1話 雪の日
2年前──01/23(木)
その日は朝から雪が降っていた。
(また雪だ。今年は多いな。)
ベッドから起床した、ストレートの長い黒髪をした少女はカーテンを開けると、ふとそんなことを考えていた。
彼女の名前は刀根虹(とね にじ)。
明快で強気な印象を与えるツリ目が特徴な、中学2年生。
新雪に煌めく外の景色と裏腹に、その表情は曇っていた。
虹はふと机の引き出しから、写真を取り出し眺めた。
そこには、雪だるまの髪留めをした小学5,6年生くらいの少女が、上目遣いのはにかんだ笑顔で大きく映っていた。
(どこに行ったの。生きてるなら帰ってきて。
雪子。)
虹は、写真の中の雪子という少女の頭を撫でながら、そう心の中で願うと、涙を拭き、写真を引き出しに戻して、部屋を出た。
月詠町と呼ばれるこの街やその近郊では、体が闇の粒子でできた闇の人間──“ダーククラスター”が世界を闇に染めるための侵略活動が行われていた。
それを防ぐため、戦う光の戦士──それが“ハートジャスティス”。
彼らは生まれながらにして、シャインハートという光の力を心に宿す。
シャインハートは強い思いを感受し、シャイニングハートへと覚醒。
ダーククラスターと戦う“能力”を有する。
しかし、能力は決して闇の人間を完封できる程の強力なものではなく、戦いに破れた犠牲者も多くいる。
雪子も、今日のような雪の日に、忽然と姿を消してしまっていた。
虹は、1階に降り、洗面所で顔を洗うと、真っ暗な人気のないリビングに入った。
電気を点けると、テーブルの上にある、置きっぱなしにしてあった空っぽのカップ麺の容器を取って、台所に直行し、軽くすすいでゴミ箱へ捨てる。
コンロの上にあるやかんを取ると半分くらい水を入れ、コンロへ置き直し、火を付けて沸かす。
匙と茶碗、コップを2セット食器棚から出し、テーブルに並べると、冷蔵庫からリンゴを取り出した。
慣れた手付きで皮を剥き、4等分にすると、嬉しそうな笑みを浮かべながら、皮をウサギの形に切っていく。
全てウサギの形にし終えると、小皿を2つ取り出して2個ずつ乗せた。
その瞬間、やかんのお湯が沸騰し、ピーと音を立て、慌てて火を止めた。
リンゴの乗った小皿をテーブルに移動させ、戸棚に手を掛けた時、階段からゆっくりな足音が聞こえた。
虹は手を止め、階段から降りてくる者を迎えに行った。
「おはよう! 三晴!」
「……おはよぅ」
降りてきたのは妹の三晴(みはる)だった。
5つ年が離れた小学3年生で、目付きは姉の虹とそっくりだが、髪は短くボーイッシュなショートボブをしている。
寝起きなのか、目を擦り、口調もふわふわとしている。
「ごめんね。やかん煩かったでしょ?
起こしちゃった?」
「ううん…。平気。
ふわあああ」
三晴は寝ぼけた感じの口調で答え、大きな欠伸をすると洗面所へ入っていった。
(三晴、あの子寝惚けてるな。
ちょっと起こしてあげるか!)
虹はそう考え、いたずらに笑い、待ち伏せするように、洗面所の入り口の側にこっそりと移動した。
「ねえ、虹姉ちゃん」
「てい!」
数秒後、洗面所から出て来た三晴の体を、虹が指で軽く突いた。
「うわ! ちょっ、何? 虹姉ちゃん!?」
三晴は突然始まった姉のちょっかいに、面倒くさそうに言う。
「だってー、三晴寝惚けてんじゃん!!
