ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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26話 お呼び出し

中休み。

 

明人は真也と共に、空き教室Cの前に着いた。

 

扉を開けようとしたが、まだ袴田先生が着いておらず、鍵がかかっている。

 

「Cであってたよな?」

 

明人は確認程度に真也に訊く。

 

真也は俯いたままゆっくりと頷くだけだった。

 

(まだこんな様子かよ……

…………まあでも、あってるっぽいか)

 

遅れて百合も空き教室の前にやってきた。

 

空き教室はだいたいそれぞれの階の奥の方にあり、授業で使うことも殆どない。

 

そのため、人の通りもほとんどなく、3人だけの空間になっていた。

 

百合は2人を見ると、離れたところに待機し、時間を潰すためかポケットから、小さな花の写真を取り出して眺めた。

 

明人は呆れた様子で2人を交互に見ると、つまらなさそうに窓の外を眺め始めた。

 

 

百合は写真をペラペラと眺めながら、真也の姿を時折チラチラ見ていた。

 

萎縮し、反省しているように見える。

 

だが、謝りに来る様子はない。

 

謝ったから許すわけでもなにかが変わる訳ではないのだが、百合はそのことに段々と怒りが湧いてきていた。

 

怒りと悲しさで顔が赤くなり、目が潤み始める。

 

写真を掴む手の力が増していき、写真にしわが寄る。

 

百合はくしゃくしゃにならない内にポケットへと仕舞うと、拳を握りしめ、下を向いてこちらに気付かない真也のもとへ歩き、そして

 

無言で真也の頬を殴った。

 

「いってえ……なにすん

 

急に殴られた真也が、怒った顔を百合に向けた瞬間

 

百合は真也の胸ぐらを掴んだ。

 

「……!? おい!

不来方! なにやって

 

明人は2人の様子に気付き、走って2人を引き離そうとしたが

 

百合は怒りに満ちた涙の顔で、真也を空き教室の扉に殴り飛ばした。

 

真也は強く背中を打ち、恐怖で腰が引けてその場に座り込んだ。

 

「おい! 不来方!!」

 

明人は百合の肩を掴み、止めようとしたが

 

「じゃま」

 

と冷たい声で一蹴され、軽く腕で振払われてしまう。

 

「来んなよ……おい……!

やめろ……!」

 

真也は自分の上履きを百合に投げて抵抗しようとするが、百合はまるで気にせず、拳を握りしめ

 

真也を鋭く睨むと、顔面へ振り下ろした。

 

「やめろ!!」

 

ギリギリで明人は、百合を羽交い締めにして抑え込んだ。

 

百合はしばらく手足をジタバタさせて、抵抗したが、明人は離さない。

 

途中なんどか、顔を殴られたが、兄のものよりも力が弱かったため、平気で耐えられた。

 

しばらくすると百合は振り返り明人を睨んだ。

 

「なんで止めるの!? この人は……この人はさっちに怪我をさせたんだよ!!」

 

「だからと言って、殴っていいわけじゃねえだろ!

そんなことして、咲希が悲しむだけだろ!!」

 

明人の言葉を聞いた百合は、泣きそうな顔を歪ませ、真也へ向き直った。

 

「今日、さっち誕生日なんだよ!!

それなのに……あなたは!!!

さっちに何かあったら!!!!

どうするつもりだったの!!!!?」

 

百合は狂ったように大声を出して金切り声で叫んだ。

 

「不来方、うるせえよ。

耳がキーンとなる」

 

「じゃあ!!

あなたはさっちがどうなっても

 

目の前で、大声出された明人が百合に文句を言い、百合がそれに対し怒っていると

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

 

真也は目を瞑り、下を向いたまま謝り始めた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

壊れた機械のように何度も何度も繰り返した。

 

百合は感情が爆発し過ぎた結果か、かえって無の表情で永遠と続く謝罪を見下ろしていた。

 

 

しばらくすると

 

「竹内さん!!

何してるんですか!!?」

 

と、廊下の奥から先生の声がした。

 

「俺!?」

 

明人は一瞬、なぜ自分が怒られたのか不思議だったが

 

(俺か!)

