「いただきまーす!!」
お昼ごはんの時間になり、三人はそれぞれレジャーシートを敷き、月詠町が一望できる小高い丘でお弁当を食べ始めようとしていた。
「いただきます」 「いただきます」
元気に食べる咲希と対照的に明人と百合は疲れた顔をして、互いを睨み合っている。
出発した後、咲希が拗ねたためどちらの手も繋がずに、興味を持つ方へあっちこっち行くので、2人は競うように注意をしあっていた。
はじめは“そっち行かないで”とか“こっちは危ないぞ”とかルートに関係するものがほとんどだったが、注意した後、互いに相手に勝ち誇った表情をして煽り合った。
そのため、最終的にはいかに咲希に注意をするかの対決になり、ちょっとした段差や、カラスや岩など、あらゆることに神経を尖らせていたため、気疲れしてしまっているのだ。
「あなたいい加減しつこい。
さっちはお年寄りじゃないんだから、ミリ単位しかない段差じゃ躓かないって」
「お前こそ。
何十メートル先でただとまってるだけのカラスにも過剰に反応して。
バカじゃないのか?」
「あなたこそ、ムキになってバカじゃないの?
さっちに怒られたから気にしてるんだー」
「は?
お前こそ、咲希に怒られて必死になってんだろ」
「必死になってない! 私はいつも通りのことしてるだけ!」
「は? それがいつも通りかよ?
まだ咲希のことを束縛してるのか?」
「してない!! これは束縛じゃなくて
百合が言い返そうとしたとき
真ん中に座る咲希が、箸をお弁当箱に勢いよく置いた。
そして、拗ねた表情で明人と百合を見ると、強引に2人の弁当箱を奪った。
「咲希?」
「さっち!?
なにするの!?」
2人は困惑して、咲希の様子を伺う。
咲希は腕でお弁当を隠すと
「ケンカするならお昼なし!!
ごはん中はだめ!!」
と2人に怒った。
「でもさっち!
この人が!!」
「は!?
元はといえば、お前が!!」
「百合ちゃんも明人くんもどっちもわるいこ!
“ケンカするほど仲がいい”だけど、ケンカしすぎはだめ!!
ごめんなさいしてなかなおりして!!」
咲希は全員のお弁当を隠すようにして体を丸めて抱え、まるで動かない。
その様子に明人と百合は困り果てる。
「さっち、ごめん。
言い過ぎたから、その……お弁当、返して」
「俺も……ちょっと、ムキになったというか
なんか、ごめんな。困らせて」
2人は咲希を見て謝った。
「ちがう!!」
当然、咲希は納得できず、体を起こすと2人の腕を強引に引っ張った。
「わたしじゃなくて、百合ちゃんは明人くんに!
明人くんは百合ちゃんにごめんなさいしなさい!!」
そして無理矢理、2人の手を繋がせた。
仲直りの握手のつもりである。
2人は露骨に嫌そうな顔をしながら互いを見詰める。
はやく手を離したかったが、咲希が抑えているので離せない。
謝れば済む話だが、どちらも悪いことをした覚えがなく、ここで謝ったら負けな気がして謝れない。
だが、流石に咲希の怒った顔を見続けるのは耐えきれず
「ご……ごめんなさい」
と百合が顔をそらして言った。
それを聞いた咲希はパッと笑顔になり、期待の眼差しを込めて、明人を向いた。
明人もその視線には敵わず
「ごめんな……さい」
と渋々言った。
「うん!
ふたりともいいこ!!
はい! お弁当たべていいよ!」
咲希は笑顔で2人に弁当箱を返した。
「おいしーい!」
咲希がおかずのタコさんウインナーを箸でとっている間、2人は睨み合うと、黙々と弁当を食べ始めた。
「風景画もいいなー」
お弁当を食べ終わった百合は、丘から見える景色を写真におさめた。
「わー!
すごーい!」
咲希も柵の近くまで走り、町を見下ろしている。
「咲希!」 「さっち!」
「身を乗り出しちゃだめだぞ」
「落ちないように気を付けて」
柵の外は鋭い傾斜になっており、転がり落ちるとその先の森の木々にぶつかって大怪我をおってしまうだろう。
2人は同時に注意し、また睨み合うが、さっきのことがあったため、言い合いはしなかった。
「あ! あれお花畑!!」
「どれだ?」
咲希が指差すところを、明人も隣に立って探した。
「いつものとこだよねー
さっち!」
慌てて百合も、咲希の隣に立った。
「うん!!」
「なんかこの町花畑多いな」
明人は町を一望する中で、花畑を2,3個ほど見付けたので思わず呟いた。
「うん!
