ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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32話 明人と百合

「咲希ー!

そろそろ時間だぞー!」

 

楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、そろそろ花畑を出発する時間になった。

 

明人はベンチから咲希に呼び掛けた。

 

「はーーい!!」

 

咲希は元気に返事をしながらも、花をじっと見て動かない。

 

「咲希ー!」

 

「はーーい!!」

 

もう一度呼ぶが、やっぱり動かない。

 

(…………アイツは?)

 

こういうときは百合の言うことしか聞かないのかと思い、明人は百合を探した。

 

(……いた)

 

しかし、当の百合も撮影に夢中になっている。

 

(仕方ない)

 

明人は咲希のところへ歩いていき

 

「咲希、遅れちゃうから戻るぞ」

 

と近くまで行って呼び掛けた。

 

「うん。

いま行く」

 

咲希はそう言うが、やっぱり動こうとしない。

 

「咲希」

 

明人は咲希の隣に座った。

 

「やっときた!」

 

その瞬間、咲希は嬉しそうな顔をした。

 

「え?」

 

「明人くん、全然来なかったから!

こうしたら来てくれるかなって!

そうしたら来た!」

 

明人は呆気にとられた表情をした。

 

(また強引にやられたか)

 

明人は立ち上がると、微笑んだ。

 

「お花畑にいる明人くん見たくて待ってたんだよ!」

 

「ごめんな」

 

「うん。

でも、今こうして見れてるから大丈夫!」

 

「……ああ」

 

好きな人が目の前で、嬉しそうな笑顔をしている。

 

明人は少し申し訳なさを感じながらも、喜びをしみじみと感じていた。

 

 

「……あっ!

百合ちゃん、また写真撮ってるー!!」

 

しかし、百合の姿を見ると咲希は笑顔から少し拗ねた顔になってしまった。

 

咲希は百合を止めに、百合のもとへと走った。

 

(あ……。

……アイツめ)

 

明人は咲希の笑顔を邪魔した百合を睨んだ。

 

 

「百合ちゃん!」

 

「なに?」

 

「戻る時間だって!」

 

「……うん。

ちょっと待って」

 

百合は珍しく咲希の方を見ずに、撮影に夢中になって話す。

 

「ちょっとってどのくらい?」

 

「ちょっとはちょっと」

 

「……百合ちゃん!!」

 

咲希はなかなか取り合ってくれない百合に怒り、カメラを取り上げてしまった。

 

「あっ! さっちなにするの!?」

 

百合は取り返そうと手を伸ばすが、咲希は腕を上に上げて、百合から離す。

 

「また来よ!

そのときに撮ろうよ!」

 

「…………うん。

……そうだね」

 

咲希の言葉を聞いて、百合は我に返り、申し訳なさそうに言った。

 

「うん!」

 

咲希は元気に返事をすると、カメラを百合に返した。

 

「終わったか?」

 

同時に、明人が様子を見に来た。

 

「うん!

戻ろ!」

 

咲希はそう言うと、百合と手を繋いだ。

 

「……ああ」

 

明人は嫉妬心をおさえ、微笑みながら応えた。

 

 

3人は花畑から出て、集合場所に戻ろうとしたが

 

「あ! 百合ちゃん!」

 

咲希が叫んだ。

 

「なに? さっち」

 

「おトイレ」

 

「え!?

えっと、すぐ?」

 

「うん!」

 

百合は戻る時間を気にしたが、集合場所へは15分以上かかる。

 

咲希の返事からして、間に合わないと思うので、あたりを見渡してトイレを探した。

 

「ここからなら、さっきの花畑が近いんじゃないか?」

 

明人が言った。

 

百合は明人の提案をのむのは嫌だったが、咲希のためならと思い

 

「さっち、お花畑だって

そこにトイレあるから一旦戻ろ」

 

花畑のトイレを使うことにした。

 

 

 

 

 

咲希のトイレを待ってる間、明人と百合のふたりっきりになった。

 

トイレの近くの待ち合いは、テラス席みたいになっており、そこから花畑が一望できた。

 

「はーーあ……

ふたりきりになるなら、さっちとがよかったなー」

 

百合は疲れた様子でベンチに座ると呟いた。

 

「珍しく気が合うな」

 

明人は花畑とテラス席を隔てる柵に寄りかかっていた。

 

「そうだねー」

 

百合はカメラに保存された写真を見返しながらも適当に返した。

 

 

しばらく沈黙が続く。

 

その静寂の中、突然トイレから

 

「百合ちゃーーん!

