授業を終えた虹と元喜は並び立って、校舎を出た。
まだ雪は降っており、止む気配もない。
それどころか、風が強くなってきており、帰りのホームルームでの先生の話では、夕方から猛吹雪になるらしく、普段、部活動をしている生徒らも帰らされていた。
「止まないねー」
「ああ。吹雪になるみたいだし、今日は秘密基地に寄るのやめとくか」
「そうだね。
はーあ。吹雪じゃ三晴との雪合戦もできないな。
楽しみにしてたのに…」
「本当に仲いいんだな。
いいなあ、きょうだい。
憧れるよ」
子供みたいに頬を膨らませて、悔しがる虹が微笑ましく、元喜は笑いながら言った。
「うん。
いいよ、妹は。
ある日突然できないことができたり、テストで100点取ったり、版画コンクールで賞取ったりとか成長を感じられて。
お箸の使い方もだいぶ上手くなってきたよ」
「お前の場合、目線が母親なんだよな」
「え? そう?」
「ふふ」
ふざけた様子はなく真面目な感じで言う虹に、元喜は思わず吹き出していた。
「え? あたしなんかおかしいこと言った?」
「いや、なにも」
「絶対なにかあるでしょ。
あ、もしかして数学の宿題のことまだ誂ってる………な………あ……」
虹は文句言っている途中で、なにか目の前の光景に違和感を覚えた。
「いや、誂ってないって………
どうした、虹?」
元喜は虹の様子に気付き、訊いた。
「さっきからさ、あの四つ角。
みんな曲がってない?
真っ直ぐのほうが近いし、別に迂回してくださいなんて看板立ってないよね?」
虹は真っ直ぐ指を差した。
元喜も目の前の下校の生徒の様子をよく見る。
生徒たちは、何ら疑いもなく、当たり前のように、遠回りのはずの道へ進んでいた。
「確かに、みんな曲がってる。
それに、思い込みかもしれないけど、真っ直ぐな道……少し暗い気がする。
………ってことは」
元喜は真剣な目付きで、虹を見た。
「うん。
こんな日に……。吹雪になる前にやっつけよ」
虹も、真剣な目付きで見返し、頷いた。
二人は確固たる足取りで、四つ角の真っ直ぐな道の前に立ち、互いに頷くと足を踏み入れた。
中は少し薄暗く、人気もない。
灰色の世界。
それがこの場所の状態だ。
世界の侵略を企む闇の人間は、カオスベースという珠を上空へ投げ、闇の粒子で世界を包み、その場所を灰色の世界へと変えてしまう。
灰色の世界では、シャインハートを持たないものの記憶からなくなり、元々無かったもののように扱われる。
だから、生徒たちは当たり前のように、四つ角を曲がっていたのだ。
シャインハートを持つものでも、闇の粒子の影響でその場所は薄暗く見え、完全に世界が闇に染まれば、シャインハートを持つものの記憶からもなくなる。
灰色の世界をもとに戻す方法は唯一。
カオスベースを使用した闇の人間を倒すことのみ。
「まだ明るい。
中心地へ向かおう」
「待って。
スピードタイプの能力者なら、もうどこかに隠れてるかも。
ここは住宅地だから、隠れるところもたくさんあるよ」
傘と鞄を投げ捨て、灰色の世界の中心地へ向かおうとした元喜を、傘を畳んで鞄と共に足元に置いた虹は呼び止める。
「分かった。シラミつぶしにいくか」
元喜は軽く体に力を込めると、胸が光り出し両腕の前腕に光の粒子が溢れ、腕輪の形になった。
腕輪には菱形の窪みがある。
「元ちゃんはここをお願いできる?
あたしは奥へ行く」
虹はポケットの皮のケースから、裁縫用の針を取り出し、右手に持ち、それで奥を指し示しながら言った。
「ひとりで大丈夫か?」
「なにかあったら合図する」
光の力は、精神状態に大きく左右される。
朝の事で、一人にするのは不安に感じた元喜は心配したが、虹は針を上空へ向けながら真剣な顔付きで言ったので、大丈夫だと思った。
「無理はするなよ」
「分かってる」
虹は返事をすると、奥へと駆け出して行った。
虹の後ろ姿を見送りながら、元喜はポケットから緑と青の菱形の宝石を取り出し、緑の宝石を左の腕輪に、青の宝石を右の腕輪に嵌めた。
顔の前に両方の前腕を揃え、叫ぶ。
«ゲイル!» «アクア!»
