ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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11話 仲良く

長いようで短かった咲希との種蒔きを終え、明人は幸せな気分のまま家に帰った。

 

「ただいまー!

……あれ?ただいま!」

 

家に入り、ただいまというが返事がない。

 

(いないのか…?

……いや、むしろい過ぎる……。)

 

明人は不思議に思いながら、靴を脱いでるとき、玄関にいつも以上に、靴が並べられていることに気づいた。

 

(……まさか…!)

 

明人は、その中にある自分と同じようなサイズの、見覚えのある靴を見て、ある考えがよぎるとリビングへと駆け込んだ。

 

(……やっぱり……。)

 

そこでは、健太と真也が、平日で仕事のはずの自分の母親と一緒にゲームをしていた。

 

「おし! いけいけ!

ふん! 甘いわね!!

んっしゃー!! はい! 私の勝ちー!!」

 

画面を見ると、新作の対戦アクションゲームのようで、かなり盛り上がっており、母親が年甲斐もなくはしゃぎ、親友を煽っていた。

 

「うっわー。やっぱアッキーのお母さんつえー!」

 

健太は悔しそうに言う。

 

「ちょ………母さん! 何やってんだよ!!」

 

明人は見ていられず、顔を真っ赤にしながら、物凄い勢いで母親に詰め寄った。

 

「あら。アキ、お帰り。

デートは楽しかった?」

 

「は…!? デートじゃねえし!!

てか、母さんも何やってんだよ!!」

 

明人はデートと言葉が出た瞬間に、顔を背けた健太をちらりと見ながら、すごい剣幕で言う。

 

「何って……ゲームよ。

アキもやる? 4人までできるから」

 

「そういう意味じゃねえよ!!

仕事は!? まだ帰ってるような時間じゃないだろ!?」

 

「有給よ! 有給!!

私はこのゲームがマイナー時代のときからやってるのよ! 久しぶりの新作なんだから、開店と同時に買って一気にやるのが任侠ってもんよ!」

 

「だから強かったのか……」

 

自信満々に言う明人の母親に、真也は呟く。

 

「大人ってずるいな」

 

その横で健太も同調する。

 

「なにが任侠だよ!」

 

「あら、アキはやらないの?」

 

「……やるよ!

ランドセル下ろしてくるから待ってろ!」

 

明人は少し黙った後、母親に指差しながら言うと、駆け足で自分の部屋へ向かった。

 

 

 

「うっし! お待た……あれ?」

 

ランドセルを置き、手を洗い、気合十分でリビングに戻って来た明人だが、そこに母親の姿がなかった。

 

「母さんは?」

 

「お手洗いだって」

 

「あ……そう」

 

真也の答えを聴いて、明人は肩透かしを食らった気分になった。

 

「…………で」

 

それはそうとと、明人は2人の方を見た。

 

「なんでお前らいるんだよ?」

 

母親に気を取られて訊けなかったが、なぜ本人が不在の友達の家に上がっているのかと、明人は疑問に思っていた。

 

2人は顔を見合わせると真也は肩をすくめて言った。

 

「いやさ。俺達もお邪魔するつもりはなかったんだよ」

 

「そうそう。

アッキーが大事な用があるから帰るの遅れるのと、約束を取り消すって伝えに行ったら、お前のお母さんが、興奮気味に一緒にゲームやろうってしつこく誘ってくるから………つい」

 

健太は苦笑いしながら言った。

 

「そっか……なんか、わりい」

 

明人も苦笑いし、呆れたように言った。

 

「しっかし、お前のお母さん、いつ見ても美人だよなー!」

 

健太はけろりと表情を変え、なぜか興奮気味に言った。

 

「内面知らないから、そんなこと言えんだよ」

 

明人は、怒っているときの母親を思い出しながら言う。

 

明人の母親は、整った顔立ちで、プロポーションもよく、年齢よりも若く見られることが多い。

 

性格も、怒ると怖いが、割と子供っぽいところがある。

 

明人は小さい頃なら、母親が若く見られて羨ましがられるのを嬉しかったが、思春期に差し掛かっている今は、それが恥ずかしく感じているのだ。

 

「いや、俺はどんな女でも愛する自信はあるぜ!」

 

そんな明人の心境も知らず、健太はカッコつけながら言う。

 

明人と真也はそれを聞いて真顔になり、それぞれコントローラーを手に取った。

 

「母さん戻ってくる前に一戦やるか」

 

「そうだな」

 

「おいおいおいおい!!」

 

良いこと言ったと思っている健太は無視されたことに、恥ずかしくなり、2人の肩を掴んで揺らした。

 

「なんだよ。あっさー。邪魔すんなよ」

 

「うわすげー、新キャラすごい増えてる…!」

 

体を揺らされていても、2人はテレビ画面に首っ引きである。

 

真也はめんどくさそうに反応を示したが、明人は初めて見る新作ゲームの画面に興奮して、それどころではないようだった。

 

「だろ。お前のお母さん、午前中にほとんど全キャラ出したらしいぞ」

 

「まじか!

