ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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20話 新たな事件

あれから約2週間──05/16(月)

 

明人は図書館から借りた、メダカの本を読みながら、登校し、教室まで歩いていた。

 

下見をした後の休み明け、担任から話があり、学校的には、なぜか教室で飼う生き物はメダカが定番とされ、勝手にそれで話を通されてしまったらしく、結局その下見は無駄になってしまっていた。

 

それでも明人は、咲希と一緒に係仕事ができる嬉しさと、命の責任にうるさい百合をあっと言わせたい気持ちを胸に、今日もメダカの勉強をしている。

 

「(へー、メダカって胃ないのか……

共食いもするみたいだから、餌やるの気を付け)うぐ……」

 

明人は本を読むのに夢中になり、前を見ていなかったため、前を歩いていた女子のランドセルにぶつかった。

 

「わりい」

 

明人は咄嗟に謝るが、女子は特に気にしないようすで、一瞥もなく、一人でなにか喋りながら何事も無かったかのようにそのまま歩いていた。

 

(………………刀根さんか……

アイツいつもああして喋ってるけど、誰と喋ってんだ?)

 

明人は不気味そうな顔で背中を見てると、ポンと肩を叩かれた。

 

「よ! アッキー!」

 

振り向くと、健太が無邪気な顔で挨拶してきた。

 

「ん? ああ、あっさー。

よ!」

 

明人も少し安心した顔になり、本を閉じて軽く挨拶を返し、横に並んで歩き出した。

 

「またメダカか?」

 

「ああ、知れば知るほど奥が深いからな」

 

「おや? アッキーさん。

もう、早苗さんへのお熱は冷めちゃったご様子で?」

 

「そういうわけじゃねえよ。

まだ好きだし、わりと順調な気もするし」

 

「おーおー、そうですかー。

いいですなー、春ですなー。

やー、それにしてもアッキーは女の子に囲まれて羨ましい。

両手に花というとこですか」

 

健太は肘で軽く突きながら、茶化すように言う。

 

「ならいいんだけどな」

 

「そうだぞ! アッキー、最近、不来方とも仲良いみたいだし! よ! モテ男!!」

 

「仲良い……か……」

 

明人は疲れた様子でそう呟いた。

 

3人でホームセンターへ出掛けてから今日まで、百合とは喧嘩はせず、仲の良い感じで振る舞っていた。

 

朝会ったときには必ず作り笑いで挨拶。

 

先生が好意で水草も用意した影響で、百合も手伝うことになったメダカの世話をするときも、なんとか息のあった連携をしようとするが、上手く行かず、その度にイライラしたが、笑ってごまかした。

 

明人はそうする自分も相手も気持ち悪く思ってしまい、最近では会う度に心のどこかで“一発殴っても許される”という悪魔の囁きが聞こえてきてしまうようになつていた。

 

「でもな、アッキー。

いくら何人の女性を愛そうとも、結局は一人を選ばなきゃいけないんだぜ。

それが、真実の愛ってもんさ」

 

そんな明人の苦労を知らない健太は、一人で勝手に纏めようとする。

 

「はいはい。

浅い浅い」

 

「ちょ……アッキー!!」

 

明人はいつものように軽く流し、健太はちゃんと聴けと突っ掛かる。

 

そのとき明人は男友達は楽だなと思い、親友に感謝していた。

 

 

 

場所は変わり、女子トイレ前の手洗い場。

 

「はーーーー」

 

咲希と共に毎朝の水やりを終えた百合は、トイレを済ませ、手を洗いながら大きな溜息をついていた。

 

百合も初めは取繕えばなんとでもなると軽くみていたが、一週間くらいで拒否反応がでてきてしまい、明人が視界に入るだけでも軽い吐き気がし、授業も視界の左端を手で隠しながら受けていた。

 

今日は明人が学校休みだといいなと思いながら登校するが、同じクラスになったときに、休んだところを見たことがないため、その願いも絶望的だった。

 

「お疲れのようだね」

 

そんな中、トイレから出てきた明里が横で話し掛けてきた。

 

明里は少しふくよかな感じのした女子で、面倒見がよく、誰にでも優しい女子の中のムードメーカー的な存在だ。

 

「……あ、いや。

そんなことないよ」

 

百合は顔をそらし、つっけんどんな態度を取りながら言う。

 

明里もまた、咲希が隣の席でよく懐いていたり、なにかアクセサリー系をプレゼントしているところをよく見たりしているので、百合の密かなライバル候補となっていた。

 

それに、特段何かされたわけではないが、性格の違いから苦手意識もある。

 

「へーー、そう?

