もも「みなさん朝です!起きてくださいー!」
シャーリー「ふぁっ・・・もうそんな時間かぁ」
鈴を鳴らすような可愛らしい声でシャーリーは気分よく目を覚ました。障子の向こうから差し込む朝日の色合いから今日もいい天気なのが見て取れる。畳特有の香りに混じってほのかに漂う木の匂いが心地よく、身体の方も昨日の疲れがすっかりとれたようでコンディションは最高の状態だった
やかましいラッパやら口うるさい同僚に叩き起こされていたのが遠い昔のように思えた。そんなシケたイメージを振り払うよう大きく伸びをすると、昨夜枕元に放り出したシャツを羽織ろうと手を伸ばして違和感に気付いた
シャーリー「洗濯されている・・・だと!」
もも「先日我が家にやって来た最新式の洗濯機なら一晩でばっちり洗えちゃうんです!さらにおじいちゃんの粋な改良によってアイロンをかけなくてもしわ1つないキレイな仕上がりに!」
さらに食卓ではご機嫌な朝食が準備されている。本日はトーストにベーコンエッグ等といった洋食をベースとした献立で、席に座るとタイミングよくリーネが目の前に湯気の立ち昇るコーヒーをそっと置いてくれる。普段基地で飲んでいるインスタントの無機質なものとは違い恐らく手間をかけて淹れてくれたであろうそれを一口堪能すると、シャーリーはふーっと長く息を吐いた
シャーリー「もう帰らなくていいよな。」
エイラ「おい」
シャーリー「ジョークだよ。いくらか本気でそう思ったけどさ」
もも「そう言ってもらえると嬉しいです。」
シャーリー「いっただっきまーす!といきたいところだけど、あかね達は?」
もも「お姉ちゃんはさっきまでわかばさんと一緒にランニングに行ってて、今はシャワー浴びてるはずです。昨日の今日なんだし、朝くらいゆっくりしてて欲しいのに・・・」
言い終わらないうちに風呂場の方からどやどやと2人分の足音が聞こえてきたかと思えば、ガラリと引き戸を開けてタオルを手にしたあかねとわかばが姿を現した
あかね「シャーリーさんエイラさん!おはようございまーす!」
エイラ「おはよ。ほんと元気だな」
シャーリー「朝から精が出るね。明日からはアタシも混ぜてもらおっかなぁ」
ペリーヌ「あら、わたくしったらまだ夢の中なのでしょうか。シャーリーさんが真面目なことを仰っているとは」
シャーリー「やらされる訓練は好きじゃないってだけさ。おはようペリーヌ」
ペリーヌ「おはようございます皆様。ルッキーニさんも、朝に見かけるのは珍しいですわね」
ルッキーニ「初日くらい一緒に行動しろってシャーリーがうるさいんだもん」
シャーリー「迷子になったらどうすんだよ。しばらくは大人しく部屋で寝ような」
少々慌ただしくも和やかな朝の時間が流れていく。しかしそれに乗り遅れ、布団の中でぐずっている者が一名だけ存在していた
わかば「そろそろ起きなきゃだめよひまわり。学校に行くといったんだから!」
ひまわり「明日から・・・!まじ!明日からなら行けると思うんだよね!でも今日はマジで無理なの!」
わかば「抵抗など無駄よ!天元理心流・日ノ出の型!晴天布団ふっ飛ばし!」
ひまわり「ぐわー!!」
朝の運動ですっかり温まったわかばの身体が躍動する。ひまわりがしがみついていた布団が空を舞い、投げ出された彼女は哀れにも畳の上をごろごろと転がっていった
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整流プラントでの騒動があったが、本日の授業はつつがなく行われる。学園が攻撃対象になっていないので当然といえば当然だが、世界の危機が訪れているのを否応なく感じさせられるあかね達にはこの当たり前の日常を過ごすことが何より心を安らげてくれる。平和に感謝しつつ、それはそうと昨日出ていた宿題をやってこれなかったことは見逃して欲しいと切に願うあかねであった
ひまわりは一度職員室に顔を出さなくてはならないらしく、付き添いを買って出たわかばとも別れあかねとあおいは2人でのんびり登校していた。ウィッチの面々は少し遅れて来るとのことで別行動で、ももはクラスの友達と合流して先に走って教室へ行ってしまった
れい「おはようあかね、あおい。ちょっと久しぶりな気分ね」
