2002-10-17 (金)
「はるるー!
おはよー」
「おはよう。さっちゃん」
朝、春流が玄関の扉を開けると、沙弥香が笑顔で手を振って待っていた。
「ごめんね
昨日まで学校休んじゃって……。
さっちゃんに我慢させちゃって」
「ほんとだよー!
だから、うち、今日すごい楽しみにしてた!」
「今日はいっぱい我慢弱くなろうねー」
「ねー!」
ふたりは顔を見合わせ、微笑み合うと足並み揃えて歩き出した。
マンションの階段を降り、敷地から出てしばらくすると、
「さっちゃん、足、痛いの?」
と心配そうな顔で、春流が訊いた。
「……え!?
いや、べつに、痛くないよ」
沙弥香はわかりやすく動揺し、顔をそらして大股で歩いた。
それを見て、春流は呆れた顔をすると
「はい。
立ち止まる」
と手を叩きながら言いながら立ち止まる。
「……え?」
「立ち止まってー。
そしてしゃがむ」
「そんな心配しなくても大丈夫だってー!
もーう、はるるは心配症だなー」
沙弥香はいつも以上に明るい声を出し、いつも以上に笑顔で言いながら、歩いていたが、急に背中に寒気を覚え、振り返った。
「へー。
“心配しなくても大丈夫”ってことはやっぱりなにかあるんだー。
……足、引き摺って歩いてるよ。
大人しく白状しなさい」
「……はーい」
沙弥香は春流の厳しい視線に耐えきれず、道の端によると、しゃがんで靴を脱いだ。
「……うわっ!
なにこれ、腫れてるよ!」
大きく腫れた足を見て、春流は驚愕した。
春流自身、そこまで怪我に詳しいわけではなかったが、足の外側が靴下の上からでもすぐに分かるくらい腫れてるのを見て、思わず目を疑った。
「ちょっと、捻っちゃって」
沙弥香は目をそらし、誤魔化すように言う。
昨日、謎の男に襲われてできた腫れが、まだ治まっていなかったのだ。
沙弥香は、春流にそのことを言おうとも考えたが、危ないことに春流を巻き込みたくないと思い、隠すことにしたのだった。
「捻ってそこまでなる?
さっちゃん、おっちょこちょいだからよく捻るけど、ここまでひどくなることなかったよね?
というより、誰かに診てもらった?」
「うん!
そのとき、えっと……たまたま近くにいた優しいお姉さんの、おともだち?みたいな、優しいお兄さんに」
あいまいな説明に、春流は一瞬ポカンとするが、すぐに目の色を変える。
「いや、誰!?
その人たち!
もう! 学校まではなんとかがんばって、そしたら保健室に直行。 いい?」
「……うん、わかった」
沙弥香は怪我の原因について振れられなかったことに安堵し、これ以上ツッコまれないよう、提案に乗ることにした。
「さっちゃん、今日って金曜日だよね?」
「うん、そうだよ」
沙弥香の足に負担がかからないよう、体を支えながら歩く春流が、ふと不思議そうに声を掛けた。
「……どうして?」
沙弥香は、なぜ急に確認したのか疑問に思い聞き返した。
「なんだか、いつもより静かというか、まだわたし達、マンション出てからひとりもすれ違ってないような気がして」
「そう?
たまたまじゃない?」
「そうかな?
今日、本当に学校ある?」
「あるよー、本当に心配症だなー」
不安になってきている春流に、考え過ぎだと笑う沙弥香だが
(“君は特別だ”)
昨日聞いた男の声がフィードバックし、次第にその笑みが消えていった。
「だめ」
沙弥香は思わず立ち止まり、体に緊張が走る。
「どうしたの? さっちゃん?」
春流が心配そうに訊くが、沙弥香は怯えた目で春流を見るだけで答えられない。
(“この世界がわかる”
“この世界に入れる”)
“この世界”が何を意味するのかはわからない。
だが、そこになにか引っ掛かるものを感じ、潜在意識に眠る恐怖が湧き上がってきている。
呼吸が荒くなり、冷や汗が出る。
「さっちゃん…?」
明らかに普通じゃない沙弥香の状態に、春流は動揺してしまう。
それでも、なんとか落ち着かせようと沙弥香の手を優しく握る。
その瞬間、沙弥香は力強く春流の手を握り返し
「逃げよ! はるる!!」
と錯乱した様子で春流に叫んだ。
「逃げるって…?
