2003-01-07(火)
銭湯天野。
この町に昔からある老舗で家族で経営している。
大盛況という程ではないが、いつでも1人か2人かのお客さんがのんびりしている。
内装は星を散りばめられた装飾があり、名前の通り天の川にでも迷い込んだかのような、美しさが特徴だ。
お昼時でまだ誰もいないロビーを掃除している天野竪倫(あまの たてみち)。
中学2年生の竪倫も部活動のない日は、掃除の手伝いをしており、それが日頃の小遣い稼ぎだった。
入口の引き戸が開く。
「いらっしゃ……なんだ、千恵か。
おかえり」
竪倫は帰ってきた妹に声をかけた。
「ただいま。
……珍しいね、兄貴が早く帰るなんて」
妹──天野千恵(あまの ちえ)は横目で竪倫を見ると、ランドセルをソファに下ろし、商品ケースからコーヒー牛乳を取った。
「まだ短縮だからな。
小学校はもう通常か?
って、お前」
竪倫は顔を顰めると、千恵からコーヒー牛乳を取り上げる。
「なにするのさ」
「なにって。
これ売りもんだぞ」
「じゃあ、兄貴が払っといてよ。
お年玉たくさんあるんでしょ?」
千恵はニシシと笑いながら、悪びれる様子もなく言うと、竪倫からコーヒー牛乳を奪い返し、栓を開けて、飲んでしまった。
「あ……。
後で親父にいうからな」
「しらなーい」
口酸っぱく注意する竪倫だが、千恵は聞く耳を持たず、ランドセルとコーヒー牛乳を持って、自分の部屋へ戻ろうとした。
そこへ
「こんにちは」
と引き戸が開けられ、女の子が顔をのぞかせた。
「いらっしゃい!
あ、そよちゃん! こんにちは!!」
竪倫はそよちゃん──堂本そよぎ(どうもと そよぎ)に挨拶した。
千恵と同い年で、何度か家族で浸かりに来ることがあるので、顔馴染みだ。
「こんにちは。
ちょっとだけいいですか?」
そよぎは挨拶を返すと、寒さに手をこすりながら、いそいそと中へ入り、ストーブの近くで暖を取り始めた。
「そよちゃんいらっしゃい!
待ち合わせ?
はい、これ兄貴の奢り!」
そよぎの顔を見て引き返した千恵は、新しいコーヒー牛乳を取り出し、差し出した。
「ありがとうー、千恵ちゃん。
でも、寒いからいいよ」
「えー。
寒くても美味しいんだけどなー」
千恵はそう言うと、1本目のコーヒー牛乳を一気飲みした。
「いた……ぁ」
勢いよく飲んだからか、アイスクリーム頭痛が起こり、頭を抱えながら、渡す予定だったコーヒー牛乳を持ちながら、再び自分の部屋へ戻ろうとした。
「2本目はだめだ」
竪倫はすれ違いざまにコーヒー牛乳を取り上げる。
「ケチ」
「そんなに飲みたいなら掃除手伝え」
「やなこったー!
私、これから宿題で忙しいから」
千恵はおちゃらけながら言うと、隙を見て、コーヒー牛乳を取り返そうと手を出したが、
「千恵」
竪倫は今度はガードに成功し、咎めた。
「ちぇ」
千恵は恨めしそうな顔をすると、部屋に戻って行った。
「……まったく」
竪倫は部屋の方をみながらため息をつく。
「……あ、そよちゃん、ごめんな」
すぐに来客がいることを思い出すと、微笑みながら見ていたそよぎへ謝った。
「大丈夫です。
2人共、仲良くていいなーって」
「そうか?
アイツ、最近反抗期かなんなのか、態度悪くてな。
昔はよく一緒にお手伝いしてくれてたんだけどな」
「ええ。
楽しそうでしたね。
私も、千恵ちゃんのお手伝いしてるとこ、また見てみたいです」
「だな。
……あ、ごめんね。
愚痴みたいなの聞かせちゃって」
「いえいえ、大丈夫です!
私こそすみません。
今日は入浴というより、待ち合わせ時間までの避難場所として利用してしまって……」
「気にしないで。
人がいるほうがいいから。
確かに今日、寒いもんな。
じゃあ、待ち合わせは外?
