わ運事件と呼ばれるある戦術人形の反抗とその概要を記す

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ドルフロ わ運事件

某日

 

戦時中の虚無、静寂

それは一時の平和であり、たった一発の銃弾によって砕け散る

 

後にわ運事件と呼称される事件の始まりであった

 

「スオミは..はい。

既にグリフィンの隔離施設に拘束されています。

感情モジュールの暴走に成功しました。

えぇ..”おはぎ”は確実に効果を上げています。

ではまた....正規軍の参謀殿」

百式は通信機を切った。

 

百式は始めからスパイであった。

新人で右も左も分からない指揮官の部隊に意図的に潜り込んだ。

本来新人指揮官の元に配属されるはずだったスコーピオン、ステンMk-2他3名の

SMGからはコアが抜き取られていた。

百式は自らが本部から送られてきた ように偽装した。

それだけではない。

指揮官の無知を利用し、自らのダミー人形を半ば強制的に増やした。

「ダミー人形はこれで十分。

鉄血なんて相手にする必要はないですねぇ。

私が殲滅すべき相手は指揮官、あなた一人なのですから。」

百式は笑った。

 

 

「百式、ポイント7-4の後方支援を頼む。いつものメンバーでな。」

「はい。了解しました。」

その日も百式は後方支援へと回された。

百式は前線に出ることはほとんどなくなっていた。

しかしその日ポイント7-4とは全く別の方角へと進み始めた。

「どうしたの?百式、今回はそっちじゃないよ?」

ステンMk-2は首をかしげる。

百式はニヤリと顔を歪ませる。

その時、運命の銃声が鳴った。

「え?」

ステンMk-2の胸部に銃弾が打ち込まれていた。

「う、嘘 だよね..」

ステンMk-2は活動を停止した。

百式がくっくっくと笑いを抑えきれずに肩を震わせる。

「臭い銃ですねぇ。」

残りの他の人形は取り回しの悪いライフルであったため、

抜き撃ちが遅れた。

タタタッ!

銃声が鳴り響く。

第6部隊の人形が活動を停止した。

 

銃声から数分後

指揮官は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

もちろん、砂糖とミルクはたっぷり入っている。

「...(やっぱり昼はこれだよなぁ。)」

「6部隊の様子、おかしい。」

そんな呑気なことを考えながら、昼休みを満喫している指揮官の横で

副官のグリズリーが異変に気づいた。

「どうしたグリズリー?」

「指揮官、これ見て。」

「ん、指輪がどうかしたのか?」

「そうじゃなくて、6部隊の様」

ドッーー!!

激しい爆発音と共に建物が揺れる。

天井と照明が一部崩れる。

 

「ゴホッ、ゴホッ!一体何が?」

「指揮官、立って。襲撃よ!」

「襲撃?鉄血か。でもこんな内地に...」

「ううん、違う。あれは」

「おまたせしましたねぇ。指揮官」

百式が5体、並んでいた。

「その手榴弾はステンの、

どうしてお前が...

人形がこんなこと出来るわけ」

「私は特別なんですねぇ。」

百式が5体銃を取り出す。

「指揮官、伏せて!!」

グリズリーが指揮官の身体を床に押し倒すと同時に

百式がサブマシンガンを横薙ぎに撃ちまくる。

喫茶店にいた客の数人に当たり、叫び声と呻き声が上がる。

「こんな...

こんなことがあるかよ!!!

人と手を取り、支え合うのが俺達の

人形と人のあり方じゃなかったのか」

「私は百式という存在であって、戦術人形などという

下等な存在ではないですねぇ!」

百式が銃口を向けるより早くグリズリーが指揮官を抱えて物陰へと滑り込む。

「指揮官、話は通じなさそうよ。」

グリズリーが銃を抜き3発、百式のダミーへと弾丸を打ち込む。

百式はサブマシンガン特有の銃撃回避性能からすべての弾を回避する。

「くそ、どうしてこんなことに。」

「やっぱり射撃速度が足りないか...増援到着までなら」

「駄目だ。相手は5体もいるんだぞ。」

「そうは言っても何か手はあるの?」

「考えてくれ」

「もう、自分でも出来るでしょ。」

グリズリーはそう言いながらも、

ネットワークで最善の戦術を検索し始める。

「あまいですねぇ。」

百式が戦術人形特有の固有能力を発動する。

「桜逆像!!!

それにこれもサービスしておきますねぇ。」

百式がグレネードを投げつける。

喫茶店内がすべて桃色のバリアに覆われる。

「しまった!」

グリズリーがネットワークから切断される。

そのバリアが完全に覆われる寸前に指揮官を押し飛ばす。

ドゴォォっ!!

「グリズリー?」

指揮官は4mほど宙を舞うが、

机をクッションにして起き上がる。

「状況がまずい。指揮官、にげ て。」

手榴弾が炸裂し、その爆風をもろに受けたグリズリーが停止する。

「そんな....」

「これで終わりですねぇ。」

百式が指揮官の襟元を掴み、身体を持ち上げる。

「ぐっ!」

指揮官の身体が軽々と持ち上がる。

「銃はこうして使うんですねぇ。」

指揮官の口に100式銃の銃口が突っ込まれる。

「美味しいですか?私のおはぎ。

サービスしてあげますよ。」

百式が笑みを浮かべる。

「うぐっ!」

もう一体の百式が銃床を指揮官の背中に打ち付ける。

銃口と指揮官の口を緊張で粘ついた唾液が糸を引く。

「私はこの機会を待っていたんですねぇ。

そろそろ終わりに」

百式が引き金に力を込める。

 

「私は殺しの為に生まれてきたの!」

 

指揮官には快活な声がかすかに聞こえた。

タァーーン!!!

5発の銃弾が5体の百式の身体を同時に貫く。

百式の身体が勢いよく吹き飛ぶ。

「指揮官!!!聞こえる?」

店の外で他の人形の声がする。

「んああ、諦めない。貴様を、貴様を殺す!!!」

百式が上半身のみになった身体で銃口を指揮官に向ける。

「同志!」

突然、指揮官の視界を蒼い曳光弾が横切る。

桜色の障壁が完全に砕け散る。

銃弾が百式の頭部を貫き、完全に停止する。

「ス、スオミ...

戻ってきてくれたんだな。」

「同志、部屋の整理はまだですけど仕事の時間ですよ。」

スオミのKP-31が店の外でガンスモークを立てていた。

「ちょっと!?アンタ達で勝手にいい感じにまとめないでよね!」

5体のダミーを引き連れたWA2000が走ってきた。

「わーさん。」

「フン、私がいないと危なっかしいんだから。」

「助かったよ。ワーちゃん。」

「感謝しなさいよ!」

「あぁ。帰ったらケーキ100個で良いかな?」

「ってSPASじゃあるまいし、そんなに食べられないわよ!」

「ん...」

指揮官の傍で倒れていたグリズリーが起き上がる。

「グリズリー...良かった。」

「外骨格って強化しとくもんだね。」

指揮官がグリズリーを抱きしめる。

「ほんとうに良かった...」

「またドライブ行けるね。指揮官」

指揮官の頬を一筋の光が伝う。

「副官は相変わらず甘いわね。」

「そう言えば、わーさんの狙撃凄かったですね。」

「ふん、2000mで確実に当たる保証なんて無いわよ。

運よ。運。」

「わーさんの運、わー運、わ運ですね。」

指揮官は笑った。

 

わ運事件 グリズリーの手記より

 



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