ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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22話 伝説

今日の授業が終わり、帰りの会までの時間となった。

 

結局、メダカの餌は見付からず、備品を借りて、見付かるまで教室に置いておくことになった。

 

 

(ん? なんだ?)

 

明人がトイレから戻ると、机の上にメモ書きが貼られていた。

 

見覚えのある花の形の小さなメモ。

 

百合のものであることは明らかであった。

 

そにには、“さっちから伝言 仲良くないなら無理して仲良くしなくてもいいよ だって”と書かれていた。

 

(……バレたのか。

てか、直接言えよ)

 

明人は取り繕っていたことがバレたのと、それを直接言わないことに少し呆れ、百合を見た。

 

百合は明人の行動を見ていたが、視線に気付くと、すぐに顔を手で隠した。

 

明人は溜息をつくと、メモ書きを机にしまい、ロッカーにランドセルを取りに行った。

 

 

それを指の間から横目で見た百合は、手を外し、その手をじっと見る。

 

(私、なんでこんなのやってんだろ……

あの人がメモ書き見たのなら、もう必要ないのに)

 

百合は机に突っ伏して、ほとんど癖になってしまっている手で隠す動作に、自分で嫌気が差していた。

 

(…………とにかく……。

私もランドセル取ってこよ……)

 

百合は帰り支度をして気を紛らわせようと、ランドセルを取りに行った。

 

自分の席に戻り、教科書とノートをしまうため、ランドセルを開けると、百合はゾッとした。

 

(……なんで……これが?)

 

百合のランドセルの奥に、メダカの餌の袋が入っていたのだ。

 

百合は外から見えない程度に、袋を手に取りじっと見るが、間違いなくいつも明人が使っているメダカの餌だった。

 

(……なんで? これが入ってるの……?

私が間違えて入れた? でも、今日朝見たときはなかった…………はず……だよね)

 

百合は入れた覚えがない餌の袋が入っていることに混乱する。

 

今日、なにかの間違いで入れてしまったのではないかと、ざっくり一日の行動を振り返るが、そんな記憶はどこにもなかった。

 

(なんで……これじゃ私、あの人に嫌がらせしてるみたいじゃん……)

 

百合はランドセルの奥へ、餌の袋を隠し、あらぬ疑いを掛けられることを危惧した。

 

それでも、ずっと隠し続けるのは明人だけでなく、備品を貸している学校や、お世話を楽しみにしている咲希、それに飼ってるメダカにも迷惑がかかってしまう罪悪感もある。

 

(……と、とにかく…………あの人に言って……謝らないと)

 

百合は朝のポスターのとき味方してくれたため、今回も話せば分かると思い、明人に報告することにした。

 

(……よし)

 

百合は餌の袋を掴み、明人に正直に言おうとした。

 

そのとき

 

「不来方さん……?」

 

真後ろから、冷めたような声を掛けられた。

 

「わっ!!」

 

百合は驚き、思わず餌の袋を隠すと、後ろを振り向いた。

 

そこには真也が、また恐い顔で見下ろしていた。

 

「今……何隠したの?」

 

真也は詰るように訊く。

 

「え……いや、隠してないよ……」

 

百合は袋を見られたのかと思い、このままでは隠した犯人だと疑われてしまうので、無意識にランドセルを抑え、とぼけてしまう。

 

しかし、それは逆効果であり、真也は疑いの目を百合に向ける。

 

「隠しただろ!」

 

真也は怒鳴るようにそう言いながら、ランドセルを叩き落とす。

 

「あっ!!」

 

百合は反応できず、ランドセルは明人の席の方へ滑って落ち、蓋が開いて溢れた中身から、餌の袋が滑り出た。

 

「お前ら……。

何してるんだ?」

 

明人は呆れながら2人を見ると、自分の近くに落ちてきたランドセルを拾おうとした。

 

「あ!」

 

百合は今見られたら、本当に隠したみたいになると思われ、止めようとしたが遅かった。

 

「ん?」

 

明人はさっきまで必死になって探していたものが目に入ると、パッと手に取り、驚いた顔で見た。

 

「不来方……このランドセル。

お前のだよな?」

 

明人は見覚えのあるパッケージや、残りの量から、なくなったメダカの餌だと確証すると、百合を見て、訊いた。

 

「………………うん」

 

百合は嘘を付いて、この場をなんとかして逃げたかったが、さすがにすぐにバレると思い、正直に頷いた。

 

「そう…………」

 

明人はそう言うと、餌の袋を机の上に置いて、ランドセルを拾い

 

「ほらよ。気を付けな」

 

と言いながら、百合に渡すと、メダカの本を読み始めた。

 

「え?

(あれ……お咎めなし……?)」

 

百合は怒られるのを覚悟していたが、何事もないことに呆然とした。

 

「え………

おいちょっと待てよアッキー!!」

 

その横で、真也が唖然とした様子になり、次第に怒ったような顔になって叫ぶ。

 

「どうしたんだよ?」

 

明人は本から目を離さず、面倒くさそうにこたえる。

 

「どうしたもこうしたもねえだろ!

コイツのランドセルから、メダカの餌が出てきたんだぞ!

