「よっし! 出来たー!!」
6年生に上がる前の春休み。
小林直樹は休暇を活かして、趣味のものづくりに励んでいた。
お昼に、春から幼稚園生の妹の乃々実が遊びに疲れて眠ってから開始。
そして夕方の5時くらい、それが今完成したのだった。
(夜、乃々実に見せよ。
どんな反応するかな。)
直樹は完成品を眺めつつ、乃々実の反応を想像し、悦に入っていた。
(そうだ、見せる前にテストしなきゃ。)
直樹は乃々実に見せるときに機能しないで興醒めにならないよう、作ったものが正常に動くかどうか確認しに行く。
直樹が作ったもの、それは“鉛筆型水鉄砲”だった。
鉛筆の尖った芯の先が吸入・噴出口になっており、後ろについたキャップを引いて水を入れ、押して水を出す---いわば、ピストン水鉄砲の仕組みになっている。
見た目は鉛筆そのもので、本物の鉛筆とは見分けがつかない程。
直樹が一番拘った部分であり、キャップを引いたときにピストンの棒が見えて見た目が悪くなるのが少し気に入らない点だ。
ダイニングキッチンで夕飯の料理をする母親の横を通り、リビング、洗面所を通過すると、直樹はお風呂場に入った。
(お、いい感じ!)
桶に水を張り、試して見ると、押すときの突っかかりもなく、お風呂場の端から端まで届くくらいの距離まで水を噴射でき勢いもある。
直樹はものづくりの成功にガッツポーズで喜び、心の中で飛び跳ねた。
「今日は何作ったの?」
リビングに戻ると、母親が体を向けて無邪気な顔で訊いてきた。
直樹は咄嗟に鉛筆型水鉄砲をポケットに隠し
「秘密。まだ乃々実に見せてないからね」
と返した。
「そっかー。評価員のOKが必要なんだ」
母親は残念そうな顔をしながらも、少し誂うように言った。
「評価員って……。
で、その乃々実は?」
「まだお昼寝中じゃない?
もうすぐご飯できるから、匂いに釣られて起きてくるって」
「そっか。
そういえば、今日のご飯なに?」
「今日はね……酢豚!」
「おお! 酢豚!!
これは飛び起きてくるね!」
「うん! もう、食らいつく勢いでね!!」
「はは、野生的だね。
じゃ、ちょっと様子見てこようかな」
「そうだ、直樹。
先にもうお風呂沸かしちゃおうか。
新しいのお風呂で使うんでしょ?」
「いやーー……いいかな。
サプライズしたいから、いつもの時間でいいよ」
「そう? 待ってられる?」
「平気だって。もうそんな子供じゃないんだから」
「…そっか。わかった。
じゃ、いつもの時間ね」
「うん」
母親とのやりとりを終えた直樹は、ベビーベッドで眠る生後半年の妹の野々の顔を見てから、子供部屋の前に行き、静かに扉を開いた。
(寝ている……かわいい。)
そこでは、乃々実がベッドの上で横になり可愛らしい寝息を立てて眠っていた。
普段の暴れ具合とは対照的に、寝相はいい。
直樹は乃々実の寝顔を堪能すると、ゆっくり静かにドアを閉めた。
それから3時間後
「よし、じゃあお風呂入るか!」
「うん!!」
毎週やるテレビアニメを見終えると、直樹は入浴を提案し、乃々実は元気に頷く。
これがいつもの流れなので、二人ともすでにパジャマをテーブルの上に置いており、それを持ってお風呂場に向かう。
「きょうもユーパツテルおもしろかったね!!」
「そうだね。
あるーぶちゃん、たくさん出てきたね」
「うん!!!
ののみもいつか、あるーぶちゃんと水あそびしたい!」
「そうかそうか。
会いに来てくれるといいな」
「うん!!」
感想を言いながら、脱衣場に行くと洗面所の間にあるカーテンで仕切り、服を脱ぎ始める。
「一人で脱げる?」
「うん!
い……よいしょ!
ほら!!」
乃々実は一緒懸命上着を脱ぎ、自慢するように見せびらかした。
「お! すごい! いつの間に!?」
直樹は成長に驚き、小さく拍手しながら言った。
「もうすぐようちえんだもん!
およーふくのおきがえはできるよ!!」
乃々実はドヤ顔で言うが、ズボンの方は裾が引っ掛かり上手く脱げないでいた。
足をバタバタさせて、無理やり脱がそうとするがなかなか取れず、直樹に救いの目を向ける。
「ほら、ののみ」
直樹はその様子が微笑ましく思いながら、手を出して優しく声をかけた。
乃々実は黙って足を出し、裾を引っ張ってもらい、ズボンも脱げた。
「ありがとう」
乃々実は恥ずかしそうに、お礼を言うとパンツを脱いで、お風呂場に入った。
「どういたしまして」
直樹はそう言うと、服を脱いで鉛筆型水鉄砲を後ろに隠し持つとお風呂場に入っていった。
「ほらののみ、先に体流してから入るんだぞ」
「…はーーい…」
シャワーで流す前に湯船の蓋を開けて入ろうとする乃々実に直樹は注意した。
直樹がシャワーのハンドルを捻り、水を出し、
「よし、いいぞ」
水がお湯になると、合図を出し、乃々実はシャワーの流れる先でくるくる回転して浴びた。
「もう入っていい?」
「ああ、いいぞ」
「やったー!」
乃々実は両手を上げて喜ぶと、飛び込むように湯船に浸かった。
直樹もシャワーを浴びると、
「ののみー。実はいいもの持ってきたんだ」
と言いながら湯船に浸かる。
「え!? なになに!?」
「じゃーん!!」
ワクワクする乃々実に、直樹は後ろから鉛筆型水鉄砲を取り出した。
「わあ………ああ、なにこれ?
えんぴつ? おべんきょうするの?」
第一印象としては普通の鉛筆なため、乃々実の評価は芳しくない。
そのことは直樹も予測済みなため、笑いながら水を入れた。
「違う違う。
見ててね」
直樹はそう言いながら、キャップを押し込み水を発射する。
「おお!!」
乃々実はその様子に目を丸くした。
「すごいすごい!! あるーぶみたい!!
ね、ののみも! ののみもやる!!」
「いいよ。ほら」
「わーい!!」
乃々実はワクワクした表情で鉛筆型水鉄砲を眺めると、キャップを押し込むが、まだ水が入っていないため、噴射されない。
「……おにいちゃん…!
これこわれてる!」
「違う違う。
ここ。このキャップを一旦引いて」
「こう?」
「あ、お風呂につけて」
「こう?」
「そう。
そして、キャップを押す!」
「えい!!」
乃々実は言われる通りにすると、しっかりとした勢いで水が噴射された。
「やった!!」
「おお!
すごいぞ! ののみ!!」
「へへ!!
えい!!」
乃々実はすぐにやり方を覚え、何度も何度も水を発射する。
(楽しんでくれてよかった。)
直樹は乃々実の楽しそうな表情に達成感を覚えていると
「えい!」
「うわ…!?」
乃々実が直樹に向かって水鉄砲を発射してきた。
「もう、やったな!」
直樹は対抗し、両手を組んで水鉄砲のように水を飛ばした。
「うわ!!
まけないよ!!」
乃々実も対抗して鉛筆型水鉄砲を直樹に連続して噴射した。
それから、二人の兄弟の楽しそうな声は数分間家の周りに響いていた。