れいの手に握られた鍵が光をキラリと反射する。遠目であれば米粒程のサイズでしか認識できないものだが、トリニティの強化された視力はしっかりとその存在を捉えていた
トリニティ「私達と同じように、鍵を!?」
健次郎「ビビッドシステムを疑似的に再現して示現エンジンにアクセスするパスを繋げようというのか!」
れい「あかねが触れると強制的にアクセス権を得られるよう仕込みをしておいたのよ。示現エンジンに忍び込んだのはこの為」
宮藤「海岸で倒れてた時の……!あの時の私達を澄ました顔で利用したの!?」
れい「あの時と言わず、これまでずっと利用させてもらっていたのよ。『イグニッション』」
黒騎れいが示現エンジンとの接続コードを唱えると、あかね達のもつイグニッションキーより一回り大ぶりのゴテゴテした鍵が火花を散らしながらゲートを開いた。間に合わせに作られた鍵はショートして内部の基盤が焼き付いてしまうが、求められた役割を果たした
黒騎れいは〈観測者〉であるカラスによって力の大半にリミッターをかけられていた。しかしこの世界の示現エンジンと繋がり一時的にでも示現の戦士としての力を発動できれば、黒騎れいは自らの身体にかかったリミッターを強制的に解除しかつて自分が振るった力のほぼ全てを取り戻すことが出来る
「カラーコード・プロトコルスタート。パターン〈ブラック〉」
発動ワードに応えて彼女の首に巻かれた黒いマフラーが反応する。ふわり、と風に乗せられて大きくはためくと巨大化してれいの全身を覆い毛糸玉めいた球状を形成した
宮藤「……!」
芳佳は引き金に掛けた指に力を込められずにいた。彼女は状況を理解していた。黒騎れいはこれから自分達を倒すため戦闘形態に移行しようとしているのだ、ということくらい察しはついていた
だがそんな簡単に割り切って友達に、人間の姿をしているものに銃を向けられないのが宮藤芳佳なのだ。それはリーネもペリーヌも、ルッキーニも同じだった
エイラ「シャーリー!あろん子」
シャーリー「ああ!」
あろん子「ええ」
エイラもシャーリーもそれを解っていたし、そもそも撃たせる気などなかった。こういう汚れ仕事は先輩の役目だとばかりに2人の機関銃が火を噴き、あろん子の手先から赤い閃光が迸る。魔法力を込めた弾丸とビームが漆黒の毛糸玉に突き刺さる
だが既に彼女達の攻撃は意味を成さない。少しのほつれも見せずにしゅるしゅると収束していく布はただの布ではない。かつて世界を救うため奔走したヒーローの誇りを象徴するマフラーなのだから
「藻掻いて足掻いて這い蹲って、それでも描いた明日のため。使命の奴隷となろうとも、私が全部救ってみせる。カラード・ブラック、戦闘準備完了」
トレードマークであるマフラーが首に巻かれたまま、不気味に風に揺れている。彼女の身体を覆うのは、パレットスーツとはまた違う思想で設計された示現の鎧。黒いインナースーツを全身にピッチリと纏い、その上から金属製の黒いアーマーが各部に装着され半透明の黒いリングが拘束具のように手足に巻かれた。ビビッドチームのパレットスーツより攻撃的な兵器を思わせる風体である
頭部を保護するように装着されたヘッドギアからバイザーがカシャンと音を立ててスライドし、目の部分を隠して不気味に赤く発光することで彼女の変身が完了した
トリニティ「___!」
カラードブラックと名乗る彼女が只者ではないことは肌を通じて感じとれた。彼女が放つ圧倒的な存在感、身体を通して発せられる示現エネルギーの強さ、バイザーの奥からこちらへ投げられるネウロイのビームよりも鋭い敵意を孕んだ視線
空から降り注ぐ光は全てに平等に降り注ぎ、黒騎れいにも力を与えていた。健次郎は示現エンジンに不正アクセスを行っていたれいをシステムから即座に弾き出したのだが、既にれいは___カラードブラックはトリニティと同じく外部補助を必要としない完全に独立した存在へと成っていた
