ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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生き物係(全35話)
1話 明人と咲希


1年前──04/15(金)

 

「アッキー。おい。

アッキー」

 

「ん? あ、悪い」

 

5年生の新学期が始まり、2週間目の金曜日。

 

竹内明人は、左隣の席に座る親友の橋本真也に呼ばれ、ふと我に返った。

 

「なにボーッとしてんだよ。

金曜だし、ソッコー帰ってゲームしようぜ!」

 

「お……おう!

そうだな」

 

真也の帰りの催促に、明人はうわの空で応える。

 

「しん! アッキー! 帰ろうぜ!」

 

そこにもう一人の親友の浅井健太が、ランドセルを背負って、顔を出した。

 

「おう!

ほら。アッキーも行くぞ」

 

真也もランドセルを背負い立ち上がり、週末のため、体操服などが入った手提げかばんを持ち、明人が動くのを待つ。

 

「……ああ」

 

それでもまだ、明人はうわの空のまま、視線をまっすぐ保ったまま、ゆっくりゆっくりと帰りの支度をする。

 

「アッキー。おい。アッキー」

 

おかしな様子に、健太は明人の体を指で突く。

 

「………なに?」

 

明人はワンテンポ置いてから訊くが、健太の方を向かず、やはり視線はまっすぐ向いたままだった。

 

そんな様子に、健太は真也の方を見て、真也は肩を竦める。

 

ただ、二人の表情は困惑というより呆れに近かった。

 

「また始まったな」

 

「ああ。

今回はいつまで続くかな」

 

明人は、一度何かに熱中すると、抜け出せない性格だった。

 

今までも、何かと熱中し、頭の中もそのことだけになり、このように反応が鈍くなったり、うわの空になったりするのはしょっちゅうあること。

 

そのため、2人は“また面倒くさいのがはじまった”とだけで、特に思うことはなかった。

 

 

 

「うわあ!」

 

一方、明人の2つ前の席に座る早苗咲希が、ランドセルに荷物を入れてる途中で、筆箱を机から落とし、中の鉛筆や消しゴムをひどくばら撒いてしまった。

 

真也と健太は場所が少し遠いために、拾いにはいかず、“こういうときのアッキーは誰かが派手に筆箱落としても気付かないだろうな”と思っていた。

 

だが、その二人の予想は見事に外れた。

 

明人は誰よりも早く席を立ち、落ちた鉛筆や消しゴムを広い集め始めた。

 

そして、周りの落とし物を拾おうとした席の人が、萎縮する位の激しい勢いで広い集め、5秒も立たないうちに全て拾い集めてしまった。

 

「早苗さん。

どうぞ」

 

「全部拾ってくれたんだ! 竹内さん!

ありがとう!!」

 

咲希は明人から筆箱とその中身を受け取ると、素直なとびっきりの笑顔で返した。

 

「……おう」

 

明人は少し顔を赤らませながら、素っ気なく言い自分の席に戻っていく。

 

「しん。アッキー……もしかして」

 

「ああ。そのもしかしてかもな」

 

健太と真也は明人が戻る間に、コソコソと予想を確認し合った。

 

「おまえら。帰るぞ」

 

明人は平静を装った風な顔で、ランドセルを勢いよく背負い、手提げかばんを持って、歩き始めた。

 

「ほいほい」

 

「帰るぞ……だって」

 

二人はクスクスと笑いながら、明人の後ろについていく。

 

 

 

「よいしょ! それじゃ、明里ちゃん!!

バイバイ!!」

 

「うん! バイバイ!!」

 

身支度が終わり、ランドセルを背負った咲希は、隣に座る上田明里に手を振る。

 

「百合ちゃーん!!」

 

そして、親友の不来方百合のところまで駆け付けた。

 

「百合ちゃん!

帰ろ!」

 

咲希は帰ろうと声を掛けるが、百合は廊下の方を見たまま反応がなかった。

 

「………? 百合ちゃん?」

 

咲希がポンポンと百合の肩を叩くと、ようやく反応を見せた。

 

「……え。あ、ごめん。さっち。

今準備……あ、さっち。

手提げ。忘れてるよ」

 

「あ……!

ほんとだ! ありがと!!

百合ちゃん!!」

 

咲希はさっき明人に見せたようなとびっきりの笑顔を見せると、走って自分の机のフックにかかる手提げかばんを取りに行った。

 

「さっちー!!

危ないから教室は走らない!」

 

「はーい!

お待たせ!!」

 

咲希は百合の注意に返事をしながら、また走って戻ってきた。

 

「だから走らない。

帰ろ。今日もお花畑寄ってく?」

 

「うん!!

花飾りつくろう!!」

 

「うん!

いいね!」

 

咲希はとても明るく元気で子供っぽく、可愛げのある子だ。

 

その親友である百合は、そんな自由奔放な咲希のお目付け役のような存在で、とても優しい性格をしている。

 

二人は手を繫いで横に並び、そのまま教室から出た。

 

 

 

 

 

「なあ、お前が訊けよ」

 

「いや、そういうのはあっさーの役目だろ」

 

明人達3人の帰り道。

 

時折何かを思い出しては、小さく笑みを浮かべる明人をよそに、健太と真也の2人は予想の答え合わせをしようとするが、どっちが言い出すか揉めている。

 

「えー。これはしんの役目だろ」

 

「は? 最初に言い出したのはあっさーだろ?」

 

「でも、しんだって、そうじゃん。

オレが言い出さなくても、しんが先に言ってたね。

後出しジャンケンだよ」

 

「そんな証拠どこにあるんだよ?」

 

「オレののうみそですー!」

 

