ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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未) 狂いの歯車 (全2話)
野望


-夏休み前の授業-

外から蝉の鳴き声が聞こえ、冷房は効果はあまりなく教室内はムシムシとしている。

おまけによくいる一方的に教科書の内容を話すだけの授業で、かなり退屈な先生だ。

「なあ、臼倉。」

そんな環境では集中できるはずがなく、陽菜が隣に座る麻王に話しかけた。

「ん?なんだ?」

麻王は先生の話を聞くフリをしながら、耳を傾ける。

「アイツのカツラちょっとだけでいいからズラしてよ。

夏休み前だし、絶対みんな忘れるからこんな授業意味ないって。」

「そうだな。

よし、任せろ。」

そういうと麻王は鉛筆を置き、先生にバレないように机の下で腕を伸ばして手に力を込める。

次の瞬間、先生の頭上のカツラはズレ落ち床に落ち、年季の入ったなにもないきれいな頭皮が姿を表した。

少し、難しい先生なこともあって、生徒はしばらく笑いを堪えていたが。

「ぷっ…………あははははは!!」

一人の男子生徒が耐えきれず笑い出すと、それにつられるように教室中が爆笑の渦に包まれた。

麻王はしてやったりな表情で、陽菜にドヤ顔をする。

陽菜も、小さく親指を立てた。

当然、先生は教室内の異変をスルーする筈もなく、冷静さを演技ながらも、明らかに怒気を込めた口調で詰問する。

「なんですか…!?なにかおかしな事でもありましたか!!」

「べっ………べつに………!!」

最初に笑いだした男子生徒が答える。

すると、いかにも真面目そうな女子生徒が、きっぱりと言い放った。

「オ〜!

ティーチャー!カミの毛 ポーンとハズれました!!マジック!!」

「………!!?」

沢田のストレート過ぎる指摘に、先生は赤面し頭を触り、カツラを探す。

その様子に、また教室中がどっと湧いた。

「もういいです!!夏休みの宿題はあとでプリントして担任に渡します!!」

床に落ちたカツラを見つけそれをかぶった先生は、憤怒に満ちた表情でそう言い残すと教室を出ていってしまった。

「あはははははははは!!!」

そんな様子に、また教室中に笑い声が響いた。

麻王も表には出さなかったが、心の中でドヤ顔をし、笑った。

自分の力はここまでの影響力がある。

教室の支配権、いや、世界の支配権を得るのも時間の問題だ。

麻王はそう思っていた。

 

 

-夏休み明け-

学校の意向で、近くの学校の若葉小学校と合併し、名前も蕾小学校という名前になった。

今まで10人しかいなかったクラスメイトも20人と2倍の数になった。

今日は初めての顔合わせ。

麻王は、自身が持つ絶対の力。

“闇の力”を若葉小の生徒にも見せつけ、新6-2の支配権も自分が握ろうとしていた。

そんなことを考えていると、黒木が無邪気な顔で寄ってきた。

「なあ、臼倉。

あそこに凄いヤツがいるよ!」

「ん?

すごいヤツ?」

「そう。あそこの髪の長いヤツなんだけど」

黒木が指さすと麻王は横目で睨みつけた。

「なんか、凄い金持ちらしいよ!」

前髪はフワッとしており、後ろ髪は横に広く、いかにもお嬢様の様な出で立ちをしている。

11,2歳の子供がそれを無視する筈もなく、双葉の生徒は麻王と黒木を残し全員そのお嬢様―如月真友美の周りに集まっていた。

「俺たちもいこうよ!」

「アタイはいいよ。あんなの2,3日すりゃあ物珍しくもなんともなくなる。」

「そぅ……。

あーでも俺は気になる!」

そう言い残し、黒木は小走りで輪の中に入っていった。

麻王もああ言ったものの少し気になるのか、睨んだ視線は外さなかった。

しかし、しっかりと見ていないからなのか麻王は気付いていなかった。

視線の先にいる如月も、麻王のことをじっと見詰めていたことを。

 

「あっ、やべ。」

学活の時間。

麻王のすぐ近くの若葉小出身の江口が、筆箱を机から落としてしまい、鉛筆やら消しゴムやらが床に散乱してしまう。

江口は、椅子に座ったまま体勢を下にして、落ちたものを拾おうとする。

その様子を見て、麻王は口角を上げた。

(チャンス来たー!これであたしの力を見せられる!さぁ、讃えろ!畏れよ!若葉小!!)

麻王は、右腕を伸ばし右手へ力を込める。

すると、江口が今拾おうとした消しゴムが紫のオーラに包まれたと思うと、ひとりでに動き出し、宙に浮いた。

「な……なんだ!?」

当然、江口は驚愕と困惑の表情を浮かべ、声を上げる。

その声は意外にも大きかったようで、教室内の視線は全て宙に浮く消しゴムへと集中した。

元双葉小の生徒は麻王の仕業だと分かっているため筆記に戻ったが、元若葉小の生徒は食い付くように摩訶不思議な光景を見詰めていた。

如月も例外ではなかった。

それどころか、第一発見者である江口よりも驚いているかのようでもあった。

麻王は、ニヤッと笑うと目を閉じて腕を動かし床の他の文具また宙に浮かせる。

そして、最後に筆箱を浮かせると口を広げ、蛇口から水を入れるかのように、落ちた文具を全て筆箱の中に入れて、江口の机の上に戻した。

「おおーーーー!!!!」

教室内は、元若葉小の人たちによる拍手喝采だ。

麻王は小さく微笑むと、何事もなかったかのように筆記に戻った。

その心の中では大成功を確かにしていた。

 

