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そこには空があった
それを見上げている私は手に一張りの弓を握っていたが、なぜそんなものを携えてここに立っているのかは定かでは無い
遠くに見える炎も、焦燥感を煽る甲高いサイレンの音も、感知できる全てのものが自分と関係のないもののようで、酷く寂しかった
「正しく世界があるためには・・・イレギュラー。不要なものは排除されなくては。わかりますね?」
何もかも不明瞭な世界から囁かれた言葉は、私を導こうとしているものであることは明白だった。呼応して己の中から静かに立ち昇る強い力は妙に鮮明で、不思議な懐かしさを与えてくれる
それを抑える道理も持たないので、動きを覚えている身体に従い弓を構える。つがえるのは力そのもの。内にある異物を無理やり締め出すイメージを弦にこめ、深く息を吐きながら引き絞る。手元がまばゆい光を放ち、そこに確かに矢が装填されていることを嫌という程思い知らされる
「さあ。贖罪を見せなさい」
一息に、力を解き放った
ただ空だけがそこにあった
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想定外の事態にいち早く行動を見せたのはペリーヌであった。攻撃か防御かの意志が統一されていない雰囲気を察知し、チームワークの乱れを正すため素早く指示を飛ばす
ペリーヌ「一度距離をとって体勢を立て直しますわよ!リーネさん!あかねさん!」
リーネ「はい!」
あかね「うん!」
ペリーヌのシールドの後ろでリーネがライフルの狙いを定め引き金を絞った。轟音と共に打ち出された一撃がアローンの足の1つに直撃。あかねも戻ってきたブーメランをキャッチし器用に身体を回転させ再度投擲する
リーネ「・・・ダメージありません!敵攻撃来ます!」
あかね「わたしのも効いてないよこれ!」
しかしその攻撃で少し隙を作る程度のことは出来た。あおいとわかばが接近戦の間合いから一気に距離をとることには成功していたのだから完全に無駄というわけでもない
わかば「博士!どうなっているんですか!?」
健次郎『突然エネルギーのパターンが急激に変化した!最早この世界の法則から外れた存在じゃ。あれが放つエネルギー量を数値で表すことは無理じゃ』
あおい「どうすればいいんですか!?ぶちかましますか!?」
健次郎『アローンの周囲は時空が歪んでおる。あかねのブーメラン、リネットくんの狙撃が共に効果が薄いのを見るに、近接戦闘の間合いまで侵入するのは全くもってオススメできん。最悪エネルギーの奔流を処理しきれず装着者に大きなダメージを及ぼす危険がある』
ペリーヌ「さて、そうなるとわたくし達にとれる戦法は限られますわね」
わかば「あかね。以前のアレをやりましょう。」
あかね「え、どれ?休み時間に考えたキメポーズ10連発のこと?」
わかば「違う!合体技よ。博士、どうなのでしょう?」
健次郎『確かに・・・以前2人がやってのけたオペレーションであれば生み出される示現エネルギーをもってしてやつに対抗することは十分可能であろう』
しかし、それは禁じ手である
ドッキングオペレーションと命名された戦闘方法。2人の装着者が示現エネルギーを用いて完全に一体となり、己をビビッドエンジンという特殊な動力装置と化すことで一時的に無制限にエネルギーの生成を行うことが可能となるシステムだ。健次郎のかけたセーフティが全て外された状態であり、発揮できるパフォーマンスは想定の200%を優に越えことができる
健次郎『それがどれだけ危険かというのも、十分解っているはずじゃ』
あかねの左腕にダメージを残した後、再三に渡る検査で異常は検知されなかった。しかし想定してあった初変身時の反動とは違い、完全に解明されていないドッキングに対して健次郎が慎重にならざるを得ないのは責任者である以上当然であろう
あかね「無茶は最初っから承知だよ!わたし達がやらなきゃ!」
ひまわり「待って。一色博士、以前の戦闘時のデータを見せてください。私がサポートに回れば負担を減らす方法があるかもしれません。」
