『架空の財閥を歴史に落とし込んでみる』外伝:あるコミューター航空会社   作:あさかぜ

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前史:八尾空港

 大阪市の南東にある八尾空港だが、同じく大阪市から程近い場所にある大阪国際空港(伊丹)と比較すると、1490mと1200mの2本と小規模となっている(伊丹は3000mと1828m)。滑走路の短さからジェット機の離発着に対応しておらず、定期路線の運航も行われていない(かつては行われていた)。

 現在では、公的機関や民間のヘリコプターや事業用の飛行機の運用が殆どとなっている。

 

 もし、八尾空港で旅客便の運航が続けられていたら。

 

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 八尾に関する歴史は史実と変わらない。戦前に建設され、戦時中に拡張、戦後はGHQに接収され、1952年に民間による利用が認められた。

 この世界で異なる部分は、伊丹の発着枠を増やす為に八尾に短距離ローカル線の多くが移された。これにより、1960年代から70年代にかけて中国・四国・北陸便の多くは八尾に移された。それに伴い、1968年にターミナルビルの増築が行われ、路線を運航していた航空会社の専用カウンターが整備された。

 

 空港周辺の宅地化が進んできた事もあり、増便は住民と協議する必要があったが、増便の交渉は中々進まなかった。1965年の交渉時には1日の離発着は40回(20往復分)が認められたのみで、10年間で増えた離発着回数は10であった。本数が少ない事からこの時点では大きな問題とならなかったが、この調子では将来的な航空需要の高まりによる増便は難しいと見られた。

 幸いだったのは、プロペラ機であれば更新が認められた事である。「更新前の機体以上の騒音を出さない事」という条件が付いたものの、技術革新によってこの条件はクリアできるものと考えられた。

 

 1983年2月8日に千日前線が八尾南から八尾空港に延伸する前に、地域住民と増便の交渉が行われた。大阪市の中心部と繋がる事、それに伴う空港利用者の増加によって現状の36回では対処出来ないとして、20回の増加を訴えた。

 当時、後にターボプロップ機の主力となるATR42やDHC-8、サーブ340はまだ試作段階で、MC-1(史実のYS-11)やF27が主力だった。だが、これらの機体は25年以上前に設計されたものであり、新型エンジンの搭載や新素材の使用をしたシリーズが出ているものの、騒音や燃費などで現状に対応しているとは言えなかった。

 その為、この時の増便は「騒音が酷くなるだけ」とされて、交渉は早期に打ち切られた。だが、新型機が出るであろう1985年以降に交渉を再開する事が決められた。

 その後、千日前線が八尾空港に延伸した事で、八尾は難波と一本で繋がった。近距離便しか無い事から利用者は限定されていたが、今までバスしか無かった事、難波と繋がった事、乗り換えを伴うが阪神沿線からも利用可能になった事などから、利用者は増加した。

 

 利用者の増加によって、現状の本数では数年で対応出来なくなると見込まれ、1985年の年明けには早くも増便交渉が行われた。この頃には前述の新型機の生産が始まった事から、1便当たりの乗客を増やせると同時に、騒音問題も解決出来るとされた。新型機は日本国内における型式証明(※)が済んでいないものの、増便が決定すれば数年以内に新型機の型式証明を完了させるとした。

 この頃には住民も空港の存在価値を認めており、かつての様な反対は小さかった。それでも、急激な増便は騒音の増加であり、新型機の導入は数年先の為、いきなり20回の増加は認めなかった。先ず3年以内に10回増やし、10年以内に残る10回を増やす事となった。

 航空会社側も、10年掛かるとは言え10往復分の増加が認められた事は嬉しかったし、原案を声高に主張して増便自体が流れるのは避けたかった為、この案を受け入れた。1987年に1回目の増加が、1994年に2回目の増加が行われた。

 

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 2020年現在、八尾の離発着回数は70回(35往復)となっている。2004年4月に16回分の増加が認められた為である。

 就航地は、東日本(関東・東北)だと調布と庄内、甲信越だと新潟・佐渡・長野・松本、北陸だと富山と能登、関西だと但馬、中国だと鳥取・出雲・隠岐・石見、四国だと松山と高知、九州は五島福江と天草の17空港となっている。調布だけは3往復で、残りは2往復となっている。多くは伊丹や関空から移転してきた便であり、ANAやJAS、JIAとのコードシェアだったり、コミューター航空会社に移管された便となっている。2006年2月に神戸空港も開港したものの、依然として伊丹に変わるプロペラ機用の空港として機能している。

 

 大型機の離発着が無い事から乗り継ぎは今一つなものの、大阪への便を設定するだけなれば八尾の存在は大きかった。乗り換え無しで難波に行ける事から利用者からは好評であり、伊丹の発着枠を割く必要無い事から航空会社としても重宝している。住民としても、騒音問題はかつてよりマシであり、空港が存在する事による経済効果も大きく、かつての様な廃港運動はもはや存在しないと言っても良い。

 今後も、関西における主要な空港として機能する事となる。




※:その飛行機の安全性・環境適合性の基準を満たしていると証明するもの。1機種毎に検査する為、合格すれば国内でその機種の飛行が可能となる。

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