ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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5話 戦いの中へ

「すごいな。虹姉ちゃん。

意外と想像力あるんだ」

 

三晴は虹の想像力に感心しながら、日記の方を読もうとした瞬間

 

「……やば!もうすぐ6時じゃん!!」

 

何気なくみた時計が17時後半を表示していたため、慌ててノートを戻した。

 

長居し寛いでいて忘れていたが、深い森の中なため、暗くなると帰り道が分からず、明るい内に帰ろうとしていたが、姉の設定集に気を取られ時間を忘れていたのだ。

 

三晴は急いで秘密基地から出ると、四角の札を目印に草を掻き分け、坂を降りる。

 

(まずいまずい…!

すごい暗くなってんじゃん!!)

 

坂を降りてる途中で、あたりが一気に暗くなった。

 

木漏れ日があり、太陽が沈んだわけではないが、暗さは三晴の不安感を唆り、走るスピードが速くなる。

 

そのとき

 

「わ…!」

 

坂の下に2つ、人の姿を見付けた。

 

もう梅雨でジメジメして蒸し暑いのに真っ黒なロープを身に纏っている。

 

そのため暗い景色と同化して見え難かったため、三晴は見付けたときに、驚いて思わず声を出してしまった。

 

(なに? あの人たち?

なんかの宗教?

あんな厚着して暑くないのかな?

なんか不気味……。)

 

三晴はすぐに口を手で塞いで木の影に隠れ、やり過ごそうとしたが、その人たちは一向に動こうとしない。

 

(もう!全ッ然動かないじゃん!!

もういい!!)

 

待てど暮らせど下の人たちは動く気配もなく、このままでは完全に日が暮れてしまうので、三晴は怒られるのを覚悟で降りることを決意した。

 

三晴はゆっくり、あわよくば気付かれずにと慎重に坂を降りる。

 

しかし、足元は手付かずの森。

 

歩く度にサワサワと落ち葉が音を鳴らす。

 

その音は小さかったが、三晴の緊張感が増し、無意識に呼吸を止めてしまうほど、気配を消すことに集中した。

 

気付かれずに坂を降りきり、三角の札を確認するとロープの柵の方へ進む。

 

第一関門を突破し、あと少しの距離にホッとしたそのとき

 

「んッ…!」

 

枝を踏み付けたのか、足元からパキッと音がし、三晴は驚いて声を漏らしてしまった。

 

(ま……まずい………。)

 

三晴は顔を真っ青にしながらゆっくりと後ろを振り返った。

 

真っ黒な人たちは首だけを傾け、三晴の方を見ていた。

 

その顔には、太極図のような模様のお面を被っており、得体のしれないその姿に、三晴の恐怖心はピークに達していく。

 

「ご……ごめんな……さい………!」

 

「「ーーー!」」

 

真っ黒な人たちは互いに顔を合わせると、三晴目掛けて走り出した。

 

「うわあ!!!」

 

三晴は泣きながら、捕まらないように全速力で逃げる。

 

必死で逃げているため、姿勢もままらなず、途中で転びそうになりながらもなんとか踏ん張り、ロープの柵を跨いだ。

 

「はあ……はあ…………もう追って」

 

立ち入り禁止のところから出たため、追うのを諦めてくれたか確認しようと後ろを振り向いたとき

 

「え………?」

 

真っ黒なモヤがかった球が、すぐ目の前に見えた。

 

球は三晴の理解が追い付く前に顔面に直撃し、爆発した。

 

「ぐあああああああッ!!!」

 

三晴は吹き飛ばされ、木の幹を一本貫通すると2度地面を跳ね、20m程先の森の広場の中央へと転がり、地面に打っ伏した。

 

「うっ…………うう………。

(なんだ……今の?)」

 

三晴は得体の知れない攻撃に戸惑いながら、顔を上げる。

 

顔のシクシク痛むところを手で触れたが、出血はしていないようだった。

 

(とにかく……逃げないと………!)

 

三晴は打ち身や擦り傷の痛みに耐え、立ち上がり、再び逃げようとした。

 

しかし、それが叶うことはなかった。

 

(………!!)

 

吹き飛ばされた反対側から、真っ黒な人がのっそりと木の影から姿を現し、近付いて来ていた。

 

三晴は立ち止まり、別の方向から逃げようとしたが、右にも左にも、真っ黒な人が三晴に近付いており、逃げ道がない。

 

吹き飛ばされた方向からも、さっき程のであろう真っ黒な人が2人現れ、その内の1人は右手から黒いモヤ出していた。

 

どの人も、同じ身長同じ歩き方同じ仕草でまるで悪夢のようだった。

 

(まずい……囲われた…!!)

