「おい!ここの防壁の強度は十分なのか!?」
「ええ。管理局地下は示現エンジンに関する最重要機密の保全も担当しているエリアですから。大戦時のあらゆる敵対組織の攻撃に対応できるよう建造されていますので!」
「ビビッド、来ます!」
管理局地下の一室で武装した部隊が待ち構えていた。部屋のドアは分厚い隔壁が降ろされており、それを突破するのは一筋縄ではいかない。地下であることを考えれば滑落の危険性を鑑みて爆薬で吹き飛ばすということも現実的ではなく、狭い入り組んだ通路が続く管理局地下に大がかりな重機を持ち込むことも不可能。ただ時間を稼ぐ、という点では非常に優れた壁であった
〈ドカーン!〉
「破られたァー!!!」
あおい「失礼します」
もっとも今のあおいにとっては薄いベニヤ板と同じだった。両手の拳を青白く発光させたあおいが粉々に砕け散った隔壁の欠片を蹴飛ばしながら地に降り立つ。首に手を当てて顔をコキンと斜めに傾け、並んだ武装集団を無表情で見渡した後心底面倒くさそうに淡白に言い放った
あおい「自分達の足で脇に退いて下さい。できなければ吹き飛ばします」
「撃てッ!」
「しょ、正気ですか!?相手は___」
「相手は怪物だ!」
ペリーヌ「ま、お口が悪いこと。魔女の雷を喰らいなさいな」バリバリッ
あかね「どいてどいてー!!」
わかば「どかないなら1,2週間は入院してもらいますよ!」
銃弾は芳佳のシールドが全て受け止める。ペリーヌの電撃を防ぐ手段は存在せず、暴走機関車と化したあかねとわかばに吹き飛ばされ全員壁にめり込む。容赦なくハンマーを振り下ろそうとするあおいはひまわりが必死に説得し、不承不承ながら手加減を了承したあおいはあかねに向かって罵声を上げようとしていた指揮官らしき男を腹パンで黙らせた
あかね「この先……れいちゃんがいる」
確かな気配を察知したあかねが静かにそう呟いた。固唾を呑んで緊張するメンバーを見たあろん子が何気なく呟いた
あろん子「ゲームならあれね、選択肢が出て『ここから先はセーブができないぞ』って言われるところね」
ひまわり「あーめっちゃ解る!!!!」
あおい「2人とも」
あろん子「はい」
あおい「真面目に」
ひまわり「うん」
冗談で場を和ませようとしたのに……と言い訳しようとしたあろん子とひまわりはあおいのハイライトが消えた眼を見て瞬時に姿勢を正した
仕切り直して。あかねは最後の通路を滑るように滑空して突き進む。前方にあるドアはけ破るまでもなくあかね達を受け入れるように静かに開き、ビビッドチームは遂にBI管理局最深部に侵入した
あかね「___」
最期の部屋には兵隊達の姿は見えない。警戒しながらも芳佳達は周囲をぐるりと見渡した。天井も横幅も広々とした大きな空間になっている。目を凝らせば様々な機械が並べられており、元は何かを実験するために用意されたスペースだったのかもしれない。だがこの部屋が今どういった役割を果たしているのかは中央にあるものを見ればすぐ理解できるだろう
半透明のエネルギーフィールドが筒状に天井へ向けて伸び、その中に一人の人間が閉じ込められている。トレードマークでもあるマフラーこそ巻いていないが、入室してきたあかね達を目を丸くして見つめて来るのは間違いなく黒騎れいだった
れい「!!???」
あかね「びっくりしたって顔してるから先に言わせてもらうけど___助けに来たよ!」
れい「たっ……はぁ!?」
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隔離実験室の扉が開かれた音を聞き、れいはゆっくりとそちらへ顔を向けた。また七面倒な尋問か、意味のない悪口でも浴びせられるのだろうかと考えながらうんざりしていた