えっとね…………
あれ? 百合ちゃん、なんでだっけ?」
百合は明人にも説明するようで少し渋ったが、咲希のためにと思い、いつもの花畑の近くにある山を指さしだ。
「あそこにある月詠山の湧き水が関係しているみたい。
栄養豊富で花が育ちやすいみたいで、地脈を通じてこの町の植物すべてを網羅してるって噂」
「噂かよ」
百合の解説に、明人はツッコんだ。
「神聖な力みたいなのがあって、現代技術じゃ解明できていないみたい。
それのおかげで植物の種類も豊富で、新種も数多く発見されてるみたい。
…………あなたには関係ないだろうけどね」
百合は少しムッとし、明人に対してムキになって補足した。
「一言余計だ」
「ねえ、百合ちゃん。
あのお花どうだった?
さっき、きいた?」
咲希はいつものお花畑を指差して百合に訊いた。
「うん!
きいたきいた!
でもやっぱりわからないって」
「そっかー……
じゃ! やっぱり新種かな!」
咲希はワクワクするように言った。
「どうだろうね」
百合はカメラを取り出し、写真を眺めた。
「……?
なあ、どのことだ?」
明人はまた仲間はずれにされていると思い、会話に混ざりにいった。
百合はカメラを明人から遠ざけて隠そうとしたが、咲希の視線が痛く、無言で見せた。
「あれ?
これって、あの花畑に咲いてるのじゃ?」
「うん!
百合ちゃんと調べてるけど、なんの種類かみんなわからないんだよ!」
「へーー」
明人は未知なる花が近くで咲いている事実に少し胸がドキドキしていた。
「花弁の数も3枚から4枚で少なめだし、おしべやめしべにあたるものも見当たらない。
アリアケカズラみたいに中に入ってるわけでもないみたい」
またスイッチが入ったのか、百合は淡々とこの花の不可解さについて語る。
咲希は楽しそうに聴くが、明人は呆れ気味である。
「それに、生長しきった形でしか発見されてなくて、私とさっちで探しても、新芽や蕾がまったく見つからなくて、本当にどうやって生殖しどうやって生長してるのかかまったくの
そこまで言うと、百合の目の前に羽虫が飛んできた。
「うわ!!」
百合は驚き、思わずカメラを大きく上に投げてしまう。
「あっ! 百合ちゃんのカメラ!!」
カメラは柵の外側に落ちて行き、咲希は身を乗り出してカメラをキャッチする
が、
「うわっ!!」
足を滑らせ、柵の外に落ちそうになってしまった。
「……!?
さっち!」
「危ない!!」
間一髪、明人が咲希の腕を引っ張り、咲希は丘から転がり落ちずにすんだ。
「ありがとう!」
「……おう」
咲希のお礼に、明人は照れながら応えた。
「さっち!!
ごめん!!」
百合は泣きながら咲希に抱き着いた。
「大丈夫だよ! 百合ちゃん!
明人くんが助けてくれたから!
はい! カメラ!!」
咲希は百合の頭を撫でてそう言うと、カメラを渡した。
百合は明人を見て、なにか言おうとしたが、やめてしまい、咲希の頭をなでた。
「ありがとう、さっち。
すき」
「わたしもだいすき!」
咲希と百合はそう言い合うとギュッと抱きしめ合った。
「……気を付けろよ」
明人は少しつまらなさそうな顔をすると、百合に言うが、反応はなかった。
「ついたー!!
お花畑ーーーー!!」
3人は少し省略しながらもルートを巡り、最終地点である最初に咲希がパンフレットで見付けた花畑に辿り着いた。
「すごい……」
一面に広がる多種多様な花。
大好きなものが敷き詰められた空間に、百合は思わず息を呑んだ。
「わーーい!!」
咲希は大好きなお花で作られた通り道をひたすら駆け回る。
(かわいいな)
明人はベンチに座り、広大な花畑を駆け巡る大好きな人を眺めた。
ここに来るまで、明人と百合はまた注意対決を繰り返し、再び険悪なムードが漂っていたが、花畑に圧倒され、気付けば全員、神聖な空気感にのまれていた。
「さっちー!
お花踏まないようにねー!」
「はーーい!!」
通り道と花の間には低いところにロープが張られているが、一応百合は咲希に注意した。
(私も)
百合はカメラを構え、花畑に向かった。
「百合ちゃーーん!!
すごいよ! いっぱい咲いてる!!」
「……うん!」
無邪気に手を振る咲希も、お花のお姫様に見え、百合は思わずシャッターを切っていた。
(自然のままのかたちのいつもの花畑もいいけど、こうやって人の手で管理された、人とお花の調和もいい!!
この景色絶対に忘れない!!)
百合は感動のあまり思わず涙を流しながら、心に誓った。
「明人くんもおいでー!」
咲希はベンチに座る明人を誘い、手を振る。
「俺はいいや!」
「えー!
なんで!?
近くで見ようよ!」
「……あとで行く!」
明人は微笑みながら、咲希を遠くから見た。
(好きな人が好きなものに見せる笑顔っていいな。
俺もこの花と……アイツに負けないくらい笑顔にさせたい。
そのためにも、咲希の笑顔を目に焼き付けたい)
明人は咲希の楽しそうなとびきりの笑顔を見て、強く決意した。