ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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3話 生き物係

「てことだから悪い。

今日は一緒に帰れねえ」

 

「はいはい。

じゃ、生き物係がんばって」

 

放課後。

 

手を合わせながら謝る明人に、真也は呆れながら棒読みで返した。

 

あの後、タイミングを失った明人は、約束したにも関わらず別の係に入ったことを、ちゃんと謝ることができず、真也となんとなく気まずい雰囲気なままだった。

 

「じゃ、行ってくるわ。

じゃあな」

 

明人はその空気に耐えかねて、ランドセルを背負い、足早に教室を出て行った。

 

「おうよ」

 

真也は不機嫌そうに返すと、ランドセルを背負い、健太のところに行った。

 

「あっさー。帰ろうぜ」

 

「おう。………あれ、アッキーは?」

 

「早速、係活動だってよ。

ったく……金曜のとき、散々やめとけって言ってやったのに…!」

 

「おっ…! 橋本真也さん。もしかして、アッキーを女に奪われて嫉妬ですか?」

 

「違わい! とにかく、生き物係はやばいんだって…!」

 

「ふーん。お前、昨年もそんなこと言ってたけど、何あったんだよ? いい加減教えてくれてもいいだろ?」

 

「………無理。

思い出しただけでも恐ろしい……」

 

 

 

 

「あっ!

おーい!! 竹内さーん!!!」

 

明人は、校庭の脇にある花壇に行くと、咲希が手を振って待っていた。

 

隣には百合もいる。

 

百合から渡されたメモ書きは、“今日の放課後に花壇の手入れをするからサボらず来てね”というものだった。

 

そのため明人は、今日は親友の2人とは帰らず、1人校庭に向かったのだ。

 

「お待たせ」

 

「うん!!

ね! 百合ちゃん!

ちゃんと来たでしょ?」

 

「そうだね。

あ、ランドセルあそこに置いて」

 

百合は防球ネットの支柱のところを指差す。

 

「お…おう。

分かった」

 

明人はランドセルを下ろし、2人のランドセル……の内、少し咲希のに近付けて置いた。

 

「………よし。それじゃ。早速始めようか」

 

百合は睨むような目付きで、それを見たあと咲希に自然な笑顔を向けながら、手を合わせて言った。

 

「うん!!」

 

「さっちは雑草とか枯れちゃったお花とか、抜いてくれる?」

 

「うん! 分かった!!」

 

「はい、これ使って」

 

百合はそう言うとポケットからビニール袋を取り出し、その中から軍手を出した。

 

そして、両手で優しく咲希に渡す。

 

「ありがとう!!」

 

「うん。今日はそれ使っていいよ。

私達の分は借りてくるから」

 

「うん! ありがとう!!」

 

咲希は笑顔でお礼を言うと、早速百合に任された仕事に、着手し始めた。

 

(かわいいな……)

 

明人は、咲希の相変わらずの無邪気さと母子のような会話を、微笑ましく思いながら見ていた。

 

「竹内さん。

……おーい。竹内さん」

 

「………あ、ごめん!

不来方さん! 何…?」

 

そのためか、ボーッとしてしまい、百合の呼び掛けに気付くのが遅れていた。

 

百合は一瞬、睨むような目付きをしたあと、すぐにまた作り笑いをした。

 

「………私達は軍手借りに行くのと、あと、新しく植える種を貰いに行きましょ」

 

百合はそう言うと、そそくさと歩き始めた。

 

「お……おう」

 

明人は、“咲希と一緒に行動したかったな”と思いつつ、百合に付いて行った。

 

「いってらっしゃーい!!」

 

咲希は手を振って見送り、百合も振り返って手を振り返した。

 

 

 

2人になった明人と百合は無言のまま1分歩いた。

 

お互い、今まで同じクラスになることはあったが、深い親交があった訳ではなかったため、少し気まずかった。

 

「………あ、そういえば、よろしく言ってなかったな。

よろしく。不来方さん」

 

明人は無言のままでいるのが耐えられず、百合に話し掛けた。

 

「うん。よろしく」

 

百合は前を向いたまま、それだけしか言わない。

 

「あ……えっと、不来方さんって珍しい苗字だな。

俺、最初どう読むんだろって思ったよ」

 

薄い反応に更に気まずくなり、明人は無理矢理にでも話を続けようとしたが、

 

