ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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10話 憧れ

「とーちゃーーく!!」

 

明人と咲希の2人は、土と鉢底石の袋が入ったプランターをせっせと運び、花壇へと戻ってきた。

 

「よーし! じゃー、始めよー!!」

 

咲希は運ぶのに疲れたのか、ちょっと汗をかきながらも、腕を上げて、まだまだ元気に飛び上がって言った。

 

「おー!!」

 

明人も片腕を上げて、咲希の調子に合わせる。

 

今回の往復は、咲希が自由な行動を取ることがなく、気を遣って注意することがなかったため、機嫌が良いのだ。

 

「とりあえず、種を植えられるようにしよ!」

 

咲希はそう言いながら、プランターの中の物を重たそうに取り出し、鉢底石の袋を持った。

 

「竹内さん、やり方分かる?」

 

そして、プランターの中に石を詰めながら訊いた。

 

「えッ!? 俺?」

 

「うん。竹内さん」

 

突然訊かれ、明人は動揺した。

 

今まで、てんで花に興味を持つことがなかったため、植えるための準備など知るはずもなかったのだ。

 

しかし、好きな人……それも、花が好きな人に、植え方も分からないと言ったら、失望されてしまうのではないかと考え、素直に知らないとも言いづらい。

 

「えっと……ああ……

う…うん」

 

明人は考えて考えた末、独りの心理戦から脱したく、曖昧に返してしまった。

 

「………?

分からないなら教えるよ?」

 

咲希は曖昧な返事に首を傾げると、優しくそう言った。

 

「え! あ、いや、それはとんでも………

………とんでも……」

 

明人は、好きな人の手を煩わせるわけにはいかないと、否定しようとしたが、頭の中に“分からないなら教えるよ”と咲希の優しい声がリフレーンし、気持ちが揺らぎ

 

「是非! お願いします…!」

 

となぜか大声で言った。

 

「うん! じゃあねー……よいしょ!」

 

咲希は嬉しそうに頷くと、土の袋を一生懸命に持ち上げ、明人に渡した。

 

「ここに土入れるのお願いしていい?」

 

「おう! 任せろ!!」

 

明人は決め顔をしながら言うと、土をプランターに入れ始める。

 

「ありがとう!!」

 

お礼を言われると明人は少し照れたような表情をした。

 

 

 

「どのくらい入れる?」

 

半分くらい入れると、程度が分からなかったため、一旦袋を上げて訊いた。

 

「えーと、いっぱいよりもちょっと少ないくらいかな。

いっぱい入れると、水が溜まりにくいって、百合ちゃんが言ってた!」

 

「いっぱいよりも、ちょい少なめ……ありがとう

(アイツ……やっぱこういうのも詳しいんだな)」

 

「どういたしまして!!」

 

明人は、咲希から“百合”と名前が出たとき、一瞬、胸がモヤモヤするような感じになったが、咲希の笑顔を見たら少し晴れていた。

 

 

 

「あ、ストップ! そのくらい!」

 

「おう」

 

9割くらい溜まると、咲希がストップを掛け、明人は袋を上げる。

 

「えっと……確か百合ちゃんは、入れたあと揺らしてトントンって………」

 

咲希はそう呟きながら、土を均すため、プランターを揺らそうとしたが

 

「ん……んん!!

はぁ…重い」

 

力が足りず、プランターは動かなかった。

 

その様子を見た明人はプランターの両端を掴み、揺らし始めた。

 

「……俺がやるよ」

 

「いいの!?」

 

「うん」

 

「ありがとう!」

 

素直な感謝に明人はまた照れ、それを隠すように揺らす勢いが強くなる。

 

「え……あ。

竹内さん……もうちょっと優しく…して、ほしいな」

 

咲希は苦笑いしながら、困ったように言う。

 

「あ! ごめん!

優しくね……うん。優しく。……気を付ける」

 

「うん!

あと、トントンって上に揺らして」

 

「分かった。

上にトントン……だね」

 

明人はそう言いながら、言われた通り、少し持ち上げて落としてを2回やった。

 

「うん! そんな感じ!!」

 

「……おう」

 

明人は真剣な顔付きになり、プランターの土を均す。

 

 

 

「ふふっ」

 

しばらくすると、それを見ていた咲希が嬉しそうに笑った。

 

「え。俺、なんか変なことした?」

 

明人は咲希が急に笑い出したので、なにかしてしまったのではないかと心配になった。

 

「ううん。ちがうよ!

なんか、楽しいなって思って!」

 

「楽しい?」

 

「うん! 竹内さん、中々係のお仕事できてなかったでしょ?

