ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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13話 お花畑で

「ほら、あそこだよ」

 

道を曲がり、花畑が見え、咲希は握った手と逆の手で指差しながら言った。

 

「あれ……あそこ……」

 

明人は、山の麓の自然公園に隣接する花畑を見て、どこか懐かしい感じがした。

 

咲希は、明人の手を放し、花畑へと走る。

 

「……あ、待って! 早苗さん!!」

 

明人は、せっかく繋いだ手が離れてしまった残念感と、ここまで知り合いに見られず茶化されることはなかった安心感を覚えつつ、咲希を追い掛けた。

 

 

〜〜〜〜〜

正門前で咲希に、花畑に行かないか提案され、明人は二つ返事で答えた。

 

咲希はにこりと笑うと、昨日のように明人の手を握り、強引に引っ張るように早足で進み始めた。

 

明人は、もう少しゆっくりでもいいのではと言うが、咲希は何かにせきたてられるように歩き、言う事を聞かなかった。

 

明人は、手を繋いだだけでも幸運と思い、知人に見られないよう祈りながらも、咲希に身を委ねることにし、特に何もないまま、花畑へた辿り着いたのであった。

 

〜〜〜〜〜

 

 

「うーーーー………はあー!!」

 

咲希は花畑に飛び込むと、寝転がり、大きく体を伸ばす。

 

「早苗さん……?」

 

後から追い付いた明人は、辺りを見渡しつつ、寝そべる咲希を見下ろし、話し掛けた。

 

「ふふ……ふふふ」

 

咲希は可愛らしく笑うと、上半身を起こして座り

 

「竹内さんもおいで! お花はねー、匂いとか、触れるのがくすぐったくて気持ちが良いよ!」

 

と元気に言うと、また仰向けに寝転がった。

 

「お……おう。

……じゃあ」

 

明人は躊躇したが、せっかく好きな人が誘っているのだからと、お言葉に甘え、咲希の隣に座り、ゆっくりと寝そべった。

 

「……確かに……なんか…………気持ちいい」

 

明人は、一気に疲れが取れたような感じになり、とてもリラックスした気分になった。

 

「でしょー!」

 

咲希は、花びらを触りながら嬉しそうに言う。

 

「ああ。

なんていうか、スッと体が軽くなるって言うか……胸の辺りがほわほわと温かくなると言うか」

 

「え!?」

 

明人が胸に手を当てて感想を言っていると、咲希が上半身を起こし、目を丸くし、驚いたような顔をした。

 

「ど……どうしたの?

俺なんか変なこと言った?」

 

明人も上半身を起こし、何か不可思議な事でも言ったのではないかと確認する。

 

「ううん! そうじゃなくてね!

今、竹内さん、お胸の辺りがあったかくなるって言ったよね?」

 

「お……おう。

そうだけど……。」

 

「ちよっといい!?」

 

咲希はそう言うと、答えは聞かず、明人の胸に手を当てた。

 

「おう……」

 

明人は嬉しさよりも困惑が勝ち、咲希が手を離すまで動かずにいた。

 

「ホントだ……あったかい……」

 

咲希は驚いた顔で、手をまじまじと見つめた。

 

「なんか、変だった?」

 

「ううん! 変じゃないよ!

びっくりした!

それ、わたし以外で初めてだから!」

 

「え!? そうなの!!?」

 

明人は驚くと同時に、当たり前に感じたこの温かみが、今のところ、自分と好きな人だけ感じていると知り、どこか嬉しくなった。

 

「うん! 百合ちゃんにきいても、気持ちはあったかくなるけど、本当にあたたかくなるのは特にないって!

他の人も、きいたことあるけど、やっぱりないって!」

 

「そうか……なんなんだろ?」

 

「分からない……。

でも、わたしだけじゃなくてよかったー!!」

 

咲希は自分の胸に手を当てながら、安堵した表情になった。

 

それを見て明人も、好きな人とお揃いな事が増え、嬉しくなる。

 

また、百合にはこの温かさがないと聞き、その嬉しさは格別だった。

 

 

 

その後、しばらく2人は花畑で寝そべっていた。

 

明人は、今、目の前に咲く花は何の種類だろうか訊こうとしたが、花の話題になり、話についていけなかったら嫌われてしまうだろうと思われ、やめた。

 

今日、花壇の水やりをやらせてもらえなかったは、昨日、知識がなかったことがバレてしまったからと少し思ってしまったからというのもある。

 

「ねえ、竹内さん」

 

咲希が、明人に顔だけ向けて、話し掛けた。

 

「なに? さな

 

明人も顔だけ向けて、答えようとしたが、ほぼ無防備な状態でこちらを見る咲希の姿があまりにも可愛く、そこまで言って、赤くした顔をそらしてしまった。

 

「!? 大丈夫? 竹内さん?」

 

咲希は、明人が具合が悪くなったのではないかと思い、上半身を起こし、どうしたらいいか分からず、あたふたする。

 

「お……おう! 大丈夫!!

