あろん子「あなた達にはアローンというものがどういったものかを理解してもらう必要があるみたいね。お茶菓子の一つも出ないのはアローンが事あるごとにビームを吐く危険物の俗称かなにかだと思っているからでしょうし」
彼女が流暢に喋るのを見て柴条以下管理局職員達は息を呑んだ。アローンの脅威を知っている人間であれば私を怖いと思うのも無理はない、とあろん子は気にしないでいたが管理局の職員達は彼女がお茶を飲めるのかという事実に驚いていただけだった
あろん子「アローンを語る上でカギになるのは、これを管理している存在を認識する事ね。一色健次郎博士は直接触れたことがあるでしょうけど、アローンを操っているのは私達が住む物質世界より高次元に存在する精神生命体。私達は〈管理者〉と呼んだり、〈上位者〉と敬称されることもある。彼らは、私達が今存在している物質世界のあらゆる法則や制限から解放され、神羅万象を自在に操る力を備えている」
ひまわり「さっきのカラスもわりと好き勝手やってたけど、そんな神様みたいな存在だったとはね」
あろん子「アレも高次の存在ではあるけれど、1個体として物質世界に存在している時点で振るえる力には制限がかかっているわ。それに、管理者達も干渉できる範囲に制限があるわ。条件が揃った空間内であればあらゆる事象を操ることが可能だけれどね」
ひまわり「1個体で存在している時点でって・・・じゃあ高次の存在っていうのはどうなってんの?個体としての概念がないってこと?」
あろん子「複数ではあるけれど、存在としては1つ。示現力の真髄の一端に触れたあなたなら察しがつかない?」
ひまわり「___ドッキング?」
あろん子「そう。2人の人間の魂が重なりあい、高次元にアクセスして示現力を出力する。あの瞬間、あなた達も人間の域を越えた存在になっているのよ。そして<彼ら>が辿り着いた進化の到達点も、個の壁を取り払い、示現力を扱うに適した一つの超常の存在へと成ることだった」
健次郎「確かに、ドッキング時に発せられるエネルギーは我々の世界にある示現エンジンで生成できる出力を優に超える。しかしそれはあくまでビビッドエンジン・システムにより高次元からエネルギーを取り込み、より強い攻撃へと転換しておるだけじゃ。真の示現力とやらを手に入れたとして、我々が神のような生命体に変化してしまうというのは解らん理屈じゃ」
あろん子「示現力というのは文字の通り神を顕現させるための力。この場合の〈神〉とは人の世を救う存在として考えられた都合のいいイメージのようなものであって、ストーリー性のあるな神様を指すものではない。要は___」
あおい「困ったことをなんでも解決してくれる便利な存在ってことですか?」
あろん子「そうね。示現エネルギーとはそういうもの。命の意志に応え、あらゆる問題を打ち破り進化を手助けする力。今はただ非常に効率よいエネルギー源でしかないけれど、真の示現力がこの世界に溢れるようになれば意志がそのまま現実へと直結する空間になる」
あおい「思った以上にすごいことになるんだね・・・」
あろん子「だからこそ、管理者達はこの力を使うに相応しい生命体かを見定めたくなってしまうのよ。下手をすれば自分達の存在も脅かされてしまうからね
そしてアローンというのは、何らかの役割を与えられて彼らから切り離された存在に対してつけられた呼び名よ。孤独な、ただ1つそこにあるもの。己の使命のため、行動する存在」
高次の存在である管理者は絶大な力を持つ。しかし、低次元の物質世界から解き放たれた彼らは個としての肉体を捨て去った精神体である以上物質世界に直接干渉することは不得意だ
ひまわり「そこまで進化した生命体なのに、わざわざそんなことする必要ある?」
あろん子「示現力の集合体でもある彼等の本体が直接触れると、理解しようという意志が示現力を動かしてしまう。低次元の物質世界は一瞬で呑み込まれて彼らの一部になってしまうわ」
