06/13(月)
「それでは、今日は来月の遠足のグループ決めをしようと思います」
学活の時間。
担任の袴田先生が教壇に大きなボックスを置くと、1から6までの数字を黒板に書いた。
「もうそんな時期か……
早苗さんと一緒になれればいいな、アッキー」
真也はニヤニヤしながら明人を見て言った。
「そうだな。
絶対ここで咲希と一緒になってやる」
明人はチラッと百合を見ると、小声だけど、それでいてやる気に満ちた声で答えた。
この約一ヶ月、メダカのお世話や係で集まっての給食で咲希と関わることはあったが、とくになにか進展があるわけではなかった。
更に、咲希と百合の様子を盗み見ていると、お互いの距離が近くなっていたり、好きと言い合っているところを見られたりと、仲がより深まっていたので、流石の明人も焦りの色を隠せなかった。
「それでは、今回は出席番号順に引いていきましょうか。
浅井健太さん!」
グループ決めはくじ引き形式だった。
19人のクラスで、黒板は6まで書いてあるため、1グループに3人ということになる。
1グループだけ4人になるのだが、最近学校に来ていない人がいるため、その1人がどこかに4人目として入ることになっている。
男女関係なく、呼ばれているため、男女比は関係ない完全にランダムの抽選だ。
「不来方百合さん」
百合の番になり、百合はドキドキ高まる胸を抑えながらボックスに向かった。
その途中、手を振る咲希の横を笑顔で振り返すと、ボックスの中に手を入れた。
(今は6番以外埋まっちゃってる……
さっちと一緒のグループになるなら、まだ誰も入ってない6番を引きたいな……)
百合はそんなことを考えながら、一番初めに触れた紙を取り、先生に渡した。
「6番ですね」
先生は折畳まれた紙を開き、百合に番号を見せながら告げた。
百合は狙い通りの番号を引けて内心喜んだが、驚きの方が勝り、少し頷くだけだった。
(……これで、さっちが別の番号だと意味ないけどね)
百合は6の下に自分の名前を書きながら、そう思っていた。
「早苗咲希さん」
「はーーい!!」
名前を呼ばれた咲希は、駆け足でボックスに向かった。
先生は咲希が取りやすいように、ボックスをおろしてあげる。
(6番! 6番引いて! さっち!!)
それを見る百合の鼓動が高まり緊張する。
まだ6番には自分以外入っていない。
百合は緊張でドキドキして見ていられず、思わず目をつぶってしまう。
その隣では、明人が手を組んで願っていた。
(6番以外……! あと、3と5も埋まるからだめ!!)
明人も願いに集中して目をつぶっている。
「えい!
……えっと」
咲希はしばらくガサゴソと漁ると紙を力強く取り出した。
明人と百合は同時に顔を上げて、紙を凝視する。
「9?」
本来は先生に渡して紙を開いてもらうのだが、咲希は自分で開いて見てしまった。
((9!))
明人と百合は、咲希から出た数字に困惑した。
「これは6ですね」
先生は優しく咲希の持つ紙を、上下逆さまにしてあげた。
「……あっ!
6だ!!
百合ちゃんと一緒だ!!」
咲希は黒板を見ると、自分と同じ番号に百合がいることに気付き、嬉しそうに飛び跳ねて、百合に手を振った。
(なんだ……逆さまか……)
百合は喜びよりも先に、未知なる番号が出たおどろきと勘違いだった安心が勝ち、少し疲れた顔で咲希に手を振り返した。
「咲希ちゃん、名前書かないと」
手を振り続ける咲希に、明里が軽く注意した。
「あ! そっか!!」
咲希は慌てて黒板に名前を書きに行く。
それを見て百合は、ムスッとした表情になった。
(またあの人さっちに馴れ馴れしくさっちに注意するのは私のやることなのに私も注意しようとしたのに私の方が注意上手いのに私が注意するべきなのに)
その隣では明人が頭を抱えていた。
「終わりだ。
もう消化試合」
「げ……元気だせって。
まだ一枠空いてるだろ?」
「いや! 咲希と一緒だけど、アイツとも一緒になるんだぞ!