なにから?
ねえ、さっちゃん昨日なにかあった?
その怪我って本当に捻っただけなの?」
「だめなの!
ここにいちゃ!
この世界にいちゃいけないの!!」
沙弥香の握る手の強さがより強くなる。
手汗も出ていて、びしょびしょになっている。
「だめなの!! 危ないから逃げ
言い掛けた沙弥香は、目に映る一人の人影に絶望した。
昨日、自分を襲ったトレンチコートの男がいた。
その男は懐に手を入れている。
「危ない!!!」
沙弥香は思わず春流を投げ倒してしまった。
その瞬間
「ゔっ!!」
鈍い痛みが腹部に走った。
正面を見ると、男が銃をこちらに構えていた。
沙弥香は突然の衝撃に、バランスを崩ししゃがみ込んだ。
「いてて……さっちゃん、なにする
急に投げ倒された春流は、起き上がり、沙弥香の方を見ると目を丸くする。
「さっちゃん……!!?」
ドス黒い銃弾が、沙弥香の腹に突き刺さっていた。
出血はしていないが、顔を見るとぐったりしている。
(なに……何が起きたの?)
春流は状況の理解が追い付かず、思わずあたりを見渡す。
(……!! なにあの人!?)
そこでやっと、謎の男の姿を見た。
そして、すぐに視線は手に持つ拳銃に釘付けになった。
(銃…!?
じゃあ、あいつが!?
さっちゃんを……!!)
春流の顔が驚きから怒りに変わる。
立ち上がろうとした、そのとき
(……え?
さっちゃん?)
沙弥香の体が淡く光ったと思えば、その光は一つの玉に集約された。
「あっちいけ!」
そして、その玉は沙弥香の叫びに反応し、男のもとへ発射される。
「おっと、二度同じ手はくわない」
しかし、男はその玉を避けると、また銃を構えた。
沙弥香はチャンスを逃し、目に涙を浮かべ、絶望に打ちひしがれ、うずくまる。
「昨日は実験段階だったから生かしてやったが、今日は始末してやる」
冷酷坦々に言う男。
ふたりは恐怖で動けない。
絶体絶命。
かと思ったそのとき
「ぐっ!!」
さっき避けたはずの光の玉がUターンして、男の後頭部に直撃した。
「さっちゃん! ごめん! 今だけは我慢して走って!」
春流は、逃げるチャンスだと思いうずくまる沙弥香の手を無理やり引き、走って逃げ出す。
「ちっ……アバタ! 追え!!」
男は懐から闇の珠3つ程取り出し、投げ付ける。
すると、その珠は形を変え、黒いローブの男の姿に変化した。
顔には太極拳のお面があり、顔は分からない。
アバタと呼ばれる男達は寸分の違いもない動きで、沙弥香と春流を追う。
(なにあのバケモノ!?
なんで拳銃!?
さっちゃんのあれはなに!?
いや、そんなこと考えてる暇はないか!)