 

三晴は、のっそりと歩み寄る真っ黒な集団に立ち尽くすだけだった。

 

のんびりさが得体の知れなさを増幅させ、さらに恐怖を増していく。

 

(どうしよう……。

…………本当にどうしよう……。

あの人たちに捕まったら、絶対殺される…!!

イヤだ……そんなの………まだ死にたくない……!!

助けて………助けて……虹姉ちゃん……!!)

 

三晴は心の中で姉の名を叫んだ。

 

その瞬間

 

「ゲイルフォース!!」

 

どこからともなく、勇ましい男の人の声が聞こえたと思えば、森の広場に旋風が渦巻いた。

 

(な………なに……!!?)

 

風は落ち葉を巻き上げ、三晴の視界を奪う。

 

三晴は何が起きてるか分からない恐怖と不安の中、待つしかなかった。

 

風が止み、落ち葉が地面へ舞い散る。

 

次の瞬間三晴が見たのは、気を失っているのか木の幹で倒れる真っ黒な集団の姿だった。

 

「…………いったい………なにが………?」

 

あまりの突然の出来事に立ち尽くしていると

 

「きみ、大丈夫だった?」

 

と爽やかな男の人の声が聞こえた。

 

三晴は振り向くと、そこには左半身は緑を基調とした鎧に腕に風が渦巻き、右半身は紫色の鎧のようなものを身に纏った青年が立っていた。

 

その奇妙な格好とは裏腹に、ヘルメットのバイザーから覗かせる顔は整っていた。

 

「は………はい……。

大丈夫……です………。

(また変なの来た……。

え、なに……これ? コスプレ?

なんかのイベント?

にしては観客巻き込み過ぎてない……?)」

 

三晴は次から次へと襲いかかる奇妙な出来事に、呆然としながら応えた。

 

「転んじゃったのかな?

土が付いちゃってる……」

 

青年は右手で、さっき吹き飛ばされたときに、三晴の体や服についた土を払った。

 

「大丈夫? 顔、少し腫れてるし、腕や足も擦りむいてる。

あの男たちになにかされた?

ごめんね、もう少し早く来てやれなくて」

 

青年は自分の手についた土を払うと、三晴の頭を撫でてそう言った。

 

三晴は奇妙な格好に警戒心を覚えながらも、その整った顔立ちと優しい口調に、気を許してしまいそうな自分がいることに気付いた。

 

(イケメンだ……。

………ん?)

 

久しぶりに頭を撫でられたことに、気恥ずかしくなっていると、青年の右腕に、透明な宝石のようなものが埋め込まれた腕輪があることに気付いた。

 

左腕を確認すると、そこにも腕輪があり、宝石の色は緑色だった。

 

(腕輪………右左バラバラ…………どこかで…?)

 

三晴はつい最近、それに近いものをどこかで見たような気がしたが、すぐには思い出せなかった。

 

「歩けるかい?

ここは危険だ。良くないことが起きない内に出た方が良い」

 

「良くないことって?」

 

「………きみが知らなくていいことだ」

 

三晴の素朴な疑問に、青年は言いづらそうに答える。

 

「…そうですか……」

 

三晴は少々不貞腐れながらも、これ以上面倒ごとに付き合いたくなかったため、大人しく帰ることにした。

 

「危ないから、安全なところまで送るよ。

こっちでいいかい?」

 

「はい。

ありがとうございます」

 

青年の言葉に三晴は無難に返すと、青年と少し距離を開けて歩き始めた。

 

(結局、こういうのって秘密なんだよな………

……ん? 秘密…?)

 

三晴の頭に何かがひっかかる。

 

(秘密………ひみつ………ヒミツ。)

 

ヒミツと書かれた張り紙、その中にあったノート、その中に書かれた、虹の設定集。

 

そしてその中には

 

(能力……鎧。

腕輪になにかの宝石を嵌めて、右半身と左半身にそれぞれなにかを与える。

この人と……そっくり…!)

 

この青年の奇妙な格好と似たようなものが書かれていた。

 

そして更に思い出すと、あの真っ黒なロープの集団も、ノートに敵として書かれていた。

 

「虹姉ちゃんの…!」

 

この一致に、三晴は思わず立ち止まり呟いていた。

 

その瞬間、青年の歩みが止まった。

 

「ねえ。今、君、なんて言った?」

 

「え……あ、いや、なんでも……」

 

青年の問い掛ける声は少し乾いていた。

 

三晴は恐怖を覚え、はぐらかす。

 

「そう………俺には、こう聞こえた。

“虹姉ちゃん”って。

そういえばきみ、どこか似てるね。

髪の長さが全然違うから気が付かなかったよ」

 

青年は三晴の前にしゃがむと、にこやかでそれでいてどこか冷たい笑顔を見せながら淡々と話す。

 

三晴は青年の変貌に戸惑い、何も出来ない。

 

青年は右手を後ろに向けると、突風を放った。

 

「ーーー…!」

 

突風は背後から襲ってきた真っ黒な男に直撃し、吹き飛ばす。

 

ノールックの一切無駄のない動きに、三晴の恐怖は更に強くなる。

 

「きみ、名前は?