とりあえず、初戦は使い手でやろっかな!」

 

「おい!! なに普通に始めてんだ!!」

 

健太は何かしら反応がほしく、もっと強く2人の体を揺らすが、何事もないかのように2人はキャラクターを選んで、ゲームを始めてしまった。

 

「俺も入れろよ!

なあ! どうして地球が丸いか知ってるか!?

隅っこに追いやられる仲間外れがいないように

 

「はいはい。分かった」

 

そろそろ鬱陶しいと思ったのか、明人は手を外して言う。

 

「浅い浅い。あ、間違えた凄い凄い」

 

真也も体を揺さぶり、手を外すと、棒読みで言った。

 

「わざとだろ!!」

 

健太は我慢の限界が来て、大きく叫んだが、2人はゲームに集中してしまい、張り合いがなかったため、次の試合で入れてもらえるよう、黙ることにした。

 

 

 

 

「はい! またまた私の勝ち!

ふん!! あんたら気合が足んないね!!」

 

しばらくして、母親も戻り4人で何戦かやったが、母親が全戦全勝しており、高らかに笑う。

 

途中、3人で共謀し、集中攻撃を図ったが、それさえもあしらわれてしまい、勝てる見込みはなく、次第に3人の中では、誰が2位に残れるかを競うようになった。

 

「あっ…!! くそ!!」

 

「またアキがビリッけつ!! ゲームだからって手ェ抜いてんじゃないよ! 焼き入れるよ!!」

 

その中でも、明人はいつも最下位になってしまっていた。

 

明人はこのシリーズのゲームが苦手なわけではなく、むしろ、いつも母親に扱かれている分、得意な方で、親友と3人でやるときも、1位のときが多かった。

 

「まだ慣れてないんだよ!」

 

明人はもどかしい気持ちで、少し怒気を込めて言い訳する。

 

前作から少し変わっているところはあるが、基本の動きはほとんど同じなため、次こそはと思うが、中々最下位からの脱却ができない。

 

 

 

結局、1位明人の母親、最下位明人の結果が変わらないまま、健太と真也が帰る時間が来てしまった。

 

「いやー! 今日は楽しかったね!!

また来て頂戴、コテンパンにしてやるから!」

 

玄関まで出迎える母親は、ファイティングポーズを取りながら、楽しそうに言った。

 

「母さん……もういいから」

 

その後ろで、明人は恥ずかしそうな顔をする。

 

「何よー。ドベのくせに生意気な口利いて、筋通さんかい!」

 

「ゲームの順位は関係ねえだろ!」

 

「あら、いつもならもっと悔しがるのに、珍しい。

ねえ、あっさー君」

 

「はい! そうですよねー!」

 

不思議がる母親から、話を振られた健太は、反射的に返す。

 

「調子の良い事を」

 

真也は呆れたように横目で見て、小さく呟いた。

 

「じゃあ! アッキー! また金曜日な!!」

 

「おう! またな!」

 

「お邪魔しました」

 

「またいつでもおいで」

 

別れの挨拶を済ませ、玄関のドアが閉まると、母親がいたずらに笑いながら顔を向けた。

 

「アキ、いつから私のこと母“さん”呼びになったのー?」

 

「うるせえな。なんだっていいだろ」

 

おちょくるように言う母親に、負けて気が立っている明人は顔をそらして、自分の部屋に戻ろうとする。

 

「そう? なら、母君とか母上とかお袋とか。

あ、ババアって呼んでもいいのよ」

 

「呼ばねえよ!」

 

「えー……。

で、そんなことより、何かあった。

アキ」

 

母親の表情や口調が、一瞬でいたずらな少女のようなものから、慈愛に満ちた母のようなものになった。

 

「なにもねえよ」

 

「そう?

