ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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21話 疲れ

2,3時間目の間の休みの時間。

 

次の図画工作の授業で移動教室なため、明人は健太と共に廊下を歩いていた。

 

その中、女子トイレの前で百合を待っている咲希の姿を見付けた。

 

「あ。

あっさー。ちょっと先行ってて」

 

「ん?

……ああ、どうぞお熱い時間を」

 

「はいはい」

 

明人は、ポスターの件で咲希に百合の動向を訊こうと思い、足を止め健太に先へ行かせた。

 

「咲希」

 

明人は百合が出てこないか恐る恐る確認しながら、咲希に話し掛ける。

 

「あ! 明人くん!!

今日も図工楽しみだねー!」

 

咲希はチラチラと心配そうにトイレの方を見ていたが、明人に声を掛けられるといつもどおり無邪気な笑顔になった。

 

「……ああ。そうだね。

…………なあ、不来方ってさ、学校にいる時で咲希と離れるときってある?」

 

「百合ちゃん?

うん。おトイレのときと……あと、教室にいるときも、わたしと百合ちゃんの席が遠くだから、離れてるよ」

 

「…………そうか。ありがとう。

じゃあ、そのとき以外はずっと一緒なんだな?」

 

「うん!!」

 

「……そうか。わかった。ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

明人は、とりあえず聞きたいことは聞けたが、なにか追加であるか少し考える。

 

咲希はしばらく笑顔で待ってたが、次第に心配そうな顔付きになる。

 

「ねえ、明人くん」

 

「ん?

なんだ?」

 

「百合ちゃん……悪いことしちゃったの?」

 

悲しそうな顔でおずおずと訊く咲希に、明人はまだ不確定なことをどう答えるべきか悩む。

 

それでも、百合に関しては心配症なところのある咲希に、変な心配をさせたくはなかった。

 

「安心しろ。

不来方は悪いことしてない」

 

「でも! 怒られてたよ!」

 

「あれは……。

とにかく、大丈夫だ。不来方を信じてやれ」

 

明人は咲希に目線を合わせ、優しく言った。

 

咲希はまだ納得はできていないようだったが、下を向いたまま小さく頷いた。

 

しばらく口をモゴモゴさせ、ゆっくりと明人の方を向き直る。

 

「…………ねえ、明人くん」

 

「なんだ? 咲希」

 

「明人くんと百合ちゃんってホントは

 

「さっちー!! お待たせ!!」

 

咲希が何かを訊こうとした瞬間、トイレから百合の声が聞こえた。

 

「あ、ごめん咲希。

その話は今度な! じゃ、また……!」

 

明人は、咲希と2人で話しているのを見られると百合になんて言われるか分からないので、咄嗟にそう言い、逃げてしまった。

 

咲希は引き止める隙もなく、伸ばした手をゆっくり下ろし、口を尖らせる。

 

「お待たせ。ごめんね、待たせちゃった。

大丈夫だった?」

 

百合は少し赤い顔を笑顔にして、咲希に言った。

 

「……うん。平気だよ」

 

咲希も微笑みながら、答えた。

 

 

 

 

 

午前中の授業が終わり、給食の時間となった。

 

今日は係で集まって食べる日であり、生き物係も3人で集まる。

 

咲希と百合はお互い席を向かい合わせ、明人はその横にお誕生日席のように机をくっつけている。

 

「今日の給食も美味しいねー!」

 

咲希は無邪気に2人に言うが、明人は考え事をし、さっきからピクリとも動かず、百合も視界の端を手で隠しながら、虚ろな目で作業的に食べている。

 

「美味しいね!!」

 

咲希は聞こえなかったのかと思い、声量を上げるが、やはり2人に反応はない。

 

さすがの咲希も不機嫌になり、ぷくーっと頬を膨らませた。

 

「百合ちゃん!! 明人くん!!」

 

「……!

な! なに!?」

 

咲希が怒って2人に叫ぶと、百合は我に返り、慌てて聞き返す。

 

明人はまだ考え事をしている。

 

「明人くん!!

…………明人くん!!

あーきーとーくーん!!!」

 

咲希が何度も呼び掛けるが、明人に反応はない。

 

(あの人……大丈夫かな……?

寝てる?)

 

百合は指と指の間から明人の姿を見て、その不動の様に心配になる。

 

その瞬間、スーッと明人の目線が動き、指の間から覗く百合の目と合い、そして。

 

「不来方」

 

不意に口を開いた。

 

「うわっ!?」

 

百合はその不気味さに驚き、思わず声を上げた。

 

「あ、喋った」

 

咲希も驚きながら、不思議そうに呟く。

 

「お前と咲希のトイレの時間って、どれだけ差がある?」

 

「んっ!!?」

 

急な質問に、百合は飲んでいる牛乳を、噴き出しそうになってしまった。

 

「食事中だよ!?」

 

百合は明人の状況を弁えない発言に、思わず手をどかし、唖然とした顔で言う。

 

「同じくらいだよー!

百合ちゃんが先のこともあるけど、わたしが先のこともあるよー!」

 

「さっちも! わりとデリケートな話なんだから簡単に答えない!!」

 

気にせず答える咲希にも、百合は唖然とし、思わずツッコミを入れていた。

 

「そうか……。

じゃあ、その間にってのも無理か…………」

 

「あ! でもうん

 

「……!! だめ!!!!!」

 

百合は咲希の言おうとした単語に、危機を感じ大声で止めた。

 

その声は教室はおろか、廊下にさえも響いており、反響する声と、一斉に浴びせられる視線とで、百合はまた恥ずかしくなった。

 

「……?