なんていうんだい? 念の為、フルネームで教えてくれるかな?」

 

三晴は唾を飲み込む。

 

どこの誰かもわからない人に名前を教えるのは怖かったが、青年の言葉に背くのはもっと怖かった。

 

さっきの背後への攻撃も返答次第では自分もこうなるという脅しのようにも感じた。

 

「と………とね。

刀根………三晴………です」

 

三晴は恐る恐る自分の名前を明かした。

 

青年は凍り付いた笑顔のまま、三晴の頭を撫で

 

「そうかそうか」

 

と頷くと、立ち上がり、左の腕輪から透明な宝石を外した。

 

「きみ。虹の妹か。

写真で見るよりも大きくなったね。

よく虹から話しは聞いてたよ」

 

青年は1人で話を進めながら、ポケットから真っ黒な宝石を取り出した。

 

「ここに入れたということは、虹の予想通り、君もこうなる運命だったわけか」

 

真っ黒な宝石を左の腕輪に嵌めると、左右の前腕を顔の前に揃え、掛け声をあげた。

 

«ゲイル!» «ダークネス…!»

「アーマード……!」

 

すると、右半身はそのまま、左半身は鎧が真っ黒なモヤに包まれ、禍々しい雰囲気を醸し出す。

 

そのモヤは先程の真っ黒な男が右手から出していたものに似ていた。

 

ヘルメットのバイザーが下がり、顔も見えなくなった。

 

「え……?」

 

三晴はわけが分からず混乱していると、青年は左手を握り、大きく振り上げた。

 

その拳には真っ黒なモヤが溢れ、纏わり付いていく。

 

「ふうんッ!!」

 

「わっ!!」

 

次の瞬間、青年は拳を三晴へ目掛けて振り下ろし、三晴は本能で危険を感じたのか、無意識に避けていた。

 

「避けたか……姉譲りの戦闘センスか…?」

 

「なんです…!? いきなり……!!

助けてくれるんじゃ……!!?」

 

「そのつもりだった。だが気が変わった。

俺の名前は吉田元喜。

刀根三晴!今からお前を殺す」

 

青年--もとい、元喜は左手の人差し指で三晴を指し、そう宣言した。

 

「吉田……元喜………」

 

三晴はその名に聞き覚えがあった。

 

かつて姉から聞いた、同学年で同じクラスになることが多く、よく一緒に遊んだ優しい男の子。

 

元ちゃん元ちゃんと、姉が楽しそうに話していた少年。

 

「どうして……あなたは虹姉ちゃんの友達だったはず!!

誰かが死ぬのは怖い事って分かったはず…!!

なのに、どうしてそんなこと……!!」

 

三晴は自分を殺しに来る意思に怯えるよりも前に、死んだ姉の友達が、平気で殺害予告をすることが許せなかった。

 

「今すぐ死ぬきみが知って何になる?

……だが、何も知らずに俺の攻撃を避けられたのは何か奇妙なものを感じる。教えてやろう。

そうしないと死んでも死に切れないだろうしな。

きみのお姉ちゃん--刀根虹がどう死んだかは知ってるか?」

 

「……それは…」

 

三晴は答えようとしたが、当時のことを思い出すのがいやで、口に出すことができなかった。

 

「雪の日、昼間から酒を呑んだ馬鹿な運転手の乗った車が、路面の凍結でスリップし、たまたま通りかかっていた虹に突進。

車と建物との間に挟まれ即死。

………交通事故としてそう処理された。

“世間”ではな」

 

「………? どういうこと?」

 

「交通事故ってのは虹の死因に過ぎない。

それまでの経緯からすれば、あれは立派な殺人事件だ」

 

「え…………!?」

 

殺人事件。

 

その言葉が三晴に大きな衝撃を与えた。

 

それと同時に、大好きな、世界の全てだった姉を奪った顔も姿も知れぬ相手に怒りが湧いてきていた。

 

「俺も全てを見たわけではない。

だが、彼女の……虹の体からは粒子が漏れていた」

 

「………? 粒子?」

 

「ああ。

こういうことだ」

 

いまいちピンと来ていない三晴に、元喜は右腕に風を巻き起こした。

 

「ゲイルフォース!」

 

元喜は右手から、もはや空気の弾丸のようになった突風を、背後に倒れる男に放った。

 

