数日後。あかねは海岸線に立っていた。芳佳とれいと初めて会った海岸線であり、あかねはその事を思い出しながら手の中で鍵をいじくり回していた
視線の先では、海に浮かぶ一隻の船。超技術の寄せ集め、空飛ぶ巡洋艦晴風は出向の準備を整えつつあった。耳に入れた通信機からは晴風内部で交わされる通信が聞こえて来る。作戦を円滑に進められるよう、情報を共有する為だ
坂本『皆、そろそろだ』
通信が聞こえる。それを聞いて、あかねは小さく息を呑んで隣に立つ彼女達を見た
エイラ「ああ、そうだな。帰る時間か」
シャーリー「名残惜しいもんだな」
ルッキーニ「もも!ありがと!また来るね!」
もも「うん!いつでも遊びに来てね!シャーリーさんも、エイラさんも!」
シャーリー「ああ。またももちゃんのご飯を食べに来るよ。本当にありがとう」
エイラ「じゃーな。世話んなった。元気でやれよ」
わかば「はい。そちらもお元気で」
3人は手を振りながら空に舞い上がり、晴風へ飛んで行った
ペリーヌ「さ、わたくし達も行きますわよリーネさん」
リーネ「は、はい」
ひまわり「ばいばい。怪我しないでね。ペリーヌはツッコミに雷使うのやめなよ」
ペリーヌ「ええ。あちらの世界ではわたくし以外にもたくさんツッコミ担当をなさってくれる方がいらっしゃいますから少しは楽ができますわ」
ひまわり「そりゃなによりで」
リーネ「あかねちゃんあおいちゃん。わかばちゃん、ひまわりちゃん。本当にお世話になりました」
あおい「初めて会った時、ハンマーで殴りかかっちゃってごめんなさい」
ペリーヌ「本当に驚きましたわよ。ふふっ、あの時のあおいさんの顔、今でも思い出せますわね」
あかね「ペリーヌちゃん、リーネちゃん!楽しかったよ!」
リーネ「はい!」
ペリーヌ「ええ、本当に楽しかったですわ。大変でしたけど」
ペリーヌとリーネも空へ舞い上がった。何度も振り返るリーネをペリーヌが引きずるようにして晴風へと戻っていく。最後は、芳佳だった。彼女だけはストライカーを履いていない
宮藤「わかばちゃん、ひまわりちゃん」
わかば「もう少し一緒にいたかったわ。正直そう思ってしまう」
ひまわり「学校行くのが少しだけ楽しくなくなっちゃうかも」
宮藤「うん、私も。もうちょっと……ほんとに、そう思う。ありがと」
固い握手を交わして別れる。最後にあかねとれい、芳佳は3人でがしっと円陣を組むようにして互いの顔を見つめた
宮藤「絶対また来るから。2人共、もうケンカしないでよ?」
あかね「しないしない!芳佳ちゃんこそ、次来るときは砂浜に墜落したりしないでよね?」
れい「記憶喪失にもならないようにね、芳佳。ヤバそうな敵が出たら呼びなさい、みんなで殴り込みに行ってあげる」
3人は最後に顔を突き合わせてげらげら笑うと、ぱっと手を放した。間を空けず、あかねはさっと鍵を構えた。別れの挨拶は全て済ませた。あとは彼女達を送り届けるだけだ
あかね「みんないくよ!」
「「「「イグニッション!」」」」
4人が揃って光に包まれ、そのまま1人の白い光へと重なり合う。彼女達の求めに応じてバリアを展開していた示現力が集まり、ビビッドフォースが顕現した
れい「芳佳、これを」
宮藤「れいちゃん?これって……れいちゃんのマフラー?いいの?」
ふわふわとしたマフラーを首に巻かれる。夏の日差しを浴びているというのに不快な暑さを感じず、じつに肌に馴染んだ。マフラーからは微弱ながら不思議な力を感じる
れい「大丈夫よ。私の分はあるから。じゃあ、行ってらっしゃい」
ビビッドフォースが芳佳を抱き上げて、砂浜から飛び立つ。芳佳はだっこされながらも、こちらに手を振るももや健次郎に手を振り返した