ブラック「あなた達の頑張りを称えて、私が直々に幕を引かせてもらう。全力で」
トリニティ「おっと、私達の世界はこれからなのよ。その為にこれまで戦ってきたのだから水を差すのは勘弁して欲しいわ!」
トリニティが立ちはだかった。いや、れいの目的もトリニティだった。この世界の示現の戦士を制圧し、全ての力を自分の物にするのが彼女の目的なのだ
トリニティ「こそこそ逃げ回っていた貴女が堂々としてるところ悪いけど、あなたの相手はこの世界全てよ!恐れ入ったか!」
ルッキーニ「なんかそーいう言い方だと卑怯な感じにならない?」
シャーリー「勝ちゃいいんだよ。勝ちゃな」
ブラック「確かにそうね。あなた達全員と堂々ボス戦に突入するのはリスクしかない。私はそんな選択肢は取らないわ」
空が真っ二つに割れた。首を左右に振らないと見渡せない程の割れ目から出て来るのはネウロイ、ネウロイ、またネウロイ。個体として認識するのが難しい数だ。真っ暗な背景だと思っていたものが全てネウロイで構成されていることに気付いた時、流石のシャーリーも空いた口が塞がらなかった
トリニティ「なんてこと!?無制限にネウロイを呼びつけるなんて……なんと卑怯な!騎士道の欠片もない!恥を知れ恥を!」
ルッキーニ「3人が一緒になったのになんかバカになってない?」
トリニティ「私は天才よ!!!!!何体来ようがやることは変わらない!みんな行くよ!」
リーネ「攻撃、来ます!」
悲鳴のようなリーネの報告が上がると同時に、天から雨あられと赤いレーザーが射出され大地を焼き尽くした
ブラック「さぁさぁ!示現エンジンもこの世界の住民も!早く私を倒さないと、ほんとに全部無くなっちゃうわよ!」
心底楽しそうに両手を広げる彼女だけが、ネウロイの攻撃の対象から外されていた
長官『全戦力を投入しろ!本島全域の防衛軍にも出動要請!』
健次郎『3人とも!黒騎れいが放つエネルギー量は君達のドッキング時に計測されたものを遥かに超えておる!しかし君達の力も、先程までとは比べ物にならん程強化されておる!ここが正念場じゃ!』
トリニティ「言われずとも、踏ん張りますよ!ウィッチの皆はネウロイを!!」
宮藤「任せて!」
シャーリー「すぐ片付けてそっちに手を貸してやるよ!」
エイラ「ま、片付くならな」
ペリーヌ「エイラさん!そんなこと……」
エイラ「数が多い、なんて話じゃないぞ。空に開いてるのはゲートなんてレベルじゃない。裂け目だ。ネウロイはどれだけだって沸いてこれるんだぞ」
淡々と告げるエイラはポケットにしまってあるタロットカードに手を伸ばしたが、少し迷った後手を引っ込めて銃を握り直した。自分と仲間達に襲い掛かろうとしている無数の攻撃を捌く飛行ルートを読むのに忙しくて、遥か先の未来なんて見てる余裕はないと思ったからだ。あるいは、カードを引いてしまうと全ての希望が潰えてしまうような気がしたからなのかもしれない
空に大きく開いた次元の穴から送り込まれたネウロイは全方向へと散っていく。アローンとは違い、示現エンジンの破壊が目的ではなく命あるもの全てが彼らの標的なのだ
だがウィッチーズとトリニティ達目掛けて突っ込んでくるものの数も圧倒的に多い。彼女達は飛び去って行くネウロイを追走する余裕などとても無かった
長官『防衛軍の全ての力を使って防衛線を張る!ビビッドチームは大本を絶ってくれ!』
余裕のない懇願するような叫びを受けてトリニティは両手に武器を構える。右手に緑の大太刀を、左手に巨大な青いハンマーを。そして周囲を無線砲台が円を描くように飛び回りながら銃口を前方に向ける
トリニティとブラックの視線がぶつかる
トリニティ「あなたを討てば、ほんとにこれは止まるのかしら!」
ブラック「確かめてみれば?」
澄ました顔で言葉を返すと、カラード・ブラックはトリニティへ襲い掛かった