ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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12話 休みのお誘い

翌日──05/03(火)

 

「ほら、アキ!起きな!!」

 

明人の母親が、険しい顔をしながら布団を払い、無理矢理明人を起こしに来た。

 

「ん……なんだよ………母ちゃん」

 

明人は寝ぼけたまま、不満そうな声を出し、払われた布団を掴んで、自分の顔へ被せた。

 

「なんだよじゃないわよ。

電話。女から。

あんたには珍しく、可愛い声でのお誘いよ」

 

「…………え?」

 

母親の半分呆れ半分茶化すような口調と、その言葉に、明人はもしやと思い、家の固定電話へと急いだ。

 

 

向かうと、受話器が電話台に、伏せた状態で置かれており、明人はドキドキしながらも、すぐに手に取り、耳に近づけた。

 

「もしもし、竹内です」

 

『あ、竹内さん!』

 

受話器から聞こえてきたのは、間違えなく咲希の声だった。

 

好きな人から電話が掛かってきたので、明人は思わず頬を緩ませてしまう。

 

『………えっと、その声は竹内さん……じゃなくて、名字はみんな同じだよね…………。

えー…………下の名前…………』

 

咲希は本人確認をしたいようだが、下の名前を度忘れしたのか困った様子になる。

 

「あ、うん。

多分、俺が、早苗さんが用事ある人だよ。

若葉小、5年2組の竹内明人」

 

『あ!そう!!

よかった!

あ!おはよう!竹内さん!!』

 

明人の助け舟で、電話の相手が明人だと分かると、咲希は、いつもの無邪気な様子で挨拶した。

 

「お、おう。

おはよう」

 

明人は、いきなり電話が掛かってくるとは思わず、どぎまぎしてしまい、素っ気ない感じで返してしまった。

 

また、いつも教室中にする挨拶を、独り占めできたような気分になり、どこか嬉しく、その分もっとしっかり言いたかったとも思った。

 

『ねえ、竹内さん!

今日、これからちょっと空いてたりする?

また、水やりするの手伝ってほしいんだ』

 

「え!? あ……空いてる…! 全然空いてる!!」

 

昨日だけじゃなく、今日も来た突然のお誘いに、明人は動揺したが、また一緒に係仕事できる機会を逃すまいと、即答した。

 

『ホント!? やったー!!

じゃあ、8時に学校の花壇でね!!』

 

「お……おう

8時な……。わかった……。」

 

『うん! また竹内さんとお仕事できて嬉しいなー!

それじゃ、またね! ばいばい!!』

 

「おう……。また。」

 

通話が切れた音がした後も、明人は受話器を耳から離せなかった。

 

しばらく固まった後、段々と2日連続で好きな人と一緒にいられると理解でき、

 

「おし!!!」

 

受話器を戻すと、喜びが溢れ、思わずガッツポーズをしていた。

 

「なにが“おし!”よ?」

 

「わっ!? 母ちゃん!!?」

 

後ろを見ると、母親が呆れたような目付きで明人を見ていた。

 

明人は、恥ずかしいところを見られたと、目を泳がせ、顔を赤くする。

 

「そんな驚かなくてもいいじゃない。

それで、可愛いお嬢ちゃんと、どんな取引してたんだい?」

 

母親は、明人の肩に手を回しながら、声を低くして訊く。

 

「うるせえな!

何でもいいだろ!!」

 

明人は手を払いのけ、そう言うとご飯を食べにリビングへと向かって行った。

 

 

「………あれ?

母ちゃん!飯は!?」

 

しかし、テーブルの上には何もない。

 

「ないわよ」

 

腕を組み、壁により掛かりながら、母親は呆れた口調で返す。

 

「なんで……?」

 

「そりゃ、あんた。今日休みでしょうが。

私もさっきの電話で起きたんだから、ご飯も何もないわよ。

どうせ朝ご飯作っても、あんた達起きないから、休みの日はお昼ご飯からってルールじゃない」

 

「……でも!