でも顔暗いよ? 寝不足?」

 

「……ん。

まあ、そんなところかな。はは」

 

百合は早々に手洗いを終え、ハンカチで拭く。

 

それでも、まだ咲希がトイレから出てきていないため、逃げることはできなかった。

 

「それとさ、不来方さんに変な噂立ってるけど、本当?」

 

「……え? なんのこと?」

 

百合は咲希のこと以外、クラスメイトの話はほとんど耳にしないようになってしまっているため、まったくピンとこず、首を傾げる。

 

「そう。あ、知らないならいいか。

あ、そうそう。咲希ちゃん心配してたよ。

最近、無理してる感じあるって」

 

「…………へー、そう……なんだ」

 

「うん。

それじゃ、今日も頑張ろうね」

 

明里はそう言うと、ハンカチで手を拭きながら教室へと向かって行った。

 

百合は背中を見送る中、少し胸のあたりがモヤモヤがしていた。

 

(さっちも気付いてるじゃん!!

…………いや、このことを心配してとは限らない?

………………あー!! もう!! 帰りたい!!!)

 

 

 

教室。

 

「七不思議のピアノって何奏でてるんだろうな?」

 

「俺は、愛する人へのラブソングだと思うぜ」

 

「はいはい浅い」

 

教室に入った明人は自分の席へは行かず、ランドセルを背負ったまま、健太の席の前で駄弁っていた。

 

まだ真也との関係は戻っておらず、むしろグループ学習のときでも一切口利かないほど嫌悪なものになっていた。

 

そのため、いつも朝早い真也のすぐ隣の自分の席へ行くのは気まずいのだ。

 

「あ! 明人くん!!

おはよー!!」

 

健太の席は教室の廊下側の一番前なので、その近くにいた明人は、廊下からでも見え、咲希が無邪気に挨拶した。

 

「おう! おはよ!」

 

明人は片手を上げて返し、おずおずと百合を見た。

 

百合はこれでもかとくらい目をそらしている。

 

明人は呆れながら、百合を凝視し、すれ違う瞬間に

 

「おはよ」

「おはよ」

 

と、業務のように二人は挨拶を交わした。

 

先週の木曜日あたりから、これで許されているため、2人はもう、この挨拶で済ますようになっていた。

 

 

咲希が自分の席へ着くと、百合は手を離し、軽く手を振って、百合も自分の席へ座る。

 

(はーーーーーー

もう一生顔見たくない…………)

 

百合はさっきの一瞬でもう疲れ、机に顔を伏せた。

 

(なんとかなんないかなー…………もう直談判するー?

竹内さんと合わないから、仲良くなるのは無理って…………

できるの? 私。

………………できないよねー。知ってる)

 

百合は頬杖を突きながら、一人会議をしていた。

 

(ん? なんだろ)

 

その中、ふと視界の端で花びらが落ちているのに気付いた。

 

(どうしてこんなとこに)

 

百合は近寄り、拾おうとしたとき

 

「わっ!!!」

 

上の方から突然、油性ペンが落ちてきた。

 

百合は思わず大きな声を上げてしまい、クラスから注目される。

 

(恥ずかしい………なんで、油性ペンなんか)

 

百合は赤面しながら、どこから落ちてきたかキョロキョロしつつ、急いでペンを拾う。

 

(…………あれ?

このペン見覚えが……)

 

百合は拾った瞬間、妙なフィット感を覚え、ラベルをくるくる回して見た。

 

(…………!!

これ! 私の!!)

 

そこには、自分の名前が書かれていた。

 

百合は急いで机の中の道具箱を机の上に置き、中を確認する。

 

(…………ない……)

 

いつも入れているところに油性ペンはなく、筆箱に入れて持ち帰った可能性もあるため確認したが、やはりその中にもなかった。

 

(もうなに…………イタズラ……?