なら、ゆっくりしていきな」
「はい」
竪倫はしばらく、そよぎと談笑しながら、掃除を進めた。
10分くらい経ち、あらかた片付いたとき
「それでは。
すみません、私はこれで」
そよぎは立ち上がり、礼をするとロビーから出ようとした。
「あ、待って。
これ、サービス」
竪倫は受付の棚を開け、引き詰められたクッキーの個包装の袋を3つ取り出した。
「いいんですか?」
「うん。
これは売り物じゃなくて、隠しおやつだから。
今日もいつもの2人と?
だから、そよちゃんの分とで3つでいい?」
「はい!
ありがとうございます!」
そよぎは嬉しそうにクッキーを受け取ると、引き戸を開け、外へ出た。
「うう……さむ……
あ! また今度、お母さんたちと来ますねー!」
そして、去り際に嬉しそうに手を振りながら言うと、戸を閉めて行った。
その瞬間
「あれ?
そよちゃん、もう帰っちゃった?」
と、浴場にいた母親が顔を出した。
「ん?
ああ、今さっき。
用事あった?」
「ううん。
そよちゃんファンだから、ちょっとその可愛いお顔を拝見したいなって思って!」
「だからといって、売り物をサービスしすぎないようにね」
「はいはい」
息子に注意されながらも、軽く流す態度を見て、千恵が誰に似たんだかと竪倫は頭を抱えた。
そのとき、その千恵がトートバッグを持ってロビーに出てきた。
「あら、千恵。
ちょっと
「やだ」
「まだ何も言ってないじゃない」
「買い物でしょ?
兄貴に頼みなよ。
私は私の買い物で忙しいの」
千恵はそう言い捨て、外へ出ようとしたが
「買い物してきたら、コーヒー牛乳5本上げるんだけどなー」
との母親の呟きを聞き、千恵は動きを止めた。
「仕方ない。
竪倫、行ってくれる?」
「ああ。
あ、さっき千恵が俺の金名義でコーヒー牛乳勝手に飲んだから、報酬は4本でいいよ」
「ありがとねー!
昨日お醤油買ってくるのすっかり忘れちゃってて
「はい!!!」
コーヒー牛乳が好きな千恵は、ちらつかされた報酬には抗えず、手を上げて立候補した。
「私! 行く!」
(醤油買いに行くだけでコーヒー牛乳5本とか、ラクショー!
儲けた儲けた!)
千恵はトートバッグを片手に、スキップしながらスーパーへ向かっていた。
(最近発売されたおかしも、美味しいって噂だし、それ買いに行こうとしてたから、一石二鳥!
私、天才!)
僅かな御使いで大きな報酬を貰えるとのことで、人目もはばからずニヤニヤしながら、スーパーへと続く道を進んでいく。
「……?
なに……あれ?」
あと最期の門を抜け、一本道になったとき、目の前に何かが蠢いているのが見えた。
(……うわ、キモ…………
なにあれ?)
ツルツルとウネウネとしたミミズのようなものが道路の上で蠢いている。
大きさも1メートルくらいはあり、明らかに異質な光景だが、前を歩く人たちは皆、平気な顔をしてその横を通っていた。
(うえ……よくあんなのの近くを…………
道変えようかな)
千恵は得体のしれない物体の近くを通るのは気が引けたため、別の道を進もうと、方向転換した。
そのとき
「(あれ……急に暗
うわっ……!」
千恵の視界が僅かに暗くなったと思ったら、1人の女性が至近距離で立っていた。
フードを被り、顔はよく見えない。
ボディラインがくっきりと見えるピッチリしたスーツに、千恵は圧倒される。
(なに……この人)
千恵は自分が通行の邪魔になっているのではないかと思い、避けようとしたが
「逃げちゃだめ」
と妖艶な声で囁かれた瞬間
千恵の足元から、さっきのツルツルウネウネの物体が生え、両手を縛り上げてしまった。
「いやっ……!
なに……!?」
千恵は必死に振り解こうとするが、キツく巻かれ、離れない。
「助けて!!」
千恵は涙ぐみ、眼の前の女性に助けを求めたが
「うふふ」
女性はフードから微かに見える口元を上げ、笑うと
「かかった獲物よ。
逃すわけないでしょ」
と千恵の頬を撫でながら言った。
「……え?
(なに……なになになに?
この人なに言ってるの?
早く助けてよ)」
千恵は女性の意図がわからず、困惑する。
そんな千恵を見て、また口角が上がる女性は千恵の頭を撫で回した。
「かわいい子。
何も知らないのね。
覚醒前かしら?