だから起こそうと思って!!」
虹は笑顔で両手の人差し指を回しながら、嬉しそうに言った。
そして次の瞬間、また何度も連続で三晴の体を突っつき始めた。
「てい! てい! てい!!」
「ちょっ、虹姉ちゃん! やめ……! もう起きてるって!」
「ててい! てい! てーい!!」
「だから、もう起きて………いい加減やめんか!!」
「うぐ!」
三晴はあまりにもしつこく突くものだから、痺れを切らし、電話台の上に乗っていたチラシを丸め、虹の頭を叩いた。
だいぶ勢いがあったのか、虹は頭を抑えてしゃがむ。
「もう、そこまでしなくてもいいじゃん」
「それはこっちのセリフ。
おはよう。虹姉ちゃん。もう起きてるよ」
「うん、おはよう」
三晴はチラシをもとの位置に戻すと、リビングへ向かい戸棚を開けた。
虹は少し視線で見送った後、立ち上がると三晴の隣についた。
「三晴、力強くなった?
ねえ、やっぱりあたし、三晴は剣道の才能あると思うんだ!
中学入ったら剣道部に入らない?」
「……中学なんてまだ先でしょ?
私まだ3年生だよ。
それに、部活動とか、人と関わることやりたくない。
虹姉ちゃんだって、部活入ってないんでしょ。
……メロンパン貰っていい?」
「いいよ。私はジャムパン!
あとではんぶんこしようね!
……でもホントに才能あると思うんだけどなー。
今のだってプロ顔負けの“面!”だったよ?」
「さっきのがプロ顔負けなら、そのプロは顔見せられないだろうね」
「だから面つけてるのか!」
「そうじゃない…」
「あれ?」
姉妹は話しつつ、戸棚から思い思いのパンを取り出し、粉末タイプのコーンスープを茶碗によそいだ。
虹はやかん、三晴はお茶を取りそれぞれのコップや茶碗に入れる。
「でもなー。いいと思うんだけどなー。
ほら、三晴、前賞取ってたでしょ?」
「………なんの?」
すでにメロンパンの袋を開け、食べ始めていた三晴は、なんのことか検討がつかず、聞き返す。
「ほら、あれだよ。
えっと……そう! 彫刻刀!!」
「彫刻刀……? ああ、版画コンクールね。
うん。確かに表彰はされたけど……
って、彫刻刀と剣道……どう関係あるのさ」
「えーだって剣道って剣じゃん!
それで彫刻刀って刀じゃん!
ほら!!」
「ほらって言われても……」
「えー、だめー?
似てると思うんだけどなー」
席についた虹もジャムパンの袋を開け、不貞腐れたようにパンを口へ詰め込むように食べ始めた。
「ん……んふっ! んふっ!」
その結果噎せてしまい、鼻で咳をする。
幸い、急いで口を抑えたことでパンを吹き出すことはなかった。
「もう。大丈夫?」
三晴は急いで、虹の背中をさすり呆れたように訊いた。
「ん。んいんーん。
んいんおー」
すぐに咳は止まり、“大丈夫、ありがとう”と言ったつもりだったが、口にパンが詰まっているため、ほとんど言葉になっていなかった。
「もう。虹姉ちゃんももうすぐ中3で最高学年なんだから、もうちょっと落ち着いて大人っぽくなってよね」
「ん。んんいんーん」
「ほんとに分かった?」
「んんっんんー!」
もごもごしながら“わかってる”と返事する姉に、呆れながら三晴は元の席に戻る。
匙を手に取り、コーンスープを掬うと息を吹いて冷まし、口へと運ぶ。
「あったかい
ねえ、虹姉ちゃん。今日雪降ってるね。
外見た?」
「え……。
あ、うん。見た見た」
三晴の質問に、虹は一瞬動きを止めたあと、笑いながら答えた。
その姿に三晴は不思議そうな顔をする。
「あれ? 虹姉ちゃん、雪好きじゃなかったっけ?
この前のときも帰ったら雪合戦しようって、大はしゃぎだったじゃん」
「う、うん…! 全然好きだよ…!!
今日も雪合戦し……うわっ!!」
虹は必死に誤魔化したが、お茶を取ろうとしたとき距離を見誤りコップを倒してしまった。
「あーあ。
虹姉ちゃん何やってんの?」
三晴は小言を言いながらも、すぐさまティッシュでこぼれたお茶を拭いた。
「ごめんごめ……わっ!」
虹も急いで拭こうとしたら、今度はコーンスープの茶碗にあたり、こぼれそうになった。
「あ、もう!
