからじゃないと外出れなかったから」
あかね「ねえ、ひまわりちゃん。なんで学校に来なくなっちゃったの?行かなくてもいいから行かないんじゃなくて、行きたくない理由があるんでしょ?」
ひまわり「べつに。」
あかね「そうなの?」
ひまわり「教えないといけない理由もないし」
あかね「わたしが力になれることなら協力するから、一緒に学校いかない?ひまわりちゃんと学校でも遊びたいな」
ひまわり「・・・なにそれ。なれなれしい。」
あかね「えー、厳しい」
視線を強めるひまわりを受け流すようにおどけたように笑ったが、冗談というわけでもなさそうな雰囲気を察して口を閉じて真面目な表情を作り直した
ひまわり「勘違いしないで。私は私が来たかったからここに来ただけで、あなた達がこうして私に付き合ってるのはそうしないと自分達に不利な状況になるから。今日のことはそれだけのことなの」
わかば「あかねも私達も、あなたに口外して欲しくないからご機嫌とりをしようなどと考えてはいないわ。」
凛とした声がひまわりを真正面からとらえる。負けじと不満そうな顔でわかばの方に向き直り言い返す
ひまわり「だったらなんなの」
わかば「あなたと友達になりたいだけなのよ。」
ひまわり「・・・友達なんて、いらない。」
わかば「フラれたわよあかね」
あかね「なんでそんなツンツンなの?ひまわりちゃん。」
ひまわり「ひきこもりの私に同情でもしてるんだろうけど大きなお世話だし。・・・どうせ私のこと変なヤツだって思ってるでしょ」
あかね「そんなことないよ。わたしも示現エンジン好きだし」
ひまわり「私の好きとは違うものでしょ。人智の結晶であるエンジン、その恩恵を世界中に送るため休むことなく稼働する整流プラント。世界中の科学者が兵器の開発に夢中になっていた時に、世界を平和にする事に全てを注いだ一色博士の存在も含めて、その全てが私にとってどれ程尊いものか・・・あなたにわかる?」
あかね「うん。わかるよ。」
突き放すようなひまわりに対してしかしあかねは一切言いよどむことなく断言した。あかねはここまで理論立てて自分の≪好き≫を説明できるかは自分でもわからないでいたが、ただひまわりが心に秘める熱い想いがどういうものか理解できていることには確かな自信があった
そんなあかねと目で通じ合ったのか、ひまわりもふっと息を吐くと肩の力を抜いて小さく笑った
ひまわり「ごめん。よりによって博士の孫のあなたにこんなこと聞くなんて」
あかね「わたし、機械のことは詳しくないけどさ。いつもおじいちゃんとか、お母さんとかが言ってたからわかるんだ。発明は人を幸せにするものだって。だから誇りをもってやれるんだって。ひまわりちゃんが夢中になるのもきっとそういうものなんだね」
ひまわり「私は・・・そんなキレイなものじゃないと思う。」
あかね「え?」
ひまわり「私___」
その言葉をかき消したのは爆発音。美しい夕焼けを汚す紅と黒が空に広がり、大地を震わせる甲高い音がひまわりを不快感で震え上がらせた。驚きのあまり力が抜けて転びそうになる彼女をわかばが素早く受け止める
わかば「大丈夫!?」
あかね「なに!?」
宮藤「アローンだよ!!」
東の空、落ちる陽の反対側から夜を引き連れてきた怪物が物々しい雰囲気を放ちながらゆっくりと次元の穴から出現してきていた
今年の夏は涼しいってほんとぉ!!???これでも暑くない!!?