ふと後ろを見て、一部始終を見ていた春流は、押し寄せる疑問を振り払い、ただ逃げることに集中した。
すると、目の前にランドセルを背負った一人の少年が見えた。
「あ! 危ないです!」
春流は必死に声を上げて呼び掛ける。
少年はゆっくり後ろを振り返ると
「おやおや、あれはあやかしやもののけの類か?」
と、余裕そうな表情でのんきにアバタを観察しだした。
「通り魔です! あなたも危ないのではやく!」
春流はすれ違いざまにそう言い残すと、そそくさと逃げていく。
「またいたいけな少女を襲うとは、みっともない」
少年、松尾善治は腕組みをしたあと、右手の人差し指をアバタに向ける。
「まったく同じ動き。
枝分かれなき同じ人生か、落ちるときも足並み揃えてか」
善治はそう言い残し、後ろを振り返る。
すると、すぐ近くの家の柿の枝が枝分かれしながら伸び、3人のアバタの足へと突き刺さる。
アバタたちは足を固定され転び、身動きが取れなくなってしまった。
「お天道様の下反省なさい。
幸い、今日は人の通りが少ない。
羞恥心はいつもより低いだろう」
善治はそう言い残し、何事もなかったかのように登校を再開しようとした。
が、すぐに立ち止まり、今度は目つきを鋭くさせ、後ろを振り向く。
「これはいけない。
溢れ出るは負の瘴気。
こやつらよりも手練と見た。」
そこにはトレンチコートの男が立っていた。
「アバタたちをこうしたのは、君か?
なかなかやるな」
「称賛には値しない。
しかし、魑魅魍魎の類を相手取ると碌なことがないと、我が師--祖父、松尾善良が申していた。」
「それは正解だ」
そう言うと男はトレンチコートから拳銃を取り出す。
それを見て、善治は顔を引きつる。
「おやおや。
穏やかではないな。
見よ、あの木の葉も我が身隠そうと震えている」
善治は街路樹を手で示し、諭すように言った。
「知らんな」
男は意に返さず、発砲した。
禍々しさ弾丸は善治に向かい、直撃する
かと思われたが、どこからか善治の周りに木の葉が現れ、渦巻き、善治の姿を隠す。
弾丸は木の葉の嵐をすり抜け、木の葉の勢いが止まると、善治はその場にはいなかった。
「……逃げたか」
男は銃を枝に撃ち、アバタたちを開放した。
「はあ……はあ………………うあ!」
「……! さっちゃん!」
ひたすらに逃げる沙弥香と春流だったが、沙弥香は負傷と恐怖で力が入り切らず、足がもつれて転んでしまった。
「大丈夫!?」
春流は沙弥香の手を引き体を起こす。
「……うん、大丈夫……!!
ガマンできる……!」
沙弥香は涙を流し、震える声でわざとらしいほど元気よく言った。
春流は無理をする姿に心が痛むが、今は逃げることが最優先。
「……わかった。
もう少しガマンして」
春流は無理を強いるのは気が引けたが、なんとか心を鬼にしてそう言うと、また走り始めた。
その瞬間
「うッ……!!」
背後からあの禍々しい弾丸が飛んできて、春流の背中に直撃した。
「えほっ!!」
春流は力が入らなくなり、前へ倒れ、沙弥香も一緒に倒れる。
「なに……どこから…………」
春流は後ろを振り返る。
「…………きた」
そこにはあの太極拳の仮面をかぶった3人の男が走ってきていた。
春流は逃げようと、立ち上がろうとしたが背中が痛み、うまく力が入らない。
「はるる……」
沙弥香はそれを見て、パンパンと頬を叩くと、決意に満ちた顔をし、足の痛みを我慢してなんとか立つと、春流の前に守るように立ち塞がった。
「はるる、逃げて。
うち、よくわかんないけど、特別みたい。
だから、あんなの懲らしめられる」
「またそうしてガマンして無理するつもりでしょ!!」
沙弥香の無理をした震える声に、春流は心配し、強く叫んだ。
「無理じゃないもん」
沙弥香はそう言うと、足の痛みを我慢し、アバタへと向かった。
「いけえ!!」
そして、中央のアバタに指を差し、光の玉を飛ばそうとした。
「………あれ?」
だが、何も起こらない。
そもそも光の玉は浮いておらず、沙弥香自身も光の玉が自分から出る条件を知っていなかった。
(どうしよう…………はっ!!?)
