04/18(月)
週が開けた月曜日。
「それでは。
先週伝えたとおり、係り決めをしたいと思います」
担任の袴田先生が、横一列に一通り係とその人数を書き、紙とペンが置かれた教卓の前に立って生徒に呼び掛ける。
「みんな決まってますか?
とりあえず、順番に言っていくので、やりたい係に手を挙げてください」
『はーい!』
クラスの皆は銘々に、自分がやりたい係を待ったり、何をやるか悩んだり、近くの仲良い子と何したいかの最終確認をし合っている。
「アッキー。いいか。
昨日言った通り、黒板係やろうな」
「……ああ」
真也も身を乗り出し明人の耳元に囁くが、明人はあまり乗り気でない。
金曜の放課後、ゲームしながら一番楽そうなものとして、黒板&窓係として2人の意見が纏まり、今日登校してから、健太にもオッケーを貰ったところまでよかった。
だが、咲希が無邪気な顔で教室に入り、おはようと笑顔で言ったときに、明人の心は揺らぎ始めていた。
(生き物係やれば、早苗さんと一緒に………
でも、しんとあっさーと約束しちまったし………)
「じゃあ、最初にクラス係」
答えが決まらぬまま、遂に係決めの読み上げが始まってしまった。
「飛鳥さんと、和田さんね。
……それじゃ、掲示&配達係」
袴田先生は右から順に読み上げている。
全7個ある係は、生き物係は右から4番目。
そして、黒板&窓係はその次の右から5番目だった。
(……生き物係で手を挙げたら、早苗さんと。
手を挙げなかったら、アイツらと。
……友情と…早苗さん……。
取るのは………)
「はーい。
それじゃ……生き物係!」
明人が考えている間、いつの間に生き物係の番になっていた。
「はいはいはーい!!」
咲希は待ってましたとばかりに、勢いよく手を挙げ、座りながら体を上下に揺らして主張する。
その様子を見て、百合も微笑みながら手を挙げた。
「はい。
それじゃ、早苗さんと不来方さん……。
あと一人空いてますが、誰かいませんかー?」
生き物係は定員が3人で、あと1人空いているため、もう1人志望者がいないか、袴田先生は呼び掛ける。
(う……誰もいないのかよ。)
明人は情に厚いところもあるため、係は親友と一緒にやろうとついさっき決意したところに、こうして枠が余ったことに、半分喜び半分恨んだ。
明人は急に緊張状態になる。
(待てよ……これは………。
これは何かの、運命なんじゃ。
………そうだ、アイツらとはいつでも遊べるけど……
早苗さんと関われるのは…今は殆どこれしかない…!)
明人はこれを運命として受け入れ、簡単に諦めてはいけないという天啓に思えた。
そして、気付いた時には
「はい。
俺、やります」
ピシッと真っ直ぐ、手を挙げていた。
「お! それじゃあ、竹内さん。
宜しくお願いします」
袴田先生は挙手してくれたことに少し嬉しそうな表情をすると、生き物係のところに“竹内”と書いた。
明人はそれを見て、咲希と同じ係に入れたのだと実感が湧き、嬉しくなっていた。
「……信じらんねえ…。
どうなっても知らねえぞ」
隣では、真也が不満をたらしながら、次に呼ばれた黒板&窓係に手を挙げる。
そして、健太と顔を合わせると健太も首を傾げ不満そうにしていた。
「それでは、これから係の皆で集まって、ポスターを書いてもらいます」
一通り係決めが終わると、余った時間はポスター制作をすることになった。
「もう5年目ですし、仲の良い人達でまとまっているところもありますけど、これから1年間同じ係として頑張る仲間として、親交を深めてほしいと思ってます。
とりあえず、係の名前と自分たちの名前。それから、何をやるかを書いていればいいです。
凝っても良いですが、時間はこの授業の時間でしか取らないので、なるべくここで完成できるようにしてください。
それでは、係に一つずつ、紙とペンを取ってってください」
袴田先生の合図を拍子に、クラスの皆はそれぞれ立ち上がり、どこに集まるか、誰が物を取りに行くかを決める。
「アッキー。
お前……俺は言ったからな」
真也は明人に半分不満、半分同情気味に言う。
「あ…うん。
わりい」
「百合ちゃーん! 竹内さん!
持ってきたよー!!」
明人は思い切った行動に、なにか言い訳しようとしたが、咲希が無邪気にこちらに近付いてくる声を聞き、完全に意識はそっちに持っていかれた。
「さっち。ありがとう」
「ありがとう。早苗さん」
「うん!!」
「………とにかく。どうなっても知らねえからな」
真也はそう言うと健太の席へ向かっていった。
「おう」
明人は振り向くこともなく、から返事するだけだった。
「竹内さん、ずっとおんなじクラスだったけど、同じ係になるの始めてだね!