管理者は高次元に満ちるエネルギーにより一体化した集合生命体である。自らが存在する空間から出ることはできず、無理に移動しようとすれば自らの空間事移動してしまい2つの次元が衝突してメチャクチャな事になってしまう、というあろん子の話に非常に関心を覚えた健次郎とひまわりだったが、今はそれについて掘り下げる時間がないためぐっと思い留まった
その為作り出されるのがアローンという存在だ。物理干渉に対して強い抵抗力を持つ黒い装甲の中に示現力を凝縮させたコアを詰め込まれ、様々な世界に送り込まれる
わかば「そのアローンを倒すことが試練という訳?随分脳筋な内容なのね」
あろん子「敵がなければ惰弱な進化になる。鉄は打たれてこそ強くなるわ。アローンに勝つには示現力を使いこなすしかないし、世界の命運を賭けた戦いと向き合う中でその世界の生物の本質が見えてくる。あなた達はこの試練の最後の段階までたどり着いたのよ。誇るべきことだわ」
あおい「でも、それはあかねちゃんがいたからできたことで・・・」
あろん子「その世界で最初に示現力に選ばれた戦士抜きで敵と戦う事。これは最後の試練において必ず立ち向かわなければならない最大の障害として設定される状況よ」
暗い顔つきになったあおいを見て、どこか鼓舞するようにあろん子は話しを続ける
あろん子「試練とは、それを乗り越えられないものには与えられない。あなた達はこの最後の試練に勝利できる強さがあると認められたのよ。自分が今まで歩んできた道のりを信じて立ち向かえば、必ず結果は手に入る。彼女が信じた仲間である貴方自身を、信じなさい」
あおい「・・・うん、頑張る」
意を決して顔を上げたあおいを見つめるその顔は黒騎れいそのものであった。アローンであるその少女は柔らかく微笑みさえ浮かべて見せて、あおいの心を温かくさせた
あおい「あなたとれいちゃんは・・・どういう存在なの?」
あろん子「彼女と私は1つのアローンだった。随分前に2つに分かれてしまい、知識や力のほとんどは相方が持っていった。だから芳佳の世界に現れた時の私は自我も薄く、大した力もない存在だったのよ。半分になったというより、黒騎れいから切り離されたモノ。みそっかすね」
宮藤「そんな風に言わなくても・・・」
あろん子「まあ実際あなた達の世界に訪れたのも、ふらふらしてたらネウロイが開けた次元の穴に吸い込まれちゃっただけだし。なんで芳佳に惹かれたのかは私も解らないから」
宮藤「私も解らないよ!」
ペリーヌ「直感だけで生きてる方々のお話は後回しにしましょう。時間がいくらあっても足りませんわ」
あろん子「ごめんなさいね。でもこれ結構大切なことなの。私は芳佳と接触しようとしたのに、芳佳は突然私の目の前から消えた。私は芳佳の気配を追ってこの世界に辿り着いたの。そしてこの世界に入った途端、何故か黒騎れいの記憶や思い出の一部が私に流れ込んできて、今の人格が覚醒した。で、目の前には芳佳が居たって訳」
2人は目と目で通じ合った。共に戦うべき仲間なのだと。芳佳が語らずとも黒騎れいの記憶を共有したあろん子は芳佳を抱えて管理局前に飛び込んだのだ
健次郎「れいくんの肉体の構造は我々と変わらん筈じゃ。記憶喪失の原因を探る為、管理局の施設で全身の精密検査を受けておる。そこでは何の問題も見つからんかった。我々の元から姿を消してから一体なにがあったというんじゃ?」
あろん子「彼女は人間としてこの世界に潜入するため、記憶や力を一時的に手放し、人間と同じように構成された身体1つに魂を込めてこの世界へ来た。あの肩にのっけてたカラス、いたでしょう?あれから記憶と力を戻されたのでしょう。現時点で黒騎れいは以前とは全く別物になっている可能性があるわ」
ひまわり「あのカラスやあなたもアローンなの?私達が戦ってたのとは別物にしか見えないけど」