無策で飛び出したため、困惑していると沙弥香の前に黒く影がさされる。
「ーー…!!」
アバタが腕に黒い粒子を纏わせ、拳を振り上げていた。
「さっちゃん!! 危ない!!!」
「ーーー!!!」
春流の叫びも虚しく、沙弥香は何もできずに アバタの拳を顔面に受け、大きく吹き飛んだ。
「うあ…………うう……」
沙弥香は力なく地面に倒れ込む。
その瞬間、沙弥香の顔が光り、その光は体全体を包み、光の玉になった。
「……まさか」
それを見た春流は光の玉が出る条件に感付く。
「いてて……
もう……遅いよ……!
いけ!!」
沙弥香は光の玉に不満を言うと、殴ってきたアバタを指差した。
すると、光の玉はアバタに飛んでいき、アバタの顔面に直撃。
アバタは闇の粒子になり、消えた。
「え……」
人の形をしたものが消滅さたのを見て、沙弥香は罪悪感のようなものを感じた。
「さっちゃん!! 危ない!!」
「……!
いやあっ!!」
沙弥香の動きが止まったすきに、残りのアバタふたりが一斉に、沙弥香の腹を殴り飛ばした。
「さっちゃん!」
春流はなんとか立ち上がり、沙弥香を受け止める。
そして、沙弥香の腹の殴られたところが光り、また全身を覆うと、今度は光の玉は2つ形成された。
「ありがとう……はるる…………
とんでけー…!!」
沙弥香はか細い声で、春流にお礼を言うと、無理な大声で叫んだ。
2つの光の玉は、一つずつアバタに飛んでいき、腹部を貫き、どちらとも闇の粒子になり、消えていった。
沙弥香はその様子を見届けると、力が抜け、ゆっくりまぶたを閉じた。
「追っ払った……
助かった……?」
春流は沙弥香を抱きかかえながら、唖然としていた。
急に現れた謎の男と、急に判明した親友の謎の力。
現実味がまるでなく、夢の中なんじゃないかと思うほどだった。
しかし、その夢は嫌な悪夢へと変わる。
「まったく、手こずらせやがって」
謎の男が、拳銃を構えこちらに向かってきていた。
沙弥香はその声をきき、目を開ける。
「うちが護る」
沙弥香はそう呟くと、男に向かおうとした。
「さっちゃんだめ!!」
春流は抱きつく力を強くし、沙弥香を放さない。
あれほど何度も殴られ、負傷しているはずなのに、沙弥香は力強く少しでも力を抜けば、抜け出されてしまいそうだった。
「でも! 今も見たでしょ!?
うちには特別な力がある!
だから大丈夫!」
「その特別な力が危ないの!
だって、さっちゃんが飛ばしているその玉って
言い掛けようとしたそのとき
男は銃を上空に打ち上げた。
その銃声に驚き、ふたりは一瞬動きが止まった。
沙弥香は一足先に正気に戻り、その隙をついて、春流から抜け出す。
「まって! さっちゃん!!
うっ!!」
春流は止めようとしたが、男は春流の腹部へ発砲し、蹲らせて動きを止めた。
「はるる!
……よくもはるるを!!」
沙弥香は怒りと憎しみに満ちた表情で、男へ向かう。
「でろ!!
光の玉!! あいつをやっつけろ!!」
沙弥香は走りながら男を指さしてそういうが、なにも起こらない。
「……なんで…?
うーーーーー!!!
いけっ!! いけっ!!」
沙弥香は困惑し、力を込めたり、なんども男を指差すが、一向に光の玉は現れない。
「ははははははは!!!」
その様子が面白おかしく、男は馬鹿にしたように笑う。
「なんででないの……?」
沙弥香は自分の体を見渡し、わからないなりに何故出ないか確認するが、全く持って見当がつかない。
そこに、男がゆっくりと目の前まで来た。
「気付いてないのは君だけだよ。
……なあ、お友だちさん?」
男は春流に問い掛けるが、春流は蹲ったまま。
痛みで声が出せないのだ。
「さあ……そろそろ種明かしだ!」
男はそう言うと、沙弥香の洋服の襟を持ち上げ、沙弥香を宙へと浮かせた。
「う……ああ」
沙弥香は首が引っ掛かり、苦しさで喘ぎ声しか出せない。
男はニヤリと笑うと、沙弥香の腹に拳銃を当て
ゼロ距離で発射した。
「…………あぁッ……!!」
沙弥香はか細い悲鳴を上げる。
すると、腹が光り、そこを中心に全身が光ると光の玉が浮かび上がる。
その瞬間、
「……いや……!!」
男はまた銃弾を発射した。
するとまた、光の玉が出来上がった。
「ゔっ……!!」
そこに間髪入れず、また男は発砲した。
「ゔっ……!! あ……いや………あ……………ぐっ…!