「アーマード!!」
掛け声と共に宝石の力を受けた腕輪からは光の粒子が放出され、右半身は風、左半身は水の鎧に身を包まれた。
これが元喜の能力だ。
虹は辺りを警戒しながら、奥へと走る。
雪で足取りが悪く、滑りそうになりながらも着実に、進んで行った。
「………! (いた。)」
目の前に人影を確認した。
場所は元喜の予想通り、灰色の世界の中心部だった。
際限なく降り続ける雪で視界が悪く、目の前の人はまだ気付いていない。
虹は曲がり角のブロック塀の影に隠れた。
虹は針を上空へ向け、元喜に合図を送ろうとしたが、その合図で気付かれる可能性もあり、今仕留めたほうが確実だと、針先を敵へと向けた。
彼女の能力は“銃”
手に触れたものすべての“尖端”から光の弾丸を放つ能力だ。
その威力は、先が細く、物体が小さいほうが大きくなる。
しかし、細過ぎたり小さ過ぎたりしても弛んで狙いが定まらない。
そこで虹が選んだのが、裁縫用の針だった。
「はあ。ふう。
ニードル……バスター!!!」
虹は深呼吸し、確実に一撃で仕留めるために技を使い、針先から光の弾丸を放った。
「………ッ!!?」
技を使うには胸のシャイニングハートと共鳴するために、技名を叫ばなければならず、その声で敵に気付かれてしまう。
しかし、その威力、スピードは凄まじく、敵が防御体勢を取ろうとした瞬間に、胸を貫いてしまう。
敵の体は粒子体となって空中へと霧散し、その下には双角錐の結晶が残った。
この結晶は粒子を操る核であり、これを壊せば灰色の世界はもとに戻り、闇の世界に染まることを阻止できる。
「ニードルバスター!!」
虹は結晶を破壊しようと、再び光の弾丸を放った。
そのとき、どこからともなく全身真っ黒の服を着た男が飛び出し、双角錐の前に立ち塞がった。
「なっ……!?」
弾丸は男へ着弾。
その勢いで積もっていた雪が舞い、その姿を隠した。
「今のは………
…ッ!!」
重力により雪が落ちると、そこではさっきの男が何事もなかったかのように立っていた。
(効いてない………ってことは、味方?)
能力による攻撃は胸に宿るシャイニングハートの光の力を使う。
その攻撃は、同じ光の力を持つ、光の人間には効かない。
そのため、味方ではないかと予想したがすぐにそれは違うと確信した。
男は手に粒子を集め始めた。
どす黒い、負のエネルギー。
闇の人間が扱う、闇の粒子だ。
「くっ!
(まだいたのか…とりあえず合図を…!)
えい!」
虹は元喜に合図を送ろうと、針を上空に向け、弾丸を放った。
その瞬間、男は粒子を投擲し、弾丸に当てて消滅させた。
「なっ!!」
あまりの一瞬だった。
男と虹とには距離があるが、粒子が飛んでくるところがまるで見えなかった。
「なら、ニードル
今度は粒子に掻き消されないようにと、威力の高い技で合図を送ろうとしたが
「うっ……!?」
針先をぶち抜かれ、その勢いで思わず針を離してしまった。
(なんだ………こいつ。
強い……。パワーもスピードも、桁違いだ……。)
虹は曲がり角へと避難し、男の死角へ入って新しい針を手に取った。
(とにかく……あいつを倒さないと……。
もとの世界に戻せない。)
虹は針を構え、曲がり角から体を乗り出した。
「ニードル………あれ…!?」
しかし、そこには男はいなかった。
結晶もなく、もぬけの殻だ。
(あいつ……どこへ…………?)