「うん」

 

やはり反応が薄く、明人も話し続けるのを諦めた。

 

(大人しい人だな……。)

 

 

 

 

 

しばらくすると、校舎裏の倉庫まで辿り着いた。

 

百合は扉を開けようとするが、鍵が掛けられており固く閉ざされて開かない。

 

百合は横目で明人を見ると

 

「……竹内さん。

私、鍵取ってくるから、あそこから軍手探してくれる?」

 

と倉庫の隣に、ポツンと置かれた小さな用具入れを指差した。

 

「ん……あ、いいぜ」

 

「ありがとう」

 

百合はそう言うと、小走りで昇降口の方へ走って行った。

 

(……さて、軍手か………。)

 

明人は倉庫の隣に置かれた用具入れを開け、軍手を探し始めた。

 

(軍手……軍手………。

……あった。)

 

明人は適当に用具入れの中を探し、軍手を2セット見付けた。

 

扉のところに、物の持ち出し表がぶら下がっていたので、そこに今日の日付と自分の名前、軍手二つと書いて、百合が帰るのを待った。

 

(………そういえば、早苗さんって彼氏いるのかな。)

 

倉庫の前を適当にウロウロし、その間、ふと疑問が湧いた。

 

(あんなにカワイイ人だから、いてもおかしくない気が………。

でも、あまり男子といるところ見たことないな。

呼び方も女子相手だと名前にちゃん付けだけど、男子は苗字にさん付けだし……。

うーん。早苗さんはどこら辺に住んでるんだろう?

兄弟はいるのかな? 好きな食べ物は? 休日は何を?

好きなゲームは? 好きなタイプは? 好きな

 

「竹内さん…!」

 

明人が色々と考えていると、百合が明人の耳元で、出し慣れてなさそうな大声を出していた。

 

「………!

あれ、不来方さん?」

 

明人は驚くと同時に我に返った。

 

「“あれ”……じゃない。

何度呼んでも気付かないから。

……鍵貰ってきたから、荷物持ちお願いね」

 

「………はいはい」

 

明人はなんだか邪魔されたような気分になり、ちょっと不機嫌になりながら、百合と倉庫に入っていった。

 

「へえ……倉庫の中ってこうなってたんだ」

 

明人は倉庫に入るのが初めてで、感心しながら見ていた。

 

「初めて?

なら、キョロキョロするのは仕方ないけど、足元気を付けて」

 

「ん? あっ! と……危ね」

 

明人は注意を受けた瞬間、床に倒れていた、外で使う大きなちりとりの持ち手に転びそうになった。

 

「……気を付けてよ」

 

「わりいわりい。

不来方さんって、細かいところよく気付くよな」

 

「………さっちがよくそういうので転んでケガするから」

 

「……へえ。

(本当に、母と子みたいだな。)

不来方さんと早苗さんって仲良いよね」

 

「……ねえ。

竹内さんって、好きな花とかある?」

 

百合は明人の言葉を無視し、そう言うと、立ち止まってしゃがみ、“花の種”とラベルが付いた引き出しを開けて花の種の袋を吟味し始めた。

 

相変わらず顔は合わせない。

 

「え…?

……なんで、急に?」

 

「いいでしょ。

さっきまで竹内さんだけ質問してたし」

 

「えー……………っと」

 

明人は質問の答えに行き詰る。

 

熱中しやすい性格なため、興味をもったものにはとことん打ち込んで来たが、それ以外のことはとことん関心がなく、花の種類なんて殆ど知らなかった。

 

それに、親友2人の噂話程度の情報だが、不来方百合は植物オタクらしく、下手なことを言えば嫌われ兼ねない。

 

明人は、関係ない誰かに嫌われるのは百歩譲ってよいとして、好きな人の友人に嫌われるのはあまり良いことではないと思った。

 

「あっと……えー。

あっ!! そう、あれだ!

ヒマワリ!!」

 

明人はポスター制作のときを思い出し、咄嗟にヒマワリと答えた。

 

「ふーん」

 

(………あれ?)