今日のアキの動き、新作で慣れない仕様もあったと思うけど、それ以上にぎこちないものがあったわ。

アキは何かに集中すると、それに関係しない他のものが、疎かになることがあるものね」

 

明人は驚き、動きを止める。

 

確かに、今は咲希に熱中しているため、今までの新作ゲームより、素直に気分が乗らなかったところがあった。

 

プレイ中も、ふと咲希の涙の意味を考え、些細なミスを連発し、それで最下位になっていたのだ。

 

それを高度なプレイングをし、首位を独占しながらも気付いた母親に、明人は変に感心していた。

 

「いつものように、ただ他のものに心奪われてるだけならいいけど、何か悩んでるなら相談しなさいよ」

 

「おう」

 

しかし、“好きな人ができた”ということが、明人にとっては、どこか恥ずかしく思ってしまったのと、母親の優しさに素直になれず、曖昧に返して自分の部屋に入って行った。

 

(………ホント、母ちゃんには隠し事できないな。)

 

明人はそう思いながら、ランドセルから教科書とノートを取り出し、宿題を始める。

 

鉛筆を取り、文字を書こうとしたとき、なぜだか咲希のことを思い出した。

 

(早苗さん………大丈夫かな?

元気でちょっと能天気って思ってたけど、悩み事もあるのかな?

訊いた方が良かったのかな?

……………やっぱり、帰り道、嘘付いてもっと話したかったな。)

 

 

 

 

 

夜の7時くらいに、ある家の電話がなった。

 

花柄のエプロンを着て、夜ご飯の支度をしていた大学生くらいの女性が、パタパタと受話器を取りに行く。

 

「はい。もしもし早苗です。

………あ、百合ちゃん! こんばんは。

熱は平気?

…………うん。そう。よかったー。

あ、ごめんね。咲希でしょ?

ちょっと待ってて。

咲希ーー!! 百合ちゃんから電話ー!!」

 

電話を取った女性──早苗花奈は受話器を伏して、2階の部屋にいる咲希に大声で呼んだ。

 

「はーい!

百合ちゃんから?」

 

階段を、音を立てて、ドタドタと降りてきた咲希は、少し疲れながら花奈に訊いた。

 

「そう!

はい、どうぞ」

 

花奈は、優しく受話器を咲希に渡すと、台所まで戻って行った。

 

「ありがとう!

もしもし! 百合ちゃん!!」

 

『あ、もしもし。さっち。

今日はごめんね』

 

咲希が元気に話すと、電話の向こうから、嬉しそうな百合の声が聴こえてきた。

 

「平気だよ。

百合ちゃんは、お熱下がった?」

 

『うん。

だいぶ引いて来たみたいだけど、ママが、さっちに移さないように明日も安静にしてなさいって…』

 

「そっかー。残念……」

 

悲しそうな百合の声に、咲希も残念がってしまう。

 

『ごめんね。

明日の水やりも、さっち1人にお願いしていいかな?』

 

「うん! 任せて!!」

 

『ありがとう。

あ、そうだ。最近ちょっと暑くなってるから、水分摂るの忘れないでね。さっち疲れやすいんだから、まだ春だけど、夏バテしないように』

 

「分かってるよー!」

 

『あと、学校の行き帰りのときも気を付けて、最近だと聞かなくなったけど、一昨年くらいはここの近所で少年少女の行方不明や殺人事件が多かったでしょ?

上の学年の人たちが4,5人くらい被害にあったってやつ。

犯人も捕まってないようだし。

だから怪しい人がいたら、すぐ逃げるんだよ。

もしよかったら、花奈ちゃんか空良くんに送って貰えば』

 

「分かった! ご飯のときにきいてみるね!」

 

『うん! さっちは可愛いから、気を付けないと』

 

「分かった!

………あ、そうだきいて! 百合ちゃん!!」

 

『何? あ、植えたお花生長してた?』

 

「うん! でもねー、それだけじゃないんだー!!」

 

『えー? なになに?』

 

咲希のワクワクした嬉しそうな声に、百合も自然と笑顔になる。

 

「今日! 竹内さんとヒマワリ植えたんだー!!」

 

『………え…?』

 

百合の笑顔が一瞬で崩れた。

 

(植えた………ヒマワリを……?

竹内さんと……?)

 

百合は気が遠くなるのを感じた。

 

「竹内さんといっぱいお話しもしちゃった!

お兄ちゃんがいるんだって!」

 

『へ……へぇ』

 

百合は咲希の言うことが一切、頭に入ってこなかった。

 

(なんで……? なんでさっちと竹内さんが…?