虹は辺りを見渡し、男を探す。
真っ白な雪景色に、真っ黒な男の姿はない。
虹は後ろも確認しようとした瞬間
「ひっ……………!!」
何かが、虹の背中に当たった。
虹は冬の寒さとはまた別の寒気を覚え、体が動かなくなった。
弾丸のパワーとスピードによる遠距離攻撃で、ほとんど苦戦なく、相手を仕留め続けた虹にとって、接近されることが一番の恐怖だった。
背中の何かは丸い形に膨張していく。
ぞわぞわする負のエネルギーが、虹の背中で集まり、形になっていく。
「に………ににに………」
虹は体をブルブル震わせながらも、肩の上に手を上げ針先を後ろに向けた。
「ニードル……! バ…………うああッ!!!」
弾丸を放そうとした瞬間、背中のエネルギーは放出され、虹自身が弾丸のように吹き飛ばされた。
コンクリート塀や、家の壁を3,4軒破壊すると、何者かに左腕を掴まれ、まだ20軒くらい破壊できそうな勢いは止まった。
「う……………ぐぐ………」
虹は急に勢いを止められたことによって体に負荷がかかり、朦朧とする意識の中、恐る恐る目を開く。
目に映ったのはやはり、あの男だった。
新幹線にも負けないようなスピードで飛ばされたのに、それさえ先回りして掴んでいた。
「…………ニードル……バスター……!」
虹は針先を男へ向け、弾丸を放つが、男はそよ風が吹いたかのように何事もないようにしている。
「なん……で………?
うっ……いやあ!!!」
虹は不可解な顔をしていると、男は虹を片手で持ち上げ、上空へ投げ飛ばした。
そして、一瞬で虹の高さまで行くと、粒子体を虹にぶつけ、打ち落とした。
「えほっ………えほっ…………
がはっ!!」
背中から地面へ叩きつけられた虹は、積もる雪がクッションになりかろうじて意識があるものの、全身を強く打ち、力が入らず、内臓も傷付き血を吐いてしまう。
「あ……う………うう」
顔に影が差した。
ニードルバスターを放とうとするが、針を掴むのが精一杯で腕が動かなかった。
今度はお腹を触れられた。
大きさはさっき背中を触れられたときと同じ大きさだった。
もうだめだと、虹は目を固く閉じ、歯をくいしばんでこれから来るであろう痛みに備えた。
しかし、虹の予想とは裏腹にお腹からは温かく優しいエネルギーを感じ取れた。
これは、回復の能力を持つ、聖香という少女の光のエネルギーに似ていた。
次第に虹の体は動くようになり、少し期待して目を開いた。
「え……?」
しかし、虹にエネルギーを送っていたのは紛れもなくあの真っ黒な男だった。
「おや。目が覚めましたか」
「………!」
さっきまで寡黙に自分を痛めつけた男が、突然話し始めたことで虹は混乱した。
なぜ現れたのか、なぜ痛めつけた上に回復させるのか、なぜ光の力を使えるのか、なぜ語り掛けたのか。
さまざまななぜが虹の頭に浮かんだが、答えは出なかった。
「どうです?
私からの挨拶。気に入っていただけましたか?」
「…………!」
何かを問われているのに、何も言えない。
底知れぬ恐怖が虹を支配する。
針先を向けて、敵意を向けることさえも体は拒否している。
「あなたは私のファミリーを手に掛けた。
だから一度死んでいただかないと満足しないんですよ」
「………………!」
「おや、なぜ黙っているのですか?
もうあなたの傷は癒えてますよ?
受け応えの1つや2つ容易にできますよね?」
「……………………!」
「ああ。そうですか。
なるほど」
男は何かを理解したかのような顔をしたあと、懐に仕舞っていた双角錐の結晶を取り出すと、粉々に砕いた。
「これでいかがでしょう」
結晶が砕かれたことにより、闇の粒子は散り散りに消え去り、灰色の世界は元に戻っていく。
「……………………!!?」
虹の頭はまた混乱する。
男の素性、行動、目的がまるで理解できない。
しかし、それが虹の考えを吹っ切れさせた。
虹は後ろに飛び退き、針先を向ける。
元の世界は灰色の世界と比べ、光の力が強まり、闇の力は弱まる。
だから、さっきまで効かなかったものも効くはずだと、シンプルな考えが虹の体を動かした。
「ニードルバスター!!!!」
虹は胸を光らせ、針を持つ手に力を込め、針先から光の弾丸を発射する。
今までと比べ物にならないほどのパワーとスピードを兼ね備えた弾丸は
男の体に当たると同時に消滅した。
「…………え?」
無傷というまるでさっきと変わらない状況。
虹の顔が絶望に染まる。
それでも一度攻撃をした以上、逃げ腰の姿勢を取れば間違いなく命はないという戦いの中で得た直感から再び針先を向けた。
「ニードルバスター!!