-休み時間-

さっきのパフォーマンスで一気に注目を集めた麻王に若葉の生徒が集まってきた。

如月とその取巻きである河野と近藤は若葉の生徒に囲まれているが。

「さっきのなに?」

「なにあれ!?マジック!!?」

「スゲー!どうやったの!?」

「ねぇ、もういっかいやって!!」

「はいはい分かった。

まぁ、アタイクラスになればあの教卓くらいは楽勝かな…!」

麻王が見るからに重そうで背の低い麻王には到底持ち上げられなさそうな教卓を指さすと、えーという一斉に声を上げた。

「じゃあ見せてよ!」

「いくらあれはね…!」

「あれ何トンあるんだろ?」

「分かった分かった。

よし、見てろ!」

麻王はまた右腕を伸ばし、右手へ力を入れる。

若葉の生徒はマジックのタネ明かしをしたいひねくれ物を除き、教卓へと集中する。

(勢いでいったが、楽勝は言いすぎたな…

ま、持ち上げられることには変わりないけど。)

「はぁっ!!」

麻王は、先程とは違い大きく声を上げて力を開放した。

すると20㎏以上はある教卓は、ペットボトルロケットのように勢いよく宙を舞った。

「おーーー!!!」

勢いよく歓声が上がるが、麻王はまで物足りない。

教卓の中に物が入っていないことを確認すると、教卓を電灯にあたるかあたらないかスレスレのところまで上げて、教室の中に入ってきた虫のように縦横無尽に飛び回した。

若葉の生徒達はそのあり得ない光景に言葉を失い、ただ唖然とするだけだった。

双葉の生徒も、そこまでやるかと少々呆れがちな表情を見せながらも、初めて見せたパフォーマンスなのか、やはり驚愕している。

「如月さん。やはり彼女。」

「うん、分かってる。」

如月は近藤とコソコソ話をつけると、覚悟を決めた表情で、麻王を睨みつけた。

「おいしょ。」

1,2分飛び回した後、麻王は元の位置へと教卓を戻した。

すると、若葉どころか双葉の生徒たちも麻王へ拍手喝采をかける。

「ふっ…当然さ。」

麻王はクールに返し、椅子に座る。

(やった!できた!!

この日のために、夏休み中毎日学校に忍びこんで練習したかいがあった!!

これで、このクラスはアタシのもの

フフフフフ…!!)

しかし、内心は興奮冷めやまない様子であり、今の自分はなんだってできるんじゃないかと思うほどだった。

 

「臼倉さん。ちょっといい?」

「ん?アンタ……」

わーわー褒め称える麻王に、突然如月が話掛けてきた。

麻王は如月が他の生徒とは違い、自分に対して祝祭や称賛の気持ちを持っていないことに気づき、悟られない程度に警戒の態度を取る。

「いまさっきのみたけど、臼倉さん、スゴい力の持ち主なんだね!

あとで、じっと見たいから今日の放課後体育館裏に来てもらっていい!?」

「えっ、お、おお、別に構わないよ。」

麻王は、思った以上に友好的に語りかけてきた如月に気抜けた返事をしてしまった。

(なんだ、検討違いか…。)

麻王は、自分への気持ちがまるで感じ取れないことから、悪しき理由で接触しようとしていたのかと警戒したが、

蓋を開ければ、単に自分の気持ちを出すのが苦手なお嬢様という答えで終わってしまった。

麻王は、天下を取れたと確信したと同時に、自分とタメを張れる者の出現がないことに、少しつまらなさを感じていた。

 

-放課後-

麻王は如月と一緒に言われた通り体育館裏へと来た。

人気のお嬢様に気を遣ったのか、目に見えるギャラリーはいない。

「で、どうするんだ?

まさか、この体育館を持ち上げろとは言わないだろうな…?」

「まさか。

でも、臼倉さんならできそう。」

如月は微笑みながら、半分冗談半分本気で言った。

そして、体育館裏にある扉へと麻王を誘導した。

「入って。

使用の許可はもう取ってる。」

「お、おう。(はやいなー…。さすがお嬢様だ。)」

麻王は1,2時間前に誘われたのに、もう体育館の使用許可がおりていることに、驚愕しつついわれるがままに体育館へと入った。

体育館には気配はあるが人影はなく、やけに静かだった。

そんな空気を気にすることなく、如月は体育館の中央へと歩きだす。

(誰かいるけど、あの取巻きの二人かな。

別に隠れて見張らなくてもいいのに。)

麻王がそんなこと考えていると、如月は立ち止まり、ステージを指さした。

「あれなんだけどさ。あの黒い箱。

今日、集会あったじゃん?

話長くて暇だったときに見つけてなんだろうと思ってたんだけど、高くて取れないんだよね。

ちょっと気になるから、その“能力”で取ってくれない?」

「な、なんだ……それだけか。」

麻王は期待していたものより、容易な内容だったため、唖然とした。

「だめ?」

「いや、だめじゃない。

むしろオーケーかな…!

(よし、あのときの教卓よりももっと凄いことをしてやろっかな。)」

容易だからこそ余裕を見せられる。

麻王はその後の如月が驚く表情を想像して、心の中でニヤリと笑い、右腕をピンと伸ばした。

「ってアレ?」

右手に力を入れようとしたが、対象物が見当たらない。

「なあ、如月。

それってどこにあるんだ?」

「あれ?角度で見えないのかな?

もうちょっとこっちよって。」

麻王は如月の補導され、如月に近づく。

しかし、それでも対象物は見えない。

「如月。ホントにあるのか?」

「あるよ…!ほら、こっち…!!