だからこうやって一緒にできて嬉しいんだ!!」

 

「……ああ。そうか」

 

咲希の素直な言葉に、明人はどう返せばいいか分からず無難な返事をしてしまった。

 

自分の好きな人が、自分と一緒に係仕事ができたことを嬉しいと言ってくれたのは、とても嬉しいことだ。

 

しかし、それを阻止しているのは、好きな人の親友だった。

 

明人は一瞬、百合の裏の顔を話そうと思ったが、さっきから、好きな人がよく名前を口にする親友のことを、酷く言うのは、気が引けてしまった。

 

「……竹内さん?」

 

咲希は笑顔から一転し、不思議そうな顔をした。

 

「ん? 何?」

 

「緊張してる?」

 

「え……いや。

……別に」

 

突然の質問に、明人は好意がバレたのかと思い、思わず顔をそらした。

 

「本当に?」

 

「うん。……本当」

 

「でも、昨年と比べてなんか変だよ?

お顔も合わしてくれないし、喋り方も変わってる」

 

「え………そう…?

ははは。

同じだろ」

 

明人は確信に触れられそうな気がし、急いで咲希と顔を合わせ、口調も友達と話すようなものにする。

 

「ううん。違うよ。

だって………」

 

咲希は悲しそうな表情をしながら言うと、立ち上がり、明人に背中を向けた。

 

「……早苗……さん?」

 

明人は、何か傷付けるようなことを、言ってしまったのではないかと思い、恐る恐る呼び掛ける。

 

咲希は背中を向けたまま動かず、右手で顔のどこかを拭うような動きを取った。

 

「……早苗さん…?」

 

明人はまた心配になり、呼び掛ける。

 

しばらくし、咲希は明人に向き直ると

 

「……なんてね!

お花植えるの初めてだもんね!!

緊張するよね!!」

 

と少し顔を赤くし、笑いながら言った。

 

「………おう」

 

急に元気になった咲希に、明人は唖然とした。

 

「あ! ごめんね。

ずっとトントンしてくれてたんだね!

もういいよ!! 今度は種植えよ!!

ちょっと待っててね!!」

 

咲希は、一々大振りなジェスチャーをしながら、矢継ぎ早に言うと、最初に持ってきた道具の中から、ヒマワリの種の袋を探した。

 

「………早苗さん」

 

その様子に、明人は心配になった。

 

外見ではいつものように……いや、いつも以上に元気に見えるが、少し声が震え、目が潤んでいた。

 

(何を言おうとしたんだろ……。)

 

咲希が背中を向ける前、“だって”に続く言葉。

 

それが何か、明人は疑問に思ったが、元気なフリをしている咲希に訊く勇気はなかった。

 

 

 

「よし! じゃー! 植えよー!」

 

「おう! そうだな」

 

明人と咲希はそれぞれヒマワリの種を2個持ち、プランターの前に座る。

 

「じゃー、まずねー!

指が曲がるとこまで」

 

「曲がるとこ……」

 

「そー! ここー!!」

 

明人が人差し指を曲げて、確認していると、咲希が身を乗り出して、指を差した。

 

突然の接近に、明人は照れて顔をそむけるが、さっきの咲希の言葉を思い出して、無理矢理顔を合わせた。

 

「あ…ありがとう」

 

「どういたしまして!

そこまでを土に入れて!」

 

「……分かった」

 

明人はすでに咲希が開けた穴から、等間隔になるよう、指で土を押し、種を入れる穴を開けた。

 

「うん! 上手い上手い!!

じゃー、種植えよっか!!」

 

咲希は小さく拍手しながら言うと、種を取り、穴に入れ、土をかぶせた。

 

「元気に育ってねー!」

 

明人は、その様子を愛らしく思いながら、真似をして種を入れて、土をかぶせた。

 

「これでいい?」

 

「うん! いいよ!!

竹内さんのも元気に育つといいね!!」

 

「……おう! ……そうだな」

 

「ふふっ! やっぱりヒマワリでよかったー!!」

 

「どうして?」

 

「……あれ? やっぱり覚えてない?」

 

「覚えてない…………何を?」

 

「えぇ!?」

 

明人の答えに、咲希は驚き、怒ったように少しだけ頬を膨らませた。

 

「え…! なんだっけ、ヒマワリ………

あ! もしかしてあれ!?

ほら、あのポスターのときの!」

 

明人は機嫌を直してもらおうと、思い出せる範囲でヒマワリの理由を探す。

 

「違う! そうだけど違う! もっと前の!

覚えてないの?

1年生のときの自然学習のとき」

 

「え…1年生?

自然学習……。

……えっと…………ああ、そんなのあった気が」

 

明人は言われて初めて1年生の時に、学校近所の自然公園まで、遠足に行ったことを思い出した。

 

しかし、その内容までは思い出せない。

 

「そうそう! その時さ!

竹内さんと同じグループでさ!

好きな花きいたときに、竹内さん、ヒマワリって答えたんだよ!」

 

「…へー。

(そうだっけ)」

 

「それでね! なんでってきいたらさ!

ヒマワリって眩しい太陽をずっと見続けてるのがカッコイイって言ったんだよ!」

 

「……あー。なんか、言われてみれば?」

 

明人は言われてようやく、ぼんやりと、“そんな様なことを言った気もしなくはない”という風になった。

 

と同時に、花に興味を持っていた時期があったことに、驚いていた。

 

「竹内さん、どんなことにも一生懸命だからさ!

