トリニティへ襲い掛かろうとしたブラックは、何かの気配を察知し動きを止めて苛立ちを隠そうともしない態度で吐き捨てた
ブラック「___そう、あなたが出張ろうとも結果は同じ事!」
あろん子「奢りが過ぎるわよ!痛い目みせてあげるんだから!」
ブラックの真後ろに小さな時空の歪みが発生したかと思うと、そこから激しい赤い閃光が飛び出してブラックへ襲い掛かった。隙を伺っていたあろん子の不意打ちである。もっともブラックの第六感が反応していたし、あろん子も不意を突けたとは思っていない
至近距離から放たれた攻撃をブラックは優雅に飛び上がって躱す。ワープゲートから飛び出したあろん子は矢継ぎ早にビームを放ち、ブラックに反撃の体勢を取らせないよう追撃をかける。変身前のブラックに仕掛けた攻撃より明らかに火力も速度も増しているが、ブラックは悠々と躱しながら拳を振り回した
巨大な拳が機敏な動きで宙を飛び回りあろん子に迫る。小刻みに左右のフックのコンビネーションをあろん子は素早い動きで回避した。うっとおしいコバエを払うかのようにあろん子が右手を薙ぎ払うと、液体がぶちまけられたように放射状に赤い光が広がりエネルギーの壁が形成される
固定化された壁はぶち破らんと放たれた拳を2度、3度と受け止めるが4度目で音を立てて砕け散った。しかしそこにあろん子はいない。視線を切った後、再びワープゲートを開いてブラックの真下から攻撃を仕掛けていたのだ
ブラック「全く誰もかれも、姑息ね!」
あろん子は両手を合わせて渾身の一撃を放った。彼女が放つ巨大なビームは、これまでのアローン達が繰り出したどんな一撃にも勝る程強烈なパワーを孕んでいた。しかしブラックは黒いビームを真っ向からぶつけてそれを受け止めた。いつの間にか巨大な拳は消失し、ブラックの腕輪は黄色に変わっている。武器らしい武器は所持していないが、ブラックの背後に大きな黒い輪が浮かんでいる。神々しさすら感じさせる黒い光を放つ輪が彼女の放つ力を後押ししていた
ブラック「大人しく……なさいっ!」
あろん子「!」
黒い輪が時計回りに回転を始めるとブラックの攻撃の出力がグンと高まる。黒い光の奔流があろん子の赤い光を呑み込み、勢いのまま吹き飛ばした
落下していくあろん子の黒い外装はところどころ溶けている。体勢を立て直そうとするあろん子にブラックは一瞬で距離を詰め、抵抗を許さず首を右手で乱暴に捕まえた
宮藤「あろん子ちゃん!」
エイラ「宮藤、ネウロイ来てるぞ!下がれ!」
宮藤「!」
援護に飛び出そうとした芳佳達の前に壁を作るようにネウロイが群れを成し立ち塞がった。トリニティには最早ネウロイなど物の数ではないが、芳佳とエイラに全方位から襲い掛かろうとするネウロイを殲滅するのに少し時間が必要であった。その間、ブラックは誰にも邪魔されず自らの片割れと最後の相対を果たしていた
あろん子「ぐっ……暴力的ね……」
ブラック「アナタを見ていると気分が悪くなるわ。消してしまいたいけど、破壊してしまうとせっかく私から取り除いたものごとこちらへ戻ってきてしまう。さてどうしたものかしらね」
あろん子「ふん。あなた、下手に人間性を削ったせいで下らないヤツになったわね」
ブラック「は?」
あろん子「自分の中の感情を切り分けて取り除かないと悪役に徹せない、哀れな甘ちゃんよ。
ダッサ」
あろん子はケラケラと笑った。自らの命の危機に欠片も恐怖などしていないかのように。そして圧倒的優位に立っているブラックの表情が険しく歪んだ
ブラック「ほざくんじゃないわよ。張りぼてが!」
怒号と共にブラックの左手が降りぬかれた。指先を鋭く伸ばした手は剣のような切れ味を見せ、あろん子の身体を斜めに切り裂いた
あろん子「___」
ブラック「殺しはしない。しないけど、退場してもらうわよ。口うるさくて叶わない」
宮藤「あろん子ちゃん!」
ネウロイの壁を切り抜けて来た芳佳がその現場を目にし、悲痛な叫びを上げる。トリニティも寄って来たネウロイ達消し飛ばしてブラックの元に辿り着いた。それを見てブラックはあろん子の上半身を放り捨ててトリニティへ向き直る
