ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

13 / 59
8話 保護者

「はぁ………はぁ………とーちゃく…!

はぁ……はぁ……」

 

倉庫まで着くと、咲希は息を切らし、ペタリと地面に座り込んだ。

 

顔はほてって赤くなり、汗も大量にかいている。

 

「大丈夫? 早苗さん?」

 

少ししか走っていないのに、かなり疲れた様子を見せる咲希に、明人は心配して声を掛けた。

 

「……うん! ………だいじょーぶ!

はぁ……はぁ……」

 

咲希は笑顔で言うが、いつもより顔に力がない。

 

(………大丈夫かな?

ていうか、なんで走ったんだ?)

 

明人は心配すると同時に、(流れで自分も走ったが)、その必要はなかったのではないかと疑問に思った。

 

「はぁ……はぁ…………

ふーーーぅ」

 

咲希は大きく深呼吸すると、ランドセルを開けて水筒を取り出した。

 

「はーー!!

よし! ふっかーつ!!」

 

水筒のお茶を飲むと、そう言いながら元気に勢いよく立ち上がるが

 

「おっと」

 

まだ疲れが溜まっているのか、少しふらついた。

 

「大丈夫?

無理……しないでいいから」

 

「大丈夫!

わたし、生まれ付きちょっと疲れやすいみたいなんだー!

でも、病気とかそういうのじゃないから平気だよ!」

 

咲希は無邪気な笑顔でそう言いながら、ランドセルに水筒を仕舞い、倉庫の扉を開けた。

 

(じゃあなんで走ったんだろ?)

 

明人はまた疑問に思ったが、口には出さなかった。

 

「入ろ! 竹内さん!!」

 

咲希はワクワクした表情でそう言うと、倉庫の中へ駆け出した。

 

「……おう」

 

明人は一瞬、百合に閉じ込められたときの記憶が蘇ったが、なんとか意識しないようにし、倉庫へと入って行った。

 

が、中に入ると、やはり記憶が鮮明に呼び起こされ、その時の怒りも呼び起こされた。

 

(やっぱ、アイツ意味わかんねえわ。)

 

明人はそう思いながらも、なんとか怒りを鎮めようと、小さく深呼吸した。

 

「こんにちはー!!」

 

咲希は小走りしながら、倉庫の中で探しものをしていた、隣のクラスの担任の田代先生に挨拶した。

 

「ほい。こんちは。

危ないから、走るなよ」

 

「はーーい!!」

 

咲希は元気に返事をするが、速度は緩めず、小走りで進んでいく。

 

「うわっ!!」

 

そのためなのか、さっきの疲れのためなのか、足がもつれてしまい、派手に転んでしまった。

 

「早苗さん…!?」

 

明人は驚くと同時に、急いで咲希に駆け寄る。

 

「早苗。だから走るなと」

 

先生も心配そうに近付く。

 

咲希はしばらく動かないでいたが、ふっと立ち上がり、明人に顔を向けた。

 

「大丈夫…! 泣いてないよ…!!」

 

咲希は目に涙を溜めながらも泣くのを我慢し、震える声で言った。

 

「う……うん…!

(ほとんど泣いてる……。)」

 

明人はどう返したらいいのか分からず、頷くしかなかった。

 

「大丈夫か? 早苗。

不来方がいないからって、はめ外し過ぎんなよ」

 

先生がやれやれという風に、横から咲希の洋服についた砂埃を払う。

 

「外してないよー!

……お洋服汚れちゃった……ママから貰ったのに……」

 

咲希は先生の方を向き、悲しそうに言う。

 

咲希が着ている服は、そこまで派手というわけでもないカジュアルな子供服だったが、咲希自身は大事にしているんだなと明人は思った。

 

「そのくらい、洗濯すりゃあ落ちるよ」

 

先生は、地面に着いた手で涙をふこうとする咲希を止めて、ハンカチで拭きながら言った。

 

それを見て明人は、なぜか胸のあたりがモヤモヤする感覚が起こった。

 

「出血はしてないが、ちょっと膝擦りむいてるから、水で洗っときな。

心配なら、保健室にでも行ったらどうだ?

なあ? 竹内」

 

「え……?

ど……どうする? 早苗さん?」

 

急に話を振られた明人は困惑し、咲希に判断を任せた。

 

「えー。ちょっと痛いけど、でも、これから竹内さんとヒマワリ植えるんだよー!」

 

咲希は少し迷った素振りを見せたが、係仕事を優先させたいらしかった。

 

「へえ。そうなのか? 竹内」

 

「え、あ。まあ。はい。

(そうだったの?)」

 

明人は花壇で何かをするとは思っていたが、具体的に何をするかは今初めて知ったため、少し動揺しつつも咲希に話を合わせた。

 

「……そうか。ま。

擦りむいてるといっても、そこまで深くないし、バイキンが体に入ることはなさそうだが。

とりあえず、衛生上、水で流しとけよ」

 

「はーい!」

 

「返事だけはいいな」

 

先生は呆れたように言い捨てると、探しものを再開した。

 

「よし! じゃ、竹内さん!

