もうじきクリスマスですが、みなさんサンタさんに何を要求しましたか?ぼくは有給を要求しました(韻を踏む
『分断してしまえば恐れるに値しません』
周囲から声が聞こえる。耳障りな音をかき消そうとあおいは思い切りハンマーを振るうが破壊する対象が無い空間では衝撃波がどこまでも飛んでいくだけだった。溜息をついてあおいは姿の見えない者に毒舌を吐く
あおい「あれだけ大きな口叩いといて私達が怖かったんですね。待っててください、今からぶっ飛ばしに行ってあげますから」
『御幣がありましたね。恐れている訳ではありません』
リーネ「いちいち言い返すようなことではないのでは……」
小声で疑問を呈しながらリーネは周囲の様子を伺う。本当に何もない。あおいと一緒にしばらく飛び回ったが景色が一切変わらない
わかば「私達を閉じ込めている間に世界を滅ぼす気!?観測者とか気取ってたくせに姑息な真似を!私達をさっさと戻して堂々と戦いなさい!!」
わかばは悪態をつきながらブレードを振り回したが、危ないからおやめなさい、とペリーヌに一喝され大人しく刀を下げた。とはいえペリーヌも気持ちは解る。この空間は何もない。あまりにも何もなさすぎる。朧気で焦点の合わない風景に上下の概念すら薄れ始め、長くいれば気が狂いそうだ
別の空間に居る仲間達の声は聞こえないが、それに応対するカラスの声は全員が漏れなく聞こえていた。だから問いかける内容は聞こえずとも答えから大体どんな質問かは想像する事が出来る
『あなた方に戻る場所などありません。あなた達は真髄に至ったと言えど、まだ肉の身体に魂が縛られている低次元の存在。産まれの世界が消滅すれば、あなた達の在り方も大きく弱体化します』
ひまわり「その後私達も消滅させておしまいって訳?」
『試練に失敗していれば、真髄に至れなかったあなた方を消滅させて私の力として取り込む事が出来ました。しかし今となっては私の力をもってしてもあなた方4人を完全に消滅させるのは非常に骨が折れます。それよりも都合の良い手駒として残した方が賢いでしょう?』
れい「___」
『気付きましたか?ですが思い出せはしないでしょう。あなたの心の揺らぎを利用して2つに引き裂いたのは私です。まさか合流して合体しようとするとは……』
あろん子「あなたが……!」
『怒るようなことではないでしょう。どうであれ、黒騎れいは己の存在を受け入れて振る舞っていました。望みを叶えてあげたと言っても過言ではないでしょう?』
あかね「そんなのおかしいよ!どうせ記憶とかいじったりしたんでしょ!」
『多少は。余計なものを排除してあげれば、黒騎れいは非常に素直にあなた方の世界を破壊する為に奔走してくれました。その冷酷さまでは私が用意した物ではありません』
ひまわり「これまでは大人しくしてた癖に、急にこんな大胆な……。もしかして、れいをどうこうしろって選択肢が本当の最後の試練だったってこと?」
『その通り。憎らしい事に、あなた達は想定された試練を全て乗り越えました。アローンを撃退し、そのアローンを呼び込む原因として送り込まれた者と絆を育み、最後にそれを受け入れた。彼等は大変満足しています。
___そして、もう彼等はあなた方から手を引いた。試練を乗り越えたあなた達の世界に私がどう介入しようと、〈管理者〉達は介入しません。独り立ちしたあなた方が対処すべき問題だからですよ』
ひまわり「小物臭い!陰湿!根暗!」
ペリーヌ「お口が悪いですわよひまわりさん」
『私の持つ力は本物です。あなた方からしても遥か上の存在。管理者達の介入が完全に消滅した以上、こちらも手加減をする必要がなくなりました』
宮藤「あなたは何のためにこんなことを……!人を不幸にしてるだけです!」
『いらないのですよ、我々以外に示現力を所有する存在など。我々は絶対の存在。その地位を揺るがされてはならないのです。イレギュラーが発生しない為の監視と管理だというのに、彼らは新たな可能性を求めている。危険な兆候です。最早管理者達のやり方は正しいとは判断できません』
ひまわり「だからあなたが取って代わる為にあっちこっちを滅ぼして取り込んでるって訳?精が出るねほんと」
『これまで様々な世界が私の力の一部となってくれました。れいの世界も同様。そしてこの世界も、間もなく』
れい「……」
激しい怒りと虚しさがふつふつと沸き立つ。れいの記憶は以前の世界に関しての物は薄い。最低限しか覚えていない。だがしかし、今の友達を手にかけてでも取り返したい尊いものであった事は確かで、その為にカラスの話に乗ったのだ
あかね達の試練を邪魔する事と引き換えに滅びた世界の再生を。友を殺す代わりに、死んだ友を生き返らせてくれると。あまりに邪悪な甘さを孕んだ取引を受ける為、自らの心から善の部分を切り離したのだと思っていた。しかしそれは間違っていた
悪に手を染めるという覚悟すら己が生んだ物ではなく。試練を妨害する為の都合の良い手駒として作られた自分という存在。あろん子を通して少し取り戻したかつての『自分』が持っていた正義の心が、〈黒騎れい〉という悪に呑まれた存在を許せず、じわじわと不快感が全身を蝕む。感情を処理できないれいの震える手は、しかしあかねにぎゅっと握られた途端に静かになる。彼女の温かな心が肌を通して伝わってくる
あかね「れいちゃん」