突風は男に直撃し、男は形が崩れ黒いモヤとなって霧散した。

 

「えっ……」

 

「あれが粒子。

あいつらは、闇の粒子で形成されている」

 

突然斃された男に三晴が愕然としているうちに、元喜は淡々と説明した。

 

「闇の……粒子………。

(そういえば、虹姉ちゃんのノートにそんなこと書いていたような………)」

 

「そう。

奴らは攻撃にもその粒子を使う。

ああいう戦闘員の弱い攻撃ならまだしも、とても強い奴の攻撃は、体に粒子が残留する」

 

「……じゃあ、虹姉ちゃんも。

巻き込まれて………」

 

「巻き込まれた?」

 

元喜の体が震えだす。

 

拳を握り、なにかに怒っているようだ。

 

「違う。

巻き込まれたんじゃない。

彼女は戦いの中にいた。

虹は奴らと戦っていたんだ…!」

 

「え………」

 

怒りを抑えるように淡々と言う元喜の言葉に、三晴はまた愕然とする。

 

(戦ってた……?

あの、虹姉ちゃんが……?

………確かに、怪我して帰って来る日も多かったし、洋服も汚して来たのも多かった……。

それに、あのノート……まさか、本当にあったこと……?)

 

俄には信じられないが、思い返すと辻褄が合うことが多い。

 

(どうして……なんでこんな危険なことを?

それに、なんで教えてくれなかったの? 虹姉ちゃん。)

 

三晴は、自分の知らないところで命を懸けた戦いをしていたこと、そんな大事なことを秘密にされていたことに悲しくなった。

 

なにか理由があって隠していたと予想はできたが、“なんでもはんぶんこでがんばろう”という約束が破られ、裏切られたような気持ちがしていた。

 

だからこそ、目の前の青年に怒りが湧いた。

 

「じゃあ、あなたも虹姉ちゃんと一緒に戦っていたんですよね?」

 

「……ああ」

 

「じゃあなんで…!

本当になんで私を……殺そうと!!

虹姉ちゃんは……理由は…よくわかんないけど、危ない戦いをして、頑張って!多分、この世界を守ってたのに…!!

あの虹姉ちゃんがノートに纏めるくらい頑張って戦っていたのに…!!

なんで敵じゃなくて、私を…!!」

 

三晴の怒りの訴えに、元喜は立ち尽くした。

 

しばらくすると、ヘルメットのバイザーが開く。

 

その奥深くに闇を抱える瞳からは、涙が1滴流れていた。

 

「戦いは……悲しく虚しい。

失うものばかりで得るものはなにもない。

……この戦いの中、虹だけじゃなく、多くの人が……勇敢な戦士が死んでいった。

何度も戦い、何度も倒しても……終わりは見えない。

だから俺は………」

 

元喜は左の拳を強く握り、そこから黒いモヤが溢れる。

 

バイザーが下がり、決意めいた顔が見えなくなる。

 

「この戦いを終わらせる」

 

元喜はそう強く宣言すると、右足で踏み込み、突風のような速さで、一瞬で三晴の前まで迫った。

 

「いやあっ!!」

 

三晴が気付いたときには右頬を殴られ、キリモミ回転しながら10m程吹き飛ばされていた。

 

地面へ仰向けに倒れ、もう少し強ければ千切れていたのではないかと思うほどの力と勢いに、首が捻れたように感じ、痛みで首の右側を抑える。

 

頭が揺れて吐き気もし、焦点も定まらなくなる。

 

「やったか?

いや、まだ生きてるな。

………ということは」

 

元喜は三晴の様子を確認しつつ5m近付くと、その場で止まった。

 

「うっ………ぐぐ…」

 

三晴は首を傾け、元喜を見詰めた。

 

トドメを刺すには絶好の機会なはずなのに、距離を保ってなにもしない姿を訝しく思いつつ、めまいが治まるのを待つ。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

だいぶ視界が回復すると三晴は元喜から目をそらさず、ゆっくりと立ち上がる。

 

その間も元喜は様子を見てなにもしない。

 

「なんでなにもしないの……?

それに、まだ答えは聞いていないよ。

なんで私を殺そうとするの…!」

 

三晴は息を漏らしながらも、精一杯睨み付け、声を上げて訊いた。

 

弱みを見せたら、すぐに襲われそうと考えた上の行動だった。

 

元喜はそのままの位置で、左手を三晴の顔に翳すようにした。

 

「答えは言った。

“この戦いを終わらせる”と。

俺は光と闇……どちらの戦士も抹殺する。

だからきみを殺す」

 

「戦士……?

戦士って……私は戦士なんかじゃない…!

