この町で引き起こる一つの出会いの物語。
やんちゃ犬の石
小林家から少し離れた河原。
野々がいつものようにパチンコの練習をしていた。
左腕をピンと伸ばし、右手で腰のポシェットに入ってる小石を取り出して構える。
小石越しにゴムを引き、100メートル先にある空き缶に狙いを定める。
一瞬の静寂が過ぎた後、小さく呼吸してから右手を離した。
小石は矢のように飛んでいき、缶のど真ん中に命中。
その威力で宙を舞わせた。
「やった!カンペキ!!」
威力、精度ともに満足したのか、野々は満面の笑みで小さくガッツポーズをする。
すると、カサカサと遠くの方の草むらに何かの影が動いているのが見えた。
人見知りが激しい野々は、何かをする姿も他人に見られたくなかったので、一瞬固まった。
その後すぐに復活し、石を取り出し、パチンコを構えたまま、侵入者の正体をあばこうと、草むらへと歩みだす。
一歩一歩、ゆっくり慎重に、息を潜め気配を消す。
しかし、次の瞬間。
木の上に止まっていたカラスが鳴き声をあげ、飛んで行った。
それに驚いた野々は、小石を自分の正面--草むらの方に撃ってしまっていた。
それと同時に草むらの影が石の方に向かい、かなりのスピードで動き出し
「ワン!!」
という鳴き声と共に小型犬の子犬が、草むらから飛び出して、小石を口でキャッチした。
「えっ…!?」
野々は目の前に急に姿を現し、奇妙な行動をした子犬への困惑の感情を抑えきれない。
子犬は咥えた小石を野々の足元まで運び、誇らしげな表情で野々を見上げた。
「キャ、キャワワー!!」
野々は子犬の表情を見て、思わずメロメロになるが、ふと我に返りあたりを見渡す。
「飼い主さんは…………。いないか。
そうだ!首輪は!………ない……。」
探してみたが、この子犬に関しての情報は一切なかった。
自分では迷子か野良かの検討がつかないので、手のつけようがない。
「弱ったなー。なんか、変に懐かれちゃったし、このまま放って置くわけにも………
そうだ!適役いるじゃん!!」
そういうと、子犬に笑顔を向けながら、特製メガネを操作して、通話を始めた。
「そんで、連れて来たのか。」
「ええ、野々さんの言う通り、放っておく訳にはいきませんし、警官さんにも話したので保護目的として。」
「いいじゃん!カワイイから!!ねー」
「ワン!」
上から、直樹、亜美、野々、子犬の順に話す。
あの後、野々は亜美に通話して、現場に呼び、子犬のことを調べてもらい、結果、迷い犬で彷徨っていたら、河原に着いていたことが分かった。
そのため、一旦保護目的として、小林家に住まわせることにしたのだ。
「ねー!あみねぇ!遊び道具なかったっけ?」
「それなら、タンスの下の方に入ってますよ。」
「りょうかーい!いこ!ゴン太!!」
そういうと、野々は子犬--もといゴン太を連れて、子供部屋へと入っていった。
その嬉しそうな姿を見た亜美は、少し不安げな顔をして呟く。
「野々さん、大丈夫ですかね。勝手に名前までつけて……。保護となると……………」
「これも一つの経験だ。野々は乗り越えるべき場面に来た。それだけだ。」
「はい…。そうですね…。」
それは雲が空を覆い尽くす日のことだった。
「じゃあ、いってきまーす!!」
野々は、ゴン太をリードで繋ぎ散歩に出る。
「まだ、飼い主の報告はないんだよな。」
玄関の扉が閉まったと同時に、リビングの椅子に座る直樹が、キッチンで乃々実の皿洗いの手伝いをする亜美に聞いた。
「ええ。ですが、散歩に同行させてもらった際に、ゴン太さんはこの近所を歩き慣れているかのようでした。」
「なんか、あの犬みたことあるきがするんだよなー……。」
乃々実がふと呟くと、亜美は信じられないという表情で、乃々実の横顔を見た。
「え、いつですか!?」
「えーと、たしかねー……………」
野々とゴン太は河原に着き、最初にあったときの様に、パチンコで発射した小石を口でキャッチする遊びをしている。
いつもよりスピードは抑えるがゴン太は完全に反応して、キャッチする。そして必ず野々の足元へと持って帰って来てくれるのだ。
「おし!これ取れるかなー!!」