私の前に立てばわかるんじゃない!?」

「ん、どれだ?」

「ほら、こっちだよ。」

如月は麻王の誘導を続ける。

まるでどこか一つのポイントに、麻王を立たせたいかのように。

「どーこだー?」

如月のすぐ近くに立っているのに、麻王の目には黒い箱なんて見えない。

そんな麻王をよそに如月は、キャットウォークの影に隠れている近藤へアイコンタクトを出した。

「如月、ホントにあるのか?」

「えー、見えないの?

すぐ近くにあるのに。」

如月は後ろ手で合図を出す。

「こーんな近くに、あるのにね。」

「え?」

次の瞬間、麻王の四方が光り出した。

「なんだよ、コレ…!?」

その異常は一瞬で、麻王には分かった。

さっきまで伝わってきた空気の流れや人の気配などの外からの情報が、全て遮断されてしまったのだ。

「お前…!いったいなにを…………」

麻王は出し抜かれたと思い、怒りに身を任せ如月の胸倉を掴みにかかる。

しかし、如月は微動だにせず一言。

「やめといたほうがいいよ。」

「…………!?」

如月の言葉が終わると同時に、麻王は“見えない何か”にぶつかる。

「いったぁ…………何これ?」

麻王はその何かを確認しようと、そーっと手を伸ばす。

それを見計らったかのように、如月は再び合図を出した。

合図を受け取った近藤は、頷き手に持つマシンのボタンを押す。

「うっ…………!!」

麻王が“何か”に手を触れると静電気のようにバチッと何かの衝撃が走った。

「お前……何を…………

ぐっ、うわぁぁ!!」

麻王はこの場に留まるのは危険と感じ、後ろへ跳んで距離を置こうとしたが、後ろにも同じような“何か”が存在し、今度は麻王の体に激しい電撃が流れた。

(なんだよ、これ…………。

まさか、さっきの光……。

そしてこの痛み……。まさか、これは。)

気付いたころにはもう遅かった。

麻王の四方には、闇の力を封じる光の力を持つ壁が展開され、完全に動きを封じられてしまったのだ。

「これで同じだね。」

如月は光の壁に手を触れ笑顔で語り掛けた。

そして、背を向けて2,3歩あるくと再びこちらを向き、先程までとの笑顔はどこへやら、憎しみと侮蔑に満ちた表情で、冷たく言い放った。

「ニンゲンの皮を被った闇のバケモノ…!」

「バケモノ…?何言ってんだよ…!?」

麻王は睨みを聞かせながら厳しい口調で聞き返す。

当然、自分自身の闇の力を比喩しているのだとは分かってはいるが、力の正体は外部のものには話してはいない。

双葉小の頃のクラスメイトでさえも。

しかし、今日初めて会ったはずの如月は知っていた。

麻王の力、そしてその対抗策さえも。

「今日の集会。

ホントに暇だったよね。

とくにあのカツラの教師。

論点纏まってないし話が長いしさ。

だから助かったよ。

たくさんいる人の中から、闇の力を持つ人を炙り出し、誘き寄せて捕える策略を練ることができたんだから。」

如月は再び麻王へ歩み寄り、壁に手を当てる。

「しかも、ラッキーだったよ。

やっぱり正義は勝つんだね。」

そして、壁を強く押すと如月の手は壁を貫通し、麻王の胸倉を掴み、壁越しに顔の前へと引き寄せる。

「何人かいる闇の種族の中から一番最初に、

咲希姉を殺したお前に会えるなんてねッ!!」

そう言い放った如月の顔には憎しみと怒りしかなかった。

今はまだ少しだけ落ち着き、何もしないが、地雷を踏めば一瞬のうちに殺されてしまうのではないかと、麻王は直感した。

しかし、麻王は人殺しをした記憶がない。

だから誤解を解こうと思い切って話を進める。

「殺した…?

なんのことだか、

たしかにアタイはちょっと変わったことはできるが、人殺しだなんて悍ましいことはした…………」

「………!!」

麻王が話してる最中、如月は鋭く麻王を睨みつけ、怒りを露わにして、光の壁へと麻王を投げ付け、感情を爆発させて麻王に怒号を浴びせる。

「人殺しをしたことない?

ふざけんのもいい加減にしろよ!!

あのときあのひ!あのばしょで!

血塗れになって死んでいた咲希姉を見てから、私は仇討ちするって決めた!

大人たちの会話を盗み聞きして、ヒントを集めた!

闇の力にも負けないように、必死に鍛え、作戦も練った!!

そして、答えに辿り着いた!!」

如月は状況が理解できずに、上目遣いでこちらをみる麻王に指さし、話を続ける。

「もうちょっと、あと何年、何十年そのくらいかかると思ってた!

でも、ホントにラッキーだった!!

まさか念力の女の子が私と同い年で、簡単に罠に嵌まる、バカでアホなクズのマヌケだったなんて…!」

如月は指パッチンをし、取り巻きの二人に合図を出す。

「それでも8年……………長かった。」

合図を受けた河野は、箱を持ってきて如月の前に差し出すと、定位置に戻っていった。

「でもこれで、天国の咲希姉も……今まで苦しかったおじさんもおばさんも……ママもパパも………みんな救われる…。」

如月は箱を開けると、丸いボディの近未来にあるのような銃を取り出し、銃口を眺めると麻王に目を移し、にっこりと作り笑いを見せた。

「安心して、殺しはしない。

臼倉さんには死んでも死にきれないほどの地獄を味合わせてあげる!」

如月は引き金を引き、特殊な怪光線を麻王に浴びせる。

「ぐっ………うっうわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!(なにこれ、力が…………力が、吸い取られてく……!!)」

怪光線を浴びた麻王は、痛みに悶絶し嗚咽を漏らす。

その悲鳴は、普段のドスの効いた声とは全く別で、子犬の鳴き声のような高くキレイなカワイイ声だった。

それと同時に自分の中のなにかがどんどん吸い取られ、からっぽになってしまうような感覚に陥っていた。

「どう!?痛いでしょ!苦しいでしょ!