トリニティ「れいッ!!!!!」
ブラック「私を黒騎れいと呼ぶな!」
トリニティが怒り任せに剣を振るう。研ぎ澄まされたトリニティの剣を受けようとブラックは再び腕輪を青に光らせ巨大な拳を繰り出したが、凄まじい切れ味を誇る剣はその拳を見事に真っ二つに叩き切った
ブラック「くっ!」
すぐさま武器を槍に切り替え、迫るトリニティの剣を払った。二度、三度と続けて振るわれる剣を槍の穂先で叩き落とし、距離を取る
宮藤「あろん子ちゃん!あろん子ちゃん!ああ……そんな!」
トリニティがブラックを相手取っている間に、芳佳はあろん子の半分を優しく抱きかかえた。エイラは切り離された下半身を確保して芳佳の下へやって来ていたが、どうすればいいのか解らず黙って芳佳の傍に寄り添った
あろん子「芳佳……少しだけ、治癒魔法を、かけてくれない?少しでいい……」
宮藤「うん!大丈夫、絶対治してあげるから!」
あろん子「無理……よ。コアを半分削られた。もうすぐ意識を保てなくなる」
宮藤「だったら!」
あろん子の言葉を制するように手を伸ばす。彼女の胸の間に鈍く光る赤い塊に魔法力を向けるが、それを修復するのはとても不可能だという事を芳佳はすぐに理解した。かつてあかねの腕を治すのに途方もなく難儀した事など比較にならない。あろん子のコアは命という概念が示現力により結晶となったものであり、芳佳の魔法といえど干渉することは叶わない
あろん子「少し……あなたの力を分けてくれるだけで、いいの」
宮藤「あろん子ちゃん……」
治癒魔法を発動させる芳佳の手を握り、あろん子は目を閉じて囁くように呟いた。エイラに抱かれていたあろん子のもう半身は形を保てずサラサラと黒い粒に砕けながら溶けるように宙へ消えていく。それを見ても、芳佳は懸命に魔法を発動させ続けていた
あろん子「うん、ありがとう。もう十分」
宮藤「そんな訳ないでしょ!?まだ……」
あろん子「いいえ。あなたの力、確かに受け取った」
安らかに微笑み、あろん子は芳佳の手をやんわりと抑えて芳佳から離れた
あろん子「大丈夫、最後まで足掻かせてもらうから」
宮藤「待って!あろ___」
あろん子「ありがとう。私を友達のように扱ってくれて。あなた達の___為に___必ず」
次元の穴が開いた。あろん子は意を決した表情でそこへ吸い込まれていく。芳佳の伸ばした手は空を切り、戦場から頼れる仲間が1人姿を消した
トリニティ「ぐあぁっ!」
ブラック「感情任せの力なんて長持ちしないわよ!」
吹き飛ばされたトリニティに突の嵐が遅いかかる。そのことごとくを剣でしのぎトリニティは反撃の機を伺うが、鋭い槍の一閃が遂にトリニティの右肩を穿った
トリニティ「あぐっ!」
しかし傷は槍が引き抜かれた傍から塞がり、次の瞬間にはトリニティは穿たれたはずの右腕で剣を振るいブラックへ斬りかかったのだ。エイラと芳佳が息を継がせぬ連携で援護を行うも、悉くをブラックは捌いて不敵に笑った
一見戦況は拮抗しているように見える。だが、ブラックの技はトリニティを捉え始めていたし、ネウロイはじわじわと包囲網を縮めウィッチ達の逃げ場を奪っていた
決着の時はさほど遠くは無かった
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病室であかねの傍についていた一色ましろはただならぬ気配の来訪を感じ思わず身構えた。病室にはいまだ意識を戻さないあかねと、姉が目を覚ますのを待ち続けるももが居た。2人を護るため、彼女は腕についていた点滴の管を引き抜いた
もも「ちょ、お母さん!?どうしたのいきなり!」
ましろ「嫌な予感がするの!ありゃ、わたしったら結構元気に___わわっ!?」
驚きの出来事は続く。病室の真ん中の空間が黒く歪みを見せたかと思うと、真っ黒い塊が転がり落ちて来た。ももとましろは何事かと目を凝らし、それが身体の半分ほどを欠損した人型の何かだという事に気付き思わず一瞬凍り付いた
