防衛オペレーター『提出できる資料はこちらが全てになります。〈塔〉の周囲では電磁波が強すぎる為機械類の一切が機能しません。超望遠で映した画像も像が歪んでしまうため・・・』
健次郎『スケッチが数枚か。しかしこれを描いたものの苦労を考えると文句は言えんな』
スピーカー越しに伝わってくる健次郎の声にいつもの快活さは無い。ぬいぐるみの身体である彼は睡眠をとらずとも動き続けることは可能であるのだが、精神は通常の人間のまま。疲労を感じないという訳ではないのだ
柴条「先生、一度お休みになられては?まだリミットまで15時間はあります。情報収集は管理局と防衛軍に任せていただければ・・・」
昨夜の戦闘終了から数時間が経過し、日の出前の時刻に差し掛かっているにも関わらず健次郎からの通信は一度も切られていない。責任ある立場である柴条といえど、流石に昨日の朝から働き詰めてあったため軽く仮眠をとってきたところであった
健次郎『かまわん。生きているとはいえんこの身、せめて使命の為に尽くさねば家族に立てる顔もない。とはいえ、現状我々に打てる手などないか・・・』
長官『失礼、お二方。遅くなりましたが、ただいま戻りました』
健次郎『おお、進捗の程は?』
長官『<塔>周辺の避難は完了しました。手が空いたものに足で現地調査をさせた結果少しですが報告できることはあります。
アレは都内最大の電波塔であるアキバツリーと一体化しているようです。現時点で瘴気の類は発生させていないようですが、代わりに強力な電磁波を広範囲に発生させているようです。半径およそ5キロに影響し、全ての電子機器は機能しない。事案発生直後にユーティライネン少尉、ルッキーニ少尉の両名が持ち帰った以上の情報を得るのは現在の条件下では厳しいかと』
健次郎『どうにもならんか』
長官『なりません。東京湾からであれば艦隊による長距離攻撃が可能ですが、撃破できる可能性は1%に満たないというのが作戦部の見解です。ビビッドチームが行動できない現状、アレを刺激せず起こさないよう努めるのが我々にできる精一杯のことでしょう』
ぶっきらぼうにそう言い放つ防衛軍長官の言葉の裏に自らの不甲斐なさから来る失意と落胆が潜んでいることは長い付き合いである柴条と健次郎には分かっていた。そしてそれは両名も同じである
話し合いが長びく程に増す手詰まり感がじわじわと管理局指令室の空気を圧迫していく。今日の天気は生憎の曇り空で、春の終わりとは思えない程室内は冷え切っていた。柴条は横に控えていた秘書官に熱いコーヒーを淹れるよう頼むと、机の上に散らばった報告書にもう一度目を通し始めた
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時は少し戻り、昨夜。アローンを撃退し、あかねが管理局に運ばれた後
ウィッチ2人は管理局に設置されたストライカー専用の格納庫に着陸し、抱えていたわかばとひまわりを降ろす。2人は少しふらついていたが、変身が解除された時に比べて随分顔色は良くなっていた
女性職員1「みなさんこちらです!」
わかば「あかねの容体は!?」
女性職員1「今は集中治療室に!外傷はないとのことですが、意識が戻らない状態です!」
誘導してくれる女性職員を追い越さんばかりの勢いで走り、管理局の一角へたどり着いた
あおい「」
わかば「あおいー!!!!!」
〈治療中〉と赤いランプがついた固く閉ざされた扉の前、壁際に並べられた長椅子の上で白目をむいているあおいを抱き上げた
あおい「ボソボソ・・・」
わかば「なんかぼそぼそ言ってる!聞き取れないけど!?」
ペリーヌ「医務室へ運びますわよ。」
あおい「だめ・・・です・・・。あかねちゃ・・・」
ペリーヌ「あかねさんが出て来た時、わたくし達がここでぶっ倒れていてはきっと喜ばれないと思いますけれど?わたくし達も戦闘直後です。少し休みましょう」
リーネ「はい。職員さん、どこか休ませていただける場所をお借りできませんか?」
女性職員1「もちろんです。局長からみなさんが待機できるよう部屋を用意するよう指示を受けております。ご案内いたします!」
わかば「・・・そうね、少し休みながら待ちましょう」
