―――ブルーアイランド管理局・正面玄関―――
わかば「来ました!」
シャーリー「よぉ。お待ちかねだぜ」
シャーリーがくいっと親指で指すのはガラス扉の向こう側。正面広場に設置された噴水に腰掛け、黒騎れいは友達との待ち合わせでもするかのように何気なくそこに居た
柴条「警備は下げてあります。彼女がアローン側の戦力をバックに備えているとしたら、戦車でバリケードを作ったとしても大した意味をなさないでしょう。話し合いのチャンスを壊すことになる危険もあります」
ひまわり「なんの用があるっていうの・・・?カチコミ?」
柴条「その用件も聞きだして欲しいのです。話し合いの結果次第では現状を覆す一手になりえます。苦労を掛けますが・・・」
リーネ「私達はストライカーを装備して待機している、というのは・・・?」
柴条「彼女はビビッドチーム全員との対面を希望しています」
ペリーヌ「こちらに無遠慮にリスクを強いてきますわね・・・」
意を決し、わかば達はドアを開けて外へ進み出た。空はアローン出現時を思わせるようなどす黒い雲が渦巻いており、目の前にいる少女がどういう存在なのかを嫌でも知らしめてくれる
こちらに気付いた黒騎れいがゆるりと立ち上がると、彼女が首に巻いたマフラーがゆらりと宙を舞う。その彼女の肩には一羽の黒いカラスが静かに止まっていた
れい「久しぶり。あかねがいないのは当然として、芳佳とあおいは?」
わかば「当然という言葉は無性に腹がたつわね。芳佳は混乱のせいで行方不明。あおいは体調不良。今いるのが全員よ」
れい「まあ、いないのならば仕方ないわ。これまで影で立ち回ってきた私がこうして姿を見せたのは、あなた達に選択肢があることを伝えるため」
ペリーヌ「その前にはっきりさせておくべきですわね。黒騎さんあなた、敵なんですの?」
れい「あなた達が間違った選択肢を選べば、そうなるわ」
シャーリー「しばらく会わないうちに随分悪ぶった話し方になったなあの子」ヒソヒソ
ルッキーニ「可愛げがなくなったよねー」ヒソヒソ
ひまわり「んで、なに?」
れい「選択肢は2つ。まず1つは、あの塔のアローンになにかしらちょっかいをかけること。こちらを選んだ場合、あなた達の世界は〈終了〉する」
れいはVサインの要領で立てた指の一つを折り曲げながら淡々と述べる。しかし終了という単語を口に出した時に彼女が発した凄味はただならぬ圧力を孕んでいた
シャーリー「終了ってのは?」
れい「今、あなた達の世界は示現力に相応しいかどうかを〈管理者〉である者達にテストされている状態だというのは解っているわよね。終了というのは、その試練に失敗したと判定された時に下されるもの。示現力を扱うにふさわしくないものから力を奪い、その世界を終わらせるのよ」
終わらせる、というのがどういうものか詳しく聞きたい者は1人としていなかった
いや実際ひまわりは知識欲を満たすため詳しく質問しようとしたが察したエイラに後ろから口を抑えられた結果誰一人質問することはせず、黒騎れいはもう一本の指を折り曲げながら言葉を続ける
れい「もう一つは、何もしないこと」
リーネ「・・・」
ルッキーニ「・・・?」
ペリーヌ「・・・何もしない、とはどういうことですか?」
れい「そのまま。抵抗せず、思考せず、行動をしない。ようはあのアローンを放っておいてくれればいい。これはあなた達が立ち向かうべき最後の試練。・・・いつまでもとは言わないわ。明日の20時。この時間まで手を出さずにいてくれれば、全て元に戻ってあなた達はこれまで通りの生活が送れるようになる」
指を折り切ったれいは拳をパっと開いて、どう?とでもいいたげな顔で返事を促すように首を軽くかしげた
わかば「・・・こういった話はリーダーであるあかねが目を覚ましてからにして欲しいものだけれど」