健次郎『了解じゃ。』
ひまわり「・・・このあかねと三枝さ、いやわかばが入った亜空間でのデータ・・・あっふーんなるほど」
あかね「ひまわりちゃん?」
ひまわり「ねえあかね。その・・・まあ。ね?」
あかね「えっなになに!?なんで近づいて・・・なにか解ったの?なに!?」
ひまわり「ドッキングオペレーションは2人のパレットスーツ装着者が心の底から一つになる必要があるってことみたいだから。ーーーあかね、確かにドッキングはあなたに大きな負荷をかける危険なシステムかもしれない。でも私はそれからも守ってみせるから」
ひまわり「だから、信じて」
あかね「うん。」
信じてくれ、と友達に言われたら即答するのが一色あかねだ。緊張した面持ちで手を握るひまわりをまっすぐ見返し、安心させるように握り返した
ひまわりはそれによって覚悟を決めたのか、全てを受け入れる気で動かないあかねよりほんの少し高く浮いて
ひまわり「---んっ」
あかねの額に、口づけをした
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2人の身体の中心でビッグバンが起きたようであった。少なくともひまわりはその現象をそう解釈したのだが、新たな次元が誕生しているという点では正しいものであるだろう。この無限大な可能性の空間の中では己の存在がいかにちっぽけなものなのだろうか、そんな弱気な恐怖がどこからか漂ってくるようだ
あかね「び、びっくりした・・・」
しかし、目をパチクリさせて紅潮した頬をぽりぽりとかく彼女を見ていれば、なんだか変な感情が溢れてしまってそんなものは吹き飛んでしまう。こうもいいリアクションを返してくれれば人生最大の度胸を使い果たした価値があるな、とこちらも顔を赤くしているひまわりは照れ隠しのように小さく笑った
2人の重なり合った手が光る。ひまわりはデータで、あかねは実体験で。この身勝手な空間のことは既に知っている。この空間に満ちる力は決して優しいものではないが、正しい事をやろうとする彼女達の邪魔はしない。求める者にはただ力を与えるのが示現力なのだ。あかねとひまわりがそれをどう使うのかを見届けたいのか、チカチカと時折輝く小さなものが視線のように2人を取り巻く
ひまわり「まあ単純、力が変なところに偏っちゃったからだね。無理した分が腕に集中したんだ。わかばの気持ち、重すぎ」
あかね「まあ激アツだったからねえ」
ケラケラと笑うあかねが大きく腕を広げて大きく息を吸う。その胸へ倒れこむように飛び込んできたひまわりの輝く身体をぎゅっと抱きしめて、その思いを心へ受け入れていく
かつて受けた彼女の悲しみと孤独が。そしてそれを受け入れてしまっていた諦めが。ひまわりは自らを縛っていた鎖を完全に断ち切ろうとしていた。その行動は己を安全圏から追い出す行為でもある。再び誰かを信じればまた裏切りに合う。リスクを嫌う彼女に自らの城から出る決意を抱かせたのはあかねだ
ひまわり「私を信じて欲しい。信じて。だから___ごめん、あかねを信じさせて!」
あかね「うんっ!」
その思いを受け止めることに、なんの躊躇いがあろうというのか
あかねの身体にひまわりの身体が重なる。二つのハートを受け止められる強い身体が必要だ。強い身体にふさわしい頭脳は既にある。知識を正しいことに使う精神は備わっている。思いに応えて加速する最強未知数エネルギーは、金に煌めくドレスを纏った彼女にこそ相応しい
「「ドッキングオペレーション!!!!」」
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現実世界で経過した時間はほんの数秒。発生した巨大な光の球体が泡のように弾けて、中から出てきた少女は___いや、少女というには若干大人びている彼女は頭から大きく伸びる金髪縦ロールに纏めた髪を仰々しくふわさっと手で払い、ふんぞり返って高らかに叫び始めた
???「祝いなさい!我こそは進化の到達点、示現の力によって立つ英知の結晶!!ドッキングオペレーション・ビビッドイエロー!!!ピンチとあれば、駆けつけ一発ですわ!!!!」
