紅音が屋敷で暮らすようになって数日が経った。
元々食堂の女将をしていたことから、士郎も驚くほどの料理の腕前で、皆からの絶賛の評価を受けていた。
そのおかげで料理のバリエーションも広がった。
さらに紅音は料理の他にも士郎たちの修行をつけているが、厳しく、特に善逸が泣き叫んで逃げ出す始末である。
これでは自信を持つどころか悪化する未来しか浮かばない状態だった。
なので凛、大河、イリヤも含む士郎たちが話し合いをしたが、全くうまく行かなかった。
ちなみに善逸は今紅音に追いかけられ木に登っており、その下で皆が話し合っていた。
「ダメか…」
「まさか女の子関係でもダメだなんて…」
転生者やバングレイが送り込んだ偽物の特典などを相手をする際、役に立ったと思われる所を誉めたり、転生者の下へと向かう前にいろはや切歌といった女性陣からご褒美をあげると約束したりしても、皆と一緒ならともかく、攻撃を仕掛けられたり追いかけられたりして泣き叫んで逃げ出す始末。
結局、気絶してから一気に形勢逆転して勝ったが、作戦としては失敗した。
「…これって、結構根が深くないデスか?」
「そうね。
一応私はあんたらの女神だから、生前のことは調べてあるけど、あそこまで自信を持てないとしたらもはやネガティブの領域よ?」
「んがー!
まさかこのお姉さんの美貌でもダメだったとは!」
「いや、それは単に善逸は師匠が好みじゃなかったと思うぞ?」
「士郎、それは一体どういうことかにゃー?」
「それ以前に、ししょーは女性というより、野獣だと思うの」
「ガーン!
イリヤちゃんにまでそこまで言われるなんてお姉さん超ショック!!」
ショックのあまり真っ白になってる大河を余所に、善逸は木によじ登りながら喚いた。
「もういい、もういいんだよぉ!!
皆がこうして俺のために色々としてくれてるのはありがたいけどさぁ、ダメなんだよぉ!!」
「けど善逸、そんなこと言ったら、お前いつまでも経ってもダメなままなんだぞ?」
「そんなことは俺だってわかってるんだよ!
だから皆の期待に応えたくて俺だって頑張ってんの!
なのに全然上手くいかないわけなの!?
どういうことこれ、もうどういうこと!?」
「善逸お前な…」
そうこうしている内に、キラメイチェンジャーから転生者の反応が出現した。
「これは、転生者の!」
「しかもこの感じ、2つの特典が暴走してるみたいデス!」
「…仕方ないわね。
皆、すぐに転生者の所に行って!」
「わかった!
…善逸、お前が気にしてるのはわかるが、変わろうと思わないと、いつまで経ってもそのままだからな」
「うっ、うぅ…」
士郎は善逸にそう言うと、そのまま武たちと一緒に暴走している転生者の下へと向かった。
「見つけた、あれだ!」
反応を頼りに転生者を探していると、目の前におぞましい何かがいた。
「な、何なの、あれ?」
「き、気持ち悪いデス…!」
「これが今回の転生者の、それも暴走してるやつだってのか。
しかもこいつから、2つの特典の反応がある」
士郎たちの目の前に、おぞましい怪物が立っている。
逆三角形の頭部に、虚空の眼窩からヘドロが垂れる目、無数の腕に、マネキンと檻を合体させたような胴体。
見てるだけで恐怖に駆り立てられるような姿だった。
「…あいつから、特典の反応が2つあるな」
「…っ、ちょっと待ってあれ!」
いろはは何かに気付き指を指すと、怪物の周りで、数人が踞り、手には何かを握っていた。
よく見ると、ハサミだったり、カッターだったり、尖ったものを自分の体に押し当てようとしていた。
「…っダメ!」
「いろは!」
制止を振り払い、いろはが駆け寄る。
「やめて!
今目の前に化け物がいるんですよ!?