 

明人は必死こいて考えた割に、反応が薄かったため肩透かしをくらった気分になった。

 

それと同時に、気に障ることを言うのを避けられたと思った。

 

その瞬間

 

「じゃあさ。

花は好き?」

 

と、百合が引き続き、種に首っ引きで訊いて来た。

 

「え? あ、まあ」

 

「……生き物は好き?」

 

「え……ええと」

 

「じゃあ何が好き?」

 

「え…?」

 

百合の種の袋を集めながら一切こちらを向かない質問攻めに、明人は答えられない。

 

明人はなぜだか恐怖していた。

 

明人は百合のことをよく知らないなりに、優しくて大人しい人だと評価していた。

 

だが、今の彼女はどこか雰囲気が違うように感じる。

 

薄暗く初めて入る場所だから、ビビっているのではと彼自身一瞬思ったが、そんな事で臆するほど彼は臆病ではない。

 

「竹内さん」

 

百合はそう言うと立ち上がり、明人と向き合う。

 

そして、チューリップの写真があるパッケージを見せた。

 

「お……おう」

 

「黄色いチューリップと赤いチューリップ……

どっちがいい?」

 

今度は真っ直ぐ明人の目を見ながら質問する。

 

「え………あぁ……。

赤……かな?」

 

明人はその目力に圧倒されつつも、とりあえず自分が好きな色である赤を選んだ。

 

百合は明人が答えた後もしばらく見詰め続けたが、しばらくすると目を逸らし

 

「あっそ……」

 

と、がっかりしたような声を出しながら、また明人に明人に背を向け、種を選び始めた。

 

(こわ………何、コイツ?)

 

明人は百合の威圧を不気味に思っていると

 

「竹内さん。

花言葉って知ってる?」

 

と、また背中を向けながら訊いて来た。

 

「え…? ああ、あるって事はな」

 

「へー。

……花言葉って1つの花に1つってわけじゃないってのは知ってる?」

 

「え? どういうこと?」

 

「………例えば、クローバーは幸運の意味もあるけど、復讐っていう意味もある」

 

「へ……へぇ…」

 

「それに色ごとにも違うし、本数でもかわることがある。海外でもまた違った花言葉があるものもあるんだよ」

 

「はあ……」

 

明人は、意外と深い花言葉になんとなく関心していた。

 

「ま。竹内さんには関係ないか」

 

百合は小さく呟くと、チューリップの球根が入った袋を引き出しに戻した。

 

「あれ、それは植えないの?」

 

明人は下手なことは言いたくなかったが、咲希に近付くためになんとかして仲良くなろうと、素朴な質問をした。

 

「………チューリップは…咲くのは春だけど、植えるのは秋から冬。

そんなことも知らないの?」

 

百合は、他に集めた種の袋を、ズボンのポケットにしまいながら、呆れたように言った。

 

「あ。そうなんだ。

わりい

(じゃあ、なんで出したんだよ)」

 

明人は、ここで知ったかぶりしても、墓穴を掘るだけだと思い、素直に謝っていた。

 

百合は睨むように明人を見たあと、別の物置棚に移動し。

 

「……今日植えるのは、マリーゴールドとコスモス」

 

と言いながら、ジョウロを2つ取った。

 

「あ、じゃあ、それ俺持つよ」

 

明人は1つ持とうと声を掛けると

 

「そういえば……ヒマワリもこの時期だったかなー」

 

と百合は言いながら、サッとジョウロを上にあげ、明人から離した。

 

「え?」

 

「“え”じゃなくてヒマワリ。

好きなんでしょ? 竹内さん」

 

「えーー……あーー。

おう…! 好きだぞ…!」

 

「確かさっきの戸棚にあった気がするなー……。

植えたいなら探してみたら?」

 

「え? いい……のか?」

 

「うん。基本的にクラスの花壇の管理は、生き物係に任せられてる。

袴田先生からも、私なら全部任せて大丈夫って、太鼓判押されてるから」

 

「あ……そっか。じゃあ、せっかくだから」

 

明人はせっかくと思い、種が入っている引き出しに向かった。

 

これを機に、咲希にヒマワリ好きをアピールできるという算段もあった。

 

(よし……どこだー。ヒマワリの種……)

 

良いパスを受け取ったと、明人は含み笑いしながら、引き出しを開けて種を探す。

 

百合はその様子を見ながら、必要な物を取り揃えていく。

 

「(うーん……ないな。)

不来方さん…! 本当にあ」

 

“本当にあった?”と顔を上げて訊こうとしたとき

 

「………え?

