ひまわり「・・・なんで落ち込んでんの」
あかね「なんでって・・・わかんない。」
一向に何も話さないあかねを見て、どうにもこのままでは夕飯を食べ損ねるのでは?とそう危惧したひまわりは気を遣うことをやめ、聞きたいことを聞くことにした。
ひまわり「あかねに何か落ち度があるの?あおいが拒否ったんだしあおいの問題でしょ」
あかね「あおいちゃんはこんな危ないことが好きな子じゃないから」
ひまわり「最初から嫌々やってるワケじゃない。あかねのためとなればあおいは自分の願いと同じように行動できる。あかねだってそれくらい解ってるでしょ」
あかね「そんな都合のいいこと考えらんないよ・・・」
ひまわり「自信もってよ。あかねは私達の為ならなんだってしてくれたでしょ?それに負けないくらいの気持ちは私達にもある。少なくとも私とわかばとはドッキングしてるんだしそれくらい解ってくれない?」
あかね「うん」
ドッキングは2人の人間の魂が完全に1つに混ざり合う。相手と自分の境界線がなくなり、あらゆる隠し事も思い出もまるで自分にもののように心のスペースに残り続けるのだ。わかばもひまわりも、そしてあかねもそれを臆さず受け入れた
あおいは初めてのことにほんの少し怖がっただけだ。なにも思い悩む程のことはないじゃないか、と続けようとしてひまわりははたと気付いた。ドッキングを拒否するという行為は確かにあおいの心の問題だとひまわりは思っていた
少し冷酷な考えかもしれないが、あかねが気にすることではないと励まそうとする彼女なりの気遣いがもたらした結論ではある。しかし、これは誰が悪いとかそういう話ではない
あかねが何を悲しんでいるのかを、その悲しみを癒すのはここで自分がなにかを論じることではないことにひまわりは気付いた
あかね「誰にだって知られたくないことくらいあると思う。どれだけ仲が良くたって、自分の中身を全部知られたくないって思うことはなにもおかしくないって・・・解ってるつもりなのに」
あかねの頬を大粒の涙が転がっていった。それを皮切りにどんどん溢れてくる感情をあかねは抑えようともしなかった
あかね「でも・・・あおいちゃんならって・・・あおいちゃんにあんな顔、されたくなかった・・・!」
芳佳とひまわりはしばらくの間何も言わなかった。いつも笑っているあかねが悲しみの声を上げるのを聴いて2人も得も言われぬ感情が高ぶるのを感じていた。あかねにもたれかかるように身体を密着させて、背中と頭をぽんぽんと優しくさすって彼女が落ち着けるように静かに寄り添う
宮藤「・・・あおいちゃんの気持ち、あかねちゃんは全部ちゃんと聞いたわけじゃないんでしょ?」
あかね「うん。」
宮藤「ちゃんと話し合わなきゃダメだよ。こういうのって、悪い方に考えすぎちゃうものだから。」
あかね「うん・・・そうだよね。うん、そうしなきゃだよね!」
ぐしぐしと涙をぬぐって、あかねはへにゃっと笑った
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あおい「誰だってあかねちゃんを好きになるのは当然なのに。私がそれを独占したいなんて思うのはおかしいし、そんな醜い私を見て欲しくない・・・!知られたくないんだもん!私、あかねちゃんが好きで・・・憧れてて・・・!あかねちゃんの横に立てるだけで十分だってホントにそう思ってたのに!」
わかば「わかってるわよ。だいじょうぶ。」
わんわんと泣きじゃくるあおいを田んぼから助け起こして、髪に絡まった泥と草を手で払ってやりながらわかばは優しい口調でなだめるように微笑んだ。嫉妬の感情は誰にだってある。わかばだって、憧れと好意の感情だけであかねと付き合えている訳ではない。喧嘩に負けたことは結構根に持っているし、彼女の戦闘センスや明るい人柄を羨む心もある。あと食事の度にマヨネーズをトッピングしようとするのもやめて欲しかった
わかば「人付き合いって、まあ、そんなものなのよ。ペリーヌを見なさいなあおい。あんなツンな態度を隠そうともしないけれど、芳佳やリーネと仲良くやってる。」
ペリーヌ「悪い例として紹介するのはやめてくださらない?」
わかば「照れてる照れてる。・・・おっと、電撃はやめてちょうだい。要するにあおい、あなたは自分の中の醜い感情を許せないのでしょう。でも、私だってあかねは受け入れてくれたわ。あなたも気にすることじゃない」
