刀根姉妹の日常 お花見
よく晴れた春休みの昼間。
4月から小学3年生になる三晴は、自分の部屋で姉から借りた雑誌を眺めていた。
もう何度も読んだ少女服のページには、可愛らしいピンクの洋服が載っており、三晴はそれを自分が着ている姿を想像し、思わずにやけてしまう。
「三晴ー!」
そこに、姉の虹が勢いよくドアを開け、頭に大きな赤いリボンを乗せた顔を覗かせる。
「わっ!虹姉ちゃん!入るときはノックしてって言ってるでしょ!」
三晴は、急いでページを閉じると、誤魔化すように早口で言った。
「ごめんごめん。
あ。三晴またその本見てたの?
好きだねー」
「いいでしょ。別に」
ニヤニヤして茶化すように言う虹に、三晴は照れながら返す。
「そんなに好きなら三晴にあげよっか?」
「……いいよ。
虹姉ちゃんが友達から貰ったものでしょ。
読みたくなったらまた借りるから」
三晴はそう言うと、無理矢理虹に押し付けようとする。
虹は渋々受け取ると
「遠慮しないで、欲しくなったら言ってよね」
と微笑みながら言った。
「うん……」
三晴は残り惜しそうに雑誌を見ながら頷く。
虹は心配した表情で三晴を見ながら扉を閉め、完全に閉じようとした瞬間に、本来の要件を思い出しまた勢いよく開いた。
「忘れてた!三晴!
今から出掛けない!?」
「わっ!?
もう、ビックリさせないで…!」
「ごめんごめん。
それで、どっか行く?」
「え、またー。
昨日も出掛けたよ」
人見知りの激しい三晴は、外へ出ることはあまり好まず、気が乗らない。
また、昨日は公園へ遊びに行ったとき、虹がトイレに行くと言ったきり、30分くらい戻ってこなかったため、少し拗ねているのだ。
「いいの。
せっかくお休みなんだから、公園で隠れん坊しよ!」
「隠れん坊は、もうパターン決まっちゃってるから面白くない」
「えー…じゃあ森で……森でーー」
「………決めてから言って」
「そんなに言うなら三晴は何かある?」
「私?
……そーだなぁ。………いや、私はあまり出掛けたくない」
「えー」
残念そうに声を上げる虹に、三晴は呆れたような顔をした後、ふと目を伏し
「……でも。
昨日、公園で待ってるとき、自然公園の桜が咲いてるって立ち話してるの聞いたから………それ見に行く?」
と少し恥ずかしそうに言った。
「うん!流石三晴!!
センスあるね!」
虹は、冗談で振ったのに、意外にもしっかりした答えが出て来たので、少し驚いた顔をしたあと、笑顔で言った。
「たまたま聞いただけだって…。褒め過ぎ」
三晴は照れながらもまんざらでもない様子だ。
「よし!じゃあ準備しよ!」
「え!?今から行くの!?」
「もちろん!
ほら、立って!着替えて!
あたし、水筒用意しとくから!」
虹は楽しそうにそう言い残すと、そそくさと部屋を出ていった。
「……まったく、急なんだから」
三晴は強引な姉に呆れながらも、少し嬉しそうな顔をしながら、昨日脱ぎっぱなしにしていたヨレヨレの薄紫色のシャツに着替え始めた。
「お待たせー」
着替え終わると、三晴は部屋から出て一階へ降り、リビングに顔を見せた。
「お!三晴!!グッタイミング!!」
丁度、虹が2人の水筒の中に水を入れ終えた頃で、蓋を閉めながらそう言うと、紫色の水筒に首にかける紐をつけ、三晴に渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして!
ねえねえ、桜を見るだけじゃなんだし、途中で駄菓子屋でなんか買っていこうか」
「うん。
……あ、でも虹姉ちゃん、花より団子になりそう」
「失礼だなー。あたしだって桜を愛でる気持ちくらいはあるよ!」
「そう言って、虹姉ちゃん、前、映画に行くって言って、私が感想聞かせてって言ったのに、その感想が“ポップコーン美味しかった”だったじゃん」
「いいでしょ!
ポップコーンなんて滅多に食べられないし!