でも、咲希姉はこれ以上の苦痛を味わいながら死んだ…!

だからあんたも!死ぬにはまだ早い…!!

散々苦しめた罪の分、あんたに償ってもらうんだよ!!!」

「うわああああああああああ!!!!!

(なんで、なんでこんなただの人間の娘に………。あたしは……あたしが、なにをしたっていうの……さ……………。)」

とうとう麻王は痛みに耐えきれずに気絶してしまう。

それに合わせて如月も光線を止め、銃に表示されている半分近く溜まっているメーターを眺めた。

「これで、あんたに復讐ができる。

もうあんたは私の掌の上だよ。臼倉さん」

如月は、光の壁に凭れ力なく倒れる麻王に捨て台詞を吐き掛け、体育館の外へと向かった。

ドアの前では取り巻きの二人が待っていて、横を通ると静かにお辞儀をした。

「河野。アレを限界ギリギリまで吸い取りたい。夕方まで例のとこへ。」

「はい。」

「近藤。回収作業に取り掛かれ。」

「はい。」

「いい、絶対にヘマはしないで。

あんたたちがこうして生きていられるのも、私の親がいるからだ。

忘れるな。」

「はい。」

「わかっています。」

如月は、取り巻きの二人の返答に静かに頷くと、無表情で体育館を出ていった。

取り巻きの二人は気配でそれを確認すると、早速如月の言われた通りの行動を、心がないロボットのように静かに的確にとる。

近藤は光の壁を消滅させる。

そして河野がすかさず、麻王の腕を軽々と引っ張り体を持ち上げる。

そして、ポケットから小さなチップを取り出すと、麻王の首へと貼りおんぶをすると、原状回復を終えた近藤と共に、体育館から出た。

校舎の方では、高貴な高笑いが木霊していた。

 

「うっうぅ……。」

(ここは?)

薄暗い明かりが灯り、隙間風からは気持ち悪く冷たい風が肌に当たる。

麻王は手足を縄で十字架に磔にされ、鉄に閉ざされた部屋の中にいた。

(くっ、アイツめ…!だけど、こんな縄、あたしの力で…!!)

麻王は力を込め、手首に縛られる縄を切ろうとした。

いつものような感覚で、いつものようにエネルギーを溜め、いつものようにそのエネルギーを解放しようとした。

だが、そのいつものことはできなかった。

(あれ……?)

力を溜めようしたが、エネルギーは全く手に集まらない。

「はぁ………はぁ…………(もう一回…!!)」

何回も、いつもと同じようにエネルギーを溜めようとするが、体力が減るばかり。

(なんで……?いつもなら、こんな縄簡単に切れるのに…!いつもなら、すぐに力を溜められるのに…!いつもなら、こんなに疲れないのに…!

いったい…………なんで………?)

麻王は悔しさで、手を強く握りその握り拳を見つめた。

自分でも原因は分かっている。

しかし、ただの女の子に敗北し、囚われの身になってしまった現状を認めたくなかったのだ。

麻王の拳から闇の粒子が漏れ出した。

「なんだ、起きてたのか。」

「……!?」

突然、風上の方から聞きたくもなかった声が聞こえた。

如月が、スマホをいじりながら部屋に入ってきたのだ。

「お前の阿呆面を拝むのはもうゴメンだからさ、とっととまた気絶していてくんない?」

如月はスマホと麻王の顔を交互にみながら、麻王の正面にある、機械の前に立った。

「き……気絶?

へ………へへ、どっちが……アホヅラかな?

あな………アンタは、あたしの………アタイのこと、よく知らないクセに。」

麻王は自分自身でも抑えることができない恐怖に顔を歪めながらも、どちらが優位かを悟らせないために強がりで言った。

しかし、その声も恐怖で震え、ドスの効いた声ではなく女の子らしい繊細でしなやかな、天使のような声だった。

「あんた、ハッタリ下手だね。声裏返ってるし、背ぇ小さいから威圧が全然ない。

それに、今の状況分かって言ってる?」

如月は麻王の脅しを一切聞きもせず、呆れるように返しながら機械を操作する。

「………確かに、あんたのことは知らない。

けど、あんたの“力”のことはよく知っている。」

如月はスマホにつくコードを機械に挿す。

すると、ホログラムの画面が如月の目の前に広がった。

その画面をタッチやスライドで操作しながら話を進める。

「あんたは私の家族、親戚をドン底に落とした……。

だからそれと同じ力であんたをどんどんいたぶってあげる……!!」

ホログラムの画面に大きくOKのボタンが表示された。

如月はそれを躊躇なく、力一杯にタッチする。

すると、麻王を磔にする十字架に白い電流が流れ出した。

「体育館だとあんたの力の半分を吸い取った。

じゃあ、ほとんど全部取ったら、いったいどうなんのかな?」

「えっ………?

