第38話 あかね「波打ち際の落としもの」
あかね「ふわぁ・・・あ~あ」
宮藤「眠そうなあかねちゃんってなんか珍しいね」
あかね「そりゃ今日は眠いよ。早起きっていうより寝不足だもん」
太陽が水平線から顔を出して間もない早朝、あかねと芳佳は海辺の散歩道をのんびりと歩いていた。
一色あかねは朝に強い。昼も強いし、夜も強い。基本的にいつも元気な女の子だ。ビビッドレッドとして無茶をやらかした時は別であるが
あかねが毎日やっていた日課の新聞配達も今では週に3回に減っていた。本当は毎日やりたいのだが、環境が変わったのだから無理はしないようにという文の言い分に押し負けてしまったからだ。そんな早起き必須のアルバイトが有ろうと無かろうと、根っからの早起き気質である一色あかねにとって日の出と同時に目を覚ますのは本来苦ではない事だ。
宮藤芳佳も早起きは得意だ。朝食の支度は彼女が部隊に居た頃の日課だったし、新入りである彼女は朝早くの訓練に駆り出されることも多々あったし慣れっこではあった
しかしその二人が眠そうな顔付でふらふらしているのは昨夜の騒動が原因であった
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健次郎「起きろあかね!おきんか!」
あかね「ふえへぇ!なになに!?サンタさん!?」
健次郎「まだ夏にもなっとらんわ!いいから起きんか!みなを起こすのを手伝ってくれ!」
ぬいぐるみのやわらかい手でほっぺを叩かれた小さい衝撃で飛び起きた。辺りはまだ真っ暗で、壁にかかった時計はよく見えないがどう考えても深夜だ
あかね「今日も学校なのにぃ・・・。どしたってのおじいちゃん。」
タオルケットを体に巻き付けて寝ぼけ眼をこすりながら布団から這い出した。傍で寝ていたわかばの足を軽く蹴っ飛ばし、芳佳の脇腹を突っついた
わかば「敵ね!!!?斬るわよ!!!!」
宮藤「治療ですか!?」
あかね「ほんと寝起きがいいよね2人とも。助かるよ」
宮藤「いつだって人助けに全力だよ。夢の中だろうとね」
わかば「あかねのお呼びとあらば死んでたって飛び起きるわよ。それで何?」
あかね「わかんない。」
わかば「そりゃないわよ。とりあえず皆起こせばいいのね?」
あかね「うん。なんかあったみたい」
手分けして皆を起こす。健次郎は神妙な面持ちで居間に展開されたモニターを指差し話し出した
健次郎「つい先程ブルーアイランド防衛軍から連絡があった。示現エンジン周辺に侵入者ありとの報告じゃ」
シャーリー「私達が起こされるってことは、ヤバイ案件ですか?」
健次郎「今後の展開次第では出撃してもらう必要もあるじゃろうな。現時点では敵の規模も目的も把握できとらんので待機命令のみで収まってはいるがの。」
わかば「とりあえず討って出るのは?」
ペリーヌ「わたくし達は対アローンの秘密兵器です。もしこれが他国とのいざこざなのであれば顔を出すのは不味いですわ。」
ビビッドチームの存在は、ブルーアイランド管理局と政府が全力で隠蔽している。この世界では示現エネルギーの軍事転用は自粛されているのだ。侵略者であるアローン相手ならまだしも、もしこれが他国の勢力の攻撃であった場合あかね達がその力を振るうのは非常に不味い
ルッキーニ「じゃ、あたし達は寝ててもよかったんじゃないのー?」
健次郎「そうとも言えないルッキーニくん。示現エンジンに侵入するのは深夜の牛丼屋に強盗に入るのと訳が違うのじゃ」
健次郎は不謹慎なジョークを言ってしまうくらいには焦っていた。ここ数年、示現エンジンの周辺に侵入を許したことはない。それは偶然の産物ではなく、防衛軍と管理局、そしてこの国の政府各局の努力あってこそ守られてきた平和だ
世界各地には示現エンジンを狙う勢力は僅かながらも存在している。世界情勢を左右するエンジンの制御権を狙って武装組織がブルーアイランドを狙って攻撃を仕掛けてきた事案は過去に何度も起きたが、防衛軍はそれらを全て撃退してきた。