ずっと太陽を見続けるヒマワリみたいなのかなって、思ったのに……なんだ………違ってたんだ………」

 

咲希は悲しそうに肩を落とす。

 

「いや、あの……うん!」

 

明人はなにか言い訳しようとしたが、そうすると、なにか有耶無耶に終わってしまう気がした。

 

好きな人から誘われたこのヒマワリの種蒔き。

 

忘れていた過去の発言から生まれた、このまたとない機会を、嘘付いて、姑息な手段で対処して、せっかく誘ってくれた厚意を蔑ろにしたくない。

 

明人はそう思うと、真剣な顔をして、真っ直ぐな目で咲希を見た。

 

「ごめん。

確かに、俺は忘れてた。

でも、早苗さんのおかげで思い出せた。

俺さ、1つのことに集中すると、周りが見えなくなるからさ。

本当はヒマワリに憧れてたのかもしれない。

でも、それが見えなくなっていつの間にか忘れてた。

ありがとう。早苗さん。思い出させてくれて」

 

明人は推測は入ったが、嘘を付かず、正直に思っていることを言った。

 

その途端、植えたヒマワリの種が、愛らしく輝いているように感じた。

 

「竹内さん……。

ふふ。やっぱり、竹内さんはヒマワリだ!」

 

咲希は顔を上げると、嬉しそうに笑った。

 

その顔を見ると、明人はホッと安心した。

 

「百合ちゃんが教えてくれたんだー!

ヒマワリの花言葉ってね」

 

「あ。“あなただけを見つめてる”でしょ?」

 

明人は倉庫に閉じ込められたときに百合から聞いたことを思い出して、つい割り込むように言ってしまった。

 

「そう! よく分かったね!」

 

咲希はセリフを取られたのを怒る様子もなく、小さく拍手して嬉しそうに言った。

 

「でも、それだけじゃなくてね、“憧れ”って意味もあるんだ!」

 

「……憧れ」

 

「うん!

竹内さんはヒマワリの花言葉の“あなただけを見つめてる”ように、なにか1つに集中できて!

そんな花言葉を持つヒマワリに“憧れ”てる!

だから竹内さんはヒマワリだ!!」

 

咲希は興奮気味に喋ると、嬉しそうに飛び跳ねた。

 

明人も、好きな人に褒められ、照れくさかったが嬉しかった。

 

そして、変に言い訳せずに、正直に言って良かったと思った。

 

(俺がヒマワリか…。

なら、早苗さんは“太陽”だな。)

 

 

 

「………ねえ。竹内さん」

 

明人がジョウロで種に水をやっていると、花壇の雑草を取っていた咲希が、思い詰めたような表情で、呼び掛けた。

 

「何? 早苗さん」

 

明人は咲希が滅多に見ない暗い顔をまたしてることに気付き、心配になったが、遠慮させないよう微笑みながら返した。

 

咲希は口をモゴモゴさせ、なにか言いたそうにしたが、突然涙が溢れ出し、それを隠すように下を向いて雑草を一心不乱に抜く。

 

「………早苗…さん?」

 

明人は水やりの手を止め、咲希に呼び掛ける。

 

咲希はスコップを使って、取りにくい雑草を文字通り根こそぎ取って、花壇の外へ放ると

 

「平気だよ。泣いてないよ」

 

と言いながら立ち上がり、笑みを送った。

 

(早苗さん……。)

 

明人はさっきまで元気だったのに、なぜ急に泣き出したのか心配になったが、泣いて赤くした顔で、無理矢理笑みを作っている姿を見ていると、やはり理由は訊けなかった。

 

 

 

 

 

一通り係仕事は終わり、倉庫へ道具を返した2人はランドセルを背負い、正門まで向かっていた。

 

「今日はありがとう!

また一緒に係仕事できるといいなー!」

 

すっかり、いつもの元気を取り戻した咲希が、無邪気に言う。

 

「そう……だな」

 

明人も咲希と同じように思っていたが、今日話してみて、咲希は百合のことを大事に思っていることが、改めて分かった。

 

しかし、その百合が、自分の係仕事を禁止しているため、素直に頷けなかった。

 

「早苗さんって……帰り道、右左どっちだっけ?」

 

明人は咲希ともう少し一緒にいたかったため、同じ帰り道なのかどうか確認しようとした。

 

「左だよー!」

 

「あ……そっか。

俺、右」

 

咲希の答えに、明人は残念そうに言った。

 

「じゃあ、ここでお別れかな。

俺も、今日はありがとな」

 

そして、2人きりで係仕事したんだから、これ以上望むのは罰当たりだと自分に言い聞かせ、名残惜しそうに言った。

 

「どういたしまして。

………それじゃあ……竹内さん。

バイバイ!!」

 

正門から出ると2人は向き合い、咲希は何か言いたそうな表情をしたが、すぐ笑顔に戻って、顔の前で小さく手を振った。

 

「おう。

じゃあな。早苗さん」

 

明人も手を振り返すと、変な気を起こさない内に背中を向けて、帰路に着いた。

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