道具探そ!」

 

咲希は軽く洋服を払い、元気に片手を上げて言うと、また小走りした。

 

「……早苗さん…!」

 

明人はそろそろ見過ごせずに、注意しようと呼び掛けた。

 

「……なに?」

 

咲希は立ち止まって振り向く。

 

「走らないで。また転ぶよ」

 

「……あっ! そうだった!!」

 

咲希はハッとした顔になり、ようやく安全なスピードで歩き始めた。

 

「ほっ……」

 

明人は少し注意しただけなのに、なぜかドッと疲れ、一息つく。

 

「今日はお前が保護者か? 竹内」

 

先生が、探しものに首っ引きで、笑いながら訊く。

 

「保護者なんて。ただ同じ係なだけですよ」

 

明人は疲れた顔で、適当に返す。

 

「そうか。しっかし、ついにお前は、生き物にまで興味の範囲が広がったか」

 

教師陣にも、明人の熱中しやすい性格は広まっているため、今は“生き物に熱中しているから”生き物係になったと思い込まれている。

 

「はあ……まあ」

 

明人は“咲希が好きだから”という理由で入ったとは言えず、はぐらかした。

 

「袴田先生から聴いたが、不来方と揉めたようじゃないか」

 

「……ええ」

 

明人は思い出したくないことを指摘されたため、すこしイラッとしたが、話を広げると何か言及されると思い、また適当に返した。

 

「早苗は見ての通り人懐っこいが、不来方は難しいところがあるからな。

熱中するのは良い事だが、自分だけいいじゃだめだぞ。

しっかり向き合って、仲良くやれよ」

 

「………田代先生。

何か変なものでも食べました?」

 

明人はいつも適当な先生が、珍しくそれっぽいことを言っているので、逆に心配になっていた。

 

「失礼だな。

そう、袴田先生が言ってたんだよ」

 

「なんだ。確かにはかちゃんなら言いそう」

 

「竹内さーん!!

これ持ってー!」

 

2人が話してる中、咲希がジョウロやスコップや鉢をたくさん、両手いっぱいに抱えていた。

 

「あ、わりい! 今行く!!」

 

明人は先生と話し込んで、咲希に任せっきりになっていたことに気付き、急いで荷物を持ちに行った。

 

「おいおい。そんなに必要か?

一人一個ずつでいいだろ」

 

先生はあまりの数に笑いながら言う。

 

「あ、そっか!」

 

咲希は明人に半分くらい渡しながらそう言うと、もとあったところに戻しに行った。

 

「え…。(多いとは思ってたけど、本当に多かったの!?)」

 

明人は咲希の天然行動に、驚かされっぷりである。

 

「な?だから、不来方がいないときでもこうやって早苗をサポートできるように、しっかり不来方と仲良くしろよ?

袴田先生の悩み事も減らせるようにもな」

 

「分かってますよ。

………早苗さん! 大丈夫!?」

 

先生の小言に、少し不機嫌に返しながら明人は、咲希の手伝いに行った。

 

 

 

 

「そういえば。ヒマワリ植えるために、俺を呼んでくれたんだね」

 

水飲み場で膝についた砂を流す咲希に、明人は両手で道具を抱えながら話し掛けた。

 

「あれ? ヒミツにしてたのに何で分かったの?」

 

咲希は首を傾げ、不思議そうに聞き返す。

 

「倉庫のとき、言ってなかった?

田代先生といたとき」

 

「えー?

あー……………」

 

咲希は少し考えるような仕草をしたあと、明人に目を合わせ

 

「言った」

 

と答えた。

 

「そー……だよね」

 

明人は少しカワイイと思ったが、それ以上に困惑が勝った。

 

「うん!」

 

咲希は元気に答えると、水を止め、ハンカチで濡れたところを拭き取った。

 

その間、明人は咲希の扱いについて考えていた。

 

(早苗さんの行動、見る分にはかわいいと思ってたけど、こんなに振り回されるものだったのか……。

本当によく不来方さんはこれを……………

いやいやいや、だからアイツのことはどうでもいいんだよ!!

とにかく、早苗さんを怪我させないように注意しよう…!!)

 

「竹内さん。ポスター作りのときにヒマワリって答えてくれたとき…………

どうしたの?」

 

咲希はハンカチをたたみながら、誘った理由を話そうとしたが、明人がじっと自分のことを見詰めていたのに気付き、首を傾げた。

 

「いや。なにも」

 

明人はじっと見たままそう言う。

 

神経を集中させ、まじまじと見ているため怖い顔になっているが、明人本人は気付いていない。

 

「怖いよ。竹内さん。

わたしの顔に何かついてる?」

 

あまりにじっと見詰めてくるため、咲希は怯えた顔付きになった。

 

「あ、ごめん。早苗さん」

 

明人はようやく自分の状態に気付き、気恥しそうに顔をそらした。

 

「…?

それでね。ヒマワリって言ってくれたときに、思い出したんだー!」

 

咲希は明人の変な行動に、首を傾げつつも、何事もなかったかのように話を続けた。

 

「思い出した?」

 

「うん!

そーれーはー………後で話す!!」

 

咲希は明人から道具を半分受け取り、無邪気に言うと、花壇に向かって走り出した。

 

「あっ! 早苗さん!!

待って! 走らなくてもいいんじゃない!?」

 

明人はまた咲希が転ぶかもしれないと思い、軽く注意……というより提案をした。

 

「え…? あ!

うん!」

 

咲希はハッとした表情になって立ち止まり、歩き始めた。

 

(……よかった。

というか、この流れいつもやってんの?)

 

明人は一安心しながらも、心の中でツッコミ、咲希の後を追った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。