それに………元ちゃんと付き添いだったから、あんまりあたしには合わなかったの!」
「ふーん」
言い訳をする虹に、三晴は不貞腐れた様子で鼻を鳴らす。
「………まだ拗ねてる?
帰るって約束した時間から2時間も遅れちゃったこと」
「別に。
私もう、4月から3年生だもん。
それくらい、お留守番できるもん」
虹が恐る恐る訊くと、三晴は視線をそらし、皮肉のように言った。
「拗ねてるでしょ。
本当にごめん。これからは気を付けるから。
ね?」
「だから拗ねてない。
さっさと行くよ」
三晴は床を踏み鳴らしてそう言うと、足早に玄関へと歩いて行った。
「あ!三晴待って!
置いてかないでよ!」
虹が追い掛けてリビングから出ると、三晴はすでに靴を履いて玄関から出ていた。
(う〜〜。
怒らせちゃった。
あの子元々皮肉家なところあるけど、最近それがヒドくなってるような……。
………ハッ!もしかして!もう!反抗期!!)
虹はそんなことを思いながら、靴を履き玄関を出た。
「遅い」
「ごめんごめん」
ドアを開けると三晴が待ち切れない様子で立っていた。
虹は謝りながら、ドアに鍵をかける。
「遅い!置いていっちゃうよ!」
その間、三晴は忙しく足踏みをする。
「はいはい。わかった。ごめんごめん」
虹は急いで鍵をポケットにしまい、三晴の横に着いた。
「はいは一回」
三晴は待ってましたとばかりに、歩き始めると拗ねたように言った。
「はあーい」
虹も隣を歩き始め、半ばふざけたように返事をした。
「じゃあ算数は?
九九とか完璧?」
「もちろん。
この前も花丸貰った!」
しばらく歩き、何気ない会話をしていると、三晴はいつも以上の笑顔になっていた。
歩き方もどこか軽やかで、スキップをしているようだ。
(……あれ、もしかしてこの子。
早くお花見したかったから、怒ってたの?
………なーんだ!素直じゃないなー!
そこも可愛いよ!三晴!!)
虹はそう思い、頭を撫でようとしたが、最近は“子供扱いしないで”と怒られてしまうので、頭の中で精一杯撫でた。
「すごいじゃん!
あたし、九九苦手だったなー……。
特に6と7は今でも分からない……」
「えー。
ちょっと覚えればいいだけでしょ?
簡単だよ」
「簡単じゃないよー」
「えー、じゃあ7×4は?」
「いきなり!?だから7の段は苦手だって……
えーと……7かける4……
なな……なな………ななし………ななし?
なし……なっし………ななっし…………
49!!」
「………どこから出てきたの?」
「……あれ?違う??」
「違う
49は、えーーと……7×7」
「あー!ななななしっく!!」
「“しちしちしじゅうく”ね」
「え!?そうだっけ?
あたしずっとそう覚えてた“なななが梨食ってる”って」
「なななって誰?」
「………さあ?」
「知らないの?」
「知らない。
でもなんかこう……イメージはあるんだよ
なんていうか、ななな!って感じの」
「そう。
それで、答えはししちだから……28ね」
三晴は興味なさそうに相槌を打つと、答えを言った。
「28か!
惜しい」
「どこが?」
「えー。だって、49と28でしょ?
なんとか十ってのは2と4で、なんか仲間な感じするし、9と8は一つ違いじゃん!」
「全然違う。
……まあ、確かに“ししち”と“しちしち”で似てるけども」
「あれ?
7って“しし”って言うっけ?」
「?
言わないよ。“なな”か“しち”。
英語だとセブン」
「でもさっき三晴、“ししち”って」
「……ああ。
九九は先にくる方をちっちゃいのにした方が考えやすいから。
ほら、掛け算と足し算は順番入れ替えても大丈夫でしょ?」
「ん?じゃあ、4が“しし”で7が……“ち”
……ん?」
「4が“し”で、7が“しち”」
「……あ、そっか。
冷静に考えれば」
「落ち着いて。
虹姉ちゃん」
「うん。落ち着く。
でもなんかズルいよ。4×7って言ってくれたらあたしも大丈夫なのに」
「ほんとに?」
「ホントだよ!
4の段はいける気がする!」
「じゃあ4×6」
「おっけー!
4かける6ね!
えっと………よろく……?