だが2人はすぐ我に返り、駆け寄った。ましろは本能的にその存在から敵意を感じなかったし、ももは何より床に伏した少女の顔に見覚えがあった
もも「れいさん!なにがあって……こんな!?」
あろん子「一色、もも。私は___いえ、ごめんなさい。説明している時間がないの。あかねの傍に……お願い」
ももは取り乱しながらも首をカクカクと縦に振り、おっかなびっくりながらもあろん子に肩を貸した。ましろは状況が飲み込めないも手を貸して、ベッドで眠るあかねの横にそっと横たわらせた
あろん子「あかね……。あかね、起きて。」
優しい、柔らかい声が囁いた。軋む腕の先を包む黒い欠片がパラパラと崩れて肌色が露出する。人肌の温かさを持った手があかねの丸みを帯びたほっぺたをつんつんと突いた。指先が触れる度、あろん子から溢れた光の粒があかねへ流れる。光はあかねの身体に吸い込まれるように消えていき、いくらかの光を吸い込んだあかねの瞼がゆっくりと開いた
大きく伸びをして何度か瞬きをして病室を見渡すあかねは、困惑し泣きそうな顔をしているももを見て、真剣な表情で事の行方を見守らんとする母を見て、痛々しく身体を欠損しながら自分の横に寝転がる友を二度見した
あかね「えっ!!!??はっ!!!???」
あろん子「おはよう。悪いけど起こさせてもらったわ」
あかね「え、いや寝てる場合じゃなさそうだからありがとうだけど!れいちゃ___れいちゃんじゃないけどれいちゃん!?どうしたの大丈夫!?」
あろん子「世界の危機よ。ごめんなさい、あなたがいないとどうにもならないの」
話ながらあろん子の身体は端から崩れていく。しかし、黒い光の粒子へ変わった彼女の身体はあかねへ吸い込まれていく。それが寝起きのあかねをどんどんと元気に、強くしていく
あかね「よくわかんないけど、わかった!」
力強く頷くあかねを見て、あろん子は心の底から安心して小さく頷いた。あろん子が〈自我〉を認識したのは芳佳とこの世界で接触する少し前だ。黒騎れいが自らの心の一部を削りあろん子に押し付けた際に得た偽りの人間性。あろん子は自らが生き物としては歪な存在だと思っていたが、しかしあかね達の幸福を純粋に心から願う優しい存在であった
あろん子「私の・・・命を・・・。張りぼてのこの魂を・・・うけとって・・・」
あろん子は残った腕をあかねの首に回し、その唇に優しくキスをした。最後の力を振り絞ったように行われたそれはあろん子の消失を加速させた。ただ、あろん子は自分の命を正しく使い切れたという満足感をもって消えていったのだ。次元の狭間で産まれ、確かな意識も持たず、ふらふらと何かに引かれて世界を漂い。そうして辿り着いたこの世界で自我をもったあろん子は、記憶の中のれいが最も親愛を寄せていた少女に看取られ最後を迎えた
あかね「___」
口づけをかわした少女が消えていくのをじっと見届けたあかねは、大きく深呼吸をしてベッドから軽やかに飛び降りた。数日寝込んでいたとは思えぬ程身体には力がみなぎっていたが、彼女の心には痛い程の悲しみと喪失感、そしてふつふつと湧き上がる熱い怒りが入り乱れている
あかね「おかあさん、もも」
もも「おねえちゃん……」
ましろ「あかね」
3人は抱き合い、言葉をかわすことなく少しの間そのまま互いの身体の温かさを感じ合った
あかね「行ってくるね」
ましろ「ご飯作って、待ってるね。友達を全員連れて帰っておいで」
あかね「ん」
ももは何も言えなかった。空は暗く、あおい達の戦いが激化していることは知っていた。起きてくれた姉に甘えつきたいけれど、そんな状況ではない。れいも消えてしまった。どういう感情を表に出していいのか解らず下を向いてぐっと唇を噛みしめて、ただ泣かないよう耐えるので精いっぱいだった
そんなももの頭をがしがしと撫でて、あかねはもう一度「いってくるね」と明るく言った。ももが小さく頷くのを見ると、意を決して窓を開けてそこから躊躇うことなく飛び出した
目指すは、遠く西の空。黒く暗雲渦巻く戦場に待つ仲間の下へ
ちょいと冷えてきましたね!みなさん上着を一枚羽織りましょう!体調にお気をつけて!