ニードルバスター!!
ニードルバスター!!!」
今度は3度弾丸を飛ばす。
しかし、やはりどの弾丸も男の体にあたると消滅してしまった。
「嘘でしょ……なんで……………。
どうし
「“どうして闇の攻撃を扱う人間が、光の攻撃を無効化してる”
とでも言いたげな顔ですね」
男は口を開くと同時に、虹へとゆっくりゆっくり歩み寄る。
「いいでしょう。教えましょう」
「ニードルバスター…!
ニードルバスター…!」
虹はほとんどやけになりながら、弾丸を放ち続ける。
「それは私が、光と闇。
両方の力を備えているからです」
「ニードルバスター…!
ニードル……バスター…!」
足は恐怖で動かない。
「私の能力は混沌。
光と闇を操れる、絶対覇者……すべてに崇められすべてに畏れられる無敵の王者。すべてを統べる能力です」
「ニードル……バスター…!
ニードル……バス…………ター……!」
このまま抵抗しなければ、一番の恐怖……接近が待っているだけだ。
「刀根虹さん。
あなたは私のものになってもらいます」
「………ッ…!!」
ついに男は、虹の目の前まで辿り着いた。
「う……うおお!!」
虹は最後の抵抗に、針先に光パワーをのせ、直接針を男の胸へと刺した。
「…………ッ!!?」
その瞬間、男の言葉を理解できた。
男の体は柔らかい肉質に富んだようであり、形のないただの粒子の集合体のようでもあった。
光は光の攻撃を防ぎ、闇は光以外の攻撃をあしらう。
光と闇を両方備え、そのどちらにも耐性を持つ。
その体は無敵そのものだ。
何者であっても勝つことができない。
そのことを虹は直感で理解した。
「最後の抵抗……ありがとうございます。
刀根虹さん。
あなたは強い。いえ、強過ぎました。
先程の者はタルメ……鋼鉄の能力を持ち、彼の体は巨漢が体当たりしようともビクともしないでしょう。
しかしあなたは一撃で彼の体を貫いた。
あなたを野放しにしては我々も困るのですよ。
王である私を動かしたその能力……勇猛さを評価し
“その体を頂きます”」
男は虹の右手を掴むと、闇の粒子を流し込んだ。
「なっ………え……いや……!」
闇の粒子は虹の毛穴という毛穴から入り込み、皮膚を筋肉を脈管を神経を、体を蝕んでいく。
次第に右手の感覚がなくなり、掴んでいた針が雪へと落ちる。
「安心してください。
苦しいのは今だけです。
いずれ闇の粒子はあなたの心と体を蝕み、新たな人格が形成され、あなたの意識は消滅するでしょう」
「………! しょう……めつ……?」
消滅、それはすぐに死と連想された。
すべてを蝕まれ、空っぽになった器に新たな魂が入り、そして、かつて仲間として共に戦った者たちを殺すのだろう。
そしてその中には恐らく、妹の姿も。
「虹ーー!!
どこだーー!!
虹ーー!!」
「……ッ!」
遠くから元喜の声が聞こえた。
灰色の世界が元に戻ったのに、虹が帰ってこないのを案じて探している。
「おやおや、はじめの犠牲者が現れましたね。
そういえば先程、能力を上空へ使おうとしましたね?
合図でしょうか?」
男がそう言った瞬間、
「くっ…! な……なに……!?」
右手が勝手に動き出し、雪へ落とした針を拾おうとしていた。
「合図を送りましょう。
自分が変わる瞬間を見届けられて、幸せでしょ?」
「な…………なにが…………幸せなものか………!!」
虹は抵抗しようとするが、闇の粒子の力は強大で徐々に体が傾き始める。
(もう……だめなの………あたし……このまま。)
抗えない力に、虹が諦めかけたそのとき
(待って……なんであいつは。
あたしを殺さなかったんだ……?)