あおい「わかばちゃん達みたいにきっと好きにはなってもらえないんだ!」
わかば「そんなことを怖がってる暇があるなら、さっさとあかねとぎゅっとしてちゅっとして解決しなさい!私なんていきなり喧嘩ふっかけた上、友達面してるのにそれでも仲良くしてくれるんだから!!」
あおい「自覚あったんですね・・・」
わかば「そこは『そんなことないですよ』ってフォローしてくれる流れではないの?なんでそんな目で見てくるの?やっぱりあれよね。私が先にドッキングやったこと、かなり根にもってたのよね?」
ペリーヌ「あおいさん。お友達だからって、なにもかもをにこにこ笑顔で肯定するのが正しいお付き合いという訳ではありません。他人の全てを受け入れるというのは決して楽しいばかりのことではありません。だからこそ深い絆がなければ成立しないことなのですわ」
あおい「ペリーヌさん・・・」
ペリーヌ「宮藤さんだって、ああ見えてわたくしや先輩方相手でも噛みつく時は噛みついてきますもの」
あおい「仲良しさんなんですね。いっつも喧嘩してるふうに見えるのに」
ペリーヌ「・・・まぁ。気にくわないところはありますけれど、ご友人ではありますわね。少なくともこうして異世界まで助けに来るぐらいには」
指先でくるくるっと髪の毛をいじりながら、彼女らしからぬ柔らかい表情ではにかみながらそう言った。ここに他のウィッチがいないからこそ零した言葉ではあるだろうが、まごうことなき彼女の本心だった
ペリーヌにとって宮藤芳佳がどういう存在なのか、あおいにはいまいちよくわからなかった。いつも喧嘩腰だし、小馬鹿にしたような態度を常にとって芳佳を怒らせている。それでも2人はいつも楽しそうに見えた。そういう形の友情が成立していることが今のペリーヌを見てようやく理解できた
ペリーヌ「あかねさんは本当にいい子ですわ。宮藤さんもですけど、誰かのためなら小さいことでも本気になれる人です。あおいさん、あなたが傷ついているのと同じくらい、きっとあの子も傷ついていますわ」
あおい「はい・・・!知ってるのに・・・わたし・・・!あかねちゃんと話さなきゃ!」
涙を流しながらもあおいは立ち上がった。もう病弱な彼女はいない。例え心が折れて地に倒れても、再び自分の足だけで立つことができる
わかばとあおいは泥だらけの田んぼからあぜ道に上がろうとして気付いてしまった。道の上でなんか満足気に微笑んでいる金髪美少女は全く泥にまみれていない
わかば「ねえあおい。一つ提案があるのだけれど」
あおい「うん、わかばちゃん。私もちょっと思った。」
ペリーヌ「なんですのお二人共、そんな目で・・・私を見て・・・ちょっと!!」
もう逃げることはできない。ペリーヌの両腕はいたずら心を目に宿した二人にがっちりと掴まれていた
わかば「さっきは私達の暴走を止めてくれてありがありがとう。そこでペリーヌ。私達と友情を深めるために__」
あおい「一緒に泥んこになりましょう!電撃痛かったです!!」
ペリーヌ「おやめなさい!!!ほんとにだめですわ!!!!!あああああああ!!!」
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家の前で、あかねとあおいはばったりと出会った。どちらも泣きはらして目元は晴れ上がっていたし、あおいに至っては泥だらけだった。しかし一度目が合った二人はそれを逸らすこともなにかを聞くこともなく互いに歩み寄り真っすぐ向かい合った
「ごめんなさい!!」」
思いっきり同じタイミングで頭を下げ、思いっきり頭をぶつけた。
あおい「あの、私その・・・あかねちゃんに知られたくなかったの。あかねちゃんのことはほんとに大好きなんだけど・・・その、わかばちゃんとかひまわりちゃんより私のことを友達だと思って欲しいみたいなのがあって・・・。私嫉妬深いみたいだし!」
あかね「うん。わたしもごめん。あおいちゃんはずっと私のために戦ってくれてたのに。不安にさせちゃった。」
あおい「隠してることがあるの。トマトのこととか、色々・・・」
あかね「トマト?なに?」
