「お嬢さま、お帰りなさいませ」
あおい「うん、ただいま」
メイド服に身を包んだ女性が深々と頭を下げ、あおいを出迎えた。今日も夏の接近を感じさせる決して涼しいと言えない気温だというのに、彼女は玄関の前で立っていた。額にうっすと汗が浮かんでいるのが見えるので、少し前からここにいたのだろう
あおい「ありがとう。今日はお友達も連れて来てるから、お二人の席も___」
「ご用意しております。応接間で奥様がお待ちですので、そちらへ」
あおい「解りました。芳佳ちゃん、エイラさん。こっちです」
エイラ「おう。しかし、デカイ家だな」
あかねの住む大島は基本的には田舎に分類される。すぐ近くに示現エンジンが建設されているブルーアイランド本島があるとはいえ、この島自体は昔からの風土が色濃く残る土地である。瓦屋根の平屋が目立つ中で二葉家は圧倒的個性を放っていた
あおい「普段は都内の家に住んでるんですけど、私の療養のために両親がこっちにも家を建ててくれたんです」
堂々とした洋風作りの豪邸はそれでも島の景観を壊さないよう質素な色使いを意識されており、あおいがゆったりと過ごせるようにという配慮が伺える
あおいに案内され、ふかふかの絨毯が敷かれた邸内を進み広々とした応接間に通されたエイラと宮藤はそのテーブルに腰掛けた妙齢の女性と目が合い、それがあおいの母親であると直感的に理解した
「おかえりなさい、あおい。それからお初にお目にかかりますわね。わたくし、二葉あおいの母でございます。娘がお世話になっております」
宮藤「いえ、こちらこそお世話に……私は」
「宮藤さんとエイラさん、かしら?娘からお話は伺っております」
エイラ「どーもです。……あおい、どういう風に紹介してくれたんだ?」
あおい「どうって、芳佳ちゃんは料理が上手くて元気で、エイラさんは澄ましてるけど意外と情に厚い人だって」
エイラ「おうおう解ってんじゃないかオイ。じゃ、私とミヤフジは挨拶も済ませたから部屋の外で待ってるから」
あおい「え?」
エイラ「親子水入らずの配慮だよ」
そう言うとエイラは宮藤を連れ立ってさっさと部屋から出て行ってしまった。あおいは大きな円テーブルを挟み母の反対側に座る。すぐさま控えていた給仕があおいの前に紅茶の入ったカップを置き、一礼をして部屋から出る
あおい「直接会うのって久しぶりだね!」
「そうね。仕事が片付かないからこちらに中々来ることが出来なかったけれど……色々と、あったみたいですね?あおい」
あおいはこの家に住んでいない。あおいの両親も仕事で島外を飛び回っておりこの家には羽休めにたまに寄る程度。本来療養するべきだったあおいがあかねの家に居ついてしまった現状、この家は使用人達が清掃の練度を上げ続ける修練場と化していた
あおい「うん。本当に色々あったよ」
「貴女が退院して、またこの家に行くことになったあの日。あなたが乗ったヘリが墜落したというニュースと、あなたの身体が原因不明の超健康体になったというニュース。これを同時に知らされた私とお父さんの感情のジェットコースターをあなたにも味合わせてあげたいものです」
あおい「あはは……」
困ったように苦笑いをしつつ、紅茶を口に運ぶ娘を見る母親の視線は優しいものだった。彼女はあおいが何に巻き込まれたのかは知らされなかった。あおいが関わっている事情は国家機密であることと、しかし彼女の安全を確保するために管理局と防衛軍が全力を尽くすという内容の連絡が管理局の代表から届いただけであった
当初は不安もあったものの、定期的に電話口で話す娘の声はいつも楽しげで、後ろからは賑やかな友人達の声が響いていた。連絡する度に楽しさと賑やかさは増していき、あおいの母の心を幸福感で満たしていった
「あなたが背負った事情というものが何なのか、それが解らない事は保護者である私はとても不安でした。ただ、あなたが産まれて14年。私の……私とお父さんの願いは、ただあなたが元気になって幸せな人生を送ってくれること。ただこれだけだったのですから。それを思えば、私は今までの人生で一番幸せなのですよ」
あおい「お母さん……」
「あおいが立ち向かっているものがどれだけ危険でも今更私は止められません。あなたを元気にしてあげられなかった私達が口を挟める余地などないのですから。……ただ、願わくば。今あなたが抱えている問題が解決したのなら。またあかねさんと、新しいお友達の皆さんと会わせて下さい。たくさんお話を聞きたいです」
あおい「うん。絶対みんなを連れてくる。私、やっと元気になれたの。今までお父さんとお母さんに、それと周りの人に助けてもらってばっかりだったから、今度はお家のお手伝いをやったり一緒に遊びに行ったりしたいの。もうちょっとだけ待ってて。皆を連れて、帰ってくるから」
「ええ。いってらっしゃい、あおい。幸運を祈っています」
クライマックス突入ですって半年くらい前からずっと言ってる気がしてます