健次郎「えー。では、このワシ一色健次郎が軽くご挨拶を」
あかねの頭の上から健次郎が声を張り上げた。先ほどまでがやがやと騒がしかった庭はすっかり静まり返っている。参加しているメンバーの殆どは成人もしていない子供達なのだが、501の一員として教育を受けている彼女達は式典での作法も心得ていた
ルッキーニ「……」
シャーリー「もうちょっと大人しくしとこうな」
ルッキーニは逃げ出さないようシャーリーに抱っこされていた。まあちょっとした例外もいる、ということだ。ちなみに静かにしているメンバーだが、大半はお腹が空きすぎて声を出す余裕が無いだけだという事を補足しておく
健次郎「うむ。長々と話すと、とって食われるかもしれんな。この度は我々の世界の平和の為奔走してくれて、本当にありがとう。諸君らの労をねぎらう為、色々と用意させてもらった!存分に呑んで食って、騒いでくれ!あかね、乾杯を!」
大島は閑散としたのどかな島だ。家と家の間隔も広い。存分に騒いだとしても問題は無かった
あかね「おっけー!みんなコップ持ってー!……んじゃ、お疲れさまでしたー!かんぱーい!!」
「「「「かんぱーい!!!!!」」」」
ガチャンガチャンとコップがぶつかり合う景気の良い音があっちこっちで鳴り渡る。特にあかねとぜひ乾杯しようと大勢の人間がひしめき合った
バルクホルン「宮藤達が世話になった。礼を言わせて欲しい」
あかね「い、いやいや!わたしこそ本当に助けてもらったんですから!」
バルクホルン「……宮藤やリーネ達に何かあったらと思うと気が気じゃなかったんだ。救われたのは私でもある。本当にありがとう」
バルクホルンだけでなく、ウィッチ達もみなあかねに礼を言って頭を下げた。あかねは慌てて皆に頭を上げてもらい、その後笑顔で乾杯に応じた。晴風に乗る人間とも乾杯を終える頃にはあかねのお腹はぺっこぺこだった
あおい「あはは、大人気だねあかねちゃん」
リーネ「ね」
2人もこつんとコップを合わせて、ジュースをくいっと飲み干した。庭に並べられたテーブルの上には一色ましろ、もも、芳佳を筆頭に晴風調理室を担当する少女達による立食パーティ用の料理がこれでもかと盛り付けられていた
坂本「うむ、うまい!うまい!」ガツガツ
バルクホルン「やっと宮藤達のメシが食えるな」
岬「」モグモグ
宗谷「岬さん、口にいっぱい詰めすぎ」
岬「美味しいんだもん」モグモグ
れい「うん、久々にちゃんとしたもの食べたわね」
宮藤「家出て行ってからどうしてたの?」
れい「適当にパンとか食べてたわ。あんまりお腹空かなかったし。でもこの世界に帰ってからはメチャクチャお腹すくようになったから、ご飯がとっても美味しいわ」
ひまわり「元の世界に帰んなくてよかったの?いや、私達は嬉しいけど。待ってる人とか……」
れい「……復元された世界は、崩壊するよりもかなり前、示現力の試練が終わった直後の時間軸で再生されたの。無論、そこにはもう〈私達〉がいた。完全な1つになる前のね」
ひまわり「……」
れい「そんな顔しなくていいわよ。寂しいけど、それよりも嬉しいの。私は私の選んだ選択肢に後悔はない。あの世界の私達が新しい幸せの形を見つけてくれるなら、それでいい。私は私で幸せになるから」
そう言って、ちょっとも寂しさを感じさせない満足しきった顔で笑うと、れいは卵焼きを口に放り込んだ。横で聞いていたあかねが最も気になっていた疑問をぶつける
あかね「じゃあ、ずっとこの世界に居てくれるの?」
れい「うん。迷ったけどね」
あおい「迷ったって、なにを?」
れい「最初は芳佳達の世界に行って、戦いに参加しようと思ってたの」
宮藤達の世界は混沌極まる大きな戦いが続いている。それは前からも話には聞いていたし、芳佳とドッキングして記憶を見たあかねは当然その状況が楽観視できるものでないことも知っていた