あんな恐い人達と戦ったことなんて……一度も

 

「いや、きみは戦士だ。

さっき言った良くない事はもう既に起こっている。

“能力の覚醒”が」

 

三晴はなるべく隙を見せないように、驚きを声に出すことはなかったが、心の中で戸惑いを隠せなかった。

 

(能力……!?

能力って……私、そんな大層なものは…………)

 

そのとき、極度の緊張からか、心臓の鼓動が急に強くなったように感じた。

 

そして、ずっと忘れようとした、思い出したくもない記憶が一瞬脳裏を掠めた。

 

「まだ理解出来ていないようだな。

だが証拠はある。きみの体だ」

 

元喜は左手の人差し指で、三晴の右頬あたりを指した。

 

「光の人間が能力に覚醒すると、光の粒子が膜のように纏って体が丈夫になる。

今の攻撃、生身の人間なら失神……最悪死亡してもおかしくない。

それなのにきみはピンピンしている。見るところ出血もない。

それはなぜか……?

答えは簡単。

きみが能力に覚醒しているからだ」

 

元喜の言葉に、三晴の鼓動は速くなる。

 

秘密基地でノートを見ているときに感じたデジャヴ。

 

思い出したくないあのときの……部屋と母親との縁を切り、過去も未来もなくした瞬間の記憶。

 

その2つがなぜか、パズルのピースが合うようにし、忘れていた……いや、意識の淵にあったものを呼び覚ます。

 

三晴は思わず頭を抑えた。

 

(こ……これは……!!)

 

遠い昔のようでもあり、つい昨日のできごとでもあるような曖昧な記憶が。

 

忘れていたはずなのに、鮮明に思い出せるような、不透明な記憶が再生される。

 

姉の形見と、母親のメモを見付け、目の前が真っ白になった直後、三晴の胸が輝き、気付けば刀を右手に持って……いや、作り出していた。

 

刀身を光らせ、当たり構わず振り回す。

 

気持ちがいいほどの切れ味で、大きいものから小さなもの、硬いものから柔らかいもの、そのすべてを弾かれることも突っかかることもなく斬る。

 

その刀の前に、目の前のものすべては切り刻まれ、屑となっていた。

 

そこで、記憶の再生は終わる。

 

(なに………今の……?)

 

三晴はわけもわからず混乱する。

 

しかし、刀を手に持った時と、物を切り刻んだときの感触は、鮮明に残っていた。

 

「俺が今、こうして近付かないのは、きみを恐れているからだ」

 

「……!」

 

元喜が語り掛けてきたことにより、三晴は我に返った。

 

「不用意に襲い、きみの未知なる能力に返り討ちに合う可能性がある。

さっきから見ると、きみは“きみ自身の意識”で戦うのは初めてだろうが、虹譲りの戦闘センスを持っているようだからね。

それに危うく聞き流すところだったが、きみはさっきノートと言った。

仮にあのノートがまだ残っててそれを見られてるなら、俺の能力の一部は筒抜け。

俺の方が不利だ」

 

その最中でも、元喜は三晴への集中を崩さない。

 

少しでも体を動かせば、元喜の全意識がそこへ向かう。

 

こんな状況で、逃げようとするのなら対抗策がないと思われ、殺されてしまうだろう。

 

(ノート……そう、ノートだ。)

 

三晴は虹のノートの内容を断片的だが思い出し、それを頼りに覚悟を決めた。

 

(どうせやらなきゃ、やられるんだ…!

虹姉ちゃん、見ててね……。)

 

「言っておくが、なにもしないのは賢い選択ではない。

それともなにか仕組んでるのか?

……あと1分、時間を………ん?」

 

“時間を与える”と元喜が言いかけたとき、三晴は右腕を真っ直ぐ伸ばし、右手を開いた。

 

元喜は様子を伺いながら、左の拳を握り、右足で踏み込む準備をする。

 

「はあああああああああ!!」

 

三晴は右手に力を集中させる。

 

すると、胸が光り出し、それに呼応するように右の掌から光の粒子が溢れ出る。

 

粒子は日本刀の形に変わり、固形化する。

 

「おらッ!!」

 

その瞬間、元喜は踏み込み、三晴の目の前まで接近すると左手でパンチを放った。

 

「光の刃!!」

 

三晴は無意識にそう叫ぶと、刀を拳と拮抗させる。

 

「くっ……!」

 

拳の勢いは想像以上に大きかった。

 

有り余る衝撃に三晴は反射的に刀を持つ手を緩めてしまう。

 

その行動は無意識ながらも拳を受け流していた。

 

「………!? なにっ!!」

 

有り余る力と勢いをあしらわれたことで、元喜の体は前に倒れかける。

 

その瞬間、無防備な隙がうまれた。

 