あかね「あーれいちゃんだ!どうどう調子は!」
あおい「れいちゃん!今日からまた来れるんだね」
れい「おかげ様で。これからも改めてよろしく」
そんなわけで、下駄箱の前で久しぶりにれいと再会を果たせたのはあかねとあおいだけだった。新生活の準備ということで少し学校を休んでいた彼女だが、これまで生活を共にしていたあかねからすれば数日会えなかっただけでも随分と懐かしさを覚えてしまう。教室までの道を並んで歩きながらの雑談に花が咲くのは道理であった
れい「そう、また新しい人が加わったのね。また転校生になるのかしら?」
あかね「あーどうなんだろう。ひまわりちゃんは普通にクラスに来るんだろうけど、シャーリーさん達はまだわからないや。」
あおい「シャーリーさんは高校生の年齢だし、エイラさんは一個上だしルッキーニちゃんは小学生だし、このクラスに入れないもんね」
窓際女子「・・・あ、黒騎さんじゃん」
前の席の女子「やっほー!なんか久しぶりな感じじゃない?」
れい「皆、おはよう」
既に教室に居たクラスメイト達の視線が一斉に向いてれいは少し気恥しそうに手を振りながらさっさと自分の席に座ってしまった。数日学校を休んだだけで話題の中心になってしまうのは思春期の子供の好奇心の強さを考えれば当然だ。であれば
わかば「みんなおはよう。」
ひまわり「ちょっ静かにしてって・・・」
教室の後ろのドアを開け、わかばの影からこっそりと入ろうとしていたひまわりに一斉に視線が向くのは必然であった
情報系男子「あれはまさか・・・四宮ひまわりちゃん!?」
何も知らない男子「知っているのか情報系男子!?」
イイヤツ男子「ずっと学校来れてなかったコじゃん。元気になったんだ。よかったじゃん」
窓際女子「へぇ、三枝さんのツレだったんだ。」
転校生としてやってきたあかね達には遠慮なく質問攻めを行った彼女達も事情が判らない今回は少し距離を測りかねている。行っていいべきか、そっとしておくべきなのか。固まっていたクラスメイトを見てかどうかは知らないが、あかねは同級生達をすり抜けひまわりの前へすいと進み出て机にお尻を乗っけてまるで毎朝そうしているかのように気軽に雑談を始めた
あかね「やっほーひまわりちゃん。職員室でなんか言われたの?」
ひまわり「えっ。んーまぁまぁ・・・。急に来たから担任の先生びびってた」
わかば「喜んでもいたけれどね。ああそうそう、エーリン先生から放課後保健室に来るよう言付けを頼まれたわ。ご褒美にお菓子でもくれるのかしら。」
あおい「ああ、そういえばそんな話だったっけ」
ひまわり「ほんとあの先生面倒なことを・・・」
少し気まずそうにしていたひまわりだったが、顔見知りのメンバーが傍によってきてくれたことで明らかに肩の力が抜けた。年相応の表情を見せて話す彼女の様子を見て安心したようにクラスメイト達が寄ってくる。長く噂となっていた引きこもり少女への好奇心だけでなく、ただクラスの子供たちは新たな友人と仲良くなりたくて仕方がないのだ
朝のホームルームが始まるまでのほんの僅かな時間。担任教師がドアを開けたその頃には、ひまわりはここ数年避けていた対人会話を一気に体験させられ、半泣きになっていた。別にいじめられた訳ではないのだが、とにかく圧倒的質問攻めを浴び疲れをみせればどこに隠していたか甘いお菓子を食べさせられ、ひまわりは恥ずかしいのか嬉しいのかよく解らない表情を浮かべながら椅子の上で小さくなっている
窓際女子「みんな構いすぎじゃない?彼女顔死んでないかな」
わかば「照れてるのよ。ひまわり、友達が欲しすぎて家を出てきたみたいなものだから」
ひまわり「わかば・・・!余計なこと言わないで。しばらくほんとそっとしてて・・・!」
面倒見のいい女子「ひまわりちゃん大丈夫?お腹痛くない?ストレス感じてるなら言ってね?あなたにかまいすぎる子全員張り倒すからね?」
前の席の女子「なんか庇護欲が暴走してないか・・・?」
あかね「まぁまぁ。ひまわりちゃんそんなにやわじゃないから。」
宮藤「そうだよ。ちょっとMなくらいだもんね?ひまわりちゃん!」
ひまわり「あぁキレそう。明日から絶対ひきこもる」
あかね「ええ!駄目だよ!?」