うっ……ぐぅわあああああああああ!!!!!」

電流は麻王を一瞬で体を迸る。

首のチップが電流に耐えきれずに破壊され、麻王の体から一気に“力”が溢れだした。

溢れた“力”は十字架へと吸い込まれ、それだけでなく全身に蓄積されている“力”も奪っていく。

麻王はただ痛みに耐えるために悲鳴をあげるだけで、もう抵抗する力も気力も残っていなかった。

その様子を見て如月は、何もいわずただほくそ笑むだけだった。

そのまま数秒時間が経ち、役目を終えた機械が停止する。

麻王を縛っていた縄は電流で黒焦げになり、体重を支えきれずに切れ、麻王は静かに床へと落ちてしまった。

如月はホログラム画像に表示された1%という数値を横目で見ると、スマホをポケットに仕舞い、手袋をつけて機械の中から暗黒に染まった60cm程のタンクを取り出し胸に抱えて部屋を出る。

そして、扉の前に待機していた黒服の男に話す。

「あいつはあいつの家の前に捨てといて。

明日明後日、学校休む。近藤と河野も二日間ゆっくり休めと伝えといて。」

「かしこまりました。お嬢様。」

(これで、これで私の使命が果たせる………。

咲希姉、天国で見ててね。

あいつを絶対に、地獄に墜としてやるから。)

 

-翌日-

「う…………うぅぅ。

はっ…!」

麻王は自分の部屋で目を覚ました。

無意識の内に体を起こし、部屋を見渡す。

勉強机に乱雑に重なる魔導書、“力”を受けボロボロになったサンドバッグやテーブルに乗る食べかけのお菓子や水晶。

本当に自分の部屋かを確認し、そうだと確信するとベッドに倒れ込んだ。

(夢だったのかな………嫌な夢だなー。)

そう思い、また起き上がろうとしたが体が思うように動かせなかった。

体に力が入らないのだ。

(あれ、嘘……!?

き………きのう調子に乗りすぎたかな……。)

麻王は昨日の教卓のときに力を使いすぎたのかと自嘲し、また起き上がろうとしたがやはり体は動かなかった。

(は………はは…。

い、いやーチョウシにノるのはよく…ない…ね………。

ハンセイ、ハンセイ…。

ちょっとつかれてるのかな…?

もうちょっと、ヨコになるか……。)

麻王は“力”が入らない原因を分かっていながらも、認めたくない気持ちが強く、必死に心の中で言い訳をした。

しかし、言葉を探せば探すほど、それが虚しくなり自分の非力さが露わになるような気がして、泣きそうになってしまった。

(あたしは……………あたしは……。

負けたのか……。

もう、天下は………取れない……か…。)

麻王は両手から微量の闇の粒子を漏らし、静かに目を閉じてそのまま何も考えなかった。

 

-数十分後-

「デビルちゃーん!朝よ!学校行って、ヒューヒュー言われてきなさーい!!」

麻王の母親が、いつものハイテンションで部屋に押し込み、超能力で布団を浮かせた。

しかし麻王は仰向けでピクリとも動かない。

目は開いているが、淀み虚いでいる。

「どうしたの〜?デビルちゃーん!

昨日夜遊びしたからって、寝坊は駄目ですよー!!」

そういうと麻王母は手に闇のエネルギーを纏わせ、麻王の胸部を思い切り叩く。

すると、そのエネルギーは心臓にあたる部分まで入っていき、拍動で全身へと巡っていった。

「あ、お………おはよ……。ママ…。」

目に生気を取り戻した麻王は、目の前に母の姿を確認すると、つい素のカワイイ声で挨拶をした。

「もーうデビルちゃん。ママじゃないでしょー。それに、声低くしなきゃ支配だなんて夢のまた夢だよ!」

「う、うん………そうだね。

ごめん、かあさん…。」

「よし、それでいい!ご飯できてるから、着替えて来なさい!服昨日のままなんだし!」

「おお、わかった。」

「へへー!」

麻王母は、無邪気な笑顔を見せながら扉を閉めた。

麻王は母から受け取った力を使い、なんとか立ち上がり、着替えを始める。

途中、鏡で自分の体を見ると体に小さく焦げ後が残り、手首には縛られた痣がくっきり残っていた。

「あっ…………。」

信じたくなかったことが、夢だと思ってたかったことが、現実で起きていたと確信してしまった。

その瞬間どうしようもない怒りや悲しみが麻王に襲い掛かった。

「ーーーーーーーーーーー!!!!!」

言葉にできない叫びを上げ、ボロボロのサンドバッグに向かい、自身の手から闇のエネルギーを収縮させた弾を怒り任せに発射させた。

しかし、サンドバッグは思ったよりも揺れることがなく、いつもならでる煤もまったくない。

「ああーーーーーーーーー!!!!!!!!」

麻王はサンドバッグから目を離し、後ろの壁にエネルギーを発射した。

小学校に入りたての頃、ふざけて発射したエネルギー弾が壁を破壊し大きな穴を開けた。

その際、こっぴどく怒られたため自重していたが、今はそんなこと気にしている余裕はなかった。

エネルギー弾は壁にあたりそして、“なにごともなかったかのように消滅してしまった”。

「………………………」

麻王は唖然として壁を見詰める。

力を自覚し始めた幼稚園生の頃のほうがよっぽどマシだった。

「……………………ッ!」

麻王は怒りに身を任せ、部屋の中の物へ次々と弾を発射する。

しかし、どれも着弾と同時に消滅してしまい、仕舞いには一昨日の夜に食べかけたクッキーさえも粉砕することができなかった。

麻王は発射体勢をとったまま動かない。

瞬きを繰り返し、ただひたすらに無意識に、現状への言い訳を考えた。

だが、考えれば考えるほど自分自身が小さく惨めに思えた。

「うわーーあーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」

一夜にして全てを奪われた麻王は過剰なストレスに圧迫され、自暴自棄になっていた。

両手から大量のエネルギー弾を部屋中に撒き散らす。

それでも、部屋の物にはなんの被害もない。

麻王はそれに耐えきれず目を瞑る。

暗闇の視界の中に昨日の出来事が走馬灯のように蘇る。

新しいクラスメイトの注目を浴び、有頂点になる自分。

ただの女の子に出し抜かれ、何もできない自分を見詰めるシニカルな笑み。

突然意識が遠のく。

膝から崩れ落ちその場へと倒れ、テーブルへ強く頭を打った。

その衝撃でコップに余ったジュースがこぼれ、粒子の漏れる手にかかったが、麻王はピクリとも動かなかった。

 

-数分後-

「デビルちゃーん!どうしたの〜?