「光の……刃!!」

 

三晴はその隙を見逃さず、刀を握り直し、刀身の光の力を引き出すと、元喜へ振り下ろした。

 

「くっ………!」

 

元喜は咄嗟に右手から突風を吹き出し、その力で体を左に半回転させる。

 

それでも、刀を避けることはできず、右半身を斬り付けられた……はずだった。

 

「え……!?」

 

斬り付けた感触がないことに三晴は驚く。

 

確かに刀身は元喜の右胸に触れていた。

 

それなのに、傷一つつかず痛がる素振りも見せない。

 

元喜は受け身を取り着地すると、風の力で三晴と距離を取った。

 

「さすが、虹の妹。

一瞬肝が冷えた……」

 

(なんで……?

確かにあたったのに……?)

 

三晴は刀と元喜を交互に見詰めながら考えた。

 

(もしかして、あの服……?

いや、でも服に弾かれたとしても弾かれたとか何かしらの感触がある………はず。

だけど………………はっ!!)

 

そこまで考え、ノートの中の一部分を思い出した。

 

(そうだ………光の人間……だっけかな? えっと、それは仲間の攻撃をくらわないように、光の膜? でガードして攻撃を無効化するんだ。

そう書いてたはず……。

あの人の体は緑が光、黒いのが闇で分かれてる。

だから、避けずに体を返して攻撃が無効にできる緑色の方で受けた

……………で、いいのかな?)

 

三晴は断片的な記憶から答えを導き出した。

 

多少不安であるが、迷えば隙ができ、その一瞬で攻撃され命取りになることを三晴は直感的に理解していた。

 

(とにかく、狙うは黒い方……あっちはえっと、左半身!)

 

三晴は攻撃の当たる左半身をじっと見詰め、刀を構えた。

 

元喜はまた、動かずに様子を見ている。

 

「はあ……ふう」

 

三晴は深呼吸をし、元喜に向かい走り出そうとした瞬間

 

(………ッ!!)

 

体がそれを拒否し、踏み出すことを躊躇した。

 

(なんで……あ、足が……!?)

 

自分でも気付かなかったが、足が震えていた。

 

近付こうとした瞬間、体が痛みと恐怖、そして圧倒的な力の衝撃を呼び起こし、行動を抑制させてしまったのだ。

 

「ビギナーズラックはそこまでみたいだな」

 

元喜はそう言うと、三晴に近付いていく。

 

「刀の能力。

強力だが、武器と刃物なら、きみよりも上を見ている」

 

(………ッ!!来る!!

立ち向かわないと…!!)

 

三晴は刀を構え、一歩、また一歩と距離を詰めたつもりだった。

 

しかし、三晴の意思とは裏腹に元喜との距離はどんどん開いていた。

 

(え……なんで………私…!?)

 

三晴は進んでいたつもりが、あまりの恐怖に後退していたのだ。

 

動揺と焦りは顔に現れ、心の隙を見せてしまった。

 

「終わりだな」

 

元喜が一瞬にして、三晴の目の前に迫った。

 

「…………ッ…!

ひ……光の……刃!」

 

三晴は恐怖しながらも、技を出して対抗しようとしたが右手を合わせられ、無効化される。

 

「同じ手はくらわない!!」

 

そして、刀を払いのけると闇の粒子を纏った左の拳を右目に殴り付けた。

 

あまりの威力に三晴は声もなく吹き飛び、立ち入り禁止のロープを千切ると、木の幹に衝突した。

 

「がはっ……!!」

 

強く背中と後頭部を打ち付けられ、その衝撃で唾を吐き出す。

 

何度も傷付けられた体は耐えきれず、ついに後頭部から血が流れた。

 

殴られた右目の下瞼は紫色に腫れ、ジンジンと痛み目を開けられない。

 

「う………うう……………」

 

なんとか意識はあるものの、披露とダメージとで視界はぼやけ、体はダルく不調を訴えた。

 

(来る…………

早くしないと……来る…………。)

 

体力も残り僅かでこの場所から逃げることもほぼ不可能。

 

和解を求めようにも、戦う気をなくしたと思われ、その隙を付き、今度こそ容赦なく殺されてしまうだろう。

 

三晴はなんとか生き延びるため、朦朧とする意識の中、迎え撃つ手段を考えていた。

 

(吉田元喜。鎧の能力。

確か、ノートだと腕輪に嵌めた宝石の力で右半身と左半身にそれぞれパワーを送ってそれで戦うって書いてあったはず………。

ん……待てよ。それじゃ、パワーの源がなくなれば攻撃ができなくなるんじゃ、だとすると…………)

 

三晴は何かに気付き、閃いた。

 

(いや、でもそうするには近づかなきゃ……。

でも、近付くのは怖い……。

でも……なにもしなきゃ、やられる……。

やられるのもやだ……。

じゃあ、近付かずに攻撃すれば……。

刀を投げる……?