俺、8時に学校着いてなきゃいけねえんだよ!

ほら…………もう7時じゃねえか!」

 

「そうね……そんくらいなら、家族で熟睡してる時間よ。

なにか食べたいなら、引き出しの食パンでも食べてなさい。

じゃ、おやすみ」

 

母親は、終始取り合うつもりはなく、眠たそうにしながら、自分の部屋へと戻ってしまった。

 

残された明人は、料理は勿論、電子レンジの使い方も分からないので、結局その通りにすることしかできず、引き出しに向かった。

 

 

 

「いただきます」

 

引き出しから、食パンを2枚取り出し、皿を出すのも面倒だったので、椅子に座ったら、そのまま同時にかぶりつく。

 

(味、薄……)

 

薄味だったため、ジャムを探しに行こうとも考えたが、時間が惜しかったため、そのまま食べることにした。

 

「にゃ〜」

 

「ん?」

 

足元を見ると、飼い猫のシキが物欲しそうに明人の顔を見詰めていた。

 

「なんだよ。お前も早起きか?」

 

普段は、夕方まで眠って動かないため、お揃いで早起きなのかと、冗談混じりに訊く。

 

シキは、明人の膝を経由し、テーブルに上がると、明人の食パンを狙って手を出す。

 

「おわっと!危ね!

だめだぞ。母ちゃんには人間の飯なんて食わすなっ言われてんだから」

 

「にゃ〜」

 

明人は食パンを上に上げて躱すが、シキはねだるように鳴き声を上げる。

 

「わかったわかった。少し待ってろ」

 

明人は面倒くさそうな顔をしながら立ち上がり、餌のあるところへと向かう。

 

シキは察したのか、いつもの餌場のところで毛づくろいしながら、スタンバイした。

 

「調子のいいやつだな」

 

明人はそう言いながら、4分の1くらい食べ終わっていた食パンを口に詰め込むと、餌の準備をして、シキに与えた。

 

(美味いかー?)

 

明人は食パンを詰めたままだったので、心の中でそうシキに訊きながら、背中を撫でた。

 

普段は触らせてくれないのだが、ご飯中の時だけは、食べることに夢中なのか、許可が下りるのだ。

 

(……そういえば、アイツは来るのかな)

 

明人は、シキの背中を撫でながらふと、水やりのことを考えた。

 

(わりと浮かれちまったが、別に早苗さんと二人きりって決まったわけではないもんなー。

アイツがいると、気まずいっていうか、ぜってえ無理!!

はー……訊いときゃよかった)

 

「にゃう」

 

そこまで考えると、シキはご飯を食べ終わり、撫でる手に猫パンチの制裁をくわえられた。

 

(あ……ああ。)

 

明人は残念そうに、いつもの日向ぼっこの場所へ走り去っていくシキを見送った。

 

(……まあ、いいか

……アイツのことも、行けば分かるし)

 

明人は、考え過ぎるのも自分らしくないと思い、楽観的な考えになった。

 

 

 

 

 

(なんか、休みの日の学校って新鮮だな……

静かだ……)

 

集合時間の5分前に学校へ着いた明人は、休みでいつもと違う学校の雰囲気に、新鮮さを感じ、その特別感からか、ドキドキが更に増してきた。

 

ここへ来る道中でも、影や車の窓ガラスの反射で、寝癖がないか気にしつつ、昨日の咲希の笑顔を思い出してはニヤニヤし、学校へ近づくごとに胸のドキドキが増していたのだ。

 

そして、花壇が見える校庭の近くまでくると、咲希が1人だけで、花を眺めているところが見えた。

 

(いた、早苗さん!)