何回もやって楽しくなった野々は、普段よりちょっと力を込めてパチンコを引く。
「えい!!」
「ワォン!ワ…!?」
発射した小石は意外とはやく、いつも通りのスピードで咥えに来たゴン太の目の前を、通り過ぎていき、草むらを貫いた。
「ありゃ、やりすぎたかな…。」
「ワン!!」
ゴン太が、小石を追いかけようとすると、
「グルルルルルル…!!」
草むらから低い唸り声が聞こえたと思ったら、その声の主が姿を現した。
大きな犬が警戒心剥き出しで、脇腹に小さな痣をつけ、野々とゴン太の前に躍り出たのだ。
さっき、キャッチしそこねた小石があたったのだろう。
逃げ出さなくてはいけない状況なはずだが、野々は足がすくんで動けなくなっている。
「グルルル……ヴァン!!」
大きな犬は相手に戦意がないことを認めると、牙を剥き出しにし、ゴン太に襲いかかった。
ゴン太は持ち前の身体能力と小ささで、大きな犬の猛攻を躱すが、襲われるのも時間の問題。
野々はただ立ち尽くすことしかできない。
パチンコで攻撃しようとも、手足が震える。
そのとき、
「ワン!!!」
と、ゴン太が叫んだと思うと、草むらの中の小石を弾いて、野々の足元に転がした。
「ゴン太……!」
野々は、ゴン太を見つめた後、左手をギュッと握り、足元の小石をとって、構えた。
左腕をピンと伸ばし、右手で小石越しにゴムを引き、ある一つのポイントに狙いを定め、なんの迷いもなく放つ。
小石はまったく軌道をぶれずに飛んでいき、大きな犬の足元に数センチのクレーターを作り、着弾した。
「ヴァフ……!キャウキャウ!!」
大きな犬は攻撃に驚き、逃げ出して行った。
「ふぅ……。」
なんとか危機を脱し、野々は安心で一息つく。
ゴン太は、何事もなかったかのように、さっき撃った小石を野々の足元に運び、誇らしげな表情で見上げた。
そんなゴン太を見て、野々はゴン太をギュッと抱き締めて微笑み、優しく撫でた。
「ただいまー!!」「ワォン!!」
「おかえり!ののにおきゃくさんきてるよ!」
野々とゴン太が家に帰ると、乃々実が玄関まで迎えに来た。
「あたしに?」
野々はなぜか嫌な予感がし、ゴン太を少し強く胸に抱きながら、家に入った。
「ヘッ…!ワンワーン!!」
リビングに入るや否や、ゴン太は野々の腕をスルリと抜けて、椅子に座る見知らぬお姉さんのとこまで駆けて行った。
「コロ!やっぱりコロだわ!!」
お姉さんはゴン太--もとい“コロ”の姿を確認すると、笑顔でコロを撫で回す。コロもいままでにないくらい幸せそうな表情を見せる。
「きみが見つけてくれたの?ありがとう!」
お姉さんはコロを胸に抱き、立ち上がってから野々にお礼を言った。
「う…………うん。」
瞬間、野々は時が止まったかのようになった。
お礼の声、謙遜の仕草、誇る姉に笑う一同。
立ち尽くす野々の前で、ゆっくりと瞬間的に流れていった。
「野々さん…。」
「は…!」
亜美の声で、野々は我に返る。
心配そうに見つめる亜美を、潤んだ瞳で見上げた。
そしてグッと握り拳をつくると、深呼吸して作り笑いをすると、コロへ歩み寄る。
「よかったね……コロ…!飼い主さんが見つかって……!!」
そういいながら、いつもより深くゆっくりコロを撫でた。
そしてポシェットから石を取る。
「おねぇさん。これコロが好きな石です。」
「ありがとう、コロもきっと喜ぶよ!」
お姉さんは、野々から石を受け取ると野々にお礼をする。
そして荷物をもつと椅子から立ち上がり、小林家の皆にお礼をいってからコロを連れて帰っていった。
野々たちは玄関まで送りだしてから、リビングに戻った。
「あみねぇ…。ゴン太…。また会えるんだよね…。」
「……………なんともいえません…。」
「………そっか…。」
「……ただ、私は…………ゴン太さんから野々さんが大好きという思いを感じました。
野々さんも、ゴン太さんが大好きなら、いつかまた、絶対会えることができますよ!!!」
「あみねぇ………、ありがとう…!」
野々は子供部屋に入り、ベッドに横たわる。
(ゴン太…いや、コロ……ありがとう!またね!)
野々はコロとの再開を願って、パチンコを天井に掲げた。