じゃない、“よん”は“し”だから、しろく……
しろく……………しろく…………ぅ24!」
「おお!正解!」
「やった!まっ!このくらい当然だよ!!」
「すごい時間掛かってたけどね」
「そこは言わないお約束ってことで……」
「まったく……
あ、駄菓子屋ついたよ虹姉ちゃん」
「ホントだ!早いね
行こ!三晴!!」
話に夢中になり、三晴に言われてはじめて駄菓子屋に着いたことに気付いた虹は、足早に中に入っていった。
「こんにちは!」
「こんにちは!!」
虹が挨拶すると、店番をしている黄色い長袖の服を着た小学3,4年生くらいの女の子が迎えた。
「虹姉ちゃん。急がなくても駄菓子は逃げないよ」
三晴も虹を追い掛けて駄菓子屋に入り、虹に小言を言うと、たまたま目があった女の子と会釈し、駄菓子を選び始めた。
虹も、軽く女の子に手を振ると、三晴の横につき、選び始める。
「えー、逃げちゃうよ。
ほら、他の人に買われるかもしれないし」
「たくさんあるんだから大丈夫でしょ」
「でも、いっぱいあった方がよくない?」
「まあ……そうだけど。
……虹姉ちゃん何にする?」
「どうしようかな……チョコかな……あ、スルメもいいなー」
「極端すぎない……?
あと、チョコだと溶けない?」
「そっか……じゃあスルメ!」
「……じゃあ私もそうしようかな」
「うん!」
買うものを決めた二人は、それぞれ一つずつスルメの駄菓子を取り、レジに向かう。
「お願いします!」
虹は、背中に隠れる三晴からスルメを受け取ると、2つカウンターに出した。
さっきの女の子が呼んだのか、レジにはさっきまでいなかったおばさん店主が立っている。
「はいよ
スルメ2つで合せて20円だけど……」
おばさんはそこまで言うと、虹に顔を近付け
「あんたたちにはサービスで半分の10円でいいよ」
と耳打ちした。
「え!?ホントに?いいんですか?」
虹は目を丸くし、思わず聞き返す。
三晴も何を言われたのかと、少し背中から顔を出し、虹の顔を見上げる。
「いいのいいの」
おばさんは笑顔でそう言うと、手を出した。
「ありがとうございます」
虹は少しだけ罪悪感を覚えながらも、お言葉に甘えて10円だけ出し、袋に入ったスルメを受け取った。
「ありがとうございました!」
「はいよ。また来てね!」
虹と三晴は軽くお辞儀をして駄菓子屋から出ると、おばさんは手を振って見送った。
「ありがとうございました」
外ではさっきの女の子が箒を持って掃除をしており、二人の姿を見ると、笑顔で見送った。
「ねえ、虹姉ちゃん」
「何?」
数歩歩き、後ろを振り向いて、声が届かないだろうと思った三晴は、真剣な顔で虹に声を掛ける。
「前から気になってたけど、彼女って、あのおばさんの子供か孫かな?」
三晴は後ろの女の子を指差し、虹に訊く。
「いや、前おばさんに訊いてみたけど違うって」
「じゃあ、何だろう?
アルバイト?」
「さあ?あたしもそこまで訊かなかったからなー」
「なんで?」
「なんでって言われても。
……特にそこまでは気にならなかったから?
あ、でも名前は教えてもらったよ。
なんだっけ……確か加藤だったか佐藤だったか、そんな苗字だったような……………」
虹はそこまで言うと、不思議そうに三晴をまじまじと見詰めた。
「というより、三晴がそこまで人に興味持つなんて珍しいね。
いつもなら、あたしの話で、ちょっとでも他の人のことが出ると嫉妬するのに」
「興味とかそういうのじゃない。
あと、嫉妬もしてない……!」
「ホントに?」
「本当!
別に……虹姉ちゃんが誰と遊ぼうが何しようが虹姉ちゃんの勝手だし、私がとやかく言う事じゃないというか……
ってそうじゃなくて!!」
誂うように言う虹に、誤魔化すように言う三晴は、話を切り替え、また後ろを振り向いた。
掃除を終えたのか、呼ばれたのか女の子はいなくなっている。
「なんか……よくわかんないけど……ちょっと怖いんだよね。
彼女」
「そう?私はそうは思わないけどなー。
いつも笑顔だし、素敵な子だと思うよ」
「でも……」
三晴は、駄菓子屋から出た後、笑顔で見送り、視線が離れた後、一瞬だけ、その女の子が自分たちを睨んでいるかのように感じた。
それを言おうとしたが、虹が“素敵な子”というのだからもしかしたら自分の見間違いなのだと思い、言うのをやめた。
「ううん。なんでもない」
「……そっか!