あろん子「大きな力を持ち、自分の意志で行動できるアローンが産まれることがある。そういったモノはなにか大事な役割を担うことになる。あのカラスは〈観測者〉の役割が与えられ、それを遂行する為に必要な力を与えられているわ。アレは試練が与えられた世界を見守り、導く」
リーネ「見守り・・・?」
エイラ「アレに導かれてたらこの世界は崩壊なんだが?」
あろん子「現状、正しく役割を果たせているとは私も思えない。黒騎れいという手駒を動かして、何か企んでいる。そもそも観測者がちゃんと仕事をしないせいで、この世界にはウィッチとネウロイが乱入してきている。どちらも、この世界にはあってはならないものなのに」
ペリーヌ「わたくし達の世界にいるネウロイも、あなたがいう管理者が送り込んでいるものなのですの?」
あろん子「違うわ。戦闘型アローンはあくまで試練の為示現の戦士と戦うのを目的に作られるもの。ネウロイは生命体の文明を滅ぼす為に産まれてくる悪意ある命。明らかに別物の筈なのに形状も仕組みも似すぎている。これはどうにもおかしな話ね。この裏側を確かめる為にも、あの塔をへし折って観測者の鼻を明かしてやりたい。その為なら手を貸すわ」
エイラ「それがお前のアローンとして与えられた役割ってやつなのか?」
あろん子「自分が元々どういった存在だったかは解ってないわ。そういったものについての記憶は相方の黒騎れいが持っているのだろうし。まあ、観測者が正しく仕事をせずあなた達を貶めようとしているのはどうにも気に入らないって訳。私が管理者側としてあなた達の味方をするのは義務感ってやつね」
あおい「ほんとに、それだけ?」
ここに来てあろん子はこれまで淀みなく言葉を発し続けていた口をつぐんだ。あおいの真っすぐとした視線が先ほどまでと違い、仲の良い友人に向けられるそれに変わっていることに気付いて、思わず動揺してしまったのだ
れい「・・・私も彼女の片割れよ。考え方や感じ方なんてのは、黒騎れいとほぼ同じな筈。そして私に流れ込んできた記憶や思い出は、一切記憶を失った状態の彼女がこの世界に来てから得たモノ全てであって・・・まぁなんていったらいいのかしら・・・」
ひまわり「なにしぶってんの?」
淀みなく小難しい話を続けていたあろん子がしどろもどろな様子を見ておもわずひまわりが先を急かした。まるで心中を語るかどうかを悩む年頃の女の子のような煮え切らない態度を少し見せた後、彼女はそっぽを向いて口を開いた
あろん子「つまりまぁ、私はあなた達の知っている黒騎れいじゃないけれど・・・あなた達に優しくしてもらった思い出がある。私がこの世界に来て人格というのを形成できたのは、彼女の温かな記憶と心を疑似的にも受け継いだからよ。そんな私がこの状況を見て、あなた達の味方になりたいと思うのは・・・小難しい理屈があるわけじゃないってこと」
少し彼女の頬が赤く染まっている。それは別にビームを撃とうとしている訳ではないことは誰の眼にも明らかだった
あおい「じゃあ、あろん子ちゃんは私達の仲間なんだね」
あかねがいればきっと言うであろう言葉をあおいがはっきりと口にしたことにより、あろん子の立場は決まった。例え彼女がアローンであろうと、彼女はビビッドチームの一員に相応しい存在だった
あろん子「私が産み出された時の役割がなんだったかは知らないけど、やるべきことは私自身が決める。偉そうに悪の親玉気取りのあんちくしょうの羽をむしって焼き鳥にしてやることと、グレちゃってる相方に一発かまして目を覚ましてやることね」
彼女はいたずらっ子のように強気に口角を釣り上げた笑顔を浮かべて、ウインクをしてみせた
シャーリー「よくわかる、だって?見ろよルッキーニを。立ったまま寝てる。話が長すぎるんだ」
エイラ「3行で纏めろよオイ」
あろん子「わたしいいやつ あいつらてき わたしあかねたすける」
ルッキーニ「おっけーわかった!!!!!!」
ペリーヌ「まあ・・・その程度の認識でもいいのではなくて?ルッキーニさんは」