担任「みなさん!そろそろ静かにしていただけるとありがたいです!四宮さんの紹介をしたいのですが、彼女のメンタルが限界なのでちょっとやめておきますね!てかもうみなさんの方で自己紹介終わってるんですかね!?まあこれから仲良くしましょう!2年B組全員揃いましたのでこれから改めてよろしくお願いします!!」
クラスの騒がしさを遮って担任の先生の声が教室へ響くが生徒達のひそひそ声でのおしゃべりが消える事はない。示現エンジンの危機だとか、異世界からきた魔女だとか、そんなものの関与しない人々で満たされた平凡な空間。ひまわりはこれまで距離を置いていたこんな日常ともう一度触れ合える今がどうしようもなく楽しめていることを認めざるを得なかった
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エーリン「どう?学校は。」
ひまわり「まぁまぁ」
放課後、保健室にはビビッドチームが集結していた。シャーリー達の姿は見えないが、2時間目が始まる頃に遅れて登校してきたウィッチ3人は一緒である
今日の様子をあかね達とひまわり本人に聞きたかったようで、温かいココアと色とりどりのお菓子をつまみながら緩やかな雰囲気の中でエーリンがいくつか質問をし、それに誰かが答えるといった形でちょっとしたお茶会が開かれていた
エーリン「うん。特に体調に悪影響があるわけでもないみたいだし、クラスでもうまく馴染めているようで何よりだわ。勉強に関しては全く心配していないし、これなら問題なく学園に通えそうね」
ひまわり「余裕」
リーネ「先生はひまわりちゃんと仲が良いんですね。」
ひまわり「べつに」
エーリン「仲良しよ。彼女は定期的な課題の提出で出席こそ免除されてるけど、健康管理とカウンセリングの名目で週に2回私とのビデオ通話を義務付けられていたから。ご両親を除けばここ1年で1番ひまわりちゃんと喋ってる人間は多分私ね」
ひまわり「ふん、それももうおしまいだから。これからはふつーに学校来るし」
にやにやと語っていたエーリンの表情がその言葉を聞いてすっと曇る
エーリン「そう・・・。私との会話はあなたにとって随分負担になっていたのね。ごめんなさい。私はあの時間を楽しんでくれていると思っていたのだけれど、自分勝手な思い上がりだったのかしら」
ひまわり「えっ」
エーリン「ええ、そうね。もう私がなにかしてあげられることなんてないか・・・。これからはただ1人の教師としてあなたの学園生活をそっと見守ることにするわ。それくらいは許してね?」
寂しそうに笑顔を浮かべたが、すぐ下を向いて顔を隠してしまう。泣いているのだろうか、手で目のあたりをぬぐうようにしながら口をつぐんでしまったエーリンを前にわたわたと手を動かしながら動揺したひまわりは慌てて口を開く
ひまわり「いやっ、センセーとお喋りするのが別に嫌だったとかじゃ・・・ないし。ただこれからはちゃんと学校来るからやらなくてよくなるって意味で言っただけだから!あの・・・こ、これからもたまには・・・・その、私と」
エーリン「まあこのように可愛い子なのよひまわりちゃんは・・・ふふっ。みんなも仲良くしてあげてね。」
ひまわり「私もう帰るからッ!!!!!!」
エーリン「はーいお気をつけて。もし体調が悪くなったりしたらすぐ保健室に来てね。あ、宮藤さん達もまた魔法とか別の世界の話とか聞かせて頂戴ね」
宮藤「はい!またお邪魔します!」
顔を真っ赤にさせて保健室から飛び出していったひまわりとそれを追いかけるように退室したあかね達を見送ったエーリンは、笑いすぎて溢れた涙をぬぐいながら机の上に置かれたカップを手に取って、かなりぬるくなったコーヒーを飲み干して席を立つ。ポッドに残ったお湯を注いでコーヒーのおかわりを用意しながら、エーリンは少し目を閉じて先ほどのお茶会の記憶を思い返す
エーリン「・・・うん、よかったわね。ひまわりちゃん」
噛みしめるようにぽつりと呟いた言葉は誰かに聞かせるためのものではない。もう一度目に浮かんできた涙は先ほどとは違った意味があるのだろう。湯気の立ち昇るカップを手にし椅子に深く腰掛けて、彼女は自身の中から込みあがってくる温かい感情に少しの間身を任せることにした
寒くなってきましたね・・・