どう? 私のかわいい触手ちゃんのご挨拶。
気に入ってくれた?」
(挨拶……
何?
もしかして……この人がやってるの?)
千恵は今、この触手の拘束をこの女性がやってるのではないかと思った。
その瞬間、困惑は恐怖へと変わり、顔は蒼白になり、震えが止まらなくなった。
「やっと気付いてくれたんだ。
かわいい子」
女性は白くなった千恵の唇に指を当てながらそう言うと、一旦離れて、千恵のお腹のあたりに指さした。
すると、またツルツルウネウネの触手が地面から生え、千恵のお腹にぐるりと巻き付き、キツく縛り上げた。
「がはっ!!」
千恵はお腹をキツく締め上げられたことにより、強く咳き込んでしまった。
「あの地面に落ちてる触手ちゃんを見れるのは限られた人だけ。
特別な粒子が纏ってるから
そして私とあなたの近くにも特別な粒子があるの。
だから、こんな道の真ん中でも、誰も私達のことを見れないのよ」
「う……あ…あぁ……」
女性は解説するが、千恵は苦しみによって声を漏らすことしかできなかった。
「た……たす……け…………て」
ちょうど、千恵の真横を男性が通ろうとした。
千恵はなんとか声を出し、助けを求めたが
男性は素通りして行ってしまった。
「聞くこともね」
女性は付け加えるようにして言うと、千恵の首元を指さした。
地面から触手が生え、千恵の首元へとゆっくり伸びていく。
冷たい触手が、千恵の首へと巻き付く。
千恵は腹を圧迫された苦しみと手を拘束されたことにより、何もできず、自らの死の恐怖に怯えるしかなかった。
「またね。
来世でも遊びましょ」
女性は微笑みながら、言うと首を絞めようと触手に力を入れようとした
その瞬間
「千恵!!」
遠くから聞き馴染みある声がした。
「お……にい……ちゃ」
千恵は声の方を見ると、兄の竪倫が千恵の財布を握ったまま走ってきていた。
「あら。
もう一人。
それにいい男の子。
いい原石だわ」
「お前!!
千恵から離れろ!!」
竪倫は怒りの形相で女性へと飛び掛かり、そして
「キリングスター!!」
胸が強く光ったと思うと、手から星の形のエネルギーが生まれた。
「おっと」
女性はギリギリで避けたが、星のエネルギーは千恵の首とお腹に巻き付く触手を切り裂いた。
「はあ!!」
そしてそのまま、千恵の両腕に巻く触手も切断。
千恵はようやく触手から解放された。
「あらま」
女性は関心するように声を出し、竪倫を舐めるように見詰めた。
「大丈夫か?
千恵」
竪倫は星のエネルギーを右手に持ち、女性に警戒しながらも、千恵を心配した。
「おにいちゃん……
こわかったよー!!」
千恵はあまりの恐怖から泣き出し、竪倫の背中に抱き着いた。
「おわっ……」
竪倫は抱き着かれた衝撃でよろけてしまう。
「ふふ」
女性はその隙をつき、竪倫の右腕を指さした。
すると竪倫の足元から触手が生え
「うわっ…!?
なん……くっ…!!?」
竪倫は反応できず、右腕を触手に縛られてしまった。
「……!?
おにいちゃん……!!」
千恵は急いで触手を解こうとしたが、強く巻き付かれており、ビクともしない。
「うああ!!」
触手の力はどんどん強くなり、ついには星のエネルギーを落としてしまった。
「ふふ。
かっこよかったよ。お・に・い・ちゃん」
女性は口角を今までにないほど上げながら、まるで竪倫が苦しむ姿を堪能するようにゆっくりと近寄る。
「おにいちゃん!!
まってて!!
私が……私が解くから!!」
兄のピンチに、千恵はなんとか触手を解こうとするが、やはりまるで解れる気配がない。
「まだいたの?」
女性は千恵に指を指す。
すると千恵から少し離れた場所にある電柱から触手が2本生えると、千恵の両脇に巻きつく。
「いやっ!!」
「……千恵……!?」
そして、触手は千恵を引っ張り、電柱に磔のように固定した。
「千恵……!!」
竪倫は痛みに苦しみながらも、千恵を心配するが、自身に黒い影法師が差し、注意は再びそちらに向いた。
女性が目の前まで来たのだ。
「俺は……どうなってもいい……
千恵を離せ……!!」
竪倫は女性を睨み付ける。
だが、女性はまったく怯む様子もない。
むしろ、微笑んでいた。
「そう……。
どうなってもいいのね」
女性はそう言うと、竪倫の左手を指さした。
「ぐっ!!?」
即座に地面から触手が生え、竪倫の左腕に巻き付き、拘束した。
「じゃあ、いっぱいかわいがってあ・げ・る」
女性は竪倫の胸のあたりを指でなぞりながら、妖艶な声で囁いた。
「黙れ!!