アローンをびしっと指差し不敵な笑みを浮かべ、戸惑う仲間達にウインクをして言葉を続ける。彼女から放たれる金の光が湿気た灰色の雲を押しのけ、空と海を黄色い輝きで照らし出す。夕焼けの赤色と黄色の二つの輝きが空で混ざり合い、アローンの放つ邪悪な空気をも押しつぶすような圧を放つ
ビビッドイエロー「さあ、私が守るべきものはどこかしら!!」
挑発するようなその言葉に応えるようにアローンは己こそが脅威であると知らしめんと強烈な攻撃を繰り出した。再生した8本脚が乱れ打つ攻撃は、一発一発が既に変化前に見せた高出力ビームよりも明らかに凶悪なものに進化している
ビビッドイエロー「あら、半端な攻撃なら痛い目をみてもらいますわよ!」
それを見ても彼女は笑っていた。目に映るもの全てが想定内であって、その全てが自分にとって障害になりえないものだと容易に理解できるのだから余裕も当然だ
手を広げると、ビビッドイエローの周りに大型の黄色い金属の塊が8つ出現する。それらは煙を吐き出しながら高速で形を変え、重厚でありながら先鋭的な、盾と砲台を兼ね揃えた芸術的なまでに洗練された姿に変わり高速で飛翔する。絶対貫通の矛であり完全無敵の盾である。これこそが彼女の武器、ビビッドコライダーだ
戦場という場だというのに彼女は恐れに足を取られることはない。命を天秤に乗せる気などさらさらない気取った笑顔で指揮者のように指を運ぶ。大型ビットはあおい達へ向かっていたビームを受け止め、それを威力そのままに跳ね返した
ペリーヌ「これほどとは、驚きましたわね」
ビビッドイエロー「さあもう独壇場でしてよ!」
ペリーヌ「わたくしの喋り方真似するのやめてくださらない?」
ビビッドイエロー「その芯の強さにあやからせて欲しくってね!」
生半可な攻撃が意味をなさない事はここまでの応酬で互いに理解できた。飛び回る大型ビットに邪魔され続けるのに辟易してアローンは攻撃の手を止めていた。対してビビッドイエロー側が跳ね返したビームもアローンの体表を少し焦がす程度のダメージしか与えられていない
侵略者であるアローンにとって次にとる手は一つだけだった。全ての触腕を前方に向け、エネルギーを集中させる。先ほど放った高出力とやり方は同じだが、チャージを始めた時点で既に先ほどと比べ物にならない破壊力を備えていることは明らかだ
ビビッドイエロー「ビビッドコライダー、ブレイクフォーメーション!」
迎え撃つはビビッドイエロー。チームの前方に8つのビビッドコライダーを集結させると、開いた花のような陣形に配置し中央からアローンを見据える。それぞれのビットが装甲をスライドさせ、内部の構造を露出させた。溢れだした光の粒子が互いを結ぶラインとなり、大きな光の輪を形成する
ビビッドイエロー「ビビッドエンジン、臨界稼働開始!!ファイナルオペレーション!カウントダウンスタート!」
ビビッドイエローのとる手も一つだけだ。防御ではなく、攻撃である。彼女はビビッドイエローから生成されるエネルギーを加速器の役割をもったコライダーの光の輪が増幅し、圧縮し洗練された示現力が中央に火力となって集約し解き放たれる時を今か今かと待ち望んでいる
互いが互いに、解放の一瞬のために力を溜め続けた。臨界点が近づき、アローンの触腕が熱で溶解を始めコライダーの装甲が耐久性能の限界により崩壊し始めた頃、機は訪れた
アローン「____________」
空間を軋ませる甲高い音を響かせてアローンは自身の持てる力の全てを解放した。赤い光の濁流は破壊のみを目的とした荒ぶる牙となって立ちはだかる人間達を呑み込まんと迫る
ビビッドイエロー「カウントゼロ!ビビッドコライダー、フルバースト!!」
雷のように鋭く振り下ろされた手を合図に、満を持して放たれたるは黄金の光。真っ向から衝突した二つの光がぶつかり合えたのはほんの刹那。ビビッドイエローの放ったビームがその勢いを強め、アローンの赤い光をじわじわと呑み込んでいく。少しずつ、牛歩のような速度であろうと確実にフルバーストの光が前へ進む
ビビッドイエロー「出力200%。ターゲット・・・ブレイク」