 

明人は心臓の鼓動が更に速くなり、このまま破裂しそうと思うほどだった。

 

恐る恐る、なぜかなるべく気付かれないように近付く。

 

花壇の周りを見ると、傍らにジョウロがあり、すでに道具は用意されていた。

 

支柱の側のランドセルで、人数を確認しようとしたが、授業があるわけでもないので、ランドセルはない。

 

明人も手ぶらである。

 

(後ろ姿もかわいい……)

 

そして、遂に咲希の真後ろに立てたのだが、これから、どうやって声をかけていいのか分からなかった。

 

(声をかけるだけ……そう、声をかけるだけだ。

昨日も普通に話せてた。大丈夫……いつも通りをするだけだ。なにも難しいことはない)

 

明人は決心し、声を掛けようとした瞬間

 

「竹内さん、まだか…わあ!!!!!」

 

咲希は、明人が来てないかどうか確認しようとして、振り返ろうとしたとき、真後ろにいる明人に驚いて尻餅を付いてしまった。

 

「はぁ……はぁ……びっくりした……!!」

 

「ごめん! 早苗さん…!

そのつもりはなかった……!

別になんか、その脅かそうなんて、そんなことは……!

えっと……あの…えー、大丈夫?」

 

明人は“やってしまった”と思いながら、なんとか弁明しようと、矢継ぎ早に喋る。

 

「うん。大丈夫だよ。

ちょっと驚いちゃっただけ!」

 

咲希は立ち上がり、ズボンのお尻に付いた土を払って、笑いながら言った。

 

「そう……あ、ホント、ごめんね」

 

「大丈夫だよ! いつからいたの?」

 

「ほんのちょっと、今さっき」

 

「そっかー! 全然気付かなかった!!」

 

「花見てたから……じゃない?」

 

「うん! これ、百合ちゃんと一緒に植えた……」

 

咲希は、さっきまで見ていた赤いチューリップを指差しながら、そこまで言うと、急に顔を暗くさせてしまい、口をモゴモゴさせて何も言わなくなった。

 

「早苗さん?

……大丈夫?」

 

明人が心配して声を掛けると、咲希は背中を向け、顔を隠したと同時に

 

「ぅ……ぅう……うわああああああん!!!」

 

大きな声で泣き出してしまった。

 

「え!?」

 

明人はどうしたらいいか分からず、動揺する。

 

「早苗さん!?

大丈夫!?やっぱり驚かせたの恐かった?」

 

明人は咲希の前に立って、理由を訊こうとするが、その都度咲希は方向を変え、顔を隠してしまう。

 

「早苗さん……」

 

明人はどうしたらいいか分からず、立ち尽くしてしまう。

 

 

そして、そのまま何もできないまま5分くらい経ち、ようやく咲希は泣き止んだ。

 

「……早苗……さん?

大丈夫?」

 

「……うん。平気だよ」

 

「そ……そう?

ホントに? なにかあった?」

 

「………………ううん。

何もないよ。平気だよ」

 

「ホントに? やっぱり、驚かせたの恐かった?」

 

「ううん。大丈夫。」

 

「…………そう」

 

明人は理由を訊きたかったが、咲希にその意思がないことが分かると、引き下がってしまった。

 

それと同時に、もし先生の誰かが来たら、どう説明すればいいか考えていたので、杞憂に済んだことに胸を撫で下ろした。

 

「ごめんね。

……もう、平気…だよ」

 

「……そう。

よかった」

 

「うん。

あ、今日も百合ちゃん、お熱みたいだから。

そのためにお手伝いしてくれないかなって呼んだの。

大丈夫だった?」

 

「おう!全然平気!

むしろ、今日は特に用事なかったから!」

 

明人は無意識ながらも、百合がいないことが分かり喜んで、声が元気になっていた。

 

「よかった」

 

咲希は優しく微笑むが、どこか無理しているようにも感じた。

 

「そうそう、じゃーーん!