千恵を離せ!!」
だが、竪倫は女性の意に介さない。
(なにがあったかわからないが……叫んだら、俺の手から星の形の何かが出てきた……
だったら、また叫べば)
竪倫はなんとか脱出して、千恵を救い出すことしか考えていない。
「キリング
そのためにも、さっき無意識でやったことのように叫ぼうとした。
が
「うぐっ…!!」
女性は竪倫の口を指差し、竪倫の口の中に触手を突っ込んだ。
「う……うぐ…………う」
竪倫の口内は触手に占拠され、言葉を出すことも、満足な呼吸をすることもままならなくなった。
「おにいちゃん!!」
電柱から見下ろす千恵は心配し、なんとか触手からの脱出を試みたが、やはりビクともしなかった。
「ワザを出すとき、ちゃあんと口に出さないといけないなんてかわいそう。
こうやって、お口を塞いじゃえば、もう何もできないんだもの」
「う……んん……んー!」
触手はどんどんと喉の奥へと進んでいた。
竪倫の気道の確保にも限界が来ており、どんどん顔が赤くなっていく。
「キミはもっともーっとかわいがってあげる。
死んで私のものになるのが楽しみだわ
あははははははは!!!」
女性は確信した勝利に胸を躍らせ、声高らかに笑った。
「ん………んん……………ん…………………………
(千恵……にげ……ろ)」
竪倫の意識が朦朧とする。
「おにいちゃん……」
そんな兄の様子を見て、千恵は涙を流す。
「ごめんなさい。
ごめんなさいおにいちゃん。
私……お手伝いちょっと嫌になっちゃって……
クラスのみんなみたいに、お家に帰ったら好きなことできるのがうらやましかったの……」
「外野がうるさいわね」
女性は千恵を睨むと、再び首に指を指した。
「でも……ほんとはお手伝い大好き!
またやりたいけど……でも、恥ずかしくて言い出せなくて……
だから……おにいちゃん…………」
触手は千恵の首に巻き付いた。
(……千恵)
「早くお買い物済ませて!!
お手伝いしに帰ろ!!」
千恵の胸元がほのかに光り始めた。
女性は千恵の首の触手に力を入れようとした。
そのとき
「はあ!!!」
その分、触手の力の配分が分散されたのか、竪倫が思い切り声を出すと、口の触手が排出された。
そして、右手から星の形のエネルギーが生まれ、手首を返し、上へと打ち上げた。
「ジェットコースター!!」
竪倫が叫ぶと、打ち上がった星は急降下し、千恵の首へと伸びる触手を切断した。
「なに…!?」
女性は驚き、動きを止めた。
「はあああああ!!!!」
その瞬間、千恵の体が光り輝き、全身を包む。
そのエネルギーの余波により、千恵を拘束していた触手が焼き払われた。
全身の光は両手に収束。
千恵は両手を合わせ、ゆっくり離すと手と手の間に水の球体が浮かんでいた。
「アクアウェーブ!!」
千恵が叫ぶと、その球体からは水流が起こり、竪倫の両腕の触手を貫き、破裂させた。
「ありがと!
千恵!」
竪倫は女性から距離を取ると、お礼を言った。
「……兄貴がボーッとしてるから…………」
「……さっきまで散々泣いてたくせに」
「あとでコーヒー牛乳奢り」
「飲み過ぎて腹壊すなよ」
「あああああああ!!!!!」
さっきまで固まっていた女性は天を仰ぎ、さっきまでの妖艶な様子からは想像もつかないような悍ましい発狂をした。
その勢いで、フードが外れる。
「よくも……!