はやく起きなさーい!」

麻王母が変わらぬハイテンションで部屋へと入る。

「…!

麻王!どうしたの!?」

麻王母は半裸でテーブルにうっぷして倒れ込む我が子の姿を確認すると、血相変えて急いで駆け寄った。 

「麻王!麻王!!」

麻王母は麻王の体を起こして肩を掴み、額に痣をつけ苦悶な表情を浮かべる我が子へ名前を呼び続けた。

しかし、麻王はうんともすんともいわない。

それを見て麻王母は麻王をベッドに座らし、胸へと闇の力を注入した。

「ん……うぅ………。」

麻王は一瞬で目を覚まし、辺りを見渡す。

怖い思いをした。不安で仕方なかった。

目の前にいる母に抱き着いて、泣きじゃくりたかったが、母の表情を見てその気持ちは薄れた。

「どうしたの!!?麻王!!

昨日何してたかわからないけど、力を失うなんて闇の人間として失格だからね!!!」

そういう麻王母の口調はかなり厳しく、心配ではなく怒りの感情が強かった。

「ゴメン…………あのさ、今日学校やすんでい……………」

「駄目に決まっているでしょッ!!」

麻王は今の状態で如月に逢うのは絶対に避けたいと思い、学校を休みたいと言おうとしたが、麻王母は威圧するように途中で遮った。

「いい、麻王!!

アンタがもし昨日学校で力を使い、今日欠席するっていうことは

力を使うのには凄い体力を使うっていう酷い誤解を招くことになるの!!

そうなるとアンタは全然凄い存在じゃなくなる!

なんで昨日、家の前で倒れていたかは知らないけど、学校を休むことだけは許しませんからね!!」

麻王母に、娘を欠席させる考えなど毛頭にない。

麻王の一家は世界征服を目論むために暗躍する組織の一員。

とある成果が認められ、この地域に派遣された名誉ある役割を持っているのだ。

だから、学校ごときに不安要素を出すことが許せなかった。

「ゴメン………でも、あたし…昨日…!」

麻王は昨日学校であったことを全て話して説得しようとしたが、無駄であるだろうと判断し、途中でやめた。

「………?昨日、なんなの!!?」

「ううん、なんでも……ない…。」

そしてなにより、力を失った自分など必要ないと思われるのが怖かった。

「そう。ったく、学校なんて苦痛じゃないわよね。息を吸うように、瞬きをするように、無意識下にできるくらいね。」

そういいながら麻王母は部屋を出た。

虚ろな目で見送った麻王はベッドから立ち上がり、散らかした部屋の中から服を探す。

許容範囲以上の闇の力を注入されたのか、体が重い。

服を見つけると目を瞑りながら着替えを済ませ、超能力エネルギーが纏わりついたランドセルを手に取った。

その瞬間、麻王の周りの空間が歪み一瞬で学校の近くの薄暗い路地裏までワープした。

 

「イッたぁ……。」

いつもならゴミ溜まりの間を華麗に着地できるが、今日は濡れたゴミ袋に引っ掛かり尻もちをついてしまう。

「うわ……」

体重がかかり潰れたゴミ袋の中から、生ゴミの汁が滲みだしズボンにかかった。

小豆色だったのでシミはあまり目立たないが、ズボンが濡れているというのはドジだということになり、みな対等に接してくるだろう。

そうなると自分の目指す完璧な支配者像が崩壊してしまう。

それを恐れた麻王は持っているハンカチで拭こうとしたが、逆にシミは広がり生ゴミの臭いがハンカチにもついてしまった。

麻王は腕を伸ばして超能力でシミ取りをしようとしたが、さっきのような力の弱体化を痛感するのが怖く、やめてしまった。

麻王は両手から闇の粒子を漏らしながら、ゆっくり立ち上がると

「いってきます………」

と小さく呟き、路地へとフラフラ歩き出した。

 

「よっ!臼倉!!

珍しいな、こんなギリギリな時間に。」

学校の門の前、黒木が無邪気な顔で、いつもと同じように歩く麻王の肩を叩いた。

「あっ、お……おぅ、おはよ……!」

「なんだ、寝不足か?顔色悪いぞ。」

黒木の純粋な一言に、麻王は思わず顔をそらした。

「そ、そうか…!別に普通だし…!!」

クラスメイトの前なので、自然とスイッチが入っているため、声は高くはならない。

「ふーん。てかなんかニオイしねぇ?」

「臭い…!?さ、さあ……。アタイにはわからねぇなあ…!」

「そう?なんかこう、なんていうんだろ生ゴミのような……………

臼倉…お前か?」

黒木にとっては冗談のつもりだったが、麻王は顔を真っ赤にし、怒気を込めて言い放つ。

「はぁ!?んなわけねぇだろ!!