でも、なにか気になることあったら、言えると思ったら何でも言ってね。
嬉しいも楽しいも悲しいも悩みも何もかも半分こだよ!」
虹は三晴の頭を撫でながら笑顔でそう言う
「うん……。
そうだね」
三晴は満更でもないような表情だった。
「わあー! 綺麗!!」
自然公園に着いた虹は、綺麗に咲き誇る桜に大はしゃぎし、ポケットに入れていたデジカメを取り出し、一枚撮った。
「綺麗だね。三晴」
「うん」
三晴は、桜に心奪われた様子で、上の空に返した。
「ふふ」
虹はその様子を可愛く思い、儚げな横顔にシャッターを切る。
「ちょ! 虹姉ちゃん!!
勝手に撮らないで!!」
シャッター音で気付いた三晴は、拗ねた表情をして、手でカメラを抑えた。
「いいでしょー! ほら、木の前に立って!!
記念撮影!!」
「入学式じゃないんだから! いいの!
桜見に来たんでしょ!」
「桜を見る三晴を見に来たの!」
「恥ずかしいこと言わないで!」
「恥ずかしく……ない!!」
虹はそう言いながら、三晴の手を退けて、拗ねている三晴の表情をアップで撮った。
「うわ!!」
「へへん
………って、わ!!」
三晴は流石に堪忍袋の緒が切れたのか、黙ったままデジカメを無理矢理奪い取り、勝手に撮られた写真を消そうと、操作しだした。
「あー! だめ!!
三晴の可愛い写真消さないで!!」
虹は必死に取り返そうとするが、避けられてしまい、取り戻せない。
「可愛くない!
ほら! 見て!!
こんなの一生残されるとか嫌だから!!」
三晴はさっき撮られた拗ねた表情の写真を表示させ、虹に見せた。
「えー、可愛いのに?
そんな嫌?」
虹はそうコメントした後、隙を見て取ろうとしたが
「嫌に決まってるでしょ!」
手を出した瞬間、背中に隠されてしまい、三晴はそのまま手探りで操作して写真を消した。
「分かったよ……勝手に撮ってごめんね
だから、カメラ返して」
三晴は、いつになく諦めが早いことに、少し怪しく思いながらも、しっかり写真が消えていることを確認すると、含み笑いをし
「虹姉ちゃん」
「なに?
うわっ!!」
お返しにと、反省顔を一枚写真に収めた。
「三晴!! なんで撮ったの!?」
「えー、だってかわいいからー」
今度は虹が、恥ずかしそうな顔をしながら、カメラを手で抑える。
三晴は、棒読みで意趣返し的に答えた。
「ほら、虹姉ちゃん!
撮るよ!!」
「え…! じゃあ!
いぇい!!」
三晴が冗談で言うと、虹は咄嗟に気を付けをして、三晴は反射的にシャッターを切っていた。
「…………なんで、気を付けなの?」
「……さあ? なんか。
……なんとなく?」
「あ、そう。」
「ねえ、どうだった?」
「え……ああ」
三晴が写真を確認すると、咄嗟とは思えない姿勢の綺麗さと、頭の大きなリボンが引き立たせる顔の可愛さに、思わず羨ましい気持ちが湧き上がっていた。
(虹姉ちゃん……やっぱり、私と違って可愛いくて綺麗だな……)
「…………三晴? おーい、三晴?」
写真を見て固まる三晴に、虹は呼び掛ける。
「え、あ、ごめんごめん。
よく撮れてるよ」
三晴は呼び掛けで我に返り、写真を見せた。
「お! ホントだー!!