質の悪い)

 

百合はなぜ自分の油性ペンが上から降ってきたのか疑問を残しつつも、とりあえず道具箱の中に戻した。

 

「なあ。

不来方……さん」

 

すると、真也が立ち上がり百合の前に立つと、恐い顔で見下ろした。

 

「…………どうしたの?」

 

百合はその顔に少し怯えながら、キョトンとした顔で訊いた。

 

「今。何隠したの?」

 

「…………え?

隠した?」

 

詰るように少し大きな声で訊く真也に、百合はさらに不思議そうな顔をする。

 

「ちょっと見せろ……!」

 

真也はそう言うと、百合の道具箱の中の油性ペンを奪うように手に取った。

 

「え……!?ちょっと!!」

 

百合は止める間もなく、その勢いに気圧されなにもできない。

 

「これ……さっきあそこから落ちてきたもんだよな!?

…………ん?」

 

真也はペンを見せびらかすようにし、上を見ながら言うと、何かに気付く。

 

「そうだけど……だから

 

「おい、不来方さん。

あれ…………なんなんだ?」

 

「……え?

…………え……」

 

百合の声を遮り、自信満々に言う真也が指差す方を見ると、百合は息を呑んだ。

 

教室の廊下側の高窓に飾られている、係のポスター。

 

その中にある生き物係のポスターのメンバー一覧。

 

そこにある──あったはずの明人の名前が黒く塗り潰されていた。

 

「不来方さん…………お前、そこまでして迫害したいのか?」

 

困惑する百合に、真也は冷たく詰るように訊く。

 

「え…………?」

 

百合はまだ状況が理解できない。

 

「なあ!!!」

 

「……………ひっ……!」

 

そんな百合に、真也は大きく机を叩いて威圧する。

 

「お前が!! アッキーの名前を塗り潰したんだろ!!」

 

「え……?

ち……違う!!」

 

怒鳴る真也に百合はようやく、自分が疑われていることが分かった。

 

「じゃあ何で不来方さんの油性ペンが、生き物係のポスターのあるところから落ちてきたんだよ!!?」

 

「だから違う!! 私じゃない!!」

 

見に覚えのないことを責められ、百合は思わず泣きそうになってしまう。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

途中から聴いていた明人が、困惑したようすで訊いてきた。

 

「……百合ちゃん……?」

 

咲希も、いつもと違う百合の様子を心配して歩み寄る。

 

「ごめんさっち。私は平気。

自分の席戻ってて」

 

百合は咲希を巻き込んではならないと思い、咲希を見るなり涙を堪え、真剣な顔で伝えた。

 

「……う、うん」

 

咲希もただならぬ空気感を察したのか、言われたとおり素直に、それでも心配そうに自席へ戻った。

 

「……それで、なにがあったんだ?」

 

明人は腕組みをして、二人を交互に見詰めながら訊く。

 

「アッキー。聴けよ。

コイツが、お前が生き物係が入っているのが気に食わなくて、ポスターの名前を塗り潰したんだよ」

 

真也は奪った油性ペンを、百合に向けながら言う。

 

「違う!! 私じゃない!!」

 

百合は涙を流しながら必死に訴える。

 

「見ろアッキー、女子お得意の嘘泣きだ。

これで許されると思ってるんだろうな」

 

真也は百合を軽蔑した目で見下ろし、侮辱するように言った。

 

百合はなにも言い返せず、すすり泣く。

 

明人はしばらく百合を見ると、真也の方を向き

 

「まだコイツがやったか分かんないだろ」

 

と冷静に言った。

 

「は!? 何言ってんだよ!!?

コイツ以外だれがやるんだよ!!?」

 

真也は愕然とした表情で、明人に必死に訴えた。

 

「それは知らねえけど、証拠が不十分だし、それに咲希にアリバイを訊かなきゃ分かんねえよ」

 

「は……!!?

ったく………チッ」

 

真也は信じられないと言った表情をし、同意を求めるように明人の肩を掴むが、明人の毅然とした態度が変わらないため、舌打ちし、自分の席へ戻っていった。

 

明人は、真也をしばらく見たあと、百合を見下ろす。

 

そして、なにか声をかけるべきか考えたが、言葉が思い浮かばなかったため、明人も自分の席に着き、黙々と身支度を始めた。

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