わりい! 気にしないで!!

はーーーー……ふーーーーー」

 

明人は顔をそらしたまま、手を突き出して、大丈夫とサインを送ると、気持ちを落ち着かせるため、深呼吸した。

 

「ほ……ホントに大丈夫?」

 

「ああ……うん!

全然大丈夫!! 悪い! 心配かけた!!

……で、ああ……そう、なに? 早苗さん」

 

明人は心配かけたくないと、わざと咲希の顔を凝視しながら、早口で答えた。

 

「大丈夫……なの?」

 

「おう!! この通り!!」

 

明人は、力こぶを作り、元気アピールをする。

 

「大丈夫ならいいけど……平気じゃないなら無理しないでね」

 

「おう! それで、話は?」

 

「うん。

えっと……あのね。竹内さん。」

 

早口の元気アピールに、渋々納得した咲希は下を向き、言いづらそうに話を始めた。

 

「竹内さんって…………百合ちゃんのこと……嫌い?」

 

「……え?」

 

咲希の思わぬ質問に、明人の動きが止まる。

 

「えっと……どういうこと?」

 

明人は、思わず誤魔化してしまう。

 

実際のところ、明人は百合のことをいなくなってほしいと思うくらい嫌っており、即答したかった。

 

それでも、百合は咲希の親友で、よく話にも上がるほど、好んでいる人なので、素直に“はい”とは答えづらかった。

 

「あのね……えっと……怒らないで聴いてね」

 

「……おう」

 

「百合ちゃんは……竹内さんのこと、あんまり好きじゃないみたいなの……。

竹内さんの話すると、お顔とかお声とかがこわくなっちゃうし、百合ちゃん……竹内さんのこと見ると、ちょっとだけ、凄く恐いお顔するんだ」

 

「……そ、そうなんだ……」

 

「それにね。竹内さんだけじゃなくてね……。

橋本さんもなの。

竹内さんのお友達……だよね?」

 

「あ……ああ」

 

「橋本さんにも、恐いお顔するの。

去年から…………。

それでね……わたし、思ったの」

 

咲希はそこまで言うと口をモゴモゴさせ、なにかを言いたそうにする。

 

明人は、この場の雰囲気から脱したく、助け舟を出してやりたいと思うと同時に、話をそらしたいとも思った。

 

「はーー……ふぅ」

 

咲希は深呼吸をすると、真剣な表情になった顔を上げ、明人を見上げた。

 

「竹内さん! 百合ちゃんに、なにか嫌なこと言われなかった!?」

 

咲希は泣きそうになりながら大きく叫んだ。

 

最後の方は声が掠れてしまっていた。

 

「え……」

 

明人はまた動きが止まり、困惑する。

 

そしてあの日、倉庫の前で聞いた百合の言葉を思い出した。

 

“さっちは純粋だから、私の言う事は信じてくれるの”

 

明人はその言葉を真に受け、今まで信じていた。

 

実際、なにか行動するとき、咲希はよく、“百合ちゃんが”と言っていた。

 

だから、咲希はほとんど、百合の言いなりになっているのだと思っていた。

 

しかし、今、咲希から出た言葉は、百合が悪いことをしたのかを疑う言葉だった。

 

明人は、子供っぽいなりに咲希は咲希で、自分の考えをしっかり持っているのではないかと思った。

 

「竹内さん……」

 

泣きながら、咲希は続ける。

 

「係決めた日さ……お熱出して、帰ったって……百合ちゃんは言ってた…………

でもさ、本当は違うんだよね……?百合ちゃんと……喧嘩したんだよね……!」

 

「え……え……っと…………」

 

明人は返答に困った。

 

あの日、百合が明人にしたのは、喧嘩ではなく、ほとんど一方的な嫌がらせだった。

 

明人は一瞬、洗いざらいすべて話し、幻滅させてやろうかとも考えたが、好きな人が目の前で、ショックを受ける姿はみたくなかった。

 