ヒマワリの種は、私とさっちで植えようって約束したのに…?

もしかして……もしかして、竹内さん。

私が休みだからって、さっちに何か甘い言葉かけて、誑かしたんじゃ…!!)

 

百合の心の奥底から、怒りと嫉妬が湧いてくる。

 

『さっち。聴いて』

 

笑顔を取り繕うことが出来ないほど、酷く荒んだ感情。

 

「……百合ちゃん?

どうしたの?」

 

電話越しで表情が見えないが、声が冷たく怖くなっていたため、咲希は百合の異変に気付いた。

 

『竹内さんとは二度と関わらないで』

 

「……なんで?」

 

『いいから』

 

「だからなんで?

今日一緒に種植えたけど、すごく優しくて良い人だったよ!」

 

『優しくて……良い人?』

 

百合の脳裏に、倉庫前で明人との口論したときのことがよぎる。

 

そのときに言われた一言。

 

“たかが係”

 

百合はその一言をずっと覚えている。

 

百合は、咲希を取られたくないことだけでなく、そんな言葉を言った人を、学校一綺麗と言われた花壇に関わらせたくなかった。

 

「うん。

それに、ヒマワリも好きって言ってたし。

だから…………百合ちゃん。

………竹内さんも

 

『さっち。

あの花壇は。私とさっちの花壇なの』

 

必死に言葉を選びながら説得する咲希の言葉を、百合の冷たい声が遮る。

 

『他の、生き物を育てる覚悟のない人達が関わっちゃいけないの。

………だから、さっち。

わたしと2人で

 

「2人じゃなくて3人なの!!」

 

今度は咲希が、泣きそうな声で百合の声に被せる。

 

「仲良くして…! 百合ちゃん…!!

百合ちゃんがお花が大好きなのは、わたしも知ってるよ。

そんな百合ちゃんが、わたし大好きだもん!!

でも……お花を独り占めしちゃだめ…!

仲良くしないのはもっとだめ…!

わたし達は、3人で生き物係なんだから…!」

 

『…………』

 

咲希の悲痛な叫びに、百合は黙ってしまう。

 

咲希も、泣き出してしまい、喋ることができなくなってしまう。

 

(さっち……。

なんで……。私はさっちのために言ってるのに。

………やっぱり、竹内さんが。

竹内さんが……さっちを騙してるんだ……。

私は間違ってない。)

 

咲希の泣き声を聴きながら、百合はモヤモヤした感情を、結論付けて整理する。

 

敵を作り、自分を正当化させ、悪い人から咲希を守る決意を固める。

 

『………さっち。

竹内さんは、さっちを騙そうとしてるの。

だから、二度と関わらないで』

 

「いやだ。

百合ちゃん。聴いて。

竹内さん……土入れるのも、種植えるのも、水あげるのもみんな上手だったよ。

それに、ヒマワリが好きで憧れてるの。

竹内さんも、生き物を育てる覚悟……あると思うよ。

………だから

 

『ないよ。あんな人に。

竹内さんはさっちにわざと優しく接して、なにか悪いことしようと騙してるだけ』

 

「違うもん! 竹内さんは悪い人じゃないもん!!

………絶対………そうだもん……」

 

『さっち………。

私は………さっちのために! ……さっちを思って言っているの!!

………明日……またかけ直す。

それまで考えておいて』

 

百合は感情的に叫んだあと、酷く荒んだ気持ちのまま話し続けるのに耐え切れず、そう言い残し、電話を切った。

 

「百合ちゃん……百合ちゃん!」

 

咲希は受話器に叫ぶが、反応は返ってこない。

 

「………百合ちゃん……」

 

受話器を戻すと、咲希は膝から崩れ、蹲って泣いた。

 

「咲希?

………咲希…!?」

 

時折聞こえる大声に、心配した花奈が顔を出すと、丸まって泣いている咲希に、思わず駆け寄った。

 

「……どうしたの?

咲希?」

 

花奈は咲希の背中を撫でながら、優しく訊く。

 

「……花奈ちゃん。

どうしよう。

…………百合ちゃんと…喧嘩しちゃった………」

 

しばらくすると、咲希が重い口を開いた。

 

花奈は一瞬、驚いたような表情をしたが、すぐに優しい顔に戻る。

 

「そっか……。喧嘩……しちゃったんだね」

 

「………うん」

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