だが、501の代表でもあるミーナや坂本、岬や他の晴風乗員からも言われた。あかね達はこの世界に残ってほしいと
岬『私達の世界は今色んな次元が無理やり重なってるらしいから、これ以上他所の次元の人が来ちゃったりしたら大変な事になるかもしれないの。それに強い力を持ってる人は特にバランスを乱しちゃうから……』
ミーナ『それに、あなた達はこの世界で幸せに暮らしていて欲しいの。気持ちはありがたいけど、あくまで私達の世界の問題です。本来、あなた達は戦いなんて知らずに生きていていい人間なのだから』
感情と理屈と、両面で攻められればあかねも引き下がるしかなかった。れいも同じ事を言われ、結果あかねと同じ選択をした
れい「それより。家探さないと。隠れてたアパートはカラスが書類をちょろまかして居座ってただけのものだし」
あかね「え?」
れい「え。なに?」
あかね「ウチに住むって選択肢一択だと思うけど」
それは悪いわよ、と言おうとしたれいは後ろからましろに抱きしめられた。れいは驚いたが、振り払うことなく前に回って来たましろの手を軽く握った
ましろ「面白い話してるみたいねー?」
れい「いや、あの」
ましろ「れいちゃん、戸籍もなんもないんじゃない?ああ、お父さんが学園入学用に用意してくれたんだっけ。じゃあその勢いでウチの養子ってことにしましょうか。それともイヤ?」
れい「あのあの、嬉しいです。嫌な訳ないんですけど___」
ましろ「私達が迷惑に思うかも、なんて言ったら怒るからね」
れい「ぁぅ……」
ましろの真っすぐとした瞳に心の奥底まで見通されたような感覚を覚え、れいは思わず口をつぐんだ。〈お母さん〉に怒られる、というのはどれだけ強い力を持つ存在であっても身が縮こまる怖さがあった
ましろ「ま、そういいたくなるのは解るけどね。でも、本当にだいじょうぶだから。むしろ、あなたみたいな子を1人ほっぽりだせなんて言われたら絶対お断りだもん。ね?」
れい「………………じゃあ、お願いします。私を、お家においてください」
ましろ「うん。今かられいちゃんはウチの子ね!」
あかね「やったー!」
もも「お姉ちゃんもう一人増えた!やった!」
後ろからましろ、前からももとあかねに抱き着かれてれいはもみくちゃにされながらも、くすぐったそうに笑っていたがそこにあおい達も混ざってくる
あおい「そんな!?私もお家においてください!」
ましろ「いや、あおいちゃんのお母さんに怒られちゃうから」
あおい「お願いしますお義母さん!」
ましろ「あ、ああー……そういう感じなんだ。あおいちゃん、そういうのならせめて高校出てからちゃんとお話ししようね?」
あおい「ぃよっし!!!」
あかね「何の話?」
あおい「うぇっ!?あああ、その、また今度ちゃんと話すね!」
わかば「れいの方がお姉さん?」
ひまわり「以外とあかねの方がお姉ちゃん力あるかもだけどね」
シャーリー「おーい何の話だ!?」
あかね「あ、シャーリーさん!あのですねー___」
楽しい時間は陽が落ちても続いた。料理が無くなればデザートのスイカをみんなで食べて、日付が変わる頃になっても話は尽きなかった。だが、いつかは必ず終わりが来るものだ
片付けは大人組がやるからと子供たちはさっさと帰された。ウィッチ達もみな晴風に戻っていったが、一色家に住んでいたウィッチ達だけは家に残った
前までと同じようにみんなでお風呂に入り、わいわい騒ぎながら寝る準備をする
あかね達はその晩、みんなで同じ部屋で眠った。一番広い部屋に冷房を効かせてるものの、少々狭くて暑くて寝苦しい。それでも、みんなそうしたかったのだ
あかねは暗闇で芳佳の手を握る。静かに握り返される感触に安心を覚えながら、あかねはゆっくりと目を閉じた
今夜は綺麗な満月だった