おあい「あかねちゃん、私が寝たきりだった時にお家で採れたお野菜を差し入れしてくれることあったでしょ?私、トマトが苦手だったからほんとは持ってきてほしくなかった。でもあかねちゃんが持ってきてくれたからって無理やり食べてたの。」
あかね「えー!言ってくれたらよかったじゃん。」
あおい「うん。そうしたらよかった。でも言えなくて・・・。あかねちゃんの嬉しそうな顔を裏切るのは嫌だったし、あかねちゃんが来てくれなくなったらまたひとりぼっちになっちゃうから。あ!でも今は食べられるんだよ!」
あかね「ええっと、なら、よかったってことなのかな?」
あおい「うん。そういうことも言うべきだったのかなって。隠し事をしたせいであかねちゃんを傷つけちゃったもん」
あかね「あー。実はさ、私も隠してることあって」
あおい「うん!なんでも言って!」
あかね「その、あおいちゃんの髪って、キレイでしょ?わたしも、そんな風になりたいなって」
彼女らしからぬもじもじとした様子で、しかし目を逸らさず乙女な悩みを暴露してくるあかねがあまりにも可愛らしくてあおいは自分の心を抑えきれず力いっぱい抱き着いた
あかね「へんじゃない?」
あおい「へんじゃないけど・・・じゃあまず、マヨネーズの食べ過ぎをやめないとだね。」
あかね「えーそれ以外で!」
あおいの温かさが伝わってきて心底安心したあかねの顔から、やっと固さが抜けた。今2人の頬を濡らしている涙は悲しみによるものではない。それは2人の底抜けに明るい笑顔を見れば容易に解ることだ
両者の後方からそれぞれ見守っていたわかば達は、どうやらうまく仲直りが果たされたのを見てほっと胸を撫でおろすと、抱き合っている2人を横目に集まった
わかば「上手くやったみたいね。ひまわりはこういうのに鈍いと思っていたけど」
ひまわり「そっちの2人こそ、人の心が解らなそうなキャラしてくるせに」
ペリーヌ「なんですって?」
わかば「あなたも田んぼに投げ込んじゃうわよ!」
宮藤「そっちで何があったんですか・・・?」
ひまわり「じょうだんじょうだん。うわっ!?」
感極まったあかねとあおいがこちらに抱き着いてくる。しばらく輪になって大声で騒いでいた6人だったが、あかねとあおいの問題を解決できた喜びで頭がいっぱいであり当然今が何時なのかなどすっかり忘れていた。
いつまでも帰ってこない6人を心配していたももがバカ騒ぎを聞きつけて家から飛び出してきたのを見てあかねの表情が固まる。それを見て何事かと顔をそちらへ向けた他の面子も思わず口をつぐむ
もも「なにやってるの?」
あかね「やー、あの。みんなで盛り上がってたっていうか」
もも「なにを、やってたの!?」
宮藤「も、ももちゃん落ち着いて!これには深く切ない涙なしには語れない事情があってね!そうですよねペリーヌさん!」
ペリーヌ「え!?そ、そうですわ。ですから怒らないで聞いて・・・」
もも「なんでみなさん泥んこなんですか!?もうっ!!!お姉ちゃんもあおいちゃんも変な感じだったから心配してたのに!ああもうっ!!ペリーヌさんやわかばさんがいてなんでこうなるんですか!?ご飯の前にさっさとお風呂はいってきてくださーい!!」
「「「ごめんなさーい!!!」」」
すっかりお母さん的な立ち位置が板についたももに追い回され、6人は泥を落とすために揃って縁側へと走る
あおい「ねえねえ。あかねちゃん」
最後尾を走るあおいは、前のみんなが誰もこちらを向いていないことを確認すると声を潜めて隣を走るあかねの名を呼んだ
あかね「ん?どし___」
あおい「んっ___」
振り向いたあかねの視界を青く長い髪が覆い隠してしまう。戸惑うあかねの右の頬に柔らかく湿ったものが当たる感触がした。熱を帯びた息が耳を撫で、ゾクゾクっと痺れるような快感をあかねに残していく。少し離されたあおいの顔は耳まで真っ赤に染まっている。一瞬何がなんだかわからず呆けてしまったが、事態が呑み込めたあかねは自分の顔もどんどん熱くなっていくのを感じた
あかね「あお、あおいちゃ!?」
あおい「ふふっ。ちゃんと言っとかないとだめだってわかばちゃんに言われたから!」
「___大好きっ!」
ずっと憧れていた誰かさんのような見る者の心を明るく照らしてくれる笑顔を浮かべて、二葉あおいは初めて会った時から抱き続けていた思いを告げた
なんで唇にちゅーじゃないのかって?ぼくにもわかりません。あおいちゃんに聞いてください