不意に浮かんだ疑問、そしてその答えを予想したとき、恐ろしい考えが浮かんだ。
「(もしかして、死んだ人間には……効果がないんじゃ。
じゃあ……………ということは………。)
……………んーーーー!!!」
虹はその考えの下、体を力ませた。
胸が光り、その光が右腕に集中する。
「無駄です。光と闇は本来反発するもの。
堰き止められ、破裂するだけですよ」
「……そう………なら好都合だよ」
「………なんですって?」
男が聞き返したとき、
「うっ………!!」
パンッと何かが音を立て、赤い液体を撒き散らした。
「はあ…………はあ……………これで……………動ける………」
強引な方法で粒子を追い出した虹は、右腕を左手で抑えながら、走って行った。
「くっ………流石私を動かすほどの戦士ですね。
ですが無駄です。破裂地点は光と闇の境目。
闇の一部はあなたの体内に入ったままです」
「くっ!! 全部出し切ってないか!!
とにかく保って!! あそこまでは!!!」
虹も走りながら、闇の粒子がまだ体にいることが分かっていた。
闇の粒子は、傷口を完全に塞いでいた。
「待ちなさい。
どこへ行くつもりですか?」
気付くとまた、男が虹の目の前に立ち塞がっていた。
「はあ………はあ………。
教えるつもりはないよ」
「そうですか。
では、私が行くべきところへ導いて差し上げましょう」
男は粒子の塊を周りに出し、虹へ飛ばした。
「はあ……ふう……
(いくしかない……。)」
虹は正面突破を狙い、粒子弾を躱す。
「うおおおお!!!」
叫ぶと胸が光り出し、一時的に走力があがり、足取りの悪い雪道さえも男の横を一瞬で通り抜けた。
「……やってくれましたね。
しかし、あれだけやれば十分でしょう」
男はそう呟くと紫色の結晶を取り出し、そこに闇の粒子を送ると、一瞬にしてその場から消えていた。
「はあ………はあ…………」
男の妨害をなんとか突破できたものの、虹の足取りは重い。
左手や、右頬、右脇など、一部闇の粒子が掠り、蝕まれてしまっているのだ。
粒子に蝕まれた部分は感覚をなくし、進むのを拒否している。
しかし、それでも虹は歩み続けた。
仲間のため、家族のため、ともだちのため。
重い足で辿り着いたのは
「やった」
道路だった。
国道に続くため、車通りが多く、今でも雪道のなかビュンビュン目の前を通っている。
虹は目を瞑り、唾を飲み込んだ。
(母さん、三晴、それに天国の父さん。
ごめんなさい。
親不孝、姉妹不孝者で。
私はこれから絶対にやってはいけないことをします。
本当にごめんなさい。
これ以外思い付かなかった……!!)
虹があのとき思い浮かんだ考え、それは自殺だった。
粒子はまだ核を形成していない。
闇の粒子で再生できないほど、一瞬で死ねば、核の形成の前に肉体が滅び、宿主を失った粒子は霧散する。
もはや自分の死は決まったも同然であり、残った仲間たちのためには、それしか方法がなかった。
虹は目を開き、一歩また一歩と車道へ足を運んだ瞬間。
「………ッ!!?」
車がスリップし、虹のところへと突っ込んで来た。
虹は自分の死を悟った。
その瞬間、時間がゆっくりに感じ取れた。
(ちょうどよかった……なんて思っちゃだめだよね。
……もっと………もっとみんなと遊びたかった……お話ししたかった…………。
三晴と雪合戦したかった………三晴が剥いたリンゴ食べたかった……………最後に何話したっけ………?
最後にどんな顔見せたっけ…………?
ごめんね、こんなだめなお姉ちゃんで。
元気に……幸せに生きて。)
猛吹雪の中、車の多い通りに救急車とパトカーのサイレンが鳴り響く。
タイヤがパンクし凍結した路面にスリップした車が下校中と思わしき女子中学生を轢いたらしかった。
被害者は建物と車に押し潰され即死。
制服に書いてある名前から遺体の身元が判明された。
刀根 虹
とね にじ
享年14歳
01月23日 没
死因:交通事故