よくもこの私をコケにしてくれたわね!!」
隠れていた素顔も堀が深く大層美しいものだったが、今は怒りで歪み、その美しさはなくなっている。
「兄貴」
千恵は両手を合わせ、水のエネルギーを溜めた。
「ああ」
竪倫も両手に力を込め、両手に星のエネルギーを作り上げた。
「ぶっ殺せ!!」
女性は2人に手をかざすと、両手から極太の触手が生え、2人に向かって伸ばした。
「シューティングスター!!」
「アクアウェーブ!!」
竪倫は2つの星を飛ばし、千恵は水流を発射する。
触手と2人の攻撃は拮抗する。
「はあああああ!!」 「はあああああ!!」
2人は力を込め、叫び続ける。
すると、星と水流の勢いが増し、触手を押し返し始めた。
だが、女性は余裕の笑みを浮かべると
「無駄よ」
と言い、触手の勢いを更に強めた。
再び勢いは拮抗……いや、触手が優勢になった。
「はあああああ!!!!!」
「はあああああ!!!!!」
2人は更に強く叫ぶが
「あ……えほっ!! えほっ!!」
お腹を締め付けられ内臓を痛めたのか、腹圧がかかったことにより、千恵が咳き込み、攻撃の勢いが止まってしまった。
「千恵…!?」
竪倫は千恵を心配し、動揺してしまったため、攻撃の勢いが落ちてしまった。
「……!
兄貴! 前!!」
千恵が気付いた頃には遅く、2人の目の前には触手が接近して来ていた。
「ぐあっ!!」 「きゃあ!!」
触手は2人を薙ぎ払い、大きく吹き飛ばし、ブロック塀へと叩きつけた。
「ふふふ。
ここまで耐えられたのは久しぶりね。
この町は期待できそう。
特別に私の名前を聞かせてから、ゆっくりと死なせてあねる」
女性はそう言うと、右手を2人にかざした。
「えほっ……えほっ…………
あの野郎……!
い……たぁ……!!」
千恵は反撃しようと立ち上がろうとしたが、全身が痛み、立ち上がれなかった。
「無茶するな。
それに、アイツには勝てない。
なら、方法は1つ。逃げるしかない」
「でも!!」
「成り行きで戦ったが……
俺たちは正義の味方でも、町のヒーローでもない。
ただの小学生と中学生だ」
「でも!!」
「ここで死んだら、親父もお袋も、じっちゃんばっちゃんも悲しむ」
「…………」
戦う気満々だった千恵も、家族の名前を出されたことにより、閉口した。
「お話は終わった?」
女性は待っていたようで、2人の様子を見て問いかけた。
「ああ。
今ちょうどな!!
はあ!!」
竪倫は答えながら、星のエネルギーを真上に打ち上げた。
「もうその手には通じないよ」
女性は上を向き、触手で星のエネルギーを消滅させた。
「さあ、お覚悟は……
……!?」
女性が2人に視線を戻した瞬間、目を疑った。
竪倫の周りに大小様々な星のエネルギーが浮かび上がっていた。
「囮ね」
女性は感心してそう言うと、右手から極太の触手を勢いよく伸ばした。
「メテオシャワー!!!」
竪倫は思い切り叫ぶと無数の星のエネルギーを、触手に飛ばした。
だが、疲弊した竪倫の力では及ばず、すぐに押し返され、触手はブロック塀を突き刺し、崩落させ、煙を撒き散らした。
「私の名前はハンドクル。
冥土の土産に持っていくといいわ」
女性──もとい、ハンドクルは煙の中へ言い残すと、その場を去っていった。
「なんとか……逃げ切れたな」
「……うん」
スーパーから数百メートル離れた公園のベンチで、竪倫と千恵は休んでいた。
メテオシャワーは攻撃のためではなく、逃げる時の目眩しとして使ったのだ。
「トートバッグ汚れちゃった……
お気にのだったのに……」
「後で買ってやるよ」
「嘘っ!?
いいの!?」
「ああ。
お年玉、たくさんあるからな」
「やったー!
兄貴の奢り! 兄貴の奢り!!」
「その代わり!
ちゃんと手伝いするんだぞ」
「……えー」
「さっきするって言ったじゃねえか」
「人に言われるのと自分からするのとじゃ違うの!」
「はいはい」
「……なんか、兄貴とこう話すの久しぶりかも」
「そうだな」
2人の体はボロボロだった。
自分たちの体に何が起こったのか、あの女性は何だったのかもさっぱりわからない。
それでも、不安ではなかった。
近くに大好きな兄妹がいるから。
「あれ…?
どうしたんですか!?
その怪我」
公園に大きな赤いリボンをつけた女子中学生が来たと思うと、突然声をかけられた。
隣には、その子と同い年であろう、不思議な腕輪を付けている男の子がいた。