あぶない…」
「ごめん」
虹は負い目を感じたのか、座り込んで俯いてしまう。
その様子を三晴は黙って見ながら、テーブルのお茶を拭きとり、ティッシュをゴミ箱に捨てると、冷蔵庫からお茶を取り出し、虹のコップに注いだ。
「どうかした?
虹姉ちゃんらしくないよ?」
いつもなら、失敗してもおちゃらける姉が萎縮する姿を見て、三晴は何かあったのかと声をかけた。
「う、ううん。
なにもないよ…!」
「なにもないわけないでしょ。
虹姉ちゃんはわかりやすいんだから」
笑って誤魔化す虹に、三晴は呆れながら言うと、メロンパンを半分千切り差し出した。
「“嬉しいときも悲しいときも、なんでもはんぶんこで頑張ろう”って言ったの虹姉ちゃんでしょ?」
「あぁ、うん。そうだね」
虹は困惑した表情になり、自分のジャムパンを半分に千切ると、三晴へ差し出し、メロンパンを受け取った。
三晴はジャムパンを受け取ると、なにかを待つかのように虹を真っ直ぐ見詰めた。
どこか威圧感のあるその目に見据えられ、虹は思わずお茶を飲んでいた。
そして、一息つくと笑顔を作り
「………でも、ホントに大丈夫だから…!
いやー、実は昨日夜更ししちゃってさー」
とまた笑ってごまかした。
「……そう。
あれだけちょっかいだしてたのに、寝不足なのは虹姉ちゃんの方だったんだ」
三晴は呆れた口調で言うと、ジャムパンを一口食べた。
普段の寝不足なら、何もないところを開こうとしたり、パンに熱湯注いだり、コップをかじったりと奇妙な行動を取るため、三晴はすぐに嘘だと分かった。
9年間の妹経験で、悩んでいると分かったが、ここまで頑なに言い出さないのは珍しいことだった。
「あははー。
メロンパンも美味しいねー…!」
虹は笑って誤魔化すとメロンパンを食べ、まだ飲み込んでないのに感想を言う。
「とりあえず、寝不足ってことにしとくけど。
何かあったら言ってよね。
今、言いたくなくてもいいから、話したくなったら言ってね」
三晴はとりあえず話を合わせ、言い出すまで待つことにした。
三晴が落ち込んでるときに、よく姉が取る手法だ。
「うん。ありがとう」
虹は三晴の言葉に、笑顔でそう言った。
朝食を食べ終え、歯を磨くと、虹は学校の準備のために一旦部屋に戻った。
制服に着替え、長い後ろ髪を大きな赤いリボンで結ぶ。
「あっ! ……ああ、まっ……いっ………かぁ。
(元ちゃんに見せてもらお……)」
時間割を見て、鞄の中のノートを入れ替えつつ、数学の宿題をやり忘れていたことに気付くが、自力でやっても分からないと思い、諦めた顔でそのまま中に仕舞った。
雪で濡れるであろうと思い、替えの靴下を入れ、肩にかけると、枕元にある四角い皮のケースをポケットに仕舞い、部屋を出た。
「あれ? 虹姉ちゃん、もう行くの?」
いつもより早い時間にドアの音がしたため、隣の部屋で同じく学校の準備をしていた三晴が顔を出した。
同時に、リボンが曲がってなかったり、靴下が左右バラバラでなかったりしたのを見て、少し安心したような表情をした。
「うん。さっき外見たら結構積もってて足元悪いからさ。
いつもより時間かかると思って」
「そう。
確かに虹姉ちゃん、はしゃいだり転んだりして時間掛かりそうだもんね」
「そういうことじゃない!
そういう三晴も気を付けてよね。そこんところおっちょこちょいなんだから。滑って産まれたての子鹿みたいになったりとかしないでよ」
「いつの話してんのさ!