アンタ、レディーに向かってそんなこと聞くとかマジあり得ねぇ…!!」

「おいおい、冗談だって…。そんなムキにならなくても……。

おっ!江口だ!!じゃっ、ゴメン!先行ってるね!」

「おぉ……じゃあ、教室で……!」

麻王は江口に駆けていく黒木を見送ると、粒子が漏れ出した手を握り、先に行った黒木の横を駆け抜けて校舎へと入っていった。

「あれ、黒木、さっきのって」

「うん、臼倉だよ。さっきまで一緒だったけど、急いでたのかな………。なんか悪いことしたなー。」

 

「くそッ!!!」

麻王は校舎の中に入ると靴も履き替えず、下駄箱近くのトイレへ一目散に駆け込んだ。

個室に入ると、粒子を抑えようと両手を壁に叩き付ける。

クラスメイトに不甲斐ない姿を見せた、やつあたりも込めて。

「止まれ!止まれよ!!」

麻王は可愛らしい声を荒げて叫ぶ。

路地裏から学校まで掌からずっと粒子が出続けていた。

黒木に声をかけられてときは我慢できたが、教室に入り、朝の会が終わるまで我慢ができる保証はない。

力を失ったことはクラスメイトにはまだバレてない。

だから皆の前では何事もなかったよう振る舞い、今まで通りの他人を凌駕する神童として扱われたいのだ。

「だねー。」

「うそー!」

トイレに入り数分、他の生徒が話しながら用を済ましに来た。

「はぁ……はぁ…………はぁ。」

麻王はその声を聞いて、少しだけ冷静になり無心になる。

超能力を使い、下駄箱の上履きと今履いている靴の位置を瞬時に入れ替え、ゆっくりと両手を壁から手を離す。

まだ粒子は収まらないが、光を当てなくては見えないくらい薄くなっていた。

「よし。」

麻王は覚悟を決め、何も溜まっていないトイレの水を流すと個室を出て、入念に手を洗ってから教室へと向かった。

 

「では、気を付けて帰るように」

「起立、気をつけ、礼」

『さよーなら!』

(ふぅ、終わったー……。)

結局この日はなにもないまま学校の一日が終わった。

麻王は自分の弱みを見せないように細心の注意を払ったことはもちろん、真友美が欠席し取り巻きの二人が何もしてこなかったのが大きかっただろう。

“力”の披露を迫られたときも、昨日ほどの“力”を見せず、来週へじらすことで事なきを得た。

双葉小学校のときもそうすることは多々あったので、怪しまれることもない。

麻王は荷物をランドセルに入れると、一目散にトイレに入り、深呼吸をした。

まだ焦りや怒りなどの感情は残っているが、今は一日耐え凌いだ安堵感が強かった。

 

麻王はあまり人と会いたくなかったので、超能力を使い家まで瞬間移動した。

「ただいま。」

仕事で誰もいない家に帰り玄関に鍵を締め、蝋燭に火を灯し、それを持って普段は入ってはいけないと言われる地下の大きな書庫へと忍び込んだ。

(なんとか調べなきゃ。

アイツが学校に来る前に、力の取り戻し方を調べるんだ。)

麻王は冊子のような薄い本から百科事典のような厚い本まで見落とすことなく、それらしい題名の本を探す。

(あたしが負けるなんて、あるはずない。

力を取り戻したら、今度は正面で、アイツの泣き面を拝んでやる…!)

だが、何百何千もある本のなかからは、目当ての本を見つけることはできなかった。

それも当然。

闇の人間は自己修復力が高く、怪我や病気などは一日経てば治ってしまうほど。

いまさら本に出すことなどない。

(くっ…!なんでだよ……!!)

麻王は悔しさでまた粒子が漏れ出しそうになった。

するとそのときだ。

上の階から電話の音が聞こえた。

「定期連絡か……。

ママとパパはいないのに。」

麻王は仕方なく書庫を後にし、蝋燭の火を消してリビングにある通信機に応えた。

大きな画面に司令室の一角に座る大柄の男性が映った。

「もしもし。」

『ん?なんだ麻王ちゃんか。

お母さんかお父さんはいるのか?』

「あぁ、マ……母さんと父さんは任務中です。

今日中には帰ってくるだろうから伝えときます。」

『そうか、ありがとうではまた』

「あっ…ちょっと待ってください。」

麻王は通信を切られそうになった瞬間、無意識に引き止めていた。

『ん?どうしたんだ?』

「あの、素朴な疑問なんです。

特に深い意味はないんですが……。

闇の人間が、闇の力を取られたらどうなるんですか?」

『闇の人間が力を………

ははは、子供は変なことを言うな。面白い。

そんなことする輩はいないし、そんなことされる馬鹿はいない。』

「………で………ですよねー……。」

『計画は上々なんだろ?

心配しなくとも、光の人間が俺達の存在を知っているのはごく一部のみだ。

その一部も俺達より格下の存在。力でねじ伏せればいいだけだ。』

「え………えぇ、そうですね。」

『………それじゃ、もう切るぞ。

よろしくな。』

「はい……さようなら。」

麻王は通信が切れても、画面の前にしばらく立ち竦んでいた。

なにかを得ようとしたのに、逆になにかを失ったような感覚だ。

8年前のあの日、具体的になにをやったかは覚えていないがみんなからチヤホヤされた。

神童だと崇められ、前例のない未成人での光の世界での任務を任され、期待以上の成果を見せた。

クラスでも常にみんなの先を行き、追い付こうとする者はいなかった。

だが、それらは全て過去の産物として消えてしまった。

もう昨日までの至福はない。

戻ることすらできない。

その事実を突き立てられた麻王はその日、空っぽの心のまま眠りについた。

 

-3日後-

麻王は朝一番、誰もいない新鮮な空気と眩しい朝日に包まれた教室に入った。

教科書や筆箱を取り出してから、ランドセルをロッカーに置き、椅子に座る。

筆箱から鉛筆と消しゴムを取り出し適当に転した。

(やっぱり……戻らないか。)

闇の人間は自己修復力が高く、一晩寝れば100%回復する。

麻王も昨日粒子を隠し続けた疲れは取れたが、一昨日取られた力は戻らなかった。

それを親に悟らせないように、今日は起きてすぐにまだ門が開いていない学校へワープした。

誰もいない教室で試したいこともあったから。

(よし………やろう……!)