れい「彼女はこの試練が終わるまで目を覚ますことはない。あなた達だけで決めることも、最後の試練の内容の一部よ。最後くらいあの子に頼らずこの世界を守ってみせなさいということね」
ひまわり「デカイ口叩くけど、急に出て来てそれっぽいことをつらつらと並べられても信憑性がないんだけど?いくら情報が欲しい状況だとしてもなんでも鵜呑みにする訳じゃないんだけど」
れいは肩をすくめるような動きをした。しかしそれはひまわりの反論に困った訳ではなく、その肩にのったものに合図を送る意図が込められたものだった
「___彼女は、私の代わりに話を進めているにすぎません。そういう意味では、彼女の言葉は〈我々〉の言葉でもあります」
カラスのくちばしが細かく動き、機械的な女性の声がそこから発されたことに死ぬほど驚いたビビッドチームはかろうじてひっくり返ることはしなかった
ひまわり「つまり、あなたは・・・」
「あなた方に試練を与えている側に属する者です。呼び方は好きにすればよろしいでしょう」
シャーリー「なんか私のとこの部隊にいる筋トレ大好き脳筋野郎に声が似てる気がするから、カラスとゴリラをまぜて・・・怪鳥ゴリラス!そう呼ぼうぜ!」
「敬意を感じられる呼び方にしないと今すぐこの世界を終了させることもやむをえませんが」
シャーリー「大変失礼いたしました」
シャーリーが茶化して時間を稼ごうとするが、余りの事態にわかば達の精神は追い込まれつつあった。黒騎れいが面と向かって敵対していること、あかね抜きでこの世界の行く末に関わる2択を迫られていること、そして突如現れた未知の存在
疲労した今の状態で対処するにはあまりにも難度の高い問題である
わかば(どうしたらいい・・・!いや、どうしようもないという状況ができあがりつつある・・・!)
戦え、と言われれば三枝わかばはこの状況でも恐れることなく行動できただろう。パレットスーツが使えなかったとしても彼女はあらゆる手を尽くすために心を燃やすことが出来た。だが今彼女は自らの意志で剣を手放さなければならない状況になったことで、今までにないほど混乱していた
ひまわり(そもそも、アローンを放っておくことが平和になるはずがない・・・!でも、倒す手段がないうえに倒した時点でバッドエンドだと言われたら、どうしようもない!)
チームの頭脳であるひまわりも決断することはできない。何故ならこれが実質1つしか選べない理不尽な問題であることだと理解していたからだ
ペリーヌ(であれば、率直に白旗をあげるよう銃をつきつけられた方がマシですわね。わたくし達に選ばせるというスタンスを貫かれるのがこうも抵抗する心を削られるとは)
シャーリーがエイラにチラりと目配せをした。ルッキーニはシャーリーが動けばすぐについていけるよう少し腰を落として珍しく無駄口を叩かずにいる。しかしそんな様子を見たエイラは胸の前で人差し指を×に交差させて澄まし顔を横に振った
それを見てシャーリーは魔法力を発動させるのを止め、眉間に皺を寄せてエイラと目で会話する
シャーリー(じゃあどうすりゃいいんだ?501と連絡がとれれば何かしら打てる手があるかもしれないが・・・)
一方のエイラは無表情だ。危機感をまるで感じないと言ってもいい。業を煮やしたシャーリーの咳払いでリアクションを促されてようやくエイラはため息と共に口を開いた
エイラ「真剣に悩んだって仕方ない問題だろ。こういう時はバカ・・・もとい直感タイプのに任せよう」
シャーリー「なに言ってんだよ?」
エイラ「遅刻だぞミヤフジ」
エイラは空を仰いだ。わかば達も驚いて釣られたように顔を上げる
そこには、怒れるけもみみ魔女がいた
ただ彼女は1人ではない。いくら怒っていたとしても、ストライカー無しでは空は飛べない
宮藤芳佳を抱えて飛んでいたのは、光沢のある漆黒の身体を持つモノ
ペリーヌ「人型ネウロイ・・・!?」