だめ……一本しかないし、絶対弾かれる……。

なんか……技があれば……。

技……技………。)

 

三晴はノートを思い返し、記憶の中から遠距離で攻撃できる技を探した。

 

(……そうだ……。

確か、あったはず、虹姉ちゃんの“ニードルバスター”が。)

 

三晴は一番最初に適当に開いたページで印象に残っていた、ニードルバスターを思い出した。

 

(確か、針かなんかの尖端に力を入れて、それを放つ技だったような……。)

 

三晴は刀を見て、イメージを掴もうとしたとき

 

「まだ生きてたか。

その頑固さも虹譲りだな」

 

元喜がロープを跨ぎ、近付いて来ていた。

 

(やるしかない。

とにかく、やるんだ。

ぶっつけ本番…!)

 

三晴は木を伝い立ち上がると、痛みに耐えながら右目を開け、刀を顔の高さまで上げ、地面と平行に持ち、切っ先を元喜へ向けた。

 

いつ、ふっと意識が途切れ、倒れてもおかしくない状態だが、後のない極限状態が三晴の体を動かした。

 

元喜はさっきと違う構えに警戒し、動きを止める。

 

「はあ………ふう………。(尖端に力を込めて……)

ニードル……(前に発射する!!)バスター!!」

 

三晴は深呼吸すると、刀身の光のエネルギーを引き出し、刀を勢いよく前に突き出した。

 

刀は空気を切り裂き、その衝撃波に光のエネルギーが乗り、偶然にも飛ぶ斬撃となって元喜へと飛んでいく。

 

「なっ………!?」

 

元喜は激しく動揺したが、咄嗟に右手を出して、左半身への攻撃をガードした。

 

「なっ………!?

そんな……」

 

三晴の最後を賭けた一撃は失敗に終わった。

 

落胆し、刀を持つ腕も下がる。

 

思えば、戦いを共にして来たであろう仲間の技では見切られて当然なのではと考え、打つ手のないことに絶望し、意識が切れかける。

 

「ニードルバスター………だと!?」

 

対し、元喜は三晴が叫んだ技名に愕然とした。

 

やり方は違えど、顔の似た妹が同じ技を使ったことにより、一瞬、あの雪の日に別れた少女を想起し、激しく動揺する。

 

(ん……?

なんだ……? 様子が……。

もしかして……今なら。)

 

三晴は失いかけた視界の中に、何もしないで突っ立っているだけの元喜を見て、何か良い兆候があったのではないかと思い、なんとか踏ん張って意識を戻す。

 

今度こそはと狙いを定め、隙だらけの元喜に、三晴はまたニードルバスターの構えを取る。

 

「ニードル!!」

 

そして、技を放とうと叫んだ瞬間

 

「その技を出すなあッ!!!」

 

元喜は突風のスピードで三晴に迫り、刀を彼方まで吹き飛ばしてしまった。

 

「なっ……!?」

 

武器を失った三晴は一瞬動揺したが、咄嗟に右手に力を入れ始めた。

 

「消えろ!!」

 

元喜は感情のまま、三晴を殴り付けようとしたそのとき

 

「光の刃!!!」

 

三晴は無意識に新たに生成した裁縫用の針くらいの長さしかない短刀で、元喜の左胸を斬り付けようとした。

 

「なッ………!?」

 

それに気付いた元喜は、拳を引き、風の力で距離を取る。

 

「ニードルバスター!!!」

 

三晴は位置を予想し、斬撃を飛ばす。

 

元喜の反応よりも早く、斬撃は三晴が狙うところ---左の腕輪に嵌められた宝石を貫いた。

 

「なにッ……!?」

 

宝石は欠け、十分な力の供給ができなくなったのか、左半身の闇の粒子の鎧は消える。

 

動揺する元喜に、三晴はふらつきながらも切っ先を向けた。

 

「当った………。

今日は運がいいな。

あなた自身の攻撃が光だから、私みたいな光の人間……だっけ? ……とりあえず、光の人間に効かない。

だから、その闇が入った真っ黒な宝石から力を貰ってその力で攻撃する必要がある。

今、それを壊したから、あなたは私に攻撃できない。

違いますか?」

 

三晴は息を漏らしながらも勝ち誇ったかのように言った。

 

元喜の左半分だけから見える顔は初めは怒っていたが、次第に無表情になっていた。

 

「元喜さん。あなたは光の人間です。

こんなことしないで、虹姉ちゃんや、その仲間のためにも、もう一回光の戦士として一緒に戦いましょう!