不来方さん…?」

 

百合がすでに外に出て、倉庫の扉を閉めようとしていた。

 

「ちょっ! 不来方!!」

 

明人は急いで扉まで走り、閉められる前に出ようとしたが、気付くのが遅く、扉は完全に閉められてしまった。

 

「俺まだいるって! 不来方さん!!」

 

明人は内側から開けようとするが、扉は固く開かない。

 

「(嘘……マジかよ…!?

鍵掛けたのか…!?)

不来方さん!! 開けて!! 俺まだいるって!!」

 

鍵が掛けられていたのに気付くと、明人は扉を強く叩き、外にいるであろう百合に叫ぶ。

 

「うるさいな。

いることくらい分かってるよ」

 

しばらくすると外から小さく、百合の面倒臭そうな声が聞こえてきた。

 

「…! 不来方さん…!!

ねえ! 開けて!! 鍵閉まってるみたいだから!!」

 

「問題です。

ヒマワリの花言葉はなんでしょう?」

 

百合は明人の懇願を無視し、冷静な声で問題を出した。

 

「………は?」

 

明人は唖然とする。

 

一瞬、状況が理解できなくなったが、次第に把握でき、そして段々腹が立っていた。

 

「不来方さん……!!

お前わざとだろ!! なにが狙いなんだよ!!」

 

明人は扉を力一杯殴りながら叫ぶ。

 

「ぶぶー。ハズレ」

 

百合はそれに臆することなく、飄々とした態度でいる。

 

「ふざけんなよ! いいから出せ!!」

 

「ぶぶー。違います」

 

「だからクイズなんか出してないで出せよ!!」

 

「ぶっぶー。不正解。

正解は、“あなただけを見つめてる”でしたー」

 

「それが何だって言うんだよ!!」

 

明人がそう叫んだ瞬間

 

百合は扉を思い切り蹴り、倉庫内に鈍い音を響かせた。

 

明人は思わず後退ってしまう。

 

「あなただけを見つめてる。

一体誰を見てるんだろ?」

 

しばらくすると、百合の落ち着いた…それでいて、とても冷たい声が聞こえた。

 

「私知ってるんだよ。

あなたが最近、さっちのことをずっと見ていること」

 

明人はドキリとした。

 

馬鹿な健太にさえも見破られているから、とうに他の人にもバレていてもおかしくはないと、彼自身思っていた。

 

それでも、今こうやって冷たい声で、詰るように、悪いことをしているかのように、言われるなんて思わなかったからだ。

 

「昨年もそうだったな……。

さっちは可愛いから、モテるんだよね。

だから下心満載で、“同じ係に入って、上手く行けば………”

っていうのを狙う輩がいたよ。」

 

「昨年……。

(まさか…!)」

 

明人は百合が誰の事を言っているのか、すぐ検討が付いた。

 

親友の橋本真也のことだ。

 

彼は昨年、新学期の初めから生き物係をすると宣言し、やる気に満ちていたが、一週間も経たない内に燃え尽きたようになり、係の仕事もサボり、その後も何もしなかった。

 

そして、真也の“あそこは恐ろしすぎる”、“どうなっても知らねえからな”という忠告は、不来方百合を指していたのだと今ようやく気付いた。

 

「俺をどうする気だ!!」

 

「どう……そうだね。

じゃあ、さっちを諦めて」

 

「………は?」

 

「さっちは純粋なの。

まるで赤ちゃんみたいに素直で可愛くて、守ってあげたくなる。

だから、そんなさっちを穢す恋なんてものは、さっちにはまだ早いの。

だから不純なあなたは、さっちには近付かないで。

係仕事もしなくていい。私とさっちの2人だけで十分だから」

 

「………ッ…!?」

 

明人は百合の言い分に何も言えなくなる。

 

百合の言葉に悪びれる様子もなく、何の誇張もハッタリもない。

 

ただ咲希に対する友達、親友、それ以上の感情の暴露。

 

それを目の当たりにし、明人は狂気を感じていた。

 

「あ、そうだ。私ちょっとここ離れるけど、静かにしててよ。ランドセル取りに行くだけだから。

すぐ戻って来るよ」

 

ふと百合の自分勝手な言葉が聞こえると、外の小さく聞こえる足音が遠ざかっていった。

 

「え……ちょ…!

おい! 待て!! 不来方!! 開けろって!!

おい!!!」

 

明人は扉を叩きながら叫んだが、返事は帰って来なかった。

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