もう、早く行くなら早く行って」
思わぬ反撃を受けた三晴は、顔を赤らませながら誘導するように虹の背中を軽く押すと、ドアを閉めた。
「もう。ちょっとイジっただけなのに」
虹は指を回しながら言うと、軽く頬を膨らませ、階段を降りる。
「そういうところもかわいいよー!
三晴ー!!」
階段を降りきると、体を軽やかに半回転させ、自然な笑顔で三晴の部屋へと叫んだ。
「早く行け!」
次の瞬間、三晴がドアを開けて顔を出し、言い放つと勢いよくドアを閉め、完全に閉まる寸前でまた開いた。
「虹姉ちゃん!
今日、リンゴ残ってた!?」
「リンゴ?
あー、あったよ! 確か…!」
「ほんと?
明日から朝当番、私だから!
文句言われるのやだから、確認して無かったら買っといてね!」
「分かったー!
あと、帰ったら即雪合戦だからね!!」
「分かってる!
じゃ、足元気を付けて虹姉ちゃん!」
三晴はそういうと、今度こそドアを閉め、部屋へと戻った。
「うん!
いってきまーす!!」
虹は見えないのを承知で手を振って返すと、キッチンに寄り、冷蔵庫を見た。
(うん。リンゴはまだあるね。
三晴は皮剥き上手くなったかなー!
楽しみだなー!)
ニコニコしながらリビングから出ると
「いってきまーーす!!」
再度、三晴の部屋へ叫んだ。
「いってらっしゃーーい…!」
部屋からめんどくさそうな声が返ってくる。
それを聞いて虹はまた笑みを浮かべ、靴を履いて外へ出た。
外は雪が積もり、いつも何気なく見る景色ががらりと変わっていた。
足元は新雪で敷き詰められ、歩道と車道の境がわからなくなっている。
風はそこまでないため、吹雪とまではいかないが、それでも降雪の勢いは盛んであり、世界を静かに塗り替えすようでもあった。
「あ! 元ちゃーん!!」
虹は目の前に、よく知る人影を見付け、雪道を飛び跳ねるようにして近付いた。
「ああ、誰かと思えば虹か。
おはよ!」
「おはよ!!」
虹が声を掛けたのは元ちゃんこと吉田元喜(よしだ げんき)。
虹のクラスメイトであり幼馴染でもある、ハートジャスティスのメンバーだ。
高い身長と整った顔、優しさと勇気を備える彼は女子からの憧れの的だ。
「珍しいな。いつもギリギリで登校するお前がもう家出てるなんてな。
妹と喧嘩でもしたのか?」
「いいでしょ…! たまには早く出ても………って言いたいとこだけど、ちょっと……居辛くてね」
はじめは言い返そうと思った虹だったが、元喜の顔を見ると嘘をつけないと思い、顔を暗くして少し俯いてしまった。
「………もしかして、雪子のことか?」
元喜は少し考えると、恐る恐る訊いた。
虹は黙って頷く。
「そうか……。いなくなったって日も雪だったもんな。
あれから一ヶ月……そよぎに訊いても、まだ学校には来てないって言うし、家にも帰ってないらしい……。
街中で雪子の母親っぽい人が捜索のビラ配ってるとこよく見るよ………」
話しているうちに、元喜の顔も暗くなっていく。
悔しさで傘を握る手が震え、足取りも重くなっていた。
「今朝……三晴と朝ご飯食べてるとき、雪の話になってね。
雪子のこと、思い出しちゃったんだ…。
それで、コップ倒したり、茶碗倒しそうになったりして、三晴は心配してくれたけど……………」
「言い出せなかった……んだな」
「うん」
二人は暫く、とぼとぼと雪道を歩いていた。
元喜は虹が今にも泣き出しそうな顔だったため、さり気なく道の端に寄せて、周りから見えにくいように体で隠した。
「三晴には……言えないよ」
暫くすると、虹がゆっくり口を開いた。
「三晴を戦いに巻き込みたくない。
母さんは……仕事で忙しいし、あの子、引っ込み思案だから、小さい頃から二人でなんでもはんぶんこで頑張ろうって励まし合ってた」
虹の傘を持つ手が震え出し、元喜の傘とぶつかり擦れる。
「千恵と竪倫さん、大吾と圭吾みたいに、兄弟はどっちもシャインハートを持ってることが多いから、もしかしたら三晴も覚醒するかも……」
話を進める度、虹の傘を持つ手の震えが大きくなっていった。
元喜は震えを抑えようと、虹の手を優しく包んだ。
声も震え出し、涙が溢れ出る。
「そしたら…!!」
ついに我慢できなくなり、涙が溢れた瞬間。
傘の尖端から、光の弾丸が上空へ放たれた。
不安定な気持ちが、虹の能力を暴発させたのだ。
元喜は驚き、思わず後ろへ跳び退いていた。
弾丸は真っ直ぐ空へと昇り、自然消滅した。
「虹…! お前………近くに人がいなかったからよかったものの…………」
元喜は非戦闘時の能力の使用を注意しようとしたが
「三晴が覚醒したら…!! ………三晴は……!!