…………あれ?なんか変なの写ってない?」
虹は嬉しそうに見ていてが、途中でニヤリと笑うと、顔を近付け、画面を指差した。
「え?どれ?」
三晴は画面を自分の方に向けるが、特にそれらしい物は見当たらない。
「あるでしょ?貸して」
「えー、はい」
三晴は虹の言う“変なの”が気になり、差し出す手にカメラを渡した。
「ありがとう」
虹は嬉しそうに笑ってお礼を言うと、カメラを三晴に向けてシャッターを切った。
「……え?」
三晴は何が起きたか分からず、少し固まり、状況を理解すると、恥ずかしそうに顔を赤くした。
「騙したな!」
「わー、また怒った!
怒った三晴も可愛い!!」
「可愛くない!!
返して!! また消してやる!!」
虹が茶化すと、三晴は更に顔を赤くし、必死に取り返そうとする。
「返すも何も、これはあたしがパパから貰ったものだもんね!!
ほら、三晴も、ハイチーズ」
「撮るなッ!」
虹はカメラを向けたが、三晴はレンズを手で抑えた。
「もう、可愛いお顔が撮れないよ?」
「子供扱いしないで!」
「別に茶化してるわけじゃないよ。
思ってること言ってるだけだよ?」
「恥ずかしいこと言わないで!」
「…………もう
分かった」
虹はそう言うと、カメラを下げてポケットにしまった。
「今日はお花見に来たんだもんね。
桜見よっか!」
「……うん」
虹が笑顔でそう言うと、三晴はまだ拗ねたまま答えた。
公園のベンチに座り、ビニール袋から駄菓子屋で買ったスルメの駄菓子を取り出す。
「はい」
「ありがとう」
「どういたしまして
袋開けられる?」
虹は、渡すついでに癖で訊いたら、三晴は“子供扱いしないで”と睨んだまま、得意げに開けた。
「ごめんごめん」
それからしばらく2人は、公園で遊ぶ家族の声や、鳥のさえずり、風に揺れる木々の音を聞きながら、桜とスルメを堪能した。
半分くらい食べた頃
「はーあ……なんで、中学校は3年しかないのかな」
と三晴が呟いた。
「んーんん?」
虹はモゴモゴしたまま“どうして”と訊く。
「いや……別に」
「ふーん
…………あ、またあたしと一緒に登校したくなった?
このー、寂しがり屋!」
虹はまた三晴を茶化すと、三晴は怒った顔をして、拳を振り上げた。
「ああ、ごめんごめん!!
ホントにね、あたしも、三晴と一緒に同じ学校行きたいよ」
「…………うん」
「……学校どう? 楽しい?」
「ぼちぼちかな。
勉強は楽しい」
「そっか。
……勉強、3年生になると難しくなるよ」
「虹姉ちゃん、それ、2年生のときも言ってたよ」
「そうだっけ?」
「うん
あと、そこまで難しくなかったし。
しっかり真面目にやってれば簡単だよ」
「そっか……
あ…………いや、なんでもない」
虹は友達についても訊こうとしたが、人見知りする三晴に友達作りを強要するようで、どこか申し訳なく思い、飲み込んだ。
「ねえ、虹姉ちゃん」
「なに?」
「来年も、一緒に桜見に来ようね」
「……うん!」
迷いのない返事が聴けて、三晴は気恥しそうにしながらも、嬉しそうだった。
「にしても珍しいね。
三晴がそんなこと言うなんて」
「……うるさい」
「はいはい。ごめんごめん」
「はいは1回」
「……はい!」
三晴は今までに何回もやっているこのやりとりに、呆れつつも、少し嬉しく感じながら、桜を見上げた。
これから先、何回、こうやって天真爛漫な姉と一緒に、桜を見上げられるのだろう。
辛いことがあったとしても、学校で一人だったとしても、虹さえいれば、この先何年でも乗り越えていける。
三晴はそう思っていた。
「虹姉ちゃん」
「なに?」
「これから……あ、笑わずに聴いてね」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
「……信じるよ…………。
これから先、どんなことがあってもさ。
ずっと……ずっと一緒にいてね」
三晴の真剣な言葉に、虹は感極まり、一瞬泣きそうになりながらも、微笑んで肩を寄せた。
「当たり前でしょ!
大人になっても、お婆ちゃんになっても
ずっと一緒だよ!!」
虹はポケットからデジカメを取り出し、二人の顔が入るように向ける。
「……うん!!」
三晴がとびきりの笑顔を見せて頷いた瞬間、虹はカメラのシャッターを切った。