アイツ一々突っかかってくるからめんどくせえ!!」
慰める真也に、明人は顔を上げ、百合を指差しながら早口で言った。
聞こえていたのか百合は明人を睨んだ。
「た……たしかにな」
明人には見えなかったが、真也には視界の端で見えていたので、急に寒気がしながら納得した。
「竹内明人さん」
明人の出席番号は咲希の2つ上の番号なので、話しているうちに明人の番になった。
「まあでも最悪、しんかあっさーと一緒でもいいか」
明人はそう言いながら面倒くさそうに立ち上がった。
「俺ら最悪扱いかよ」
真也のツッコミを無視し、ボックスに向かいどうにでもなれと紙を取って先生に渡した。
「はい
……えっと、あら」
先生は紙を開き番号を見ると、少し驚いた。
そして、明人に笑顔を向けて紙の番号を見せた。
「6番ですね!」
「えっ!!?」 「は!?」
番号を聞いた瞬間、明人と百合は驚きに満ちた声を発した。
「わーい!
明人くんも一緒だー!」
咲希は自分と仲良しの2人と一緒になれてとても喜び、明人に大きく手を振っている。
明人は小さく手を振り返すと、先生に向き直り
「えっと、係と同じメンバーですけど……いいんですか?」
と確認した。
先生はチラッと咲希と百合を見て、明人と視線を合わせると微笑み
「いいんじゃないんですか」
と楽しそうに言った。
「はあ」
いつも少し真面目で融通の利かないところがある袴田先生にしては珍しいと思い、明人は間の抜けた声を出してしまった。
(はかちゃん、もしかして恋には寛容なタイプ?)
明人はそんなこと考えながら、名前を書いた。
書いた順番的に右詰めなため、咲希と自分の名前が隣同士になっていたため、それがどこか少し嬉しかった。
咲希のその反対側にいらない名前が書いてあることを除いては。
それは百合も同じことを考えていた。
(なんで? なんであの人と遠足でも同じメンバーにならなきゃいけないの?
くじ引きって普段あまり関わらない人とも同じになるようにやってるんじゃないの? なんで袴田先生は同じ係で被ってるのに許してるの?
袴田先生らしくない
というか、こうなるなら名前真ん中に書けばよかった。
そうしたらあの人とさっちの隣に名前書かなかったのに……
あ、でもそうしたら私の隣に……?
ああそれもいや!!)
明人は名前を書き終わると自分の席に戻りに行った。
「明人くん! よろしくね!!」
その途中で、咲希がとても嬉しそうに話し掛けてくれた。
「よろしく。咲希」
明人はその嬉しさから思わずにやけながら答えてしまった。
もう少し話したかったが、さっきから後ろの席からの殺気が凄まじいためすぐに戻ることにした。
「……なんだよ?」
明人は戻ってくる中ずっと睨んでいた百合に、迷惑そうに小さな声で話し掛けた。
「一々突っかかってくるからめんどくさくて悪かったね……!」
百合も小声で返す。
「くじだからしょうがねえだろ」
「さっちに変なことしないでよ」
「誰が。
お前こそ咲希を不自由にさせるなよ」
「私の方がさっちとの関わり方が上手いから、口出ししないで。
というかあなた、この前私のことはどうでも良くなったって言っておきながら、私のことすごく意識してるよね?」
「は!?
お前、自意識過剰なんじゃねえか?
誰がお前なんか」
「あのときはさっちが心配で心配で仕方なかったんでしょ?
あなたって意外とわかりやすいね。
さっちが登校してきたらまた私に文句つけるようになって」
「そんなにねえよ!」
「ある!」
「ねえ!」
「ある!」
「竹内さん! 不来方さん!
仲良くしてください!」
口論がヒートアップしたのか、2人の声量が大きくなっており、ついには先生に注意されてしまった。
2人は口籠りして、前を向き直り互いを睨みあい、そして
「お前が!」 「あなたが!」
と同時に体を向かい合わせ文句を言おうとしたが、かぶってしまったのが癪だったので、また前を向き直った。
(やっぱ、仲良くなってるよな)
その様子を見ていた真也は苦笑いしながら心の中で呟いた。