ビビッドフォースに敗れた後、れいは崩壊した街並みに倒れていた。彼女のギラついた戦意はへし折れ、次の行動を取る気概はすっかり失われていた。やがて捜索に来たであろう防衛軍の軍人は抵抗しない彼女をおっかなびっくりながら捕らえ、取り合えず管理局へと運び込んだ
乱暴な扱いは受けなかった。というよりそんなことをする勇気が普通の人間にある筈もない。抵抗をしないといえど、いつ爆発するか解らない超大型爆弾と同じような危険物。ただ、黒騎れいを捕らえたという報告が局長である柴条に送られるのにはかなりのラグが発生した
防衛軍の息のかかった者が管理局内に紛れ込んでいた事が事態をややこしくした。彼らは指揮系統の間に割り込み、柴条が事態に気付く頃には黒騎れいは地下の特殊牢に入れられていた。さらに防衛軍本部指揮下の兵士達による少々乱暴な情報統制が敷かれてしまい、即座に健次郎へ連絡することも出来なくなってしまったのだ
……とまあ、その辺りの事情はれいには知る由もない。彼女はぼーっとされるがままに運ばれ、何を閉じ込める為に用意されたのか解らない全面エネルギーバリアが張られた仰々しい牢に閉じ込められ、その後何度か尋問めいた事をされた。しかし最早喋る言葉もないれいは完全に無視を決め込み、ここ数時間は完全に放置されている状況にあった
だから色とりどりの少女達とごっつい銃を抱えた魔女達が扉からぞろぞろと入って来たのを見て思わずずっこけそうになった
「助けに来たよ!」
その言葉を聞いて完全にずっこけた
れい(いや、助けに来た-じゃないでしょ!!!!???私敵だって解ってないの!!!???)
そう口にしたくて、でも言葉にならなかった。色んな感情が吹き出して、もごもごと口の中で形にならない思いを拳に握って壁に叩きつけた
ジュッと音がして光の壁に接触している手に猛烈な熱さが伝わってくる。普通の人間なら瞬時に肉が焦げ付く筈だが、変身はしておらずともれいにとってはちょっと火傷するかしないか程度の痛みしか伝わらない。ただその程度の刺激でもれいの気を紛らわせる効果はあった
れい「……私を殺せるのはあなただけ。そう、成程。私を処分しようという事になったわけね。だから送り込まれたと、そうよね?」
あかね「え、なに言ってんのれいちゃん?」
ひまわり「なんかめっちゃ拗らせてるじゃん。自分をラスボスだと思い込んでるメンヘラみたいな事言い出したよ」
ペリーヌ「はいはい、煽るのはおやめなさいな」
宮藤「さっさとこのバリアぶっ壊しましょうよ」
れい「待って。待ちなさい。私と話しなさいって」
あかね「散々喋ったじゃん。殴り合いもしたし、もうケンカは終わりでいいでしょ?」
芳佳とリーネが飛び上がり天井を這う太いケーブルを引きちぎった。火花が迸りれいを囲っていたバリアが重苦しい電子音を立てつつ消滅していく。れいはあかねと距離を取ろうと数歩後ずさったが、かまわずあかねは一歩踏み出す
れい「あなたおかしいわよあかね。私が何をしたか___」
あかね「いいから。もう大丈夫だから」
れい「なんで……」
あかね「助けてって、言って」
指し伸ばされた手を握りたい。そう思ってしまう自分の心を抑えきれず、遂には涙が頬を伝う。こんな思いをするのは、かつて切り捨ててあろん子に押し付けた感情が、先の戦いを通して自分の中に少しずつ戻ってきているからだろう
れい「____たすけて」
あかね「うんっ」
れいの手を掴んで、ぐいっと抱き寄せた。複雑な問題が山積みである中で少々都合の良すぎる話かもしれないが、面倒なごたごたは一旦横に置いておこう。要はあかねは、ただ泣いている友達を抱きしめたかっただけで
れい「___ただいま」
あかね「うん。おかえり」
れいはずっと、家に帰りたかっただけなのだ
※防衛軍側に死人は1人も出てません。セーフです