麻王は手を強く握りしめ、椅子から立ち上がった。

そして、右腕を前に伸ばし左手で掴んで固定する。

右の掌にある放出器官に力を集中させ、念を教卓へと送った。

(できる、あたしなら……!

あたしの“付加属性”は“念”なんだ…!)

麻王は一生懸命、絞るように念を教卓に注入し、なんとか持ち上げようと腕をあげる。

だが、麻王の願いは届かず、教卓は持ち上がることがなければ、振動で揺れることさえなかった。

(なん……で………?

闇だけじゃない……念も………。

だって、だって……念はあたしの………)

麻王は目の前の現実を受け入れられず、力を解除しようとした。

そのときだ。

教卓が突然上へと持ち上がり、猛スピードで麻王の真横を飛んでいったのは。

「あらあら、不法侵入?

やっぱり人殺すと良いことと悪いこと分かんなくなっちゃうんだ?」

「え……?」

麻王は一番聞きたくない声の方向へゆっくり振り向く。

「これがあんたの力。

咲希姉はこの力で………」

そこにいたのは、シニカルな笑顔で麻王に歩み寄る如月だった。

手には闇の粒子と念のエネルギーが漏れ出している。

「まだ力は制御できてない……

だけど、今のあんたを殺すのは簡単なこと。」

麻王は少しずつ後ずさりしながら、机の上の鉛筆を震える手に隠し持った。

「けど殺すのは勿体無い。

殺すのは、苦しんで苦しんで苦しみまくって!自ら命を絶とうとするそのときから!」

「うわぁぁぁ!!」

麻王は言葉にならない叫びと同時に鉛筆を如月に投げる。

だが、如月は一切表情を変えず当たり前のように念の力で鉛筆を空中に止めた。

「フフ……。」

そして、不気味に笑うと固定した鉛筆を手に持ち麻王へと飛びかかった。

「えっ……!

クッ……ソォォッ!!」

力を失おうが、反射神経は衰えない。

麻王は掌にエネルギー弾を作り、如月へと発射する。

だが、弾は如月の体に触れると一瞬で蒸発してしまい、抵抗は無意味に終わってしまった。

「ぐわっ…!!」

如月は鉛筆を持った手を握り締め、麻王の胸へ突き付ける。

麻王は力に耐えきれず、後ろに仰け反り頭から床へと倒れ込んだ。

如月は覆いかぶさるように麻王の顔の真横へ、鉛筆を持つ手の逆の手を付き体重を支え、麻王の目の前に鉛筆をチラ付かせる。

「人にこんなもん投げちゃって、いいと思うの?

ダメだよね?」

麻王は如月の尋問になにも、答えられなかった。

答えられる精神状態ではなかった。

「あのさ、私、今すごく苛ついてるの。

だってあんたの服さ、とっても綺麗じゃん。

まるで洗濯したクローゼットの中の服を着てきたかのように。」

如月の顔は相変わらず笑っている。

だが、鉛筆を持つ手には筋が通り今にも折りそうな勢いだ。

「今のあんた、親は知ってんの?

知らないか。知ってたらもうとっくのとうに捨てられてるもんね。

もし知ってたら相当な馬鹿だよね。

それとも服屋さんから奪ったの?

万引き?そうか、万引きか!

惨めだね!」

如月は間髪入れずに喋り続け、勝手に話しを進める。

麻王は無駄だと承知の上で、否定をしようと口を開けようとした。

「喋るな………犯罪者。」

刹那、如月は鉛筆を麻王の前歯に押し付け、ドスの効いた声で麻王の耳元に囁く。

鉛筆の芯が折れ、どこかへ吹っ飛んだ。

そして鉛筆を投げ捨て、掌を麻王の顔へ向ける。

「怖い?怖いよね?

それが咲希姉の………いや、もう言わなくてもわかるね。

あんたが今受けている恐怖は、あんたが犯した罪への罰。

でもまだ甘い。

恐怖が全身を伝い、震えに震え、神経が壊れるほどじゃないと。」

如月の掌から闇のエネルギーが放出される。

麻王は恐怖と驚きでなにがなんだか分からなかった。

瞳孔を開き体を静かに震わすしかできなかった。

放たれた闇のエネルギーは麻王の眼前でバスケットボール程の球体となる。

ただの闇ではダメージを受けることはない。

しかし、放たれるのは光の人間の闇。

力を奪われ、さらに精神状態が悪い今の麻王がこれを食らえば、ただではすまない。

「やっぱり……怖いんだ。

よくわかってる。

あんたの力の強さ、光と闇の関係。

あんた自身がよく……知っている。」

如月は闇のエネルギーを消失させ、静かに立ち上がり、ゴミでも見るような目で麻王を見下ろす。

「じゃ、私忙しいの。

あなたの相手してる暇はない。

でも極悪人を放置するわけにはいかない。」

そう言い放ち教室の扉まで行くと、手から微弱な念波を発射する。

麻王は遊ばれた後に放置された人形のように、床に倒れたままなにもできなかった。

金縛りにあったかのように、全身がピクリとも動かない。

麻王は優雅に教室を去る如月の姿を見詰めたまま、手から粒子を漏らすしかなかった。

(なんで…………なんで……あたしが…。

あたしがオマエに……なにをしたっていうの…?)

窓の外から無邪気な子供の声が聞こえた。

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