ハートジャスティス 番外編集   作:ココリンク

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4話 私物化

数分経ち、叫んだり扉を叩いたりしても反応がなく、無駄だと思った明人は、扉の前で座っていた。

 

叩き過ぎた両手はヒリヒリする。

 

喉も渇いているが、それを潤す水はない。

 

明人はなぜ閉じ込められなきゃいけないのかと、近くに横たわるバケツを蹴っ飛ばし、八つ当たりしたが、しばらくしてそんなことしても意味がないと悟り、ただ待つことにした。

 

(そうか……しんはサボってたんじゃなく、不来方にやらないように強制されていたのか……)

 

明人は今ようやく、なぜ真也が係仕事をサボり、やらないよう忠告してくれたのかが理解した。

 

(不来方……アイツ、ぜってえ許さねえ…!)

 

明人は百合の身勝手な言い分に腹を立て、戻ってきたらどうしてやろうか考えながら、百合が戻るのを待った。

 

 

 

「さっちー! お待たせ!」

 

「あ! 百合ちゃん!!」

 

校庭に戻ってきた百合は、花壇から少し離れたところで、蝶々を追い掛ける咲希に声を掛けた。

 

「おかえりー!

あれ? 竹内さんは?」

 

咲希は手を振りながら、百合に駆け寄ると、不思議そうに訊いた。

 

「熱出しちゃったみたい。

ほら、お顔赤くしてたでしょ?

やっぱり熱あったみたいだから、今保健室にいるよ」

 

百合は立ち止まり、心配するような口調で、さも本当の事かのように言った。

 

「そっかー。大丈夫かな?」

 

それを聴いた咲希は、明人を心配して、少し暗い表情をする。

 

百合は一瞬、咲希に見えないように不満げに眉を顰めると、すぐに自然な笑顔になり、

 

「心配しないで、元気だから」

 

と伝えた。

 

「ほんとに! なら、よかった!!」

 

咲希はまた明るい表情になり、嬉しそうに言った。

 

2人は横に並んで花壇に向かって歩き始める。

 

「そうだね。

さっちは雑草とか取ってくれた?」

 

「うん! ちゃんとねっこから取ったよ!!

あ……百合ちゃん。枯れちゃったのどうする?」

 

咲希がちょっと顔を暗くして訊く。

 

百合は心配した顔付きになった後、花壇の隅に置かれた枯れた一輪のチューリップを見た。

 

昨年、咲希と百合が一つずつ、一緒に植えたもので、百合が植えた方が枯れてしまったのだ。

 

「落ち込まないで。さっちのせいじゃないよ。

お花はいつか枯れちゃうから、仕方ないよ」

 

「………うん」

 

百合が慰めるが、咲希はあまり元気が出ない。

 

百合も一輪枯れていたことは、明人が来るまで待ってるときに気付いていたため、“雑草取りだけ任せて、自分が抜いた方が良かったのでは”と少し後悔した。

 

「ごめんね。さっちは優しいからね。

枯れてるの取っちゃうの、心苦しかったよね。

私のはだめだったけど、さっちの赤いチューリップが残ってるから一緒に育てよ。ね」

 

百合は優しく諭すように言うと、花壇に付いたので 持ってきたジョウロやスコップを置いた。

 

「うん」

 

咲希はいつもの明るさとまではいかなかったが、暗い表情から戻っていた。

 

百合はそれを見てちょっと安心すると

 

「さっち。ごめんだけど、竹内さんのランドセル、届けに行かないといけないから、またここで待っててもらっていい?」

 

と、明人のランドセルを乱暴に持ち上げて、咲希に訊いた。

 

「えー。あ、じゃあ! わたしも行く!!」

 

咲希はさっきもだいぶ待って、退屈していたため、付いていこうとした。

 

「だめ!!」

 

百合は恐い顔になって、思わず叫んでいた。

 

咲希は急に大声を出されたため、たじろいでしまう。

 

「………あ、ごめん。さっち。

竹内さん、熱出してるから、移っちゃ大変だから」

 

百合は急いで笑顔に戻り、小さな咲希の目線に合わせてしゃがみ、必死に弁明する。

 

「ごめんね。言い方悪かったね。

私怒ってないよ」

 

「ほんとに?」

 

「うん! 本当!!

強く言ってごめんね」

 

「いいよ。

……わたしのため……だもんね?」

 

「うん!

だから、待ってて」

 

百合は咲希の頭を撫でながらそう言う。

 

咲希はまだ納得出来ていないような表情だったが、小さく頷いた。

 

「ありがとう。

じゃあ、行ってくるね」

 

百合はそう言いながら咲希の手をギュッと握ると、走って行った。

 

「うん。………行ってらっしゃい!」

 

咲希はちょっと寂しそうな顔した後、笑顔で手を振って見送った。

 

 

 

鍵が開く音がし、扉が開いた。

 

「……! 不来方!! お前な!!」

 

外から入る眩しい光の中に、百合の影を見た明人は、溜まった鬱憤を晴らそうと、言い寄ろうとすると

 

「おっと…!」

 

百合が無言でランドセルを投げ、明人は驚いて言葉を止めてしまった。

 

「………どういうつもりだ? 俺のランドセルじゃねえかよ。

しかも少し汚れてるし」

 

明人はこれでもかと、睨みながら百合に詰る。

 

「出ないの? せっかく開けてあげたのに」

 

しかし百合は質問に答えず、また、悪びれる様子もなくそう言った。

 

「は? ……ったく。意味分かんねえよ」

 