 

冷静になると、百合を羽交い締めしている状態が続いていたため、少し見ただけなら自分が百合になにかしようとしていると思われてもおかしくはなかった。

 

明人は急いで百合を、自分の体で真也から隔てるようにして、離すと

 

「はかちゃん! 違う! 誤解です!」

 

と弁明した。

 

 

 

「な……何が起こったんです?」

 

先生は急いで近付くと、座り込んで謝罪する真也、顔を隠して泣き続ける百合、そして百合を羽交い締めにしていた明人というなにかあったとしか思えない状況に困惑した。

 

「え……えっと、俺から話します」

 

明人は百合と真也をそれぞれ見て、説明できそうなのは自分しかいないと思い、先生に説明役を名乗り出た。

 

「わ……わかりました。

とりあえず、入りましょう」

 

先生は鍵を開け、空き教室に入り、電気をつけた。

 

空き教室はパーテーションで2つに区切られており、入った側は椅子が並べられ、反対側は面談のときのように机が向かい合わせでくっついていた。

 

明人は真也をなんとか引っ張り入れ、百合も先生に優しく背中を押されながら教室に入った。

 

「それでは、竹内さんから話を聞きましょうか」

 

先生はパーテーションを少しどかして、机側に移動しようとしたが

 

「あ、はかちゃん、待ってください。

この2人だけを一緒にしたら、なんかまずい気がするので、俺はここで話しますよ」

 

明人はさっきのことがあって、百合と真也を二人きりはまずいと思い先生に提案した。

 

「……わかりました。

あと、はかちゃんじゃなくて、袴田先生ですよ」

 

 

〜〜〜〜

明人はまず、空き教室の前でなにがあったかを話すと、次に本題として嫌がらせのことを先生に訊かれた。

 

明人は係のポスターが塗りつぶされていたときのことから話し始めようとしたが、それが起こった前提から言わないと話しづらかったので、4月の初めての係仕事のときから話し始めた。

 

どうせ百合から言われると思い、自分の恋愛のことも。

 

「なるほど……不来方さんがそんなことを…………」

 

明人の話しを聴いた先生は、愕然とした表情で百合を見た。

 

(何も知らなかったら信じられないよな……)

 

明人はその反応を見て、百合の怖いとこを知らない人にとっては当然の反応だろうなと納得した。

 

「わかりました……ありがとうございます。

竹内さんも色々とあったのですね。

私もすみません。あのときは誤解してしまい」

 

「いえ。

大丈夫ですよ」

 

「本当にすみません。

……早苗さんのこと、がんばってくださいね。

……それでは次、橋本さん。

こちらへ」

 

先生は倉庫前で明人を責めてしまったことを謝罪し、耳打ちで明人に応援の言葉をかけると、真也に顔を向け、パーテーションの脇を通り、机側に向かった。

 

「しん。お前だよ」

 

明人はまだ座り込む真也を無理矢理立たせて、机側に押し込んだ。

 

 

明人は話疲れたのか、椅子に座る。

 

が、咲希がどうなったかがまだ分からないので、落ち着かずにソワソワし、すぐに立ち上がった。

 

(はかちゃんから訊いておけばよかったな)

 

明人はそう思うと、チラリと百合を見た。

 

百合は疲れた顔をして椅子に深く腰掛けている。

 

また教室のときに見せていた、虚無の顔だ。

 

明人は話しかけようか迷ったが、

 

「不来方」

 

咲希のことが気になり過ぎて、いつの間にか声を掛けていた。

 

百合は一瞥だけすると、手で顔を隠した。

 

「お前それやめろよ」

 

明人は百合の手を無理矢理下ろす。

 

百合は泣きそうな顔をすると、立ち上がり、窓の方へ歩くと外を眺め始めた。

 

「なあ、不来方。

咲希はどうなったんだよ?」

 

明人は百合を追いかけ、隣に立つと顔を覗き込むようにしてきいた。

 

百合は迷惑そうに明人を睨む。

 

「あなた、デリカシーないわけ?」

 

「え……?

いや、デリカシーとかそういう話じゃなくて、咲希がどうなったか」

 

明人の答えに、百合は唖然とすると、深く溜息をつき、ふらふらと椅子に座った。

 

「あなた……本当に“ひまわり”なんだね。

さっちのことばかり見詰めて……他の人はどうでもいいんだ」

 

「ああ。だから咲希は?」

 

皮肉が通じない明人に、百合は苦笑いするしかなかった。

 

「一応無事だよ。

橋本さんからどこまで聞いた?」

 

百合はもう投げやりになり、訊かれたことはなんでも話してやろうと思った。

 

「手を切って、扉に体ぶつけたって」

 

「そう。

手なら大丈夫。数日間痛みが残って握りにくくなるけど、それが引いたら動きももとに戻るって。

扉の方は……まだ分からない。

頭ぶつけたみたい

 

「え!?