どうしたの? 百合ちゃん」

 

咲希はなんで百合が大声出したのか分からず、不思議そうな顔をして、首を傾げる。

 

「う……ううん。

なんでもない」

 

百合は恥ずかしさに身を竦め、牛乳のストローを咥えながら言った。

 

「それで、咲希。

さっきなんて言おうとしたんだ?」

 

「あー! だからね、う……」

 

牛乳を飲んでるとき、咲希がまたその単語を言おうとしたので、百合は目力で訴え、首を振った。

 

「ぷはっ!

さっち!! だから言わない!!

言っちゃだめ!!

あなたも!! 言わせようとしない!!」

 

百合は必死に、弁えない発言を咎めようとしたが

 

「なんのこと?」

 

「さあ?」

 

咲希と明人は自覚がないらしく、不思議そうな顔をした。

 

(………………もうやだ……

帰りたい……)

 

百合は憔悴しきった顔で、背もたれに寄りかかると、ご飯を口に頬張った。

 

 

 

 

 

昼休み

 

「なあ……不来方」

 

机を戻しながら、明人が言いづらそうに声を掛けた。

 

「…………なに?」

 

百合は虚ろな目をしてきく。

 

「さっきは……すまん。

俺、なにか夢中になると、周りが見えなくなるから……」

 

「あ……そう。

うん」

 

百合はなにか言いたかったが、その元気もなかったため、適当に返して、机を元の位置に戻すと、自分の席で突っ伏してしまった。

 

(あいつ……大丈夫か?

だいぶ弱ってるな……。

とにかく、疲れが爆発してまた面倒なことにならないうちに、真犯人を見付けないと)

 

明人は百合の疲れが、ポスターの事件によるものだと思い、それで関係が更に悪化して、咲希に迷惑をかけることがないうちに片付けようと胸に決めた。

 

しかし、それよりも先に、やるべきことはしなければいけない。

 

(とにかく……餌やらねえとな)

 

メダカのお世話だ。

 

「みんな元気だねー!」

 

窓側にある水槽に行くと、すでに咲希が見ており、泳ぐ様子を楽しんでいる。

 

「そうだな」

 

明人は糞や卵がついてないか、それぞれの泳ぎ方などを見て異常のないことを確認すると、餌をあげようと、いつも置いているところに手を伸ばした。

 

(………あれ?)

 

しかし、そこに餌はない。

 

床に落ちてしまったのではないかと探すが、見付からない。

 

「どうしたの?」

 

キョロキョロする明人に、咲希が尋ねる。

 

「咲希。メダカのご飯知らないか?」

 

「ご飯?

ううん。見てないよ。」

 

「そうか……。

今朝はあったのになあ」

 

明人は頭を掻きながら呟き、再度確認するが、まったく見当たらない。

 

「どうするの?」

 

「そう……だな。

……あ、メダカが定番になってんだから、学校に餌あったりするかも。

ちょっと、はかちゃんに訊くか」

 

「うん!」

 

明人は、備品を貰えないか担任に相談しようと、先生の席を見たが、そこにはおらず、教室を見渡しても姿が見えない。

 

(職員室に戻ったのか……?)

 

明人はそう思い、咲希と職員室に向かおうとしたが、百合のアリバイのためにも、咲希を百合に付けとくのがよいと思った。

 

「咲希。

俺ちょっと職員室で、はかちゃんに訊いてくる」

 

「わたしも行くー!」

 

「訊くだけだから一人で大丈夫だよ。

咲希はちょっと不来方の相手をしてあげな。

……じゃ」

 

明人はそう言うと、小走りで廊下を出て行った。

 

 

「あ……また行っちゃった……」

 

咲希はまた話の途中で、走ってどこかに行かれたことに、少し頬を膨らませた。

 

(……百合ちゃん)

 

咲希は仕方なく、明人の言うとおり百合の相手をしようと、百合の席に向かった。

 

最近、百合の様子がおかしく、今日は一段と元気がないことは、咲希も薄々勘付いている。

 

「百合ちゃん」

 

「…………………………なに?」

 

咲希が呼んでから、百合はだいぶ間を開けて、微笑みながら返した。

 

明らかに無理していることは咲希でも分かる。

 

「平気?」

 

「……うん。

大丈夫だよ」

 

百合はふわふわとした口調で、安心させるように、咲希の頭を撫でながら言った。

 

「………………うん」

 

百合が大丈夫でないことも咲希は分かっている。

 

だけど、こうして笑いながら大丈夫と強がっている人に、根掘り葉掘り訊いて、その笑顔を崩すことに、咲希は躊躇してしまう。

 

「…………百合ちゃんは」

 

それでも

 

「……ん?

なあに?」

 

大好きな人には、心から笑ってほしかった。

 

「明人くんと、仲直りしてない……よね」

 

恐る恐るの質問に、百合はしばらく驚いた顔をした。

 

そして、どこか安心したような顔をすると、なにも言わず、咲希の頭を撫でるだけだった。

 

咲希は、その質問をして、よかったのか悪かったのか分からなかった。

 

それでも、頭を撫でる百合の手は、いつも通り優しかった。

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