れい「私は……愚かね」
あかね「そんなこと___」
れい「いいえ、愚かよ。どういう理由があったとしても、私は自分を愚かだと断じる。でももう一度、もし叶うのなら……今度こそ、正しい事をしたい。皆を笑顔にできるように……。力を貸して欲しい」
あかね「うん!一緒にやろうよ!」
あろん子は迷っていた。彼女はれいよりも人間性が希薄なアローン存在であり、自らの数少ない人間的感性の大半を占める善性が揺らぐことを本能的に恐れている。れいが持つ悪の心を受け入れるのが怖かった
あろん子「私、あの子を受け入れられないかもしれない」
宮藤「なんで?」
自分一人では解決できる問題ではないが、傍に寄り添ってくれる友人がいれば話は別だ
あろん子「あの子、悪いヤツだもの」
宮藤「だから認めたくないって?れいちゃんも、あなただってこと」
あろん子「……」
芳佳から目を逸らした。咎めるような彼女の言い方が少し怖く感じた。宮藤芳佳はどんな人間の事だって受けいれてくれる人間だったが、正しいと思った事は絶対に口にする性格でもある
宮藤「れいちゃんは、元のあなた達の悪い心の部分だけで構成されてるって言ってたよね。私とかリーネちゃん、あかねちゃんだって……誰だって自分の中に悪い部分くらい持ってるものだよ。あろん子ちゃんだって解るでしょ?あかねちゃん達は、それも受け入れて友達になって、今も一緒に戦ってる」
あろん子「追い込まれたからって、やっちゃいけないことをしちゃう人間だったのよ、元の私は。そんな私に……戻りたくない」
宮藤「元のあなたは、世界を護る為に命を賭けて戦ってた。そんなあなたのことを悪く言っちゃ駄目だよ」
あろん子「……」
宮藤「悪い心を持ってたように、あろん子ちゃんの優しさだって元のあなた達が持ってたものだよ。あろん子ちゃんが一緒にいてあげないと、れいちゃんまた色々やらかしちゃうかもだよ?」
あろん子「ま、そうね。自分のミスは、自分で取り返さないとね」
宮藤「そうそう!その意気だよ!」
『愉快な話し合いに水を差して申し訳ありませんが、あなた方はもう二度と同じ空間に存在する事はできませんよ。今あなた方がいるのは私が特別に創り上げた次元の狭間に作った牢獄。出口などありません。』
あおい「はい?次元を隔ててもあかねちゃんがどこにいるかなんて余裕で解りますんで。勝手に行かせてもらいますからね」
二度と会えない訳がない。二葉あおいは一色あかねに___あと他の代え難い友人達にも___会う為なら次元の壁など何枚でも破壊できる自信があった。自分1人なら少し時間がかかるかもしれないが、今ここには頼れる仲間が1人いる。リーネも一瞬不安が胸をよぎったが、直ぐに己を奮い立たせあおいと目を合わせ、2人は同時に頷いた
ひまわり「ビビっちゃ負けだよ。わたし達もあのカラスも、もう変わらない。気持ちで負けなきゃ私達は負けない」
わかば「立ちはだかる壁がどれだけ高かろうと、乗り越えてみせましょう。私達は飛べるのだから!」
ペリーヌ「お高く止まっている所申し訳ないのですけど、さっさと戻らせてもらいますわよ。坂本少佐が待っておられますから」
れい「こんなシラけた場所で___」
あろん子「時間潰してる暇はないのよね!」
遠く、ここではない場所から聞こえる自分と同じ声色。2人の心は次元を越えて繋がった
あろん子は彼女へ向けて手を伸ばした。目の前の次元が揺らぎ、ぬっと飛び出してきた手があろん子の手を掴んで思い切り引っ張った。勢いに身を任せて黒く渦巻くゲートをくぐる
れいはゲートから引っ張り出したあろん子を少々荒っぽく抱きしめた。あろん子もれいに手を回して強く身体を引っ付ける。2人が言葉を交わす事は無かった
後を追いかけてひょっこりゲートから現れた芳佳は何も言わずいそいそとあかねの横に移動して2人の様子を温かく見守った
抱き合った2人の姿が黒い光へと変わっていく。鈍い輝きを放つ2つの黒い塊がカラフルな光の線へと分離し、螺旋に絡まりながら深く美しい黒の輝きを誇る純真な少女の姿を構築していく。かつて分かれて相反する2人に分かれた彼女達は自らの醜さも輝きも受け入れ合って元の一つへ戻っていった
あかね「じゃ、わたし達も行こう!」
宮藤「うん、あかねちゃん!」
わかば「3人の力を集めて次元の壁を破るわよ!さあチューするわよ!!」
ひまわり「わかばほんとデリカシーが無いね。びっくりするくらいないね」
ペリーヌ「わたくしは遠慮しますので、お二人でなんとかしていただけます?」
ひまわり「混ざんないんなら、この空間に置いてけぼりになるけど?」
ペリーヌ「仕方がないですわね……」
示現力の真髄に至ったわかば達であれば相手の意志などある程度無視して一体化するのは可能といえど、心の底からの信頼が無ければ力が増すことはない。まあ、結果的に彼女達3人の合体は非常にうまくいった。ペリーヌのツンツンの裏にどんな感情があるのかなんて、わかばもひまわりも付き合いを続ける中で大体解っていたのだ
あおい「早く助けに行かないとあかねちゃんがムチャクチャしちゃうし……!」
リーネ「芳佳ちゃんにこれ以上無茶させたくない……!」
2人は手を取り合った。こんな所で止まっている訳にはいかない。親友に振り回されるもの同士、通じ合うのは簡単だった
あと11日以内に完結させるつもりはあります。本気です