「………ああ、分かった。

じゃ、2人で訊こう」

 

「ったく、しょーがねーなー。

裏切んなよ」

 

「おうよ。

………なあ、アッキー」

 

明人は突然名前を呼ばれたのに驚いたのか、体をビクリとさせた。

 

「おう。なんだ?」

 

上がった口角を下げようとして、変な形になった顔を2人に向けた。

 

その顔に2人は吹き出しそうになったが、耐え、お互い目で合図し

 

「アッキーって早苗の事好きだろ?」

 

と健太だけが言った。

 

「え……ッ!?」

 

「お前! 裏切ったな!!」

 

赤面する明人をよそに、健太は、一緒に訊くと言って裏切った真也をどついた。

 

「違いますー。

俺は明人の事呼んだから分担作業ですー。

裏切ってませーん…!」

 

真也は健太に顔を近付け、煽り口調で言う。

 

「はあ?お前マジふざけんなよ。

……で!? アッキー…どうなんだよ…!?」

 

健太は言い方にイライラしながら、八つ当たりするように明人に訊いた。

 

「え……いや。

はあ…!?」

 

明人はすこし困惑した後、逆ギレするように声を上げた。

 

「はあ…!? そんなことあるかよ…!?

なんで俺が、早苗さんのこ……と……………

早苗………いい名前……」

 

途中まで声を上げていたが、“早苗”と行った瞬間、遠い目をし、儚げな声で呟いた。

 

「………しん」

 

「何?」

 

「確定だな」

 

「そうだな」

 

その様子から、2人は“明人が咲希の事が好き”という予想が的中したことを確信した。

 

「早苗かー。

アイツ可愛いしな」

 

「いや。でも、やめたほうがいいんじゃないか?」

 

ノリノリな健太に対し、真也はどこか気まずそうな顔をする。

 

「なんでだよー。

………あ、あれってもしかして早苗では…!?」

 

健太はニヤリと笑った後に、後ろを振り向いて叫んだ。

 

「え…!?」

 

明人は急いで後ろを振り返り、咲希の姿を探すが、どこにも見当たらない。

 

「ははははは!!

面白い! 引っかかってやんのー!」

 

健太は嘘に引っ掛かった明人が面白くてたまらず、指を差しながらゲラゲラ笑う。

 

「……あっさー。お前」

 

明人は騙されたことに気付くと、怒りの目を向けて健太に近付こうとする。

 

「わりいわりい。

……あ! 早苗!!」

 

「え!?」

 

健太は今度は真っ直ぐ指差し叫び、明人は反射的にその方へ向く。

 

「はははは!!!」

 

しかし、これもまた嘘で誰もいない。

 

「あっさー…!!」

 

「はは……わりい。

……あ!! 早苗!!」

 

「え!?」

 

今度は上に指差しながら言うと、明人はなんの疑いもなく上を見上げた。

 

「ははは!!

バーカバーカ!!

しんー! アッキー! じゃーな!!」

 

“早苗”と言えば馬鹿正直に見てくれる明人を馬鹿にしつつ、そろそろ煽り過ぎて不味いと思ったのか、健太は明人が上を向いている隙に走って逃げていった。

 

「あ…!! あっさー…!!

てめーこの。明日覚えてろよ!!」

 

「ざんねーん! 明日は休みでーす!!

一人だけ登校してくださーい!!」

 

「………あっさー……アイツ……」

 

「……アッキー。

ちょっと良い?」

 

健太に誂われたことに腹が立つ明人に対し、真也は言いづらそうに声を掛けた。

 

「……ん? 何?」

 

「月曜さ。係決めあるでしょ」

 

「……え?

そうなの?」

 

「……今日、はかちゃん言ってたでしょ?」

 

真也は呆れがちに言うと、手を前に出して、歩き出そうと合図した。

 

それに気付いたか、明人は歩き始め、真也もそれに続く。

 

「ああ……そう。

わりい。聞いてなかった」

 

「うん。言ってたの。

それでさ。ちょっと言っときたい事があってさ」

 

「なんだよ? 改まって。

今年は一緒の係やるんだろ?

なにやる? あ。でも今年担任、はかちゃんだから面白そうなのはねえかな……」

 

「いやまあ、それならいいんだけどさ。

俺から言っとく」

 

真也はそう言うと、ワンテンポ置いて口を開いた。

 

「生き物係はオススメしない」

 

「は? なんで?

ていうか、生き物係なら………」

 

明人は言っている最中、昨年の生き物係のメンバーを思い出した。

 

4年生のとき、生き物係は3人おり、一人は不来方百合、そして残りの2人は咲希と真也だった。

 

「待てよ! なんで、オススメしねえんだよ!

寧ろ、近付けるチャンスじゃねえか…!?」

 

「…もう認めるんだ……。

………そーじゃなくてな。そんな生半可な気持ちで行くとこじゃねえんだよ」

 

「は…!? どういうことだ…?

てか、しん。お前、昨年殆ど係仕事やってなかっただろ」

 

「ああそうだよ。

だからやんないほうがいい。

あそこは恐ろしすぎる。

だからアッキー。俺と同じ係になろうな」

 

真也はそう言うと、明人の肩に手を置いた。

 

明人は釈然としない顔でその手を下ろさせる。

 

「はいはい。

考えとくわ」

 

健太のように煽る様子もなく、真剣な顔で言われたため、面倒くさくなり明人は適当に返事した。

 

「うん。頼むわ。

そんじゃ、3時半俺んちな!」

 

「おう! 後でな!!」

 

ちょうど互いの道が分かれるところに来たため、約束の時間を確認し、挨拶を交わすと2人は別れていった。

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