その防衛ラインを破ることが出来る存在がいかほどの脅威であるかなど言うまでもなく、実際パニックになったであろう管理局長と防衛軍長官から怒涛の勢いでメッセージが送られてきたのだが健次郎はそのあまりの分量に途中で返信を諦めた
健次郎「今はアローンの件もある。常に厳戒態勢の警備が敷かれており、ブルーアイランドに外から近づくことは容易ではない」
ひまわり「もとから島にいた人達の中にテロった人がいるってことですか?博士。」
健次郎「もしくは、アローンのように別次元から突然侵入してきたか、じゃ。侵入者と言っても人間かどうかは限らんからの」
その場合は出撃することになるだろうということでウィッチ達は格納庫で、ビビット戦士達とストライカーのない芳佳は縁側に座っていつでも飛び出せるようそれぞれ事態が収束するまで待機を行った
そして明け方頃、ずっと神経を張り詰めていた彼女達は防衛軍から状況終了の連絡が来たことでやっと待機を辞めて布団に戻ることができたのだ
もも「おはよー。なんか夜中騒いでた?よく眠れなかったよー。」
朝の準備をしに起きて来たももと鉢合わせてやっとみんな思い出した。今日は学校がある日だった。再び布団に戻ると絶対に起きれないだろうし、そのまま起きておこうという流れになった。ちなみに学校に行くわけでもないので寝ようとしていたシャーリー、エイラ、ルッキーニの3人も学生達に道連れにされ二度寝は叶わなかった
そんなこんなで昨日の戦いの疲れも癒えぬまま朝ごはんができるまでの時間潰しに散歩に出たあかねと芳佳は寝落ちしないようにくだらない雑談をしながら海辺の道を歩いていた
あかね「なんか懐かしいなぁ。芳佳ちゃんとれいちゃんを見つけたのもこんな感じだったよ」
宮藤「そうなんだ?」
あかね「そだよ。あの時もこんな風にすっごく疲れてて、海を見てすっきりしよーって思いながら散歩してたんだ」
その時の光景を懐かしむようにそう言って、朝日を受けてキラキラと輝く海を見やる。丁度東の空から1羽の海鳥が甲高い鳴き声を上げながらこちらへ飛んできており、それが砂浜へゆっくりと降りていく様子を目で追いながらそういえばあの時もやけに鳥が多かったな、などとデジャヴな感覚を味わっていた
なんだか嫌な胸騒ぎがして、遊歩道から砂浜へ降りるための階段の方へ歩き出す。身を乗り出して目を凝らすと、波打ち際に海鳥たちが群れを成して何かを囲んでいた。
宮藤「私達もあんな感じだった・・・?」
あかね「う、うん。でもまさかね。ゴミか何かに群がってるだけだよきっと」
恐る恐るといった感じで2人はその群れに寄っていく。警戒心の強い海鳥達はこちらへ接近してくる二足歩行の存在を疎んじたのか喧しい鳴き声をわめき散らしながら空へ散っていく。後に残されたのは警戒心の鈍い何羽かの海鳥と、それに足蹴にされている1人の少女。服装こそダイバーのような黒いぴっちりスーツだったが、長い黒髪と首に巻かれたマフラーは馴染のものだ
あかね「れいちゃんじゃん!」
宮藤「ちょっ、大変!?」
疲れもなんのその、2人は脱兎の如く地を蹴り砂浜を駆け抜けて倒れ伏した黒騎れいの下へ走り寄った
あかね「れいちゃんれいちゃん!まだ海開きじゃないのに!」
うつ伏せの彼女をひっくり返して青白いほっぺたをぺちぺちと何度もたたくと、小さくうめき声をあげて反応を示す
宮藤「大きいケガはしてないみたい。息は・・・ある。けどかなり弱ってるね。」
あかね「家まで運ぶ!?」
宮藤「ううん、ここで治しちゃうよ!あかねちゃん少し離れて!」
芳佳の身体から魔力から溢れ出す。癒しの力を備えた青き光は使い手の意志に従って傷ついた少女の身体を優しく覆った。体のあちこちにあった小さな傷は瞬く間に塞がり、頬に赤みが戻ってきた。心配そうなあかねは芳佳の邪魔をしないようじっと静かに待つ。芳佳の額に浮かんだ汗が彼女のくせっ毛を伝いぽたりとれいの額に落ちると、それが目覚めの合図となったようにれいの眼がゆっくりと開いた