私も……私も虹姉ちゃんの代わりに戦いますから!!」

 

三晴は刀を逆に向けて、説得しながら元喜へ近付くと、手を差し伸べた。

 

「ふ……ははは…」

 

しばらくすると、元喜は笑い出した。

 

「ふはははははははは!!」

 

大きく高笑いをするが、顔は笑っていない。

 

三晴は少し恐怖心を覚え、後退りしていた。

 

「一緒に戦おう……か。

どこからどこまでそっくりだ」

 

元喜は笑い終えると、そう呟きながら左の腕輪から欠けた宝石を取り外した。

 

「もう、俺は取り返しのつかないことをした。

今更戻ることはできない」

 

物悲しげにそういうと、元喜は宝石の中心部に指を突っ込んだ。

 

すると、宝石内に入ったエネルギーが溢れ出し、怪しい光が漏れ出る。

 

「な……なにを…!?」

 

「刀根三晴。

虫唾が走るきみが嫌いだ」

 

困惑する三晴に、元喜は左腕を回し、三晴の顔をうずめるように体に引き寄せた。

 

「今からこの宝石、ダークネスクリスタルは爆発する。

強いエネルギーが溢れ、俺ときみとの相討ちだ」

 

「な………なんでそんな…!!」

 

三晴はなんとか顔を上げ、驚きと悲しみの表情で訊いた。

 

仲間の命を奪った敵を仇討ちとして倒すのは理解できたが、戦いを終わらせるという抽象的な理由で味方さえも殺すのは理解できなかった。

 

そしてそれを頑なに実行しようとする狂気と内に秘められた悲しみを救ってあげたかった。

 

「俺は正義の味方でも悪の一味でもない。

すべてを終わらせるために行動してきた。

だが、それができなくなった以上、生きている価値もない。

だから、冥土の土産としてきみの命を貰っていくよ。

嬉しいだろ。大好きなお姉ちゃんに会えるんだぞ」

 

しかし元喜の言葉に感情はなく、三晴のことは一切見ず、淡々と無表情で語り掛ける。

 

「そんなの………そんなのいやだ!!

私は今日で、やっと前に進めそうなんだ!!

虹姉ちゃんができなかったことを、代わりに私がやり遂げるんだ!!」

 

三晴はそう言いながら抵抗するが、腕の拘束はキツく、消耗しきった体力ではなかなか抜け出せない。

 

「そう。でも残念」

 

腕の拘束が更にキツくなる。

 

「時間切れだ」

 

元喜の宣言通り、言った直後に宝石は爆発した。

 

爆風に木々が揺れ、葉っぱが散る。

 

闇の粒子が爆煙のように上がり、霧散した。

 

 

 

三晴は吹き飛ばされて、三角の札がかかった木の幹にもたれていた。

 

顔に煤が付き、服はところどころが破れてしまっている。

 

「ひやあ!!はっは!!

いいもん見ちまった!!」

 

しばらくすると、剽軽な男が三晴の前に突然現れた。

 

「これだから透明の能力はやめられない!!

連れ帰って俺っちの手柄にしちまおう!」

 

男は上機嫌になりながら、運び出そうと三晴に手を掛けたそのとき

 

「光の……………」

 

「ひえ…?」

 

「刃!!」

 

気配を感じた三晴はほぼ無意識に、男を斬り付けた。

 

「ひょええええ!!!」

 

男は喉をかっきられ、そこから闇の粒子を漏れ出る。

 

地面を転がり、慌てふためいていたがしばらくすると気を失った。

 

「よいしょ………」

 

三晴はボロボロの体を起こし、ふらつきながら男の元へ歩いた。

 

「お前らが、虹姉ちゃんを殺した犯人……。

ふん!!」

 

そして、男の胸を躊躇なく穿くと男は形を留めなくなり、粒子と化して消えていった。

 

「うん。私……意外と記憶力あるのかな?

胸に核があって、それで粒子を動かしてる。

そう書いてあった。

………それで」

 

三晴はそう呟くと、男がいた場所に落ちてる双角錐の結晶を何かに憑かれたような虚ろな目で見下ろした。

 

「これが核の残留、ロストソウル。

これを壊せば………なんだっけ?

まあ……いいか」

 

柄で結晶を破壊する。

 

すると、周りの景色が少し明るくなったように感じた。

 

「これでいいのかな」

 

三晴は刀を消滅させると、静かに秘密基地へ向かって歩き出した。

 

(虹姉ちゃんを殺したのはアイツらか……。

許さない。私が撲滅させてやる。

虹姉ちゃん。私が必ず虹姉ちゃんの分まで頑張るからね。

だから、応援しててね。)




刀根姉妹 完
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