四宮ひまわりの両親は管理局傘下の研究員である。ひまわりがビビッドチームの一員として活動している事は把握していたし、現時点で彼女が非常に緊迫した状況にあることも解っていた。管理局の敷地内に建てられている研究施設で仕事に当たっているとはいえ、ひまわり本人が出向けばその特殊な立ち位置に配慮され直接会うことは容易だっただろう
しかし彼女はそうせず、自らの城であるアパートに戻り、キンキンに冷房の効いた部屋の中をスマートフォンをもってうろうろしていた
ペリーヌ「ひまわりさん。お悩みになるのも解りますが、今回に関しては考えても無駄です。行動あるのみですわ」
ひまわり「解ってるよ……うるさいなぁ」
もう何度目になるか解らないやりとりを交わしたひまわりはそれでも液晶画面を点けたり消したりを繰り返し、手の中で転がしながら部屋をのそのそとうろつくのを止めない
しびれを切らしたペリーヌの頭から獣耳が生えるが、ペリーヌを宥めるのが日課となったリーネが手慣れた様にフォローに入る。彼女が居合わせたおかげでひまわりの部屋の電子機器は落雷の被害に遭うことは避けられた
リーネ「まぁまぁ、ひまわりちゃんにも色々あるんでしょうから……」
ペリーヌ「ええそうでしょうとも。ですがマンションの廊下で1時間待ちぼうけを喰らって様子を見に来てみればゲームで現実逃避しているのを見れば、ちょっとだけ雷を落としても許されるのではなくて?」
リーネ「落ち着いてくださいペリーヌさん。ひまわりちゃん、私達はドッキングで繋がったあかねちゃんと違ってひまわりちゃんの事情をわかってあげられない。だからもし、何もするべきことがないのならこのまま作戦開始までこの部屋でだらだらしててもいいと思うの」
ひまわり「それは……」
リーネ「でももし、なにかやらなきゃならないことがあるのなら___がんばって。応援してあげることしか私にはできないけど」
ひまわりの少し冷えた両手を優しく包み込むように握り、正面からそう語り掛けた。ひまわりは目を逸らさずその言葉を受け止め、少しうつむいたあと、小さく頷いた
リーネとペリーヌが部屋から出るのを見送った後、意を決したひまわりは液晶画面を素早くタップして耳に当てた。コールが鳴った瞬間に音が切れ、相手が即座に通話に出たことが解った
『ひまわり!?元気!?電話くれてありが___ちょっとパパうるさい!!私が先に話してるんだけど!?』
『おーいおいおいちょっと待てよひまわりの着信を受けたのは僕のデスクにある電話だぞ?これが何を意味するか解るか?』
『ダーリン。あなたが何を言いたいかさっぱりわかんないわね。ひまわりが言いたいことなら解るわ。私と話したいのよそうよね?』
『本人に聞いちゃっていいのか?待ってるのは残酷な真実だぞハニー』
ひまわり「いや仕事場の電話番号ってこれしか知らないし。てかうるさ……一回切っていい?」
『待て待てひまわり今決着がついた。じゃんけんで勝った僕が話すよ。いや、ママも聞いてるしお前がアレなら変わっても___』
ひまわり「もーいいからそのままで」
『……』
ひまわり「……」
ひまわりは自分がそもそも口下手だったことを思い出した。あかねやチームの皆のようにガンガン来られるタイプに返していくのは出来なくもないが、少なくとも数年間距離を空けてきた両親にどう接すればいいのかはまるで思いつかなかった
ひまわり「……今まで色々あったんだけど、何にも話してこなかったから。それを謝りたくて」
結局彼女は思いの丈をそのまま口にすることにした
『うん。だけど僕たちも、ひまわりとちゃんと話し合おうとしなかった。距離を置く選択肢をお互いにとったんだ。謝るべきだと言うなら、僕らの方こそ』
ひまわり「私の引きこもりに気をつかわせちゃっただけだよ」
『君の提案を拒否する事も出来た。でも研究を理由に管理局内の施設に住むことにしたのも、君を1人の空間に取り残す事を良しとしたのも僕たちの判断だ。ぼくもママもそれ人一倍に学は積んできた自負があるけど、親としてどうあるべきかに関してはまるで自信がない。ただ、人と接するのを怖がった君を傷つけないようそっとしておくのがベストだと考えたんだ』
ひまわり「うん」
『寂しい思いをさせてごめんな。でも、君は1人でいる内にその素敵な才能を開花させた。そして友達を作り、アローンと戦って世界を守っている。引きこもりの君は自分で再び立ち上がり、立派に成長した。誇らしいよ』
ひまわり「うん」
『ちょっと替わってパパ……ねえひまわり。あなたは1人が好きかもしれないけど、今の騒動が落ち着いたらご飯でも食べに行きましょ。私もパパも研究所に缶詰めなんだけど、アローン騒動に片が付いたら休みもとれそうだし』
ひまわり「うん、ママ」
『だから、頑張ってひまわり。愛してる』
ひまわり「ぅ、うん……私も……まぁ好きだよ」
『パパ、聞いた?』
『録音したよ』
『オッケー!!!!今の通話をmixして作業用BGMにしま』
画面をタップして通話を切断する。ひまわりは限界だった。鏡を見なくても耳まで赤くなっているのが自分でもよく解る。通話を切って大きく深呼吸をする彼女の耳に、背後のドアがカチャリと閉まる音が聞こえた。スマートフォンをポケットに突っ込み何度か大きく深呼吸した後、盗み聞きをした二人を問い詰めるため大股でドアへ向かって歩き出した