「隠さなくていいんだよ。

わたし……去年みたの。

去年……橋本さんが…………係仕事の1日目をサボっちゃった次の日にね。

百合ちゃんは橋本さんをね……倉庫裏に呼んだの。

わたし……聞こえちゃったから……面白そうって思ってね……追いかけたの。

そしたらさ……百合ちゃん…………すごく怒ってた。

あんな百合ちゃん……今まで見たことなかったから……なに言ってたか……なにも覚えてないけど……でも…………すごく恐かったの覚えてる……。」

 

泣きながら赤裸々に語る咲希に、明人は唖然としていた。

 

今まで、咲希は百合の裏の顔を知らないと思い、知らないからこそ、あんな無邪気に慕っていたのかと思っていた。

 

しかし、咲希は、断片的とはいえ、裏の顔を知っていた。

 

それなのに、なぜあんなに慕えるのかと疑問に思った。

 

「早苗さん」

 

「…………なに?」

 

「早苗さんの質問に答える前に……俺が先に質問していい?」

 

「うん……いいよ」

 

「ありがとう

…………早苗さんは……不来方さんのこと、どう思ってる?」

 

明人は心に決め、話しやすくするために、まず、咲希の気持ちを訊くことにした。

 

「好きだよ……大好き……!!」

 

咲希は泣きながらも、すぐに笑顔で答えた。

 

「恐いところを知ってても?」

 

「うん……!

たしかに……恐いのはいやだよ…………。

でもね……百合ちゃんはとっても優しいの!

物知りで、いっつもお花のこと教えてくれるんだ!」

 

咲希は百合の事を言っていると、だんだんと話し方が楽しい感じになっていった。

 

それは、明人にも伝わり、咲希は本当に百合のことが好きなのだと思った。

 

「ありがとう。

じゃあ……俺の番だね」

 

「……うん!」

 

「俺は…………

不来方さんのこと……好きではないな……

それに、不来方さんから嫌なこと……言われ……て………た」

 

明人は一瞬、嘘をつき、咲希を安心させようと思ったが、話を聞く限り、そんなので誤魔化せるほど、子供ではないと思い、正直に話した。

 

「…………そっか。

……どんなこと言われたの?」

 

「え……えっと……。

係のことかな……私物化しないでとか……怒られた」

 

明人は、流石に咲希を巡って争ったとは言い辛く、話の一つに上がった係仕事のことを上げた。

 

「そっか…………。やっぱり、百合ちゃん嫌なのかな……

あ……ありがとう……正直に言ってくれて」

 

咲希は少しだけ悲しそうな顔をしたが、にこりと笑ってそう言った

 

「ああ…………」

 

明人はその笑顔を見るが苦しく、顔をそらしてしまう。

 

やはり、嘘をつくべきだったのかと、後悔した。

 

咲希は視線を下に落とすと、しゃがみ込み、足元に咲く花びらに触れた。

 

「百合ちゃんさ……お花が大好きなんだ。

大好きで……こだわりが強くて…………だから、あんまり、あの花壇に、わたしと百合ちゃん以外に手入れをさせたくないんだって」

 

その言葉に、明人はハッとし、視線だけ咲希に向けた。

 

(そうか……だから今日、あんなに必死になって止めたのか…………)

 

視線に咲希は気付いたのか、咲希も顔を上げ、立ち上がる。

 

「お願い。竹内さん。

仲直りして。わたしたちは、3人で生き物係だもん。

仲良くなって、3人で協力すれば、きっと……もっと素敵になると思うの!」

 

咲希の必死の訴えに、明人は直視できず、ぼんやりと咲希の姿を見るだけで、なにも答えられなかった。

 

それでも、ある一つの予想が明人の中で出来上がった。

 

「ねえ……早苗さん」

 

「…………なに?」

 

「もしかして、昨日と今日……泣いてたり……泣きそうになってたりしたのって……これのこと?」

 

明人はその予想を確かめるべく訊いた。

 

もし、それが答えなのであれば、好きな人を悲しませ、泣かせている原因が、自分にあるということになる。

 

「…………うん。

ごめんなさい…………せっかく、珍しく竹内さんとお仕事できてたのに、泣いちゃって」

 

「いや……うん……大丈夫。

気にしないで」

 

明人の中で答えが決まった。

 

(アイツと仲良くするのは癪だが……早苗さんのためだ…………はらくくるしかねえじゃねえか!!)

 

好きな人が悲しむ原因が自分であるなら、自分が変わるしかない。

 

「早苗さん。

わかった。仲直りするよ」

 

「ホント! やったー!!

ありがとう!! 竹内さん!!」

 

明人の宣言に、咲希は飛び跳ねて喜んだ。

 

明人はその姿を見て、その笑顔をずっと守りたいと心に決めた。

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