よろしくね!!」
咲希は顔を近付け、無邪気にそう言う。
「え……あぁ、うん。
よろしく」
明人は間近で見る、好きな人の笑顔にどぎまぎしてしまい、赤面してしまう。
「……?
竹内さん、顔赤いよ?
大丈夫? お熱ある?」
咲希は純粋な目でそう訊きながら、明人のおでこを触ろうと手を伸ばす。
「え……!?
あ、いや! 大丈夫!!
心配しないで! 元気元気!!」
明人は咲希に触れる心の準備ができておらず、思わず手を避けてしまい、誤魔化すために、その場で跳ねたり腕を回したりしてみせた。
「そっかー。ならよかった!
あ、百合ちゃんごめん。わたしもなにかやるー!」
咲希は素直に明人の言葉を受けると、百合がすでに制作に取り組んでいたことに気付き、急いで参加した。
(……か………かわいい…。)
明人は小学校に入ってから、咲希とずっと同じクラスだった。
咲希の性格は1年生の頃から殆ど変わらず、無邪気で天真爛漫な子だった。
明人は今まで、ただただ可愛らしい性格しているなとだけ思っていたが、同じ教室で過ごし可愛らしい仕草や表情を見ているうちに、自分が彼女の虜になっていることを自覚した。
そして、自覚してしまった分余計に意識してしまい、尚更恋心が止まらなかった。
「さっちはお花描いてて。私は文字書くから」
「分かったー!!」
「………あ、わりい。
不来方さん。俺も何か」
明人は2人の会話で我に返り、やることがないか質問する。
「ん?
ああ、えっと……竹内さん?
そう……特にないからいいかな」
百合は作業の手を止めず、下を向きながら言う。
「え…!? ちょ、それじゃあ俺、サボりみたいなものじゃん…!」
明人のツッコミに、百合は手を止めため息なようなものを吐いたら、ようやく顔を上げた。
「ごめんね。そうは言ってないよ。
言い方悪かったね」
百合が明らかな作り笑いをしながらそう言ってると
「ねー! 百合ちゃん!!
ここのお花、赤と緑どっちがいいかなー?」
咲希がペンを両手に持って、百合に訊いてきた。
百合は自然な笑顔になって、咲希と顔を合わせた。
「ん? そうだね……さっちはどっちがいいと思う?」
「えーっと……百合ちゃんが好きな緑!!」
「じゃあ、緑にしよっか!」
「うん!!」
咲希は緑のペンで花びらに色を塗っていく。
それを微笑みながら見ていた百合は、明人と話していたことを思い出すと、また作り笑いで明人を見た。
「ごめんね。それで……えっと……
あ、そうだ。竹内さんの下の名前分からないから、名前が分かるもの持ってる?」
「名前? あ……えっと、これでいい?」
明人は筆箱の中にある名前が書かれた定規を出して、百合に見せた。
「うん。“明ける”に……“人”ね。
ありがとう」
「ねえ、百合ちゃん」
「なに? さっち」
「ここに書くの、ヒマワリとコスモスどっちがいいかなー?」
「えー? 難しいなあ」
「そっかー。
………あ! じゃあ、竹内さんはどっちがいい!?」
「え…!? 俺!?」
「うん!!」
「え……えっと……そうだな」
突然咲希に話を振られ、明人は驚く。
(え……ちょっ………どっちが良いって………俺、花とかよく分かんねえよ…!)
明人はせっかく頼ってくれたのだから、失敗する訳にはいかないと考える。
むしろ、先に百合が答えてくれれば穏便に済むとは思ったが、百合はなにかを花の形の小さなメモ帳に書きながら、度々少し怖い目でこちらを見るだけだった。
「え……えっと……。(ヒマワリとコスモス…。
あれ…。コスモスって何だっけ…?)
………えー。
ヒマワリが……良いんじゃない?」
「ヒマワリ!!
うん! わたしもヒマワリがいいかなーって思ってたんだー!」
咲希は明人の答えを受け、嬉しそうに黄色いペンを取って、デフォルト調のヒマワリの絵を描き始める。
「ありがとう! 竹内さん!!」
「お………おう…!
(よかったー。セーフ…!)」
明人は間違った選択をしなかったことに安堵する。
そこに、百合がメモ書きを明人の前に差し出した。
「竹内さん。はい。
これ、目を通しておいて」
「何これ?」
「読めば分かるよ」
「……おう」