うんちもー!!」

 

と聞こえたきた。

 

「大きな声で言わなくていいー!」

 

百合は思わず立ち上がり、恥ずかしそうに叫んだ。

 

「わかったー!

うんちー!」

 

百合の注意に、今度はさっきよりも小さなボリューム感での声が聞こえた。

 

「2回言わなくていいー!!」

 

百合は焦りながら叫ぶと、更に疲れたようすでベンチに座った。

 

「いつもこんなか?」

 

明人は苦笑いしながら言った。

 

「そうだよ。

幻滅した? してくれれば嬉しいよ」

 

「しねえよ。

咲希の自由さは俺もなんとなくわかってる」

 

「あなた程度でわかった気にならないで」

 

 

また数秒間の沈黙。

 

明人はふと、百合の方を見た。

 

ちょうどデジタルカメラの写真が見えてしまう。

 

今日の分だろうか、途中までは植物や花の写真が多かったが、それより前になると、咲希を写したものやツーショットばかりだった。

 

「……なあ」

 

明人はふと疑問が湧き、思わず百合に話し掛けていた。

 

「……なに?」

 

百合はカメラを見ながらこたえる。

 

「お前って……なんであんな咲希に拘ってんだ?

あまり他の奴と絡んでるとこ見たことがないけど」

 

明人の質問に、百合の手が止まる。

 

かと思えば、写真を選択する手が忙しなくなる。

 

「どうしたの?

急に」

 

「いや。

俺とお前って別に仲良くなる必要はないけどさ。

今日みたいに喧嘩し過ぎると、咲希が悲しむから。

なにか……そう、咲希に拘る理由知れば、少しは怒らずに済むかなって思って」

 

百合はベンチから立ち上がると、花畑に向けてカメラを向けた。

 

「あなたのそういういつも余裕たっぷりなところ嫌い」

 

「俺の嫌いなところじゃなくて、咲希に拘る理由訊いてんだ」

 

呆れながら言う明人に対し、百合は撮影の手を止め、ようやく明人を見る。

 

「あなた、本当にデリカシーない」

 

「あ……そう……か。

またデリカシーないこと言っちゃったか……

わるい」

 

素直に謝る明人に、百合は退屈そうな顔をすると、また花畑に体を向けた。

 

「いいよ。

お昼、さっち助けてくれたし。

さっちが戻るまでね」

 

「え……ああ。

おう」

 

明人はさっきまでの百合の反応から、聞けるとは思えずにいたので、間の抜けた返事をした。

 

 

「私ね、友達はさっちしかいないの。

私って引っ込み思案でしょ?」

 

「え? そうなのか?」

 

「そうなの。

だからさっちに拘ってるというより、さっちしか関わり合える人がいないってこと。

それだけ」

 

百合は儚げな顔で、明人を見た。

 

「……あ。

ああ……そうか。

ありが

 

明人はあまりにも簡潔な答えに戸惑いつつ、話してくれたことにお礼をしようとしたが

 

「だったらいいんだけどねー」

 

と、百合は笑いながら言った。

 

ポカンとする明人に、百合はしんみりと話始めた。

 

「小学校に上がる前……幼稚園児のときに、私と同じ、植物が大好きな子がいたの。

家もご近所だったから、毎日毎日、一緒に図鑑を持って外にでかけて、お花や木や草を見てた。

交換日記で、観察日記もつけたこともあった。

毎日楽しくて幸せで、小学校にあがっても、ずっとずっと一緒だと思ってた。

……けどね」

 

百合の表情が暗くなる。

 

「小学校の名簿にその子の名前はなかった。

入学式が終わった後、一緒に遊ぼうって何回も何回もインターホン鳴らしても、その子は出なかった。

……当たり前だよ」

 

百合の声が震え、目から涙が溢れる。

 

「その子、小学校にあがるほんのちょっと前に、親の転勤で引っ越しちゃったんだもん!!