咲希、頭ぶつけたのか!?」

 

“頭ぶつけた”と聞いた途端に明人は心配し、大声を出した。

 

百合はその反応に納得はできたが、少し呆れたような表情をした。

 

「人の話は最後まできいて。

頭ぶつけてコブになってるけど、意識には問題ないって。

でも。頭ってぶつけて数時間、数日後に突然意識を失うこともあるから。

検査してもらうために早退した。

……というか、私がさせた。

…………さっちの誕生日、一緒に過ごしたかったけど、それで突然倒れられてさいごの誕生日になるなんていやだから」

 

百合は最後の方はほとんど泣きながら話した。

 

「そうか……。

無理矢理話させて悪かった……。

やっぱ俺

 

明人はまた暴走してしまったのではないかと思い、反省した素振りを見せた。

 

「“1つのことに集中すると周りが見えなくなる”でしょ?

さっちが教えてくれた。

本当……私だからよかったけど、それでさっちを困らせないでね」

 

「……おう。

ごめん」

 

 

 

それからしばらく無言の時間が続いた。

 

明人は空き教室の中に置かれている本を、百合はまた花の写真を見て時間を潰していた。

 

「ありがとう」

 

少しシワが寄った写真を見ていた百合が着恥ずかしそうに言った。

 

百合はチラリと明人を見る。

 

読んでいるか分からないくらいペラペラと本をめくり、次々と眺めていた。

 

(だからあれちゃんと読んでるのかな?)

 

百合は不思議に思いながら、今度は明人に顔を向けた。

 

「ねえ」

 

「?

なんだ?」

 

今度は反応したが、本に集中して百合に顔を向けない。

 

「ありがとうって言ったの」

 

それを聞いた明人は思わず読んでいる本を床に落とした。

 

「は?

お前、どうした?

咲希を心配し過ぎて、頭おかしくなったか?」

 

いつも敵対している百合に感謝の言葉をかけられ、明人は逆に気味悪がっている。

 

百合は呆れると顔をそらした。

 

「前言撤回。

聞かなかったことにして」

 

「へー。そう」

 

明人は無関心にそう言うと、とくに追求することなく本を拾い読み始めた。

 

「……あなた。

本当に淡白な人ね」

 

「だって俺たち、仲良くする必要ねえんだろ。

嫌がらせのことも解決しそうだし、咲希のことも聞けたし、なんかお前のことどうでもよくなってきた」

 

「淡白な人」

 

百合はどこか拗ねたような顔をしながら呟いた。

 

 

 

 

「不来方さん……は時間がないから昼休みでもいいですか?」

 

真也との話が終わった先生はパーテーションから顔を出した。

 

次は百合の番だったが、もう休み時間はあと5分しかないため、百合の話は昼やすみにすることになった。

 

「アッキー。本当にごめん。」

 

戻ってきた真也は明人の元へ歩き、開口一番に謝った。

 

「俺のことはいいから。

咲希と……一応不来方にも謝れよ」

 

明人はまるで気にしていない様子で、それだけ言うと、空き教室から出て行った。

 

(本当……さっちのこと以外はどうでもいいんだな……

私、一応扱いだし……)

 

明人の声が聞こえた百合は、また心の中で明人の性格に呆れていた。

 

「不来方……」

 

そんな中、真也が百合の前に立ち、話し掛けた。

 

百合が真也と目を合わせると

 

「ごめん。

叩いて……酷いことも言って」

 

ときちんと誠意のこもった謝罪をされた。

 

百合は殴り飛ばしたことは悪く思っているので、許そうかと思ったが、

 

“女の子同士でイチャイチャして気持ち悪い”

 

その一言が忘れられず、“いいよ”と言うのを躊躇した。

 

百合はまた怒りが湧いてきた。

 

それが爆発する前に真也のことを睨みながら、ゆっくりと頷くと、教室から出て行った。

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