コイツが隠した犯人なんじゃねえのかよ!!」

 

真也は必死な顔で訴える。

 

しかし、明人は冷ややかな視線を送った。

 

「そんなことねえよ」

 

「なんでだよ!」

 

「最後にこの餌を見たときは、2,3時間目の休み時間で、それから不来方がメダカの水槽に近付いたとこは見てねえ。

それに、咲希にも餌の場所訊いたとき、知らないって言ってた。咲希と不来方はだいたい一緒にいるから、仮に不来方がしまったのなら、見てるはずだしな」

 

「は!?

チッ………じゃあ、もういいよ。それで」

 

明人の冷静な対応に、真也は舌打ちすると、呆れたようにそう言いながら、ランドセルを取って自分の席に座った。

 

「……ありがとう。竹内さん」

 

百合は明人のことを真っ直ぐ見て、素直にお礼を言った。

 

「お前。

冤罪なら冤罪ってはっきり言えよな」

 

明人はページをめくりながら、迷惑そうに言った。

 

「……ごめん」

 

百合の素直な謝りに、明人はなにか物足りなさを感じてしまう。

 

「気を遣って、仲良くする必要はねえんだぞ」

 

「…………ごめん」

 

明人はさっきのメモ用紙をピラピラ見せながら言ったが、百合は萎縮した様子で謝るだけだった。

 

明人はつまらなさそうな顔をすると、また読書に戻った。

 

 

 

 

帰りの会が終わり、放課後。

 

明人はまたメダカのことを調べるために、図書室に向かっていた。

 

「アッキー!」

 

そこへ、後ろから健太が追いかけて来る。

 

「おう。あっさー。

今日はしんと一緒じゃないのか?」

 

「今日、アイツめちゃくちゃ不機嫌だろ?

ぷんすかして。怒ってたら、幸せが逃げて行くというのに」

 

「はいはい」

 

「それに、今日は妹と一緒に帰るから、図書室で待ち合わせ。

あと、お前ら仲直りしろよなー」

 

「分かってる…………もうその言葉聞き飽きた」

 

明人は最近、仲直りをよく要求されると思い、溜息交じりに呟いた。

 

「え? 俺そんな口酸っぱく言ってるか?」

 

「あ、わりい。

こっちの話」

 

「ふーん。

ま、ホント、とりあえず、仲直りしろよな。

間に入る俺の気持ちにもなってみろー」

 

「分かったよ」

 

明人は軽く答えたが、今は真也との仲直りはそこまで重要視していなかった。

 

最近、百合との仲直りや、今日の事件、メダカのことなど、色んなことに良くも悪くも熱中しているが、その根幹には、“咲希への恋心”という太い芯があり、それとは関係ない真也は、実のところ今はどうでも良かったのだ。

 

「そうそう、今日不来方としんが揉めてたけど、なんかあったのか?」

 

「ああ。なんか、俺への小さな嫌がらせの犯人の濡れ衣が、不来方に着させられそうになってるみたいなんだ」

 

「へー。

てか、お前嫌がらせされてるの?

大丈夫か?」

 

「ああ。

ちっちゃいし、今のところは大丈夫」

 

「そうか?

まあでも、なんかあったら言えよ!

ちっちゃくても積もり続ければ、いつかパンパンになって爆発するからな!」

 

「はいはい。

ありがとう」

 

明人はなんか良い事言った風になる健太を、いつも通りあしらう。

 

それでも、この1,2週間で溜まった百合への鬱憤が、この嫌がらせがきっかけに冤罪と分かっていながらも、爆発しそうで恐いため、早めに解決策を見つけなければとも思った。

 

「ていうか、不来方ねー。

アイツの姉ちゃんは、とてもいい人だったんだけどなー」

 

健太は話を変え、昔を懐かしむ感じで言った。

 

「姉ちゃん?

アイツ、姉貴がいるのか?」

 

明人は知らなかった事実に、思わず聞き返した。

 

「え?

覚えてないのか? 俺らの3歳年上で、伝説のクラス委員長、不来方千帆」

 

「……さあ」

 

健太は“あの有名な”という風に言うが、明人はまるでピンと来ない。

 

「えぇ!!

ホントか!? あの不来方千帆だぞ!!

テストは満点以外取ったことなく、作文はほぼすべてA°!

出たコンクールには軒並み入賞、運動会も入った組をすべて優勝に導き、リレーでもアンカーを努めてそれまた全部一着! バトンパスのとき、1位との差がトラック半分くらいついてるのに、それさえ追い抜かしたこともあっただろ!?

頭脳明晰、運動神経抜群、おまけに顔も美人で性格も良いと非の打ち所のない正しく伝説のクラス委員長!!!」

 

健太は興奮気味に語るが

 

「さあ……いたかな……」

 

明人はやはりピンと来ない。

 

「お前……興味あること以外興味ないからな…………

じゃ、そろそろ」

 

健太は呆れながらそう言うと、図書室に着き、妹のもとへ向かった。

 

「おう。じゃあな」

 

明人も手を振って、見送る。

 

(不来方の姉貴か……

伝説のクラス委員ね)

 

明人はいつものところにあるメダカの本を手に取り、机に向かう途中、さっきの百合の姉の話を思い出していた。

 

(アイツ……割とどんくさいとこあるし、運動神経もお世辞にもいいって言えないからな……。

全然想像つかねえ………………。

顔は美人って言ってたな…………。

……アイツは………………………まあ、そこそこ……

って、なんでアイツの事考えてんだ俺!!)

 

明人はふと、なぜか百合のことばかりを考えていたことに気付き、その考えを振り払うと、本を読むことに集中した。

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