幼い私は知らなかった……というか、それを知ったのは2,3ヶ月前…………

お母さんになんとなくきいたら、そうなんだって。

その子、お別れが寂しいからって、私に内緒にしてたみたい。

お母さんはすで伝えていたつもりだったけど、私はそれが初耳だった。

そのあと、小学校でも同じようにお友達できるかなって思ってた……けど、1年生のクラスメイトで、お花は好きだけど木や葉っぱが好きって言う人はいなかった。

お花が好きっていう子も、私が語るとみんな引いたような顔してた。

次第に私は……クラスから浮いてた……。

2年生になって、さっちと初めてクラスメイトになったけど、そのときはまだ幼稚園児のときの子が忘れられなくて、ちょっと話すだけだった。

でも、その後……3年生のときにお姉ちゃんがクラス委員長になった。

知ってるでしょ? 伝説のクラス委員長。

美人で性格がよくて、勉強ができて運動神経もいい。

なんでもパーフェクトなお姉ちゃんに、よく比べられた。

伝説のクラス委員長の妹だからって期待の眼差しを感じたことも何回もあった。

お姉ちゃんに近付こうと、上級生に寄って集られたことも何回もあった。

だから私は……自分に自信が持てなくなった。

…………幼稚園のあの子にも裏切られたって思ってたから、人も信頼できなくなってた。

わたしの人生はドン底だった。

……でも」

 

百合は暗かった表情を明るくし、トイレを見た。

 

まだ出てくる様子はない。

 

「そんなドン底を救ってくれたのはさっちだった。

花の図鑑を見ていた私に何回も話し掛けてくれた。

詳しいことやつい語ってしまったことも、なんでも興味深そうに聴いてくれた。

次第に私は、さっちに心を開いていった。

そうして関わっているうちにさっちのかわいさ、さつちの健気さに心惹かれていった。

さっちの無邪気さが、さっちの笑顔が……私の救いだった。

だから私はさっちを手放したくない。

さっちのそばにいたい。

さっちを誰にもとられたくないの」

 

百合は胸に手を当て、安らかな笑みを浮かべていた。

 

「長くなっちゃったけど、それが理由だよ。

こんなこと言うの、初めて。

はあ……あなたはさっち以外に興味ないから、良くも悪くもなんでも言えちゃう」

 

百合はまた花畑を向き直し、カメラを向けながら告げた。

 

「……そうか。

……ありがとう」

 

明人はそんなに詳しく説明してくれるとは思っておらず、呆気にとられていたが、思わず聞き入ってしまっていた。

 

そんな明人はおもわず、誠意を込めて照れることも悪意を込めることもなく“ありがとう”と言っていた。

 

「……うん。

あなたもお兄さんいるんだってね。

どう? 平凡?」

 

「え?

……ああ、ムカつくけど……それだけかもな……何かで持て囃されたとかなさそうだし」

 

百合はそのこたえをきくと、微笑んだ。

 

「だよね。

私だけか……お姉ちゃんは完璧。

私はでがらし。

頭いいわけでもないし、運動音痴だし、性格はご覧の通りだし、顔も可愛くないし…………

はあ……さっちまだかな?

……ちょっと様子見てくる」

 

百合はシニカルに笑うと、トイレへと向かった。

 

「お前」

 

明人はおもわず百合を呼び止めた。

 

「……なに?」

 

「…………」

 

明人は自分でもなんで呼び止めたか分からなかった。

 

何もことばが出てこない。

 

「……なに…?」

 

百合は呼び止めておいてなにも言わない明人を睨むと、またトイレへ向かった。

 

「お前は植物のことよく知ってる」

 

「……え?」

 

明人は自分でもよくわからないうちに言葉が出ていた。

 

「同級生の男子を殴り飛ばすほどの力もある」

 

「……うるさい」

 

それは話を聞かせてくれたお礼なのか

 

「その殴った理由も、大切な友だちのためだし」

 

「…………なにがいいたいの」

 

競い合う恋のライバルへの敬意なのかわからない。

 

でも思わずその単語が口から出てきていた。

 

「咲希には負けるけど、かわいいほうだと思う」

 

「…………は…!?」

 

明人の言葉に百合は赤面し、動揺した。

 

百合の心臓の鼓動がなぜか高まる。

 

「うるさい!

ばか! あほ!

やっぱりあなた嫌い!!

今話したこと全部忘れろ!!」

 

百合はそう吐き捨てると、トイレへと逃げるように走っていった。

 

(…………。

俺今アイツになんて言った!!?)

 

明人は無意識の言葉に自分で自分にツッコんだ。

 

 

数秒後、トイレを済ませた咲希が百合と共に戻ってきた。

 

その日、咲希になんと言われても、明人と百合は顔を合わせることはなかった。

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