早くここから逃げないと!」
「だ、ダメなんだ。
俺はもう、ダメなんだよ…!」
「え?」
いろはは理解できないでいたが、男は恐怖と絶望に満ちた表情だった。
「俺はっ、取り返しもつかないことをした…!
もう生きてる資格なんてないんだ!」
「な、何を言って!」
訳がわからなかったが、それは他の皆も似たようなものだった。
まるで自分の過去のトラウマに苛まれ、今すぐにでも死にたいと思っているようだった。
「これって、まさか!」
「この怪物が、何かしたってのか!?」
「も、もう放っておいてくれ!
俺は死にたいんだぁ!」
「ダメェ!!」
「とう!」
瞬間、トラの着ぐるみを来た大河と、魔法少女の格好をしたイリヤが、男と、それから怪物の近くにいる人たちの首の後ろを素早くチョップして気絶させる。
「師匠、イリヤちゃん!」
「いやー何かヤバそうだったから来ちゃったにゃー!」
「とりあえず、この人たちは安全な所に運ぶね!」
「わかった、助かる!
…皆、行くぞ!」
『キラメイゴー!
キ・ラ・メーイ!!』
『キラメイチェンジ!!』
二人は怪物の近くにいた人たちを連れてその場から離れたことを確認した士郎たちは変身して構える。
怪物は士郎たちを見ると、ノイズがかった無数の人間の苦悶の声をあげ、両腕を無数の触手にして襲い掛かる。
「…っ、来るぞ!」
士郎たちは触手を避け切り裂き撃ち抜く。
だが怪物は触手を分裂させて叩きつけにかかる。
「咲け、藤孔雀!!」
士郎は両手に数本のショーテルが付いた二本の刀を投影し切り裂く。
「ちょいさーデス!!」
『切・呪りeッTぉ』
切歌もそれに続くように分裂させたキラメイサイズの刃を飛ばしてバラバラに切り裂いていく。
切り裂かれた触手の残骸を、士郎たちが触れた瞬間だった。
『っ!?』
ドッと、士郎たちの頭の中で、自分達のトラウマが発露しそうになり、一瞬倒れそうになる。
だが倒れそうになった拍子に残骸がボトッと落ちて消滅し、発露しそうになったトラウマも治まった。
「い、今のは!」
「はぁはぁ…、もしかしてこれがさっきの人たちの行動の正体なの?」
「ってことはあれデスか?
あたしたちはほんの一瞬だったから助かったけど、長時間あの触手に触れるとさっきの人たちみたいになっちゃうデスか!?」
「マジかよ、こいつ本気でやべぇな」
怪物の能力を理解して戦慄を覚える士郎たちだが、怪物は再び咆哮をあげ、触手で襲い掛かる。
「…っ避けろ!」
皆は避けるが、続けざまに触手が襲い掛かる。
「このままじゃ埒が明かないぜ!
…時雨蒼燕流 守式 四の型 五風十雨!!」
武が前に出て、触手の動きに合わせるように避け続け間合いに入る。
間合いに入った瞬間、一本の触手が武の腕を掴んだが動きは止まらない、しかし。
「うっ!?」
武は何かされそうになったのか、技を中断してすぐ距離を離した。
「武、何があったデスか!?」
「…今、俺の中の全部の感情が吸い取られそうになった」
「まさか、あいつの特典は、相手のトラウマを発露する能力のほかにも、感情を吸い取る能力を持ってるのか…」
「ぬぉおおおおおおおお!!!」
「…?
何か遠くから叫び声が聞こえないデスか?」
怪物に警戒している所を、どこからか叫び声が聞こえてきた。
しかも走ってるからか、徐々に近づいてきている。
「この声って、まさか…」
声がする方向を向くと、そこには。
「おらぁこのばか野郎どもがぁあーーーーー!!!!」
善逸が、鬼の形相で意味のわからないことを叫びながら走ってきたのだった。
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