ほっと一息ついて汗を拭う芳佳と涙目でこちらの顔を間近で覗き込んでくるあかねを交互に見つめるれいは、いつものおっとりとした調子で呑気に話しかけてきた
れい「どうしたの2人とも。こんなところで」
「「こっちのセリフだよ!?」」
れい「うわ、びっくりするわね。」
「「それもこっちのセリフだよ!?」」
宮藤「ああもうとにかく目が覚めてよかったよ。れいちゃん何してたの?」
れい「何って・・・何でしょうね?私もよく解らないのだけれど。ここって大島?」
あかね「え、また記憶喪失なの!?れいちゃんもう海に入らない方がいいんじゃない?」
れい「悲しいこと言うわね。でもほら、二度あることは三度あるとも言うし仕方ないと思ってくれないかしら。」
あかね「嘘でしょもう一回記憶喪失する気だよこの子。」
宮藤「まあ少し休めば記憶も戻るかもしれないし。それはそうと、れいちゃんは前の記憶は戻ってきた?今は知り合いの人と一緒に住んでるんでしょ?何か解った?」
れい「___ええ。そうね。少し。」
にっこり微笑んでそう答えたれいだが、芳佳が問いかけた時一瞬氷のような冷たい表情を浮かべたのを2人は見逃さなかった。しかしそれについて質問するか逡巡している間にれいは立ち上がって身体に付着した砂を振り払って歩き出していた
れい「助けてくれてありがとう」
あかね「気にしないでいいよ!助けたのは芳佳ちゃんだけど!」
宮藤「あかねちゃんが気付いてくれなかったら見つけられなかったんだから私だけじゃないよ。れいちゃん、いつでも頼ってね。お友達なんだから」
れい「ええ。二度あることは何とやら、もう一回助けてもらうことになるかも」
そう言って立ち去ろうとしていたれいはしかして歩みを止め、こちらを振り向いた
れい「ねえあかね。芳佳。友達の頼みなら、どんなことでも助けてくれる?」
口元は柔らかく微笑んでおり、話口調こそ穏やかなものであったが彼女の眼からは鋭く突きさすような強い意志を感じた。なんの気無しの質問ではなく、本気の問いかけであった。それを察してかせずか、あかねと芳佳は間髪いれず強い口調で断言した
どんなことでも、助けに行く。
それを聞いてれいはふっと笑った。呆れたような、小馬鹿にしたような笑いではない。あかねと芳佳ならきっとそう言ってくれるだろうという安心と信頼が垣間見えるような朗らかな笑顔だった。先ほどの冷たさなど影も形もない、純粋な喜びの感情が見せる笑顔だ
彼女が何かに悩んでいるのは解っていた。話を聞きたかったし、追いかけたかった。だが立ち上がって強く歩き出した彼女の背中はそれを拒んでいたし、解ってしまう以上無理強いはできない。
れい「___ああ、あかね。足元に何か落ちてない?私、落としものをしたみたいで」
あかね「ん?えーっと・・・あ!鍵落ちてるよ!れいちゃんのお家のかな?」
金属製特有のきらめきを持つそれは砂浜に目を凝らせば容易に見つけることが出来た。大きさは手のひらで握ると少しはみ出すくらいのやや大きな物だ
れい「ああ、それそれ。ちょうだい?」
あかね「オッケー!投げるね!」
手を伸ばしてひっつかんだ瞬間、あかねの身体に弱い電流のようなものが走り思わず身震いした。すぐに治まったのでただの静電気か何かだろうと気にせずに鍵を握り直してれい目掛けて軽く放り投げた
目標を違う事無く美しい弧を描いて飛んだ鍵はれいが差し出した右手の中に納まった。れいは自らの手中に収まったそれをしばらく無表情で見つめた後、あかねとれいに手を振って今度こそ去っていった
あかね「クリスマス会したくない?」
わかば「今シリアスタイミングだから大人しくして。」
れい「ケーキもってきたわ。」
わかば「シリアス維持して!!!!!!」
クリスマスとかお正月の番外編ネタ書きたいんですけどね。完結優先します。あとすいません2019年中の完結無理そうです(しってた