三晴は……」
「虹………?」
涙を溢れさせ、取り乱すように叫ぶ虹を前に、何も言えなくなった。
「大丈夫……か…?」
「三晴は………。
あ……ああ………」
虹の脳裏に、戦死していった仲間たちの姿が浮かぶ。
今でも鮮明に記憶に残っており、夢に何回でも見る、仲間たちの死に様が。
「ああ………ああああああ!!!!」
虹は耐えきれなくなり、発狂し、頭を抑えて蹲った。
「虹!! おい! 虹!!
大丈夫か!!?」
元喜は自分の傘を虹に差しつつ、肩を揺さぶり呼び掛け続けた。
「元ちゃん!!
どうしよう……!! もしも……もしも三晴が覚醒したら……!!
あの子、ずっとあたしの背中追い掛けて育ってきたから、絶対戦うって言うはず…!!
あの子しっかりしてそうだけど、おっちょこちょいだし、それに、虫を殺すのも躊躇するようなタイプだし………!!」
元喜に気付いた虹は、元喜の肩を強く掴み、すごい剣幕で叫ぶ。
「落ち着けよ…!
考え過ぎだ。今のところその二組だけだろ?
沙弥香ちゃんと剣さん、それに長谷川や雪子もきょうだいいるけど、覚醒してないだろ。
もし覚醒しても、俺たちがしっかり守ってやればいいだろ?」
「そう言って守れなかった命はいくつあると思ってんの!!?」
「………ッ!!」
元喜は説得しようとしたが、虹の言葉になにも言えなくなった。
「雪子だけじゃない……!! 千恵や竪倫さん、剣さん、沙弥香、春流、善治、かこちゃん、義男…!!
それに、名前も聞けないままいなくなっちゃった3人…!!
みんな……みんないなくなった………。
あたしも……元ちゃんも………今いるみんなも………。
いつ死ぬか分からないんだよ!!
………もう終わらせたい……戦いたくないよ………」
「…………虹」
感情的な叫びに元喜は何も言えず、ただ虹を抱き締めた。
虹も元喜をギュッと抱き締め、大声をあげて泣いた。
「……ごめん」
5分くらい泣き続けると、虹は元喜から離れ、涙を拭きながら言った。
「戦ってるのは、元ちゃんも同じなのにね。
あたしばかり……」
「大丈夫。
虹は責任感強いもんな。ツラくなったら、また言えよ」
元喜は優しい笑顔をかけながら言うと、落とした傘を虹に渡した。
「ありがとう。
……そうだよね。いなくなったみんなの分、あたし達がしっかりと頑張らないとね!」
虹は傘を受け取ると、いつものハキハキした口調に戻っていた。
「お! その調子だぞ!
でも、あまり頑張り過ぎんなよ。
仲間や三晴ちゃん、そして自分のためにもな」
「分かってる!
あ、そうだ!学校着いたら数学の宿題見せてくれない?」
「お前……また忘れたのか」
「えへへ、面目ない」
「はあ……今日はいいが、次からはちゃんとやってくるんだぞ」
「分かってるって!」
「虹の“分かってる”は、信頼できないんだよな…」
「何か言った…?」
「いや、なんでもない」