管理局の一角、外部からの客人用に作られた和式の一室。あおいを医務室へ運び終わったわかば達は畳の上に腰を降ろした。ひまわりが気晴らしと情報収集を兼ねてテレビの電源を入れる。東京全土に避難勧告が出ている様がありありと映し出されていた。原因はあくまで広域でのガス漏れということになっていたが、きっとそうではないだろうということは誰の目にも明らかだった
ひまわり「ネット見たけど、なんか東京で電波障害が出てるんだって」
わかば「そう」
リーネ「お茶いれますね」
ペリーヌ「ありがとうございますわ」
どうも上の空で、会話にも身が入らない。みな一言二言と言葉を交わした後、力なく畳に寝そべったり壁に身体をもたれかけたりして黙り込む。こういう時、真っ先に行動しようとするあかねも芳佳もここにはいなかった
ペリーヌ「そういえば、宮藤さんは?」
リーネ「さっき職員の方に聞いたんですが、まだ連絡がついてないみたいです。ストライカーで出動できるなら捜しに行きたいんですけど・・・」
ペリーヌ「警戒が解かれて街に人が戻り始めていますし、今空を飛ぶのは控えた方がいいですわね。・・・ま、あの子なら大丈夫でしょう。多少の攻撃ではビクともしないでしょうし」
リーネ「なにか面倒事に巻き込まれてたりしないといいんですけど」
ペリーヌ「それに関してはわたくしも心配ですわ。ですがわたくし達も戦闘直後です。防衛軍の方々に任せて、少し身体を休めるべきですわ。もし戦闘になれば___」
今、ビビッドチームの3人は戦えないかもしれない。そう言おうとしたペリーヌは言葉を切って、なんでもないという風にかぶりを振った。憔悴しているわかばとひまわりにこれ以上負担をかけるような話題になりそうだったことを遠慮したからだが、続く言葉を読んだひまわりが自らその話題に踏み込んできた
ひまわり「ううん。多分その通りだと思うよ」
リーネ「なにがですか?」
ひまわり「たぶん今のわたしとわかば、あおいもだけど。ちゃんと戦えないと思う」
ペリーヌ「では遠慮なく質問させていただきますが。先ほど変身が解除された様子を見るに、あかねさんの意識がないとあなた方に供給される示現エネルギーが減ってしまう、ということでしょうか?」
ひまわり「そうかもしんない。あかねと私達じゃ示現エンジンへのアクセスの仕方が少し違うし。あかねの力を経由している以上、あかねの意識が弱まると私達の力が弱まること自体は理にかなってる」
わかば「あおいが妙に弱ってたのも、彼女の身体が示現力を得る前に戻ろうとしているからということなのかしら?」
ひまわり「博士と話してみないとわかんない。でもそれで合ってると思う」
淡々と話しているようで、ひまわりの顔は暗い。自分の身体から力が抜けていく感覚が、あかねが死に近づいているものだと考えている以上気が気でないのは当然の事だった
寄り添ったわかばもかける言葉は見つからない。彼女も他人を励ましている余裕はなかった。黙ってひまわりの手を握ったのも、自分以外の人間の温かさに触れて安心したかったというのが大きな理由だった。それでもひまわりはその手を握り返して表情が少し柔らかくなったのも事実であった
部屋に置かれた安っぽい壁かけ時計の音がチクタクと時を刻むのを聞きながら、いつしかみな眠気に誘われて軽くまどろんでいた。戦闘時から休むことなくごたごたが続き、肉体と精神の疲れがピークを迎えつつあった
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<バァン!!!>
わかば「はっ!?何事!!」
そんな一時の平穏も、蹴飛ばされるほどの勢いで扉が開け放たれた音によって打ち砕かれた。先ほどここへ案内してくれた女性職員が汗だくで息もたえだえに戸惑うわかば達に話しかける
女性職員1「た、大変ですみなさん!!すぐに来てください!」
ペリーヌ「あかねさんの眼が覚めたんですの?」
女性職員1「いえ、違います!」
女性職員1「管理局正面に黒騎れいが!みなさんとの面会を求めています!」
誰かが息を飲む音がした。一瞬の沈黙の後、全員が弾かれたように駆け出した
2020年も3分の1が経過しそうですね。更新がんばっていきます