今日ね、早く来ちゃったから、空良くんと先にジョウロ用意しといたよ!」

 

咲希は頭を振って明るい笑顔を見せると、得意げに道具を見せた。

 

「ありがとう

……あれ、空良くんってお兄さんだよね?」

 

明人は、また二人きりでない可能性が浮上したため、姿見えぬ、好きな人の兄の動向を伺うことにした。

 

「うん!」

 

「その、お兄さんは?

今どこに?」

 

「帰っちゃったよ。

お昼に迎えに来るってさ。

あんまり係のお仕事、邪魔したくないんだって。

でも会わせたかったなー」

 

咲希はちょっとだけ不満げに言った。

 

「そっか……また、なにかあったときかな」

 

明人は再び、二人きりなことが確定したことに安堵し、それを悟られないよう、当たり障りのないことを言った。

 

「うん!!」

 

咲希は元気よく嬉しそうに頷くと、大きいジョウロを重たそうに手に持った。

 

「水やりしよー!!

もう、水は入れてあるー!!

わたし、花壇やるから、竹内さんは、ヒマワリお願いしていい?」

 

「わかった

………あ、いや、俺が花壇やろうか?

大きいジョウロ重いでしょ?」

 

明人は、ここで好感度を上げようと、男らしく重い方を担当しようとしたが

 

「だめ!!!」

 

と、咲希に大きな声を出され、抑制されてしまった。

 

「あ、そう……わるい」

 

明人は、そこまで強く言われるとは思わず、萎縮してしまう。

 

それを見て咲希はハッとし、目を潤わせてしまう。

 

「あ……えっと……えっとね、ごめんなさい……!

竹内さんだからだめとか……なんというか……そういうのじゃないよ……!

えっと……だから……あの、その……とにかく、花壇は……だめなの……」

 

咲希は泣くのを堪えて、必死に弁明する。

 

「わかった。じゃあ、俺がプランターやればいいんだね」

 

明人は、なにか説明できない事情があるのではないかと思い、追求することはなく、小さいジョウロを持って水やりを始めた。

 

咲希は“ありがとう”と言いたかったが、泣きそうになって声がでなかったため、心の中で、感謝しながら花壇に水やりをした。

 

 

 

「よし! 終わり!!」

 

一通り水やりを終えた咲希は、やり切った感じで大きく宣言した。

 

「……そっか、水やり……だけだもんな」

 

明人はあっさりと終わってしまったため、“もう少し一緒にいたかった”と思ったが、それを口に出すことはできなかった。

 

「竹内さん!

ジョウロ返しに行こー!!」

 

咲希はジョウロを1つ持ちながら、あどけない表情で明人に言った。

 

「…………ああ。

あ、走らないでゆっくり行こうな」

 

明人は返したら、今日は終わりなのかなと名残惜しそうに答えた。

 

「うん!」

 

 

 

 

 

結局、それからなにか発展するわけでもなく、涙の理由も語られることなく、ジョウロを返し終え、校門まで来てしまった。

 

「…………じゃ、早苗さん。

今日は、ありがとう」

 

明人は、物足りなさを感じたが、高望みし過ぎただけと自分を説得し、別れの挨拶をかけた。

 

「うん」

 

咲希は頷くが、いつもの笑顔がなく、思い詰めたような表情だった。

 

明人は心配したが、ここから先は二人とも違う道だった。

 

なんともない顔で、咲希と同じ道へ行って、相談に乗れるのではと考えたが、すでに別れを切り出してしまったために、そうすることはできなかった。

 

明人が悩んでいると

 

「ねえ!! 竹内さん!!」

 

咲希が決意めいた表情をしながら、明人の顔を見上げた。

 

「……なに? 早苗さん?」

 

「今日って、なにも予定ないんだよね?」

 

「……あ、ああ。

ないよ。ホントに。なんにも」

 

「じゃあ、ちょっと着いてきてほしいところがあるの」

 

「え……いいけど……どこ?」

 

「お花畑」

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