明人は言い返そうとしたが、何を言っても会話にならないと思い、小さく呟きながら、倉庫を出ようとした。

 

「その前に、待って。

どこ行くつもり?」

 

百合は、手に持っていた丸めた新聞紙を明人の前に出して妨げた。

 

「教えねえよ」

 

「……そう。

どうせ花壇でしょ?」

 

「……そうだよ。

だから何だ」

 

明人はランドセルを背負うと、新聞紙を払いのけ、早歩きでこの場から去ろうとした。

 

「係を私物化してほしくないんだよね」

 

百合は、顔だけ明人に向けながら言った。

 

「……は?」

 

明人は立ち止まり、体は動かさず、睨むようにして百合を見る。

 

目があった瞬間、百合は顔を前に戻した。

 

「友達といられるからとか、意中のあの子と一緒にいられるからとか。そんな不純な気持ちで係仕事をしてほしくないの」

 

明人も、相手が目を合わせるつもりがないと悟ると、視線を戻す。

 

「だったらお前も一緒だろ。

友達と……早苗さんと一緒にいられるから生き物係やってんだろ?」

 

「そんなわけないよ…!」

 

明人の後ろからそう聞こえた瞬間。

 

「…ッ!?」

 

顔の横スレスレに、新聞紙が矢のように飛んで来た。

 

「……てめえ…!」

 

反射的に振り返ると、百合が悔しそうな顔をし、睨みながらこちらを見ていた。

 

明人は落ちた新聞紙を掴み、百合に近付いて新聞紙を振りかざした瞬間、動きを止めた。

 

百合は反射的に閉じていた目を、恐る恐る開ける。

 

「………私は。

私とさっちは、生き物が好きだから生き物係をしてるの。あなたみたいな人と一緒にしないで」

 

百合は手を硬く握りながら、またあの力強い目力で明人に言った。

 

「お前とは話にならない」

 

明人は呆れたような口調で新聞紙をあさっての方向を投げ捨てる。

 

そして、侮蔑の目を送りながら振り返り、また立ち去ろうとした。

 

百合は目を潤わせ、少し泣きそうになったと思うと、何か閃いたのか、含み笑いをする。

 

「私の言うこと守らなかったら……さっちに、竹内さんのあることないこと言いふらすよ」

 

明人は立ち止まり、また視線だけを百合に向けた。

 

「さっちは純粋だから、私の言う事は信じてくれるの。

……何が言いたいか分かるよね?」

 

「脅しか? 人の気持ちを利用して、友達に近付くなとか、係仕事をするなって禁止するんだろ…!

やっぱりお前が一番、係を私物化してるよ!!」

 

「そんなつもりはない!!」

 

明人の返しに、百合はまた逆上する。

 

「花壇だってもっと色んな花育てたいし、教室にだって色んな植物を置きたいけど、さっちには育てるのが難しかったり、花粉症の人がいたりで、私も色々我慢してんの!!

だからあなたも、どうせ一時の恋愛感情で係を選ばないで!!」

 

「そんなの知るかよ! たかが係だろ!?

なにそんなに熱くなってんだよ? バカじゃないのか!?」

 

「………ッ!?」

 

明人の言葉に、百合は目の色を変え、一心不乱に明人に近付き、そして、

 

「うわっ…!!」

 

明人をランドセル越しに、力強く押した。

 

明人は転びそうになるが、なんとかふんばり、すぐに百合に振り返った瞬間

 

「謝ってよ」

 

と百合が言った。

 

「は……?」

 

「謝って!!

たかが係って言ったことに謝って!!」

 

百合は顔を赤くし、泣きそうになりながら、叫んだ。

 

「ふざけんなよ!!

謝るのはお前だろ!!」

 

明人は動揺することなく、怒りをぶつけるようにキツく言う。

 

相手が女子だから堪えているが、男子なら今頃殴っているだろう。

 

「謝って!!!

生き物係って、生き物を育てる係なの!!

命を預かる係なの!!!

他の係よりも責任がある係なの!!!

生き物係を侮辱しないで!!

その程度でしか考えていないあなたが生き物係を名乗らないで!!

人の好きなことをバカにする人はさっちに近付かないで!!!」

 

「てめえ…!

俺はそこまで

 

勝手な物言いに明人はついに我慢の限界に達し、百合の胸ぐらを掴み“そこまで言ってない”と言おうとした瞬間

 

「竹内さん! 何やってるんですか!?」

 

と袴田先生が間に入り、二人を離した。

 

百合は蹲って泣き出し、明人は侮蔑の目を百合に向けながら、居心地悪そうにした。

 

「大丈夫ですか? 不来方さん?」

 

袴田先生は百合の背中を撫でながら優しく訊くが、百合は泣いてばかりで答えない。

 

しばらくすると袴田先生の目は明人に向けられた。

 

「竹内さん。これは一体どういうことですか?」

 

明らかに詰問口調。

 

タイミングが悪く、明人が百合を一方的にイジメた風になっている。

 

誤解を解こうと、一から説明しようとも、先生からの評価が高い百合が、“自分を閉じ込めた”とか“背中から押された”と言っても、信じてくれないだろう。

 

「……知らねえよ」

 

明人は何もかも面倒くさくなり、そう言うと校門へと走り出した。

 

「竹内さん…!? ちょっと、待ってください!!

竹内さん!!」

 

袴田先生は急いで追い掛けるが、すぐに見失ってしまった。

 

百合は2人がいなくなると泣き止み、何か衝動に駆られたように新聞紙を回収して、急いで花壇の方まで走っていった。

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