晴風の甲板に芳佳を降ろすと、ビビッドフォースは空へ飛び上がる。それを見て晴風のエンジンの出力が上がっていく
海面に波を荒立たせながら空に浮かぶ晴風。次元跳躍用の装置が起動し、船全体を巨大な光の粒子が覆う
岬「さて、無事に帰れるかなぁ」
坂本「はっはっは!何も心配あるまい、無事に来れた訳だしな。なにより帰りは、頼れる仲間に見送りもしてもらえる」
ビビッドフォースが手をかざすと、晴風の前に次元の穴が発生する。ネウロイが利用する黒く淀んで歪なゲートではなく、安定した黄金の光を放つ綺麗な丸い円のゲートだ。岬の号令で晴風はゲートを潜った
凄まじいエネルギー反応が起こり空の雲と海面に大きな渦を描く。強烈な閃光が二度三度と激しく明滅し、ゲートと晴風がこの世界から完全に消滅した
れい「___さようなら。ウィッチーズ」
れいの呟きは潮風に流され、誰の耳にも入らず消えていく。しばらくじっと空を見ていたれいは、ふぅっと息を吐いてくるりと振り返り歩き出した。あかね達が戻ってくるまで、家の掃除でも手伝おうかと考えながら
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宮藤「はぁ……」
ペリーヌ「溜息つくんじゃありませんの。こっちにまで辛気臭いのがうつるでしょうに」
リーネ「芳佳ちゃん、元気だして」
芳佳、リーネ、ペリーヌの3人は晴風艦内の船室で暇を潰していた。次元跳躍が終わるまではまだもう少しばかり時間がかかるみたいだった
宮藤「会いたい……あかねちゃんとれいちゃんに……」
ペリーヌ「まだ窓の外に居ますわよ」
船室から外を見れば、次元の狭間のキラキラした空間を飛ぶビビッドフォースがこちらに手を振っていた。それに手を振り返し、宮藤は船室のベッドに腰を降ろした
宮藤「今度いつ会えるのかなぁ」
リーネ「私達の次元が安定する方法を博士達が探っているみたいだから、そっちが落ち着いたらなんとかなるんじゃないかな」
ペリーヌ「頑張らないといけませんわね」
「そうね。張り切っていきましょう」
凛とした声が相槌を打つ。芳佳とリーネとペリーヌは完全に思考が固まった。そして声の方を向けば、そこには___真面目そうな顔で船室に置いてあったスナック菓子を頬張るあろん子がいた
「「「はぁ!!!????」」」
あろん子「うるさいわねえ。いいでしょ、私がいたって」
リーネ「よくないですよ!?え、なんで!」
あろん子「れいがマフラーに自分の力の一部を託したのよ。あ、安心して。別にまた善悪に分かれたりなんかしてないから。単純に、日常生活に必要ない戦闘力の部分に意志を持たせたのが私だから。それに、あなた達の次元のバランスを壊したりするような凄い力とかはもってないから。ちょっとしたサポート役程度のものよ」
しれっと喋るだけ喋り、ぽかんとしているウィッチ3人にずびっと親指を立てて見せる
あろん子「またあかね達に会えるように、頑張って芳佳達の世界も平和にしましょうね!」
リーネ「あ、あはは……」
ペリーヌ「もうなんというか……はぁ……」
宮藤「……はは、あはははははっ!」
宮藤達の大声を聞きつけて隣室のシャーリー達が部屋を訪れ、あろん子の姿を見たウィッチ達を中心に艦内が大騒ぎになる
その様子を外から見て爆笑していたビビッドフォースは、目的の次元が近付いてきた事を察知して岬に航海の無事を願う最後の通信を送って晴風から離れた
『またね』
遠ざかっていく晴風から返って来た短いメッセージ。きっとまた会えるだろう、という確信はある。あとはそれが近いうちであることを切に願う
いつかの再会を想像しながら、ビビッドフォースは光の向こうへ消えていく船を見送った