あっ……………がはっ……!!」
何度も何度も発砲は繰り返され、その都度光の玉が作られる。
だが、浮かび上がるだけでなにもない。
「やはりな。
君の能力はダメージを跳ね返す能力か!
それだけなら手強いけど、叫んで飛ばさないと意味がないのはつらいねー」
男は発砲を続けながら、核心を突いたように高らかに皮肉のように笑う。
「……さっちゃん…………」
春流はみるみる衰弱する沙弥香の悲鳴にいたたまれなくなり、助けに行こうともするが、体が動かない。
「だめ……さっちゃんを……さっちゃんをいじめないで」
小さく願ったその胸が、淡く光り始める。
「うっ…………あ……」
男は発砲をやめ、沙弥香の襟から手を離す。
沙弥香は力なく地面に座り込んだ。
「うおら!!」
「……やっ…!」
その瞬間に、男は沙弥香を仰向けに蹴り倒し、
「むぐっ!!」
沙弥香の口を足で塞いだ。
「あわれだ……!」
男は見下し、そう言うと光の玉を撃った。
2回撃つと、それぞれの粒子が対消滅する。
「ほう、倍にして返すのか……
そりゃ、あんだけ威力が高いはずだ」
男は感心していると、視線を沙弥香に向け、更に2発発砲した。
「……ッ!! ………!!」
足で口を塞がれているので、声にならない叫びが出る。
そして、2つの光の玉が飛び出るが、男はその光の玉を撃ち抜き、消滅させた。
「やめろ……やめろやめろ
やめろー!!」
そのとき、春流の体が強く光り輝く。
「……また覚醒か!?」
男は驚き、思わず沙弥香から足をどかしていた。
「い……けぇ…………」
沙弥香はか細い声で言うと、まだ打ち消されてない3つの光の玉が男へと向かう。
「しまった」
男は銃を構え、1つ打ち消し、1つ躱すが、もう一つは胸に命中した。
「ぐっ……
だが、まだだ!」
男は勢いに意識を失いかけ転倒しそうになるが、持ち直し、躱した光の玉を戻ってこないうちに撃ち抜く。
「あぶなかった……
もう一度、あれをくらえば体は持たねえか?」
男は胸を撫でながらそう言うと、
「一人さえ殺れればそれでいい!
もう、こいつは虫の息だ!
あと一発で、殺せる!!」
高らかに宣言し沙弥香に拳銃を向けた。
そのとき、
「さっちゃんを傷付けるやつは許さない」
殺気立った目をした春流が守るように立ち塞がった。
「今更無駄だ!
貴様ごときなにが」
勝ち誇る男に対し、春流は静かに指先を向けると
「リペイン」
と呟く。
「ぐっ!!」
すると、男の胸が突然張り裂け、そこから黒い粒子が流れ始めた。
「なんだ……!
なにをしたというんだ…!!
そんな……ばかな……!!」
男はもがき苦しみ、粒子が流れるのを止められず、消滅した。
「…………は……
さっちゃん……?
さっちゃん!!」
春流の顔付きがいつものものに戻ると、すぐに沙弥香の近くへ駆け寄った。
息はしているが、か弱い。
何度も撃たれた胸からは出血がし、口からも吐血している。
「どうしよう……」
瀕死の親友を前に、春流はなにもすることができない。
「また……増えたのか」
そのとき、一人の青年の声がした。