競り合っているかように見える局面だが、ビビッドイエローは既に勝敗の計算を終えている。これは既に決しているものであった
ビビッドイエロー「私の熱い思い、確かに受け取っていただけだようね」
紅い光を完全に呑み込んだ黄金の光は徐々に収束し、アローンがいた痕跡ごと消え去った。これまで強い光を放っていたビビッドイエローが変身を解いてあかねとひまわりに別れると、いつしかすっかり陽が落ちて暗くなっていた夜空が顔を出した
ひまわり「うっ・・・」
わかば「おっと!」
パレットスーツが解除され落下しそうになったひまわりを備えていたわかばが優しく受け止める。気を失うまでもないが不安定な飛行状態のあかねの補助にはあおいが素早くついていた。前回の反省を活かしての行動である
健次郎『無茶をさせたな、あかね。ひまわりくん。ビビッドチームご苦労じゃった!任務完了じゃ。すぐにでも帰投してくれ。受け入れ準備はできておる』
ペリーヌ「リーネさん。わたくし達は宮藤さんを拾いにいきますか。」
リーネ「そうですね。行きましょう」
あおい「あかねちゃん、大丈夫?ひまわりちゃんも・・・」
あかね「うん、まあ・・・かなりしんどいかな。気を抜くと寝ちゃいそうだけど、なんとかなってる感じだね」
わかば「ひまわりも呼吸はしているわ。すぐに休ませてあげれば大丈夫だと思う。私も以前ドッキングをした際は翌日に少し疲労を残す程度ですんだから」
あおい「ああ、うん。そうなんだ・・・」
あかね「?」
わかばに言葉を返すあおいの言葉に少しの陰りを感じたあかねはその表情を確認しようとしたが、あおいに負ぶわれる形で運ばれているので後ろから彼女の青い髪が風で柔らかく揺れるのを見つめる。あおいの前に回した腕の力を少し強めて抱きしめても、パレットスーツの防御機能の上からでは親友の温かさを感じるのは難しかった
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閃光が空を行き来した後、どうも全てが終わったようで、空はようやく夜を取り戻した。陽が落ちても気温はさほど下がる様子もないので首に巻いたマフラーがどうにも煩わしかった。しかしどうにもそれを外す気にはなれないでいる自分を不思議に思うものだが、生来そういう性分だったのかもしれない。理性より、本能に従う方が良さそうだと判断してそのまま弓を手放した。
黒い弓は地に落ちず潮風の中に溶け込むように姿を消した。小さな喪失感がちくりと胸をつつき、私の正気を揺さぶる
「___あの力。過ぎたものです。はしゃぐのも無理はありません。この次元帯の生き物はみなそうなのですから」
再び、声がする。空気を通さず、脳に直接届くような不安定で不可思議な音。到底人の話し方とは思えないが、それもその筈。私の目の前の柵に黒いカラスが足を置いているのだが、それが自分に意志を伝えているのだ。ありえない現象ではあるが、《それ》はそういう存在なのだと無意識で理解している
「チャンスは無限ではありません。しかし1度という訳でもない。あなたの有意性を実践する機会はすぐに訪れるでしょう。《彼ら》の望みに応え、あなたの罪を償ってみせなさい」
要領を得ない言葉を並べ立て、私に深く釘を刺して黒いカラスは飛び去った。この頃になると私の意識も少しずつ明瞭になりつつあり、帰るべき場所があることがうっすらとだが思い出されてきた。壁をつたって地面に降り立ち、閑散とした大通りに歩み出る。人々はサイレンを聞いて避難しているのだろう
しかし、どこからか視線が向けられているような気配がする。辺りを見渡したが、人影は無く、気のせいだろうとかぶりを振る
私は靄のかかった記憶から必要なものを取り出す作業に没頭しながら朧げな記憶を辿り歩き出す。どこかに、私の帰るべき場所がある。温かく迎え入れてくれる、そんな場所を探そう
「なんで・・・あんなところに?」
「芳佳ちゃーん!迎えに来たよ!戻ろう!」
「___っと。リーネちゃんこっちこっちー!!」
今年もあと2ヶ月きってるの!!!!!!大丈夫間に合う!!!!!!完結いける!!!!!!