「ほ、本当に、翳里 響、デスか?」
「うん、そうだよ」
切歌は目の前の少女に問う。
翳里 響、それは切歌の生前の親友の名で、目の前で連れ去られた少女の名だった。
「な、何でその姿に?
髪色と性別以外もう別人デスよ?」
「…これはあいつらに見つからないために、転生した時に神様に頼んでもらったんだ。
それに、目の前で殺された切歌を守れなかった弱い自分との決別も兼ねて」
「え?」
「それよりも、私にも聞かせて」
少女、響はいろはに目を向けると、キッと睨み付ける。
まるで親の仇を見るような目で。
「そこの女は転生者だよね?
何で切歌はそいつといるの?」
「えっ?」
「答えてっ!
どうして切歌のそばにいるの、転生者!」
「うっ!?」
一瞬でいろはに詰め寄り胸ぐらを掴んで響が食って掛かる。
「ちょっ、響!?
いろはに何するデスか!
彼女は敵じゃないデスよ!?」
「き、切歌…」
切歌に止められ、悲しい表情になった響はそのまま二人から距離を取り始める。
「敵じゃないって、どういうこと?
転生者は、私利私欲のために人を殺す異常者なんだよ?
だから、やっつけなきゃいけないんだよ?」
「だからって、いろはに敵意を向けるのは間違ってるデス!
それに、転生者は決して異常者なんかじゃない、一人の人間デス!」
「…っ、切歌だって。
切歌だって、その転生者に殺されたくせに!!」
「っ!」
「あ…」
ワナワナして怒鳴った響の言葉に、苦虫を噛んだような気分になった切歌だが、響はそんな切歌の表情を見て泣き出しそうな顔になる。
「ご、ごめんね切歌、嫌だよねこう言うこと言われると。
ごめん!」
「ちょっ、どこに行くデスか響!」
マフラーで顔を隠してそのままどこかへ行こうとする響を、切歌は止める。
「…切歌がどうしてその女と一緒にいるのかわからない。
この前見かけた切歌と一緒にいた他の奴らも。
でも、私は転生者を許さないし、許せない。
切歌を殺し、私を弄くった挙げ句に殺したあいつらが…!」
「響…」
怨嗟と悲哀が入り混ざった言葉に、切歌は何も言えなかった。
「今日のところはこれで帰るけど、また会ったら、聞かせてね、切歌…」
「あっ待つデスよ響!」
切歌が止める間もなく、響はそのままジャンプしてどこかへと消えてしまった。
「響…どうして」
「切歌ちゃん…」
いろはは切歌を連れて帰ったが、そこに言葉は交わされることはなかった。
屋敷に帰った後、士郎たちにこの事を報告し、響を説得することになったが、どうすべきか迷い、夜が更けてしまったので眠ることにした。
だが切歌は眠ることができず、庭から夜空を見上げていた。
夜空に浮かぶ月、それを見てるだけで、生前を思い出してしまう。
翳里 響という少女は、元々空手を習っていた少女だった。
しかも道場の中では男子にも勝ってしまうくらいに強く、最強だった。
それに対して、切歌は空手を習ってる訳でもなければスポーツを習ってるわけでもなかった。
精々趣味として歌を歌ったり聴いたり、それから音ゲーなどのリズムゲームをやってる程度だった。
だけど二人は気が合って、仲が良かった。
二人で学校の帰りや休みなどでカラオケに行ったり、人気のない屋外で一緒に歌を歌ったりしていたし、響も道場が終わった後の楽しみにしていたほどだ。
切歌から見て、響は熱心で正義感のある少女だった。
誰かを助けたいからと、進んで人助けもするし、その誰かに手を伸ばさずにはいられない質だった。
それで誰かを助けれたと思った時には、優しく微笑みかけるのだ。
切歌もそんな響と一緒に人助けをすることもあった。
だけど、転生してようやく再会できた響の姿は。
「響のあの目は…」
再会した響の姿は、髪色は違ったが生前一緒に見ていたシンフォギアの主人公の、立花響のそれだった。
響は立花響のことが好きで、憧れていたから、転生した時に神様に頼んでその姿にしたのだろう。
だが、一番驚いたのは、響のあの時の目だった。
かつてのような、優しさと正義感に溢れたものは既になく、あるのは悲しみと怒りだった。
響の目の前で殺されてしまった切歌には、響のその後のことは知らない。
でも、あの言動から察するに、襲い掛かった集団に何かをされたのだろう。
だけど、知ろうにも情報が足りなさすぎる。
だから知りたいのだ、何があったのかを。
そして、いろはたちに対する誤解を解きたいと願った。
できれば、響の傷付いた心を癒してあげたい。
そう思う他何もなかった。
「響、あたしはあの後に何があったのかわからないデス。
…だけど、今はその心に安らぎを与えてあげたいデース。
~♪」
切歌は友を思うが故に涙を流しながら、月に向かって歌う。
歌声を聞き付けて来た士郎たちも、そんな切歌の背中を見て察し、ただただその歌を聴くだけだった